《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
イャンガルルガ、討伐―――
その報せが届いたのは、シェンガオレンが迎撃地点に現れると予想された日の、丁度前日。
「マジかよ!あのガルルガを倒したってのか!?」
「この土壇場でンな三流ジョークかませる訳ねぇし、大マジだろうよ!っしゃ、明日は勝つぞ!」
「リ・エスティーゼの底力、見せてやろうぜ!」
冒険者が、兵が盛り上がる中、パンドラの報告を受けたモモンガは一人思案する。
(あのイャンガルルガ………長いからガルルガでいいな。奴の素材の武器は基本性能は良好と)
パンドラが確認した武器の効果を頭の中で反芻し、
問題は、それがガルルガという種の限界なのか、あの個体が弱かっただけなのか、という点。
「モモンガ様」
と、長考していた事に気付き、顔を上げる。
「ああ、大丈夫だ。アル、ベド………よ………」
そして、彼女が手にする大きなトレーに並ぶ、巨大な料理の数々に度肝を抜かれる。
「えと、それは?」
「こちらの料理というのを、試しに頂いてみたのですが………」
困惑するアルベドに『まあ、その量は戸惑うよな』と思うが、実は違う。
「その、私はアンデッドだから、手伝うとかは」
「え?」
「え?」
「………え、ああ、いえ!別に、食べきることは問題ございません。ですが、食材が」
そう、別に平らげる事は簡単なのだ。『ギャップ萌え』タブラ・スマラグディナがそう設定した彼女は大食漢であり、これだけの量もペロリといけるクチ。しかし、彼女の言う問題はそこではない。
「これらの料理、調理過程は雑の一言です」
「………まあ、ナザリックと比べれば、な」
「なのに、未知の食材ということを抜きにしても、その………とても美味しそうなのです」
「ほぅ………そこまでか」
好奇心が沸くも、直ぐに上がった歓声に気を取られ、そして唖然となる。
「いい飲みっぷりだぜ、コキュートスの旦那!」
「セバス殿も、見事な食べっぷり!私たちも敗けてはいられませんな!」
アルベドに盛られた量を、殆どの者がガツガツと平らげている。質量保存の法則どこ行った、と突っ込みたくなる光景であるが、驚くべきことにセバス、コキュートスも混ざり、彼らと同様の、悪く言えば品が無い食べ方で、その莫大な量を平らげているのだ。それも、まともな食事の経験がないモモンガですら、間違いなく『美味い』と確信できる程真剣に。
「………」
「どうやら、あの食べ方がこちらの流儀のようでして」
「冒険者であれ兵士であれ、戦う者は皆ああだ」
と、いじけ気味に現れたのは、イビルアイだ。
「イビルアイか」
「見てみろ。令嬢のラキュースですらあの喰い方だし、ガガーランに至っては三倍喰ってるぞ」
目を向ければ、イビルアイの言う通り。百年の恋も、という感想は不思議と湧かないが、それはそれとして、ギャップが凄まじい。何より、あの量を平らげる事が出来る、というのが、ロクな食べ物が無いリアルを生きたモモンガには羨ましくもあるし、少々恐ろしくもある。
「えっと、お前の故郷でも?」
「ああ。幼い頃、一度だけ食べた幻獣チーズを挟んだロイヤルベーグルは絶品だった」
「いや、それは訊いてないんだが」
隣のアルベドが大真面目に訊こうとする中、それに気付かずモモンガは唸る。
「なんというか、場違い感が凄いな」
「諦めろ。食事の場は、そのまま交流の場ともなるからな。主力やリーダーが抜けるのは不味い」
飲食不可の二人が立ち尽くす中、アルベドはラキュースらのテーブルへと向かい、腰を下ろす。
「失礼」
テーブルにトレーを置き、改めてガガーランが貪り食う量を際立たせる。
「えっと、アルベドさんでしたっけ?」
「ええ。食事の場は交流の場でもある、とお聞きしましたので」
と、アルベドが情報を得ようと動く中で
「ウム、コノウイスキー、マコトニ美味ダナ」
