《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

12 / 78
EX―潜む脅威

 アベリオン丘陵と呼ばれる、広大な丘陵地帯に広がる国『アベリオン聖獣連合』。

 50年以上前、本来の国土を捨てることを余儀なくされた際、追い詰められた亜人たちと成り行きで手を組み、近郊の『エイヴァーシャー大森林』を原因とする大騒動へと対処した末に成立した、亜人と人間の共存する国家の一つ。『聖』はかつての聖王国を、『獣』は勇猛なる亜人たちへの敬意を表するモノであり、狭い土地で確かな繁栄を築き上げていた。

 

「いつか、帰りたいものですね」

「うむ………だが、果たして叶うものか」

 

 『聖王女』カルカ・ベサーレスの呟きに、山羊人(バルフォク)の『豪王』バザーが難色を示す。

 その視線の先にあるのは、()()()()()()()()()

 

「灼熱の地………彼の地に踏み入るだけならばまだしも、その先に進むのは難しかろう」

 

 『七色鱗』の蛇王(ナーガラージャ)ロケシュが渋い顔になり、過去の惨劇を浮かべる。

 

「伝承に曰く、『熔山龍』ゾラ・マグダラオスの来襲、そして死が引金となった、と」

 

 神官団団長、ケラルト・カストディオの説明と時を同じくして、激烈な咆哮が響く。

 

「………今や、『黒き神』覇竜アカムトルムまで住まう、地獄と化しておりますが」

 

 アカムトルム―――『黒き神』と呼ばれる程の力を有する、超大型()()。過去、周辺の海を回る形で行われた偵察、及び上陸の試みを、想像を絶する衝撃波により船団ごと消し飛ばすという規格外の攻撃を以て阻止してしまった存在。内部へと探索に向かった精鋭、その生存者が齎した情報により、存在を確定させた怪物である。

 

「帝国、竜王国よりはマシだろう。一度カルカ様の護衛として行ったが、あちらの方が酷い」

 

 そう口にするのは、この国の人間で最強を誇る聖騎士、ケラルトの姉レメディオスだ。

 

「お主がそこまで言う程か」

「東には食い散らかされたトロールの残党、そこから少し南下すれば、かつて『弩岩竜』による、甚大な被害を受けた竜王国。タチが悪いのは、隔てるモノが無いせいで、そこらからのモンスターの流入がある事だ。幸いというか、殆どは縄張り争いに敗れた連中だが」

 

 多くの亜人が手を取る事を選んでいるが、その判断を出来ない、或いはする余裕がない亜人も、確かに存在している。帝国東のトロールは最たるものであり、小規模な集落の数々が安全と食糧たる人間を求め帝国に侵攻しては、殺されるか追い返され続けている。南東のビーストマンにも、似たような者が多い。

 

 そして、彼女が口にした『弩岩竜』。アカムトルムとも近しいと思われる体格として伝承される『覇種』は、200年前に現れた、本来南方の砂漠に住まう災厄。ビーストマンを食い散らし、竜王国の国土と山々を食い荒らした末、当時のスレイン法国最強が秘宝一つと己が命を代償として消滅させた怪物であり、その進路上の山々は食い荒らされ、ビーストマンは国を喪っている等といった形で爪痕を残している。

 

「エイヴァーシャー大森林といい、本当に悩みは尽きませんね」

「かの森の、『邪毒の棘竜』………二度と見たくないものじゃよ、本当に」

 

 過去を知る魔現人(マーギロス)のナスレネ・ベルト・キュールが身を震わせれば、その時からの古株たちはこぞって頷き、かつての災厄への恐怖を思い出す。それを言伝でしか知らない三人の人間にとって、興味を抱くと同時に、触れていいものかと悩むべき問題―――

 

「それなのだが、通常の『棘竜』エスピナスとどう違うんだ?」

「姉様………」

 

 なのだが、レメディオスは無遠慮に問う。しかし、ナスレネは年長者の余裕を以て応じる。

 

「なに、簡単じゃ。あ奴はエスピナスであり、エスピナスを超越している」

「というと?」

「そも、あの惨劇は奴が激昂し暴れた故に起きただけじゃ。そして、丘陵の亜人の()()()()()()()毒炎の炸裂とて、流れ弾に過ぎん………あのおぞましいまでに肥大した角、全身に纏わりつく蔦、どれかを思い出すだけで、震えが止まらん」

 

 『邪毒の棘竜』………当時、エルフ国の王の蛮行により生じた戦争、その余波に怒り狂った、森の長老に当たる強力無比な『棘竜』エスピナスのことだ。この暴威により、エルフ国は王含め壊滅的打撃を受け、僅か数パーセントの生き残りはスレイン法国に避難。そして、激昂し暴れ狂っていたこの竜を恐れたモンスターの一斉逃亡が、アベリオン丘陵を襲った惨劇の原因なのだ。

 

 スレイン法国が『辿異種』と称し、一般に対し秘匿を厳命した老個体は、未だ森に眠っている。

 

