《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
ナザリック地下大墳墓―――第十階層、玉座の間。
「面を挙げよ」
静かな、威厳に満ちた声が響く。
「揃っているようだな。では、我らがリ・エスティーゼ王国で得た情報を………デミウルゴス」
「ハッ」
確認の意味を兼て、旧友が作り出したナザリック最高の智者の口から、情報を開示させる。
「まず、モモンガ様はこの世界に確たる地盤を築くべく、『砦蟹』シェンガオレンと呼ばれる超巨大モンスターの討伐戦に乗り出す事となった。この個体もまた、我々が苦戦を強いられた強大なる古龍、クシャルダオラと同様に剛種と称される存在であり、ナザリックの総力を以て当たるべき事態と考えられる」
「お待ちください。まさか、下等生物如きの為に―――」
「この討伐戦最大の目的は、奴ら以上の脅威とされる『滅尽龍』の襲来を阻止する為のものだ」
ぞっ、と留守番組から血の気が引く中、デミウルゴスは険しい顔で話を進める。
「まずこの世界だが、
その通り、とモモンガが頷く中、デミウルゴスは衝撃的な事実を暴露。
「まず、人間たち。レベルにすれば非常に低いにもかかわらず、ステータスは異常に高い」
「ぇ」
(レベル、低かったの!?)
「そんな!?あれで、でありんすか!?」
「彼らのレベルは、ユグドラシルのルールに則るならば30前後。イビルアイと名乗る
「で、でも、レベルにすれば、って言ってたってことは………」
「そう。ステータスへの補正がその分低くなっているという訳です」
と、デミウルゴスが締め括り、一層表情を険しく変える。
「それはつまり、人類がそこまで成長する程の脅威が満ちている、ということです。そして、剛種と称されたあの古龍と並ぶ存在、それすらも喰らう『歴戦王』なる滅尽龍となれば、その脅威は計り知れません」
「でも、あたしたちなら!」
「あのクシャルダオラ相手にさえ、後れを取りかけたのをお忘れですか?」
その事実が重くのしかかる中、多くの者が無力を噛み締める。
「だが幸い、砦蟹なる甲殻種は大型だ。その分厄介だろうが、弱点も多い筈」
よって、お前たち全員の力を借りたい―――
その言葉を、ナザリックの者たちは慈悲だと判断し、感激と共に深々と頭を下げる。
「我々『アインズ・ウール・ゴウン』は今後、リ・エスティーゼ王国領内であるこの辺境を中心として、情報収集と脅威への備えを行う。何にせよ、相手の手札が判らなくては、手の打ちようが無いからな」
(何より厄介なのは、剛種の性質だ)
剛種―――古龍のような強力なモンスターが至る、ある種の進化に近い変異体。他種が至る場合は変種と呼ばれ、また亜種モンスターの変種を奇種と呼称するという。攻撃手段が増えるなどは、ユグドラシルでも種族レベルが上がった敵にあった事であるが、耐性の激変は勘弁願いたい、というのが正直なところだ。
「それと、アルベド」
「ハッ」
「あとで、私と王都に戻り、共にイビルアイから情報の聞き取りを行う。準備しておくように」
「畏まりました」
この状況では、『世界征服』だと誤解する事も、それを訂正せず推し進める事も出来はしない。
それは賢者ではなく、愚者未満の思考。その果てにあるのは、八欲王同様の破滅なのだから。
*
「来てくれたか。早速で悪いが、前置きは無しでいくぞ」
デミウルゴスに代わり、アルベドを供としたモモンガが席に着いたのを確認し、イビルアイは手中の地図を広げる。その振る舞いにアルベドが微かに殺気立つ中、続けてこの辺境で確認されたモンスターの数々が記された書物を積み重ねていき、幾つかの石を用意していく。
「まず第一に、今回の戦場となるリ・ボウロロールがここ。で、過去に確認されたシェンガオレンにまつわる情報を纏めたのが、この書のこのページだ。ああ、この冊子自体は冒険者向けに販売されている物だから、持ち帰ってくれて構わない」
「助かるな………と、通常なら炎と電気がよく通じるのか」
「ああ。それと、背負う
その言葉に、アルベドが辛辣な返し。
「雑魚が幾ら集まったところで、蹂躙されるだけでしょう?」
「アルベド!」
「普通の古龍ならな」
モモンガが語気強く叱責する中、イビルアイは構わずそう応じる。
「シェンガオレンが人間に興味を示すことは、殆ど無い。戦士は裏方支援以外出来ないだろうが、マジックキャスターや弓使いの類ならば、通じるかは別として攻撃できる。それに、クロスボウの技術を応用した大型バリスタのような、彼らでも使える武器の類も、各都市に多数配備されているからな。アレを使えば、馬鹿げた額がぶっ飛ぶ代わりに超大型モンスターにも痛手が入る」