「だろ?ちと値が張るのが難点だが、緊急とはいえ格安で振舞うたぁ、領主サマも太っ腹だよな」
「だが、これだけの便宜を図って貰った以上、何としても勝たねばな」
「然リ。我ガ主ノ、創造主ノ名ニ泥ヲ塗ラヌ為ニモ、我ガ死力ヲ尽クソウ」
大きなジョッキを空にしたコキュートスが奮起する中、リザードマンのゼンベル、ザリュースも大きく頷く。武人肌の彼の琴線に触れたらしい者たちが同じテーブルに集まり、同時にコキュートスは彼らへの敬意を忘れず、自身に不足する情報について、幾つか問いを投げかける。
「強大ナ竜ガ多イヨウダガ、何時モコウナノカ?」
「いいや?普段はランポスやジャギィみたいなのが殆どさ。それよりデカいの相手だと、何十人も戦えるのを集めて、何度も何度も情報を整理して、策を立てて、相手によっちゃ十何日もかけて休む間も与えず、交代交代で攻め立て続けて、って感じだな」
「ムゥ………イヤ、正面カラデハ勝テヌカラ、カ」
「ああ。我々の武器では、脆弱な部位を正確に狙わなければ中々な。マジックキャスターを何人も用意できても、第三位階魔法では中々効かないものでな………隣の帝国には申し訳なく思うが、スレインの聖典部隊による支援は、これ以上無いくらい有難い」
ふむ、とコキュートスがその情報を咀嚼する中、セバスは………
「魔化した武器でも、厳しいのですか」
「ええ。我が国の五宝物に数えられる剣であろうと、斬り裂く以上の痛手は中々………」
ガゼフたち王国戦士団―――リ・エスティーゼ王国最精鋭の者たちと、肩を並べていた。
「ふむ………」
「武器は入って来るのですが、アダマンタイトでは切れ味も強度も………」
「入って来る、と言いますと?」
「アゼルリシアのドワーフです。リ・ブルムラシュールが主な交易窓口ですな」
ふむ、と思案するセバスが分厚い肉にかぶりつき、改めてその質の高さに驚く。そして改めて、その身に力が漲るのを感じ取り、静かに拳を握り締める。そして、その結果を齎した肉へと強い興味を示し、疑問を口にする。
「ところで、この肉は?」
「草食種のアプトノスの物ですな。温厚なモンスターで、竜王国では家畜化もされております」
また新しい国名に驚き、同時に疑問も浮かぶ。
「王国では、家畜化されていないのですか?」
「無論、されております。ただ、食肉として育てると、今度はモンスターが………」
「成程。我々にとって美味な物は、モンスターにとっても美味ということですか」
「ええ。こちらのレウスウイスキーのような酒類は、まだマシなのですがね。野菜や果実、肉、魚介となると、我らが好むモノはモンスターも好むものでして。酒類を除けば、高級品と呼べる品は非常に希少で、今日振舞われた料理の素材も、殆どが一般市場で流通しているものです」
「なんと!?」
ナザリックの物程でないにせよ、間違いなく上質な食材。それが一般流通というのだから、驚くのも当然だ。その上、調理もナザリックのそれより雑だというのに、その味わいはあちらでの料理に次ぐ、と言っても過言では無い程。だというのに、この更に上があるという。
「………」
「どうかなされたのですか?」
「いえ……高級な品がどれほどなのか、気になりましてな」
「でしたら、落ち着き次第、竜王国に向かってみてはいかがでしょう?」
と、また別の戦士が提案し、口々に教えてくれる。
「一度、王都の商人の護衛として向かったことがありましてな。カッツェ平野の恐暴竜のせいで、通行がひたすら難しくはありますが、あそこを抜ければ悪食野郎が見向きもしない枯れた土地ですからね」
「おい、言い方………ああ、枯れたってのは間違いじゃないんですがね。国土の殆どが砂漠地帯になってまして、ホント湖周り以外は不毛の地なんですよ。その原因である200年前の『覇種』は討伐済みなんですが、その爪痕は酷い有様で………」
