《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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07―決戦

 明け方。ほんのりかかる霧の中で、峡谷に近い地形の只中を、巨体が進む。

 龍のモノであると思われる頭は、よく見ればただの骨。その左右に伸びる足も、龍の太く強靭なそれではなく、細い細い、甲殻に包まれたモノだ。途方もない重量を支える、青銅器を思わせる鈍い色彩の甲殻が一歩、また一歩と大地を踏み締める度軽い揺れが周囲を襲い、崖の一部が崩落していく。その様は、まさしく天災であろう。

 

「報告は受けていたが………改めて、凄まじいな」

 

 サイズで言えば、ガルガンチュアが近いだろう。しかし、そういった理屈ではない威圧が、そこには確かに存在している。何より、これがかつて対峙したクシャルダオラと同等の剛種であるという事実が、自身の命がかかっているという事実が、重く双肩にのしかかる。

 

「モモンガ殿、伝令だ」

 

 そこに現れたのは、王国最強のマジックキャスターであるイビルアイ。

 

「スレインより、漆黒、火滅、陽光の三大聖典部隊が援軍に来た」

「………それはまた」

「剛種である、と判っているからだろうな。そして、強くなることが判った以上、これ以上撃退で留める訳にはいかない、と判断したんだろう。そして、それを成し得る戦力がある、というコトも」

 

 その言葉の重みを実感しながら、モモンガは傍らで震えるマーレを見やる。

 

「安心しろ、マーレ。私たちも、全力でサポートするのだからな」

「は、はい………」

 

 そうしている間にも、現地の者たちが必死に作り上げた迎撃地点へと、仙高人は大地を踏み砕き進んでいく。周辺に潜む者たちに気取られぬよう、装備による隠蔽効果を全解除したモモンガたちレベル100勢がそのまま囮となり、かの巨大蟹の意識を引き付けている中、目論見通り龍頭骨を背負うモンスターは、巨躯から予想も出来ない速度で彼らを目掛け、大地を進む。

 

「では、始めるか」

 

 と、自身を中心とする巨大な魔法陣を展開―――超位魔法の発動準備に入る。

 

「離れていろ」

「わかった。その攻撃が、合図なのだな?」

「ああ」

 

 イビルアイが《飛行(フライ)》で離脱する中、モモンガは目前の火薬地帯を睨む。

 

(そう、合図だ。この一撃が何処まで通じるかもわからないが、起爆も纏めて行える筈だ)

 

 そう判断し、手中に忍ばせたアイテムを握る準備をする。

 

「………」

 

 静かに、冷静に機を待つ。視界を遮らぬ位置に立つアルベドが、いつでも迎撃できるように盾を構える中、シェンガオレンはひたすらに進み続ける。そして、シェンガオレンが火薬地帯に踏み入るのを確認次第、ユグドラシル時代から魔法発動のタイムラグを熟知しているモモンガが、手中の即時発動アイテムを使用。

 

「開幕の一撃だ、派手にいくぞ―――超位魔法、《失墜する天空(フォールンダウン)》ッ!」

 

 炎とは異なる、純然たる超高熱が蒼白の光柱として降り注ぐ。その熱波をモロに浴びた砦蟹から悲鳴の如き呻き声が響く中、周辺に仕込まれた火薬がその熱量により一斉起爆。崖までもが大きく崩れその巨躯を襲い、地下に仕込んだ爆薬の炸裂により、足場も崩壊。その体躯が地面に沈む中、隣のマーレもそれを合図に魔法を発動。

 

魔法効果範囲拡大化(ワイデン・マジック)、《地割れ(クラック・イン・ザ・グラウンド)》ッ!」

 

 大地が大きく裂け、その体躯を一層深くへと沈ませる。

 

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)、《大樹の束縛(バインド・ウッドプラント)》ッ!」

 