モモンガの叱責で精神的ダメージを受けたアルベドだが、同時に人間が考え無しに動いているのではない、ということもわかり、少しばかり感心した様子を示す。事実、四百年以上前からその脅威に晒され続けてきたのが、この世界の住人だ。異形種にとって短い時間でも、極めて濃密なその歴史の中で、少なくない対処法を編み出してもいる。
「申し訳ございません、モモンガ様。それと、人間を少々侮り過ぎていたようです」
「貴女の言う通り、詳細を知らなければ無駄と思うのが当然だ。なにせ、相手はアダマンタイトの矢でも傷一つ負わない怪物だ。鳥竜種モンスターの牙や、大型モンスターの骨を加工した矢を莫大な数用意するだけでも、苦労は凄まじい以上、そう簡単に使える手でもないしな」
と、肩を竦める。アダマンタイトを比較に挙げていることに失笑しかけるが、続く言葉を見逃すことなく、アルベドは疑問を口にする。それは、ある意味で非常に重大な問題でもある。
「待って。まさか、骨がそれだけの強度を?」
「ああ。朽ちて空洞ができた小さな骨なんかも、詰め物をして矢の代わりに使われている」
「それを、武具に転用したりは?」
「出来なくも無いが、数を集めるのが大変な上、強度のせいで加工も一苦労だ。ただ、小型で弱い鳥竜種や甲虫種モンスターの類だと、話も変わってくる。特に、森で見られるランポスや、平原を住処とするジャギィの鱗や皮は、強度こそ心許ないが、武具として使えば、下手な魔法武具を超える力を発揮してくれる」
その言葉に、モモンガが強い興味を抱く。
「それでは、大型のモンスターのものでは?」
「残念ながら、加工できるだけの設備がない。かといって、ジャギィやランポス、甲虫種の素材を用いた武具だと、今度は強度の方に不安が残ってな。上の冒険者となると、殆どがより強度のあるオリハルコン以上の武具に切り替えている」
まさかの情報に、モモンガは反射的に思案し、ある案を出す。
「ふむ………アルベドよ、鍛冶作業が可能な召喚モンスターの貸し出し等、どう考える?」
「何事も、調査が先決かと思われます。どこまでの質なのか、確かめるべきかと」
至極真っ当な返しに、モモンガは頷く事しか出来ない。
「まあ、その通りだな………しかし、バランスが判らんな」
「大体、小型鳥竜種、中型鳥竜種、アダマンタイト、大体の大型モンスターと思えばいい」
本当に大体の指針であるが、凡そ間違いではない。ここに、魔化による属性付与や、外殻の薄い腹部への集中的な攻撃、武器重量を乗せた攻撃など、単純な攻撃より効果の出る立ち回りを要求されることが多い為、全体で見ると戦果はイマイチ。それこそ、『蒼の薔薇』『朱の雫』以外の冒険者では、マジックキャスター込でも討伐に苦労するのだ。
「成程………シェンガオレン一体で、どこまで取り戻せるやら」
「素材価値は高いのだろうが、如何せん加工が難しいのがな」
『ンモモンガ様ァッ!』
「うっひゃあああ!?」
イビルアイが難しい顔で唸った直後、モモンガの聴覚を滅茶苦茶にハイテンションな声が、唐突に震わせる。思わず悲鳴を上げれば、二人から奇異の視線が向けられ、大急ぎで手振りで待機を指示して、応答する必要が出来た。
『お・ま・え、なああああああ!!!いきなりハイテンションで話しかけるなよ!?』
『し、失礼しました………いえ!ですがこれは、報告せねばなりません!』
『あー、もう!いいから、教えろ!』
『クシャルダオラの全身、素材の宝庫です!それも、データクリスタルに近い性質を併せ持つ!』
「はあああああああああ!?!?!?」
思わず演技を忘れ、素で叫び返す。
「おまっ、それ本当か!?本当なのか!?」
『事実ッ!ですッ!武器として使うか、それ以外に使うかで効果に変動が見られるようですが』
そこで言葉を切り、ハイテンション極まるパンドラは衝撃的な事実を告げていく。
『少々拝借したところ、武器の方は、極めて高い切れ味と強度、僅かな冷気属性を帯びました』
「そこまでか」
『
「うぇぇ………」
『ガントレットに限定し作成したところ、こちらは武器耐久値減少の大幅抑制、及び疲労軽減に加えて、マイナス効果として毒への脆弱性を。その他にも、セバス様のような防御より回避に主体を置いたビルドに適した効果を二つ発現致しました。また、データクリスタルでは不可能ですが、何かしらの形で彼らの素材を加工できれば、更にスキルを付与できると思われます』