「まあ、モンスターが弱くて比較的安全なのと、街が見応え満点なこと、他にも色々毛色が違うのは、最大の見所ですかね。俺も、無事引退出来たらもう一回観光に行きたいですもん」
「おいおい、そういうコト言う奴から死ぬんだぜ?」
「………覇種、ですか」
静かに、驚愕を込め呟く。イビルアイ曰く、剛種より上―――それを討伐できたとは、驚きだ。
「………その、見所というのは?」
しかし、古い伝承となれば、彼らよりイビルアイの方が知っているだろう、と考えたセバスは、そちらより竜王国について訊くことを優先した。すると、出るわ出るわ。
「まず、街だな!砂漠を移動する街!」
「………なんと」
「おいおい、飛竜乗り忘れんなよ。確か、あっちだと
「!?」
「それと、祭だな」
と、そこに加わるのはバルブロ王子。
「ぶっ!?で、殿下?!」
「そう構えるな。私も一介の戦士として、セバス殿と話してみたくてな」
と、隅の席に腰を下ろし、話を続ける。
「私も見たことは無いが、竜王国より南東の大砂漠を、一定周期で古龍が回っていてな」
古龍、という単語に身構えたセバスは
「その度に、国を挙げての祭になるのだ」
続く言葉に、思わず愕然となった。
「こ、古龍の襲撃が、ですか?」
「襲撃ではない。あの地は資源に乏しい為、巨大龍から得られるモノを売り捌いているのだ」
そして、続ける。
「しかし、タイミングが悪く、それらの収穫物は見れなかったがな。いや、実に無念だ」
しかし、砂海を泳ぐ魚竜種のキモや、食肉は絶品だ、と告げる。
「ほぅ………それは、また」
「一度は、行ってみる事をお勧めしよう。必要とあらば、紹介状も用意しようではないか」
その言葉に、セバスがふっと笑みを零す。
「どうやら、また一つ敗けられない理由が増えてしまったようですね」
「何を今更。敗ける気があったとでも?」
「ほんのジョークです」
軽い笑いが巻き起こる中、それとは綺麗に異なる空気を醸しだす場があった。
それは、ナザリック地下大墳墓。
「………事実なのですか?」
「嘘言う訳ないでしょ!?ホントにヤバいのがいたの!」
パンドラが険しい顔で問い掛け、アウラが怒鳴り返す。
「アウラの言葉が真実であると考え、私は一度調べるべきと判断しました」
「それ自体には賛同しますが、人員の派遣は反対しますよ?」
「いえ、幸いにも今回は緊急ではありません」
デミウルゴスの言葉を訝しむパンドラは、続く言葉で納得を示す。
「モモンガ様の計画に、現状直接関与しない以上、我々が直接監視する必要はありません」
「その通りですな。成程、ニグレド様を頼るのですね」
「ああ。彼女の調査能力は一級品だからね」
頷き合い、一行は第五階層の氷結牢獄へ。
調査能力に特化したNPC、ニグレドに事情を説明すれば、即座に《
「山、ですね………」
所々が銀に染まる体毛に身を包む、山の如き威容を誇る巨大な象。東方の寒冷地帯で『巨獣』の名で呼ばれ、『不動の山神』とも称される牙獣種モンスター、ガムートの老齢個体だ。その二つ名『銀嶺』の名の通り、山の如き威容は所々白銀に染まり、長い鼻や前足に纏う氷雪は鋭利に固まっている。
「でっ、かぁ………」
「絶対、戦いたくないサイズでありんすね………」
その巨躯は、アウラなら余裕で踏み潰せる程。シャルティアの言葉に同意するように頷きつつ、その巨躯の近くに群れる毛深い獣の群れに興味を抱き、ダークエルフのビーストテイマーは周辺のモンスターに気を配る。そして、多くが草食であろうことに気付いた。
「もしかして、他のを護ってる?」
「さしずめ、守護者といったところですか………ニグレド、別の場所を」
巨獣の在り方への考察を打ち切り、デミウルゴスは本命を探るべく、ニグレドに指示。
「では、一度広い範囲を見渡してみましょう」
と、視点を引き上げ、広域を見渡す。連なる山嶺の合間に広がる氷原と、それを辿る先に広がる流氷混じりの海岸線まで綺麗に見える中、先程の箇所から大きく離れた氷原が、爆ぜたのが画面に映る。何事か、とデミウルゴスたちが叫ぶより早く、ニグレドはその場所を拡大表示。そこに居たのは、四足で大地を踏み締め、一対の翼を持つ存在………即ち、古龍だ。
