《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
莫大な高位階魔法の波状攻撃が、仙高人を襲う。
(とはいえ、軽く見積もってもレイドボス級………どこまでやれるか)
冷静に自身のMPを、相手の体力を確認したモモンガは、改めて眼下の怪物を睨む。
「さて、続けるぞ」
見たところ、炎の通りは悪くない。電気は劣悪で、水土風もそこまでいい訳でも無し。
最も良く通るのは龍殺しなのだが、甲殻種故の先入観でそれに気付けず、モモンガは炎中心に高位階の魔法を連発していく。三重化、最強化も欠かしてはいないのだが、如何せん元の体力が莫大故に、そのタフネスには唖然とさせられる。クシャルダオラの時に使った奥の手を、と思わないでも無いが、連発し過ぎてもっと危険な存在が現れた際に使えない、では話にならない為、兎にも角にも全力で魔法を打ち込み続ける。
「神話の類………などと言っている場合ではない、か」
その姿に目を奪われながらも、ガゼフは周囲に意識を向ける。
「弾ありったけ持ってこい!あそこまでやって貰って、おめおめ引き下がれるかよ!」
「クソ、何かないか!俺たちにできる事は無いのか!?」
そう叫び、冒険者たちが、兵たちが必死に援護の手段を探る。
「ったく、ああ言ってくれたんだし、素直に引きゃあいいのによぉ」
アズスもまたそう口にしながらも、視線は鋭く砦蟹を、その周辺を探っている。それはアルベドたちも同様であり、そして現在の砦蟹の背後………つまり、彼女たちの方へとヤドが向けられているからこそ、その事態に気付くことが出来た。
「あれは………試す価値はありそうね」
視線の先には、あちこちから煙を上げる巨龍の頭骨。
「ウム………デアルナラバ」
コキュートスが前に出る。同時に、他守護者に防御力で劣る彼を庇うべく、アルベドもその隣を進み、盾と戦斧を構える。四本腕全てに武器を構えたコキュートスは、大きく息を吸い込むと共に、敬愛する創造主より賜った、かつての彼の愛刀を握り締める。
「―――『羅刹』ッ!」
放たれる強力無比な斬撃が、その強固な筈のヤドへと深い傷を穿った。
「―――――ッッッ!?!?!?」
それを感知したシェンガオレンは驚愕の悲鳴を上げ、即座に迎撃せんと背部に意識を向ける。
「ッ、逃げろ、コキュートス!」
それに気付いたモモンガの叫びに、コキュートスは守護者としてではなく、武人として返す。
「オ気遣イハ無用!ソレヨリ、攻撃ヲッ!」
その身を飲み込まんと迫る超強酸の液塊に対し、飛び出したのはアルベド。
「『ウォール・オブ・ジェリコ』ッ!」
全体防御スキル―――そこに、被ダメージを鎧に肩代わりさせるスキルを重ね、強引に防御。
「ぐ………ッ、セバス!」
「ハッ―――『闘気功』、『猛虎硬爬山』ッ!」
モンクの自己強化スキルの後、攻撃スキルによる痛烈な打撃。ただでさえ自己の酸に侵され脆弱になったヤドに、その一撃は良く響き、コキュートスが叩き込んだものと併せてかなりの亀裂が入る。が、それだけの強酸により、セバスの手袋も、コキュートスの刀も相応の耐久ダメージを追ってしまう。
「貴方たちは下がりなさい。あとは、私がやるわ」
と、前に出ることが出来るのは、アルベドの現在の主武装が破壊不可の性質を持つ故。
「うおらあああああッ!!!」
そして、彼女が最も単純な防御力とタフネスに優れているからこそ、スキル構成と耐久極特化の鎧による継戦能力を有するが故の、酸による負傷を厭わぬ苛烈極まる猛攻。その剛腕と併せ、無茶な酸の行使による浸食に加えて、二人の高い物理火力を有する守護者による攻撃で脆くなったヤドを徹底的に攻撃していく。
そのような真似は出来ないながらも、この場に居る誰もがその意図を理解した。
「俺たちも続け!あのヤドにありったけぶち込むんだ!」
「アルベドさんに当てるなよ!」
「わーってんよ!」
「戦士長!叔父様!」
「ラキューは回復魔法を使ってやれ!俺はありったけぶち込む!」
「回復魔法を使える者は、アルベド殿に使えッ!」
その奮起の中、それらを援護するように、
「回復魔法はアルベド様へ集中せよ!それ以外のマジックキャスターは、ヤドではなく本体へ攻撃を、それ以外の者は、アルベド様に当たらぬよう注意の上で、ヤドへ総攻撃を仕掛けよ!」
その指示通りに動く者たちへと強化効果を齎し、僅かながら攻撃の威力を強化した。
「魔法は炎を使え!