「マジか………」
『マジです。その上なんとなんと!これ、たっち・みー様の鎧に匹敵する強度でございますッ!』
「マジかぁ!?」
尚、これは剛種の素材であるからこそ、である。他でどうなるかは、現状不明瞭。
何より、剛種一体討伐するのに、あの総力戦。だが、貴重に変わりはない。
「と、とりあえず、残りの素材は保管だ!いいな!」
『Wenn es meines Gottes Willeッ!』
「ぐほっ!?」
不意打ちのドイツ語を最後に、パンドラからの通信は途絶。そこに来て、漸く精神作用の抑制が効果を発揮し、強制的に思考をクールダウン。衝撃的過ぎる事実の数々を冷静に再認識してから、大きく息を吐き、二人へと振り返る。
「えっと、何があったんだ?」
「あのクシャルダオラの素材を加工したところ、私のこの武具に匹敵するモノが出来たそうだ」
「な、はああああああ?!」
唖然とする他ない事実に、イビルアイの大きく開いた口から嫌な音が響く。
「あ、あが!?」
「あ、顎外れたぁ!?アルベド、治せるか!?」
「お任せください」
と、普通に治してから、イビルアイは大きく息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁぁ………そうか、それくらいはいくのか………」
「とりあえず、他のモンスターが気になるが………後回しだな」
コレクターの性が悲鳴を上げるが、ここで順序を誤るような愚者ではない。
「シェンガオレンの討伐が最優先、次は………」
モモンガが思案する様子を見て、イビルアイが助言。
「鉱業への影響を鑑みるなら、爆発の調査がいいだろう。が、そちらも何かしら未知の存在である可能性も捨てきれない以上、正体がほぼ確定している白海竜に向かうのも悪くはないかもしれん。何より、こちらの方が前者の異変の元凶とされる二種より、難易度で言えば多少下だ」
「では、そうするとしよう………と、すまないな。大分話が逸れてしまった」
同時に、その結果次第であるが、モモンガはナザリックの方で鍛冶に長けた傭兵モンスターの、召喚と派遣をほぼほぼ決定していた。こちらの武具の質が大きく上がれば、それだけ脅威への対処難度も下がり、自分たちナザリックの安全確保にも近づくのだ。それをしない理由がない。
「シェンガオレンの討伐に関して、まずは目的地の地形や地理情報を把握したい」
「わかった。まず、現状ボウロロープ侯が定めているのが―――」
イビルアイの説明に、モモンガが頷き、アルベドが時折質問と、その原因となる欠点難点を指摘していく、という形で、三人だけの会議は進行。頭の回転は悪くない上、情報さえあればそれなり以上の強さを発揮できるモモンガが、地形を始めとする情報とNPCのビルドをすり合わせていき、より確実に勝利する為の戦略を構築していく。
「飛行能力は無し、四足で全体重を支えている、一対の鋏とヤドから放つ強酸以外武器は無し」
その情報を口に出し、その紅の眼光を奔らせる。
「カギとなるのは、マーレか」
当人が聞けば卒倒しそうな事を口にして、一人厳かに頷いた。
★設定
・現地ステータス
00で語った通り、基本でレベル80~90相当。
そこに職業補正が加わる為、総合的に見るとプレイヤーには及ばない。
・現地素材
アダマンタイトで、切れ味緑色より若干劣る程度。大型相手は厳しい。
竜の骨の類の方が強度は上ながら、加工の手間、まず確保が困難な為、使われない。
ユグドラシルに無い未知の鉱石が生成されてはいるが、現状人間に発見されてない。
未発見の原因として、地脈への影響、辺境という立地が挙げられる。
・バリスタ
クロスボウを大型化し、生み出した武器。取り回しが悪く、普段使いには不向き。
対超大型モンスターを想定し、矢は竜骨等を加工して作成。その分、高コスト。
・モンスター素材
データクリスタルに近い性質を持ち、一定量以上を武具に加工するだけで効果を発揮。
一定量以下でも、他と組み合わせることでまた異なる効果を発揮できる。
剛種ともなれば、ユグドラシル最高ランクにも匹敵する質となる。
また、剛種、変種等の素材は他のポテンシャルを伸ばす力も秘めており、別の形で用いることで、既存武具の強化も可能に。その他、まだまだ未知の要素が多い。
・剛種素材等
本作では、ナンバリング作品等におけるG級素材としても使用可能。
それが意味するところは、つまり………