「亜人の三割が、即死………?」

「断末魔の悲鳴も無く、一瞬で息絶えおったわ。全く、恐ろしい事この上ない」

 

 ナスレネの言葉に、三人の顔色が青を通り越し白く変わった。

 

 ―――人間、亜人共に、その生存圏は決して広くない。

 古龍の来襲、天災などの要因で、築き上げた平穏など一瞬のうちに消え果てるのだ。その点、彼女たちの先祖たるローブル聖王国の先々代聖王、及びその部下たちは、最悪の中から最善を掴み取った上、この繁栄を築き上げてみせた。その偉業を、改めて三人の人間代表は噛み締めるのだった。

 

 

 ナザリック地下大墳墓が存在する辺境には、大きく三つの危険地帯が存在している。

 灼熱の地と極寒の地、そしてエイヴァーシャー大森林………

 

「ルルゥ………」

 

 灼熱の地、ローブル熔山帯………超巨大古龍『熔山龍』の秘める莫大なエネルギーが、背負われた鉱床が、死と共に根付いたことで生まれた火山地帯。旧ローブル聖王国の領土であった半島全土に渡る変化の末生まれたそこは、そのまま数多のモンスターが飛来し、生息する危険地帯へと変貌を遂げている。

 

「ギュルアアアアアアアアア―――――ッ!!!!!」

 

 そこに座す者たちの一角が、ケラルトが挙げた『黒き神』アカムトルム。ローブル熔山帯の北部から、大地の果てまで轟かんばかりの咆哮を放つ巨竜は、その巨躯を大地へと叩きつけるように本来の姿勢に戻ると、眼前の新参者へと青い瞳を向け、低く唸る。

 

「ルルルゥ………ギュアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 応じるのは、金属に似た甲高い響きを帯びた咆哮。大地を二足で踏み締めるその竜は、紅の鋭利な外殻に身を包み、漆黒の剣山を思わせる覇たる者を睨む。真紅の眼光と青の眼光が交錯する中、おもむろに獣竜種モンスター、『燼滅刃』ディノバルドは赤熱した金属が織り成す刃に覆われた尻尾を、その全身を使い口へと含む。そして、鋭利な牙を以て研ぎ澄ますと共に、喉奥に溜め込んだ爆発性の高い粉塵をまぶす。

 

 それを好機と見たアカムトルムが飛び掛かれば、研ぎ終えた尾刃をそのまま叩きつけ、その衝撃による爆裂により攻撃。強靭な外殻越しの衝撃にアカムトルムが悲鳴を上げる中、ディノバルドは軽快なフットワークで距離を置くと共に、その脚力で大地を蹴り、大きく跳躍。質量を乗せた剛刃を連続で振り下ろし、爆裂と共にその外殻に確かな傷を刻んでいく。

 

「ギュルルッ、キュアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 そして、ソニックブラスト―――大海原の果てまでも届く、龍殺しの音波振動攻撃。

 

「ルアアアアアアッ!!?!?!」

 

 それに飲まれた燼滅刃は大きく吹き飛ばされ、砕けた破片と共に大地を転がる。それでも尚原型を保ったうえ、致命傷には至らず立ち上がるそのタフネスは、彼が無謀な愚者ではなく、れっきとした強者であることを示すには充分。しかし、その戦闘を喧しいと感じた者も存在しており、れっきとした強者であるからこそ、その文句に従わない、という択は選べない。

 

「グルル………ルァオァアアアアアアアアアッ!!!」

 

 二体の視線が向いた先にあるのは、文字通り()()()()獅子の如き龍。

 炎を纏う覇たる龍の、金色の視線を受けた二体は格の違いを理解し、片や大地を砕き、片や踵を返して、その場から退散する事を選択。気性の荒い筈の古龍、『炎王龍』テオ・テスカトルは、しかしそれを追うことをせず、翼を広げ飛翔。

 途中、同じように燃え盛る翼と尾を持つ()()とすれ違うも、互いに敵対の意思を持たぬようで、そのまま何の行動も起こさず、半島中央部、ゾラ・マグダラオスの亡骸の上に出来た火山の一角に存在する寝床へと戻る。

 

 生態系の頂点がそんな騒動を未然に防いでいた一方で、西部等では、普段の営みが続く。

 

「クァァ………」

「『ルオオオオオオオォッ!』」

「ッ!?」

 

 甲高い獣の如き雄叫びが響けば、餌場である甲虫の住処を大方漁り終えた『赤甲獣』がその身を丸め、大慌てで転がり逃げていく。それのみならず、草食種と称される、比較的無害なモンスターであるリノプロスやアプケロスも逃げ出し、小型鳥竜のイーオスなども同様の反応。

 

「クルルッ、クルルッ!」

 

 それを笑うように眺めるのは、紅の色彩を持つ怪鳥………南方で『紅彩鳥』の名を与えられた、『彩鳥』クルペッコと呼ばれるモンスターの亜種である。この火山のヒエラルキーにおいては下部に位置するモンスターながら、その脅威的な『鳴き真似』により、他のモンスターを誘導するなどする狡猾なモンスターだ。