巨大蟹へと叩き込むのは、火柱が上がる程の猛火。火力は落ちるが、狙いは魔法名の由来である長期的な燃焼ダメージ。更に、隠された効果に燃焼中の炎魔法威力強化もあり、このようなダメージを稼ぎたい場ではうってつけであり、他の低位階マジックキャスターによる《
「………ふふ」
そして始まるは、総攻撃。モモンガたちだけに負担をかけまいと、これ以上先に進ませまいと、各々が出来る最善を探り、それを力の続く限り実行し続ける。次があるから、まだ迎撃地点があるからと楽観視するのではなく、
「それじゃあ、指揮は任せるわ」
「ハッ!………ご武運を」
「誰に言ってるのよ」
「『絶命斬刺』ッ!」
強力な武技が、龍頭殻に近しい外殻を切り抉る。
「流石、神人と言うべきなのか、それでも倒れぬこの地のモンスターを恐れるべきか」
「言ってる暇があったら、戦えッ!」
グレートソードを構える者が、巨大斧を手にした男が闘気を取り込み、その眼光を紅に染める。
「「『獣宿し』ッ!」」
長く辺境で戦い続けた、漆黒聖典の者たちが編み出し、継承し続けた武技『獣宿し』。
単発威力に重きを置く武器に特化したその性質は、取り込んだ闘気を武器に宿し、一撃に全てを乗せて叩き込むパワースタイル。そしてそれを、多くの竜の外殻を貫ける『神の遺産』を纏う彼らが用いれば、その一撃は大きな脅威となる。
「―――――ッッッ!!!」
それを、外殻の傷に集中させることで、砦蟹剛種の強靭な外殻を貫くことに成功する。
「感謝するぞ!
轟音と共にシェンガオレンが傷ついていく中、コキュートスは静かに己の武器を見やる。
「ムゥ………」
たった一撃だというのに、その刃は激しく酸に侵されている。その強烈さを物語る結果が示しているのは、あと数度斬撃を叩き込めば、最悪武器そのものが駄目になるという事実。如何に彼が武人であろうと、創造主より賜った品が破壊される危険を前にすれば、躊躇いも抱く。
「コキュートス!」
そんな彼を見かね現れたのは、ナザリックで待機していた智者。
「デミウルゴス?」
「パンドラが新たに作った物を借り受けた。勝手は違うだろうが、その刀の代わりに使える筈だ」
そう口にし、特異な外観の太刀を差し出す。
「………コレハ」
「あの鋼龍の素材を使った代物だ。使えるかい?」
それを握り、軽く振う。
「………感謝スル」
「では、万一咎められた時にでも、フォローして貰えると有り難いね」
「フ………心得タ」
そう口にし、顔を上げる。
「デハ、往クカ」
「ああ―――シャルティアッ!」
デミウルゴスの号令と共に、紅の鎧を纏う戦乙女が飛来する。
「モモンガ様、助太刀いたしんすッ!」
その手にあるのは、デミウルゴスと交換したワールドアイテム―――【幾億の刃】。
「喰らい、やがれッ!」
肢に刻まれた傷跡に刃を押し込み、効果を発揮。名の通り億にも達する莫大な数の刃により放たれる斬撃が、シェンガオレンの肢へと刻まれていた傷を内側からごり押しで広げ、一方を切り落とすことに成功した。これが古龍であれば、ワールドアイテムの力は借りられなかっただろう。
「見事………デハ、デミウルゴス」
「ああ。頑張れよ」
「無論」
クシャルダオラの素材を用いた刀を握り、マジックアイテムを使い《
「お前たちは………全く!」
その様子を喜び、モモンガは更なる魔法を発動。更なるダメージを叩き込む。
「ッ、こいつ、また!」
そんな中、シェンガオレンはヤドから強烈な酸を吐き出そうと、予備動作を開始。
「―――皆さん、全力で逃げてください!」
その口が徐々に開く中、マーレが崖上から全力で叫ぶ。
「死んでも知りませんよ!―――シャルティアさん、口の中に魔法を!」
「承知しんした!