 そして、行動を阻害するべく大樹を生み出し、厳重に捕縛する。

 数少ない武器である鋏を大地に縫い付け、背部の頭骨も厳重に戒める。最強化により植物の強度も大きく底上げしたことで、そう容易く抜け出すことも出来ないでいる。ここまでが下準備であり、ここからが本番。予め発動していた《生命の精髄(ライフ・エッセンス)》で視ていたモモンガは、ここまで撃ち込んで尚、消耗が10%にも届いていないだろうことに気付いていた。

 

「やるわよ、コキュートス!」

「ウム。オ前タチハ、側面カラ攻メロ!」

「正面は、私たちが!」

「おうよ!」

「ゆくぞッ!」

 

 アルベドが、コキュートスが、セバスが回り込み、シェンガオレンの正面から果敢に挑みかかる中、現地勢力は左右の側面から攻撃を仕掛ける。その体躯の殆どが大地に埋まっているというコトもあり、抵抗はほぼ不可能であるが、現地の武器を思えば、ダメージはそうそう出せないだろう。だからこそ、モモンガも消費を厭わず、使える魔法を片っ端から使っていく。

 

魔法三重(トリプレット)最強化(マキシマイズ・マジック)、《現断(リアリティ・スラッシュ)》ッ!」

 

 属性の無い魔法攻撃の斬撃を、植物による束縛の隙間へと叩き込む。関節を狙った攻撃ながら、しかしその厄介な鋏を切り落とすには至らない。刻んだ傷を狙いコキュートスが、アルベドが攻撃スキルを叩き込み続けるが、中々切り落とすことが出来ず、改めてその強固さに辟易とさせられている。

 

「チッ、硬すぎるでしょう?!」

「ムゥ………ッ!」

魔法三重(トリプレット)最強化(マキシマイズ・マジック)、《朱の新星(ヴァーミリオン・ノヴァ)》ッ!」

「ハァァッ!」

「敗けちゃいられねぇなあ!」

「超技ッ!『暗黒刃(ダークブレード)ッ!超弩級(メガ)ッ!衝撃波(インパクト)』ォッ!」

「おおおおおおッ!『閃光烈斬』ッ!」

 

 と、四人の超越者が攻撃を叩き込む中、アズスが、ラキュースが、ガゼフが、各々の武器で放てる最大の攻撃をひたすらに叩き込み続ける。それでも尚、その強固な外殻を貫けるのは極僅かな衝撃程度であり、それは左右から攻め立てる者たちも同様―――いや、彼らの方が、その減衰は大きい。

 

「《火球(ファイヤーボール)》!《火球(ファイヤーボール)》!」

「弾切れだ!バリスタの、頼む!」

「あのヤド、硬すぎんだろおい!」

 

 そんな戦士たちに配慮し、崖上や崖内部をくり抜いた場所から攻撃する者たちの標的は、大樹で地面へと縛られたヤド。魔法位階が低いお陰で燃える心配は無いながら、それは言い換えれば、決定打には程遠いことを意味しており、消耗に反しダメージは芳しくない。竜骨から削り出した矢であろうと、ただでさえ強靭な巨大龍の頭蓋が基盤であるシェンガオレンには効果が薄いのだ。

 

「頭から離れろ!魔法効果範囲拡大(ワイデン)最強化(マキシマイズ・マジック)、《砂の領域・全域(サンドフィールド・オール)》ッ!」

 

 そして、イビルアイが自身のオリジナル魔法を発動。本来なら対領域のそれで巨大蟹の頭部を、丸ごと覆い尽くすことで、強引且つ長期的に負属性のダメージを叩き込む。そして、上位者たちの活躍に、王国の者たちの雄姿に敗けていられるものかと、援軍であるスレインの者たちもまた、動いた。

 

「ハアアアアアアアアアッ!!!」

 

 スレイン法国の切札。武具の質と併せて、辺境における討伐実績最高の女戦士、『絶死絶命』が大地を蹴り、その大鎌で外殻を切り裂く。上質な武器である事に違いは無いというのに、この理不尽な硬さを見せつけられれば、成程『剛種』と定義される存在が危険視されるのも納得というものだ。