 

「ルルル………ッ」

「クルァッ!?」

 

 しかし、真似をしたからといって、そのモンスターが味方になるとも限らないが。

 

「ルルルッ、ルオオオオオオオッ!ルルッ、ルオオオオオオッ!」

 

 吼える、吼える。黒と白で彩られた、獣の如き四足の竜が吼える。それと共に、無数の赤黒い、禍々しい光の球が収束。その正体は、龍殺しの力を秘めた存在であり、それを纏う竜を知るクルペッコ亜種は、そそくさと退散。しかし、縄張りを侵す別なる同族の存在を危惧した竜は止まらず、集まった龍殺しの力を纏い、自身の力を成す。

 

「ルァオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 天まで響かんばかりの咆哮と共に、莫大なエネルギーを帯びた一部の甲殻が開くように変形し、純白の体毛が逆立つ。同時に放たれる、莫大な龍殺しの黒雷を纏い、赤と黒の禍々しい光を纏う獣の如き竜………『獄狼竜』ジンオウガ亜種は、静かに己の外敵を警戒する。その力の源たる『蝕龍蟲』もまた、共生者の意思を汲み龍殺しの黒雷を散し飛ぶ中、溶岩の流れから顔を出す存在が。

 

「ルァ?」

「ルゥッ!?」

「ギュイッ?!」

 

 『溶岩竜』ヴォルガノスは、しかしジンオウガの敵意を受けた瞬間、そそくさと溶岩の中へ。

 

 結局、そう時間もかからず徒労に終わったとわかり、ジンオウガ亜種は大人しく住処へと退散。当の紅彩鳥は、そんな混乱と恐怖に興味が無いのか、はたまたジンオウガ亜種から逃げる為か、ローブル熔山帯から離れた領域へと飛び立っており、少しの間は別の場所で混乱と混沌を齎していくだろう。

 

「グラララ………」

 

 そんなトラブルメーカーを見上げるのは、特殊な液状油の沸き出す寝床に住まう煌びやかな竜。鋼鉄の鈍い輝きに混ざるのは、市場に出せば高い値打ちがつくであろう見事な宝石の数々であり、その姿はまるで、宝を纏っているよう。世が世ならば、さぞかし狙われたのであろうが、その煌びやかさに反した重厚な姿は、獣竜種『爆鎚竜』ウラガンキンのソレだ。

 『宝纏』ウラガンキン………その全身の宝石に催眠性の強いガスを溜め込んでいる上、ウラガンキンという竜のタフネスと、様々な鉱物が混ざり合った強固な金属甲殻、宝石という凶器を纏い一層強固且つ重厚になった大顎とを併せ持つ、間違いなくこの一帯でも上位に位置する竜だ。

 

 そんな竜も座す領域であるが、他にも溶岩を、大地を泳ぐ海竜、鎧の如き重厚な外殻を纏う竜。比較的自然が豊かな東部には、『空の王者』の異名を持つ飛竜からそのつがい、天敵、それらが特異な変化を遂げた個体に、歳月の積み重ねにより更なる高みへ至った個体まで。その全域を通して、多種多様なモンスターが根付き、その力を示している危険地帯だ。

 

 アベリオン聖獣連合にとって幸いなのは、この過酷な地での生存競争における敗者は、そのまま屍と化し、戦える状態で逃げ出すことが、殆ど無い事だろう。未知なる脅威に溢れた大地と隣り合わせた、この小さな生存圏でも、人々は日々を必死に生き続けているのだ。

 

 生命の力を示しているのは、何も竜たちだけでは、無いということだ。




★設定

・アベリオン聖獣連合

アベリオン丘陵に逃げ延びたローブル聖王国の民と、そこに生存圏を有していた亜人による連合国家。人間からは王とその補佐を、各亜人の部族からはそれぞれ最も優れた者を代表として、日々手を取り合い、強かに生き延びてきた国。
主に、戦力を亜人が、回復魔法含む、様々な支援を人間種が担当する形を取る。


・ローブル熔山帯

旧ローブル聖王国にて、熔山龍の死後、そのエネルギーと亡骸から生じた、大規模火山地帯。
火山という過酷な環境もあり、生息モンスターも強靭。過去の調査隊は、派遣数百名に対し生存者数名で終わった程に過酷であり、その際に覇竜を始め、様々な凶悪なモンスターの存在が確認された、特級の危険地帯。

中央の火山地帯に、実質的な主である覇種古龍と、とある飛竜たちが生息している。


・エイヴァーシャー大森林

かつて、エルフの王国が存在した森林。近隣最強の一角、辿異種エスピナスが生息。


・辿異種

スレイン法国が現在三体確認している、長い歳月を経て変異を遂げたモンスター。
剛種をも上回る脅威であるとされ、現在巫女姫の力を最大限駆使して監視中。


・『弩岩竜』

200年前、南の砂漠から北上した覇種モンスター。
ビーストマンの国々から、竜王国の自然までを食い荒らした末、法国の切札により消滅。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。