「馬鹿な………」
それが、三体も………デミウルゴスですら、声が震えた。
白銀の凶星が赫光と共に飛翔すれば、激突していた二体が離れ、片や激流を、片や銀流を解き放ち、その星を追跡。しかしその攻撃を、凡そ翼をはばたかせる生物では不可能であろう急上昇により躱したソレは、そのまま天空で軌道を変え、二体を同時に狙える位置まで弧を描き飛翔してから、再び方向転換し急降下。それに対し、氷の鎧を纏う龍は幾重もの氷壁を作り出し、銀流を操る龍は流体金属を大地に広げ、凍て固まったソレを強引に軟化させ、泳ぐように地中へと消える。
その氷壁による視線遮断の間に冰龍が飛翔して軌道を脱すると共に、氷槍を無数に配置。その数々に加え、機を見計らい新たに放たれた一撃の直撃を受け、墜落と共に天彗龍は氷原を転がる。更にその無防備を、地中に逃れていた司銀龍が下から強襲し、そのまま無数の流体金属を槍状に射出し、その体躯を攻撃。地獄絵図の如き古龍たちによる縄張り争いを目撃した守護者たちは、そのシンプルに不可思議な能力の数々に目を奪われていた。
「あの龍が氷を使って、あっちが銀を使って………あの銀色のは、一体………?」
シャルティアが困惑する中、痛手を受けた鳥を思わせる銀龍は特徴的な姿勢で何かを吸入。それを終えるや否や、その特徴的な翼を構え、赫色の光とも焔とも取れる何かを噴出し、飛翔。
「ッ、ニグレド!追跡を!」
「は、はい―――駄目です、逃げられます!」
そして、その龍はそのまま、瞬く間の超絶加速を以てニグレドが追跡の魔法を使う間も与えず、彼女の視界から、索敵圏内から姿を消した。その劇的な加速による急上昇は、生半可な生物では殆ど即死同然の負荷がかかるだろうものであり、その飛翔方向が南東で無かったのが、不幸中の幸いだ。
「………地獄ですか、この世界は」
知恵が回るからこそ、デミウルゴスは三種の龍の実力を冷静に判断し、頭を抱えていた。
そして、この世界の人類に対し、心の底からの敬意と畏怖を抱いた。
★設定
・イャンガルルガ武器
剛種に及ばない為、武器性能も
それでも基本性能自体は悪くなく、現地人には大きな助けとなる代物。
・料理
いわゆるモンハン飯。現地人の高い地力の原因でもある代物。
シンプルに美味で、一般流通食材の時点でユグドラシルの高ランク食材並。
上品に食べるのではなく、莫大な量をガツガツ食うのが、戦う者のマナー。
また、余程酷い調理でも無い限り、必ず強力なバフ効果を発揮する、彼らの生命線。
・現地人
戦う者≒戦闘職持ちの多くが大食漢と化す。
・戦闘実績
大型モンスターが出没した場合、その種を調べ上げ、綿密な作戦を立て、長い時には数カ月に渡り、多数のチームが交代交代に戦い続けることで、着実に勝利してきた。
討伐より撃退の方が多いが、武器の質を思えば十分過ぎる大金星と言えよう。
・ドワーフ国
主な交易相手。実は………
・カッツェ平野の恐暴竜
南方の平野を危険地帯へと変えている存在。悪食野郎。
出没時期によっては交通網が死ぬ反面、撤退後すぐなら、安全に通り抜けられる。
・竜王国
国土の殆どが砂漠と化した、枯れた国。枯れているからこそ、ある意味で安全。
枯れた土地故強力なモンスターも育たず、また入って来難い。
枯れている反面、モンスターも強くない為か、他より牧畜が盛ん。食肉は絶品。
また、作中で提供されたレウスウイスキーも、この国でのみ生産している。
本作で最たる悲劇に見舞われ、魔改造を施された国。
砂漠とを移動する都市、古龍相手の祭、竜を駆る者など、ここだけ毛色が大きく異なる。
モモンガが知れば行きたがるであろう国、ナンバーワンとも。
・インベリア
滅びた国。かつて、幻獣チーズとロイヤルベーグルを食べることが出来た。