 六大神の遺産を纏う漆黒聖典のポテンシャルは、番外以外の者たちも、間違いなく現地における最高クラスだ。ユグドラシル基準で見れば、伝説級(レジェンド)手前の聖遺物級(レリック)装備といったところであるが、アダマンタイトが最高である彼らの基準とは比べるべくもない。そんな彼らを、レベルでもスキルでも、装備の質でも大きく上回る筈の守護者ですら苦戦する外殻強度といい、間違いなくこの世界は異常と言えよう。

 

「っ、下がれ!」

 

 そう鋭く叫んだのは、果たして誰だったか。

 空から攻撃を続けるモモンガが、イビルアイが、老山龍の頭骨から漏れ出す液を、それによって恐るべき速度で侵されていく樹木を、大地を目にした。脱兎の如く逃げる者たちを責めよう、などとは思わない。寧ろ、今のうちに逃げねば―――

 

「マーレッ!く、《上位転移(グレーター・テレポーテーション)》!」

 

 モモンガは即断し、連続転移でマーレを連れ脱出。瞬間、莫大な量の酸がぶちまけられ、周囲の大地を蝕み、大樹の束縛を打ち破る。成程、これだけの酸は確かに脅威そのものだ、そして無効耐性が機能していないとなれば、マーレが浴びていれば―――

 

 ぞっ、とモモンガの背筋を、寒気が奔る。

 

「あ、ありがとう、ございます………その、ごめんなさい」

「謝る必要はない。寧ろ、生への執着を甘く見過ぎていたな」

 

 莫大な酸により地形が変わり、戦士たちの接近はほぼ不可能。緩やかでないにせよ、縦穴を斜面へと変えられたことで、脱出もまた時間の問題ときた。幸い、感知が早かったお陰で死者は出ていないが、周囲への被害も出ている以上、現地の人間による援護は、本当に僅かにしか期待出来まい。

 

「………止むを得ん、か」

 

 別に、それを足手纏いとは思わない。何故なら―――

 

「クソ!後衛は持てるモン持って下がれ!次の迎撃地点まで退くんだ!」

「急いで伝令を出せ!第二だけじゃない、第三以降にも準備させろ!」

「爆弾は置いてってくれ!俺たちだって、それくらいは使える!」

「戦士たちは後退しろ!ここは我々と、召喚天使で食い止める!」

「火滅聖典は第二以降の迎撃地点へ急行!トラップの設置を急げ!」

 

 彼らは、魅力にあふれ過ぎていた。

 自分に無い、死を厭わぬ覚悟。それでいて、生へと喰らい付かんと足掻くその姿。

 

「………ふ、はははは」

 

 少しばかり………そう、きっと少しばかり、魅了されているのだろう。

 自分が持たない物を、当たり前のように持つ人々に。

 

「も、モモンガ、様?」

「マーレ、お前も第二拠点とやらに行け。そちらで、お前に出来る事をするんだ」

「え、え?」

 

 と、無事な場所に転移し、マーレを降ろす。

 

「も、モモンガ様!?」

「すまないが、余裕が無さそうでな。【強欲と無欲】、少しばかり借りるぞ」

 

 そう口にし、続けてマーレから、一時的にワールドアイテムを借り受ける。

 そして、離脱、移動するべく方向転換したシェンガオレンの正面へと転移する。

 

「モモンガ殿、どうか撤退を!ここは我々が」

「いいや、その必要はないさ。この戦局を覆せるのは、私だけだからな」

 

 だから、と。絶望に満ちた世界で、ただ惰性気味に生きてきた男は、戦士たちに目を向ける。

 自分に無い、自分たちの世界に無い輝きを秘めた、心惹かれる勇士たちに、堂々と告げる。

 

「お前たちは先に行け。さもなくば、巻き込まれるぞ」

 