「
シャルティアが龍頭骨の口腔内へと魔法を叩き込んだ瞬間、マーレが大顎を、大樹を用いた束縛で強引に閉ざす。自身の酸に加え、シャルティアの魔法による衝撃波を逃すことが出来なくなった龍頭骨は、アルベドによる執拗な攻撃のダメージもあり、その形を維持することが出来ず―――
「………マジか」
莫大な酸を撒き散らし、老山龍の存在を示す遺骨が爆ぜる。酸と骨片が周辺に多大な被害を齎すも、マーレの忠告を受けて早々に退散した者たちは皆難を逃れている。自身の酸を浴びたシェンガオレンの外殻こそ、影響は大して受けていないものの、そこに刻まれた傷口の奥からは煙が上がり、何より大きいのは―――
「隠し通していた弱点が剥き出し、という訳か」
見るからに強度が低い、ヤドに隠れていた部位の露出だ。
「我々は援護に移るとしよう―――コキュートス!」
「ハ、ハッ!」
「お前たちがトドメを刺せ」
そう指示する間もなく、最強格の戦士の一人、番外席次は酸に侵された大地を駆けていた。
「『絶命斬刺』ッ!」
その
「おおおおおおおッ!!!」
「死ねやあああああッ!!!」
アルベドが、シャルティアがその武器による攻撃を叩き込む中、モモンガも敗けてはいない。
「さて、仕上げだ。動きを止めるぞ!」
「「「ハッ!」」」
召喚した副官アンデッドたちと共に、行動阻害を主軸に置いた攻撃魔法を叩き込む。
「
狙うのは、下。酸による溶解で大きく抉れ、露わとなったシェンガオレンの脚だ。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」
攻撃スキルをありったけ使い、脆弱な部位を深々と切り裂いていく。一点に対し過剰な戦力集中であるが、それを可能とするサイズに加えて、そうでもしなければならない、と判断させるだけの耐久を持つ巨大蟹の生命力を考えれば妥当以外の何者でもない。
「いい!加減ッ!くたばれぇっ!」
そうしている間にも、シェンガオレンは刻一刻と移動の準備を整えていく。このままでは、討伐より先に地上に出られてしまうだろう。そこから逃げに徹されれば、著しく消耗しているだろうモモンガたち以外では、まともな攻撃を通すのが絶望的になる。
「くっ、このままじゃ………!」
番外の顔に焦燥が浮かぶ中、異様にハイテンションな声が。
「こんなこともあろうかと―――ガルガンチュア!」
転移魔法で現れたのは、シェンガオレンに並び得る巨躯のゴーレム。
「ぱ、パンドラズ・アクター!?」
「相談無き行動、お許しを。しかし、これでもなお―――やはり、不足ですか」
一転して冷静に振舞うパンドラの視線の先では、ガルガンチュアを押しているシェンガオレンの姿が。単純なステータスだけなら、レベル100NPCをも超える筈のそれを相手に、肢を片方喪った状態で尚押し勝ちつつあるそのパワーは、本当に呆れざるを得ない。
「お手をお借りしますよ―――紅蓮様ッ!」
瞬間、シェンガオレンの頭上から超巨大
「そ、その手があったか!?」
単純なレベル差、ステータス差だけではない戦い方。
何より、パンドラの戦力投入タイミングが、本当に絶妙だった。
「………神々のお力は、