 そう告げ、一振りの杖を手にした。

 瞬間、支配者が纏う気迫が膨れ上がったのを、その場に居た誰もが認識した。

 

(実戦で使うのは初めてか………ああ、これでいい。ここで躊躇ってたら、皆に怒られるよな)

 

 七匹の蛇が絡み合い、のたうち形作られる黄金の杖。蛇たちの口に収まる七つの宝玉の輝きが、その杖を形作る黄金の輝きが………それを握る、絶対なる死の具現たる支配者の姿が、この場に居た者たちに、希望の光を示した。たった一筋の光から、より強大な光へと、彼らの希望を変化させた支配者は、その杖を誇示するように、高らかと掲げる。

 

「【スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】―――そう、アインズ・ウール・ゴウン」

 

 ギルド武器………ギルドマスターのみが扱える、ギルドマスター専用の逸品。

 その性能はワールドアイテムにも匹敵し、モモンガ本来の主武装を大きく凌駕する。

 

「これを手にさせたんだ。あの世で、存分に誇るがいい」

 

 その力により、モモンガの全能力は劇的に向上している。そして、杖自体に組み込まれた七つの神器級(ゴッズ)アーティファクトにより、モモンガが使えないものから、通常の手段では使えないものまで、様々な魔法が使用可能となるのだ。

 

「精霊たちよ!」

 

 全ての宝玉の力を使い、通常の召喚(サモン)魔法では決して召喚出来ない、根源(プライマル)系の強力な精霊を七体召喚。ここのステータスだけで見れば、現地人でも対処できなくはない程度であるが、彼が求めたのは使()()()()()()()()()()だ。そういう意味では、一日一度の制限はあるながら、強力な属性攻撃が可能な彼らは非常に優秀だ。

 

「『上位アンデッド創造』―――『暗黒儀式習熟』」

 

 そして、一日四回までの『上位アンデッド創造』スキルを二度で使い切る代わりに、より強力なアンデッドを召喚する。レベルにして90弱ながら、物理の効きが薄いと判断したモモンガにしてみれば、手札を選べるだけ有難いというもの。ここで選ぶべきは、強固な物理防御を貫ける手段………即ち、魔法を主体とした存在。

 

「ただの死の支配者(オーバーロード)だが………生憎と、こちらのスキルは別枠でな」

 

 そう笑い、経験値を消費するスキルを、ワールドアイテム【強欲と無欲】のストックで肩代わりして発動。作成するアンデッドは、より魔法の扱いに長けた死の支配者の賢者(オーバーロード・ワイズマン)を二体と、指揮官職を持つ死の支配者の将軍(オーバーロード・ジェネラル)を一体召喚。そして、アンデッドである彼らは、モモンガのスキルによる多大な強化を受けている。

 

「では、景気づけに行くとしようか―――魔法最強化(マキシマイズ・マジック)、《重力渦(グラビティメイルシュトローム)》ッ!」

 

 仙高人を重力の渦が襲うと共に、強力無比な魔法の数々による波状攻撃が開始された。




★設定

・火滅聖典

待ち伏せ、強襲に特化した聖典部隊。実戦型聖典の一つ。


・漆黒聖典

辺境最強の人間部隊。討伐実績はナンバーワン。


・番外席次

漆黒聖典最強。個人で、彼女除く漆黒聖典全体に匹敵する討伐実績を持つ
本作では()()余裕が無い事もあり、見逃されている。
歪んだ教育を施す暇が無かったためか、真っ当に育った。


・『砦蟹』シェンガオレン剛種

驚異的なタフネスが、剛種化による属性耐性の変化で更に強化されている。
鋏、腕は比較的マシではあるが、ヤド内部、足といった箇所よりは硬く、苦戦を強いられる。
安全を考慮しての選択であるが、弱い武器による胴体狙いと併せ、ダメージ効率は悪い。

酸を強引に撒き散らしたことで、拘束を脱した。だが、強引だった為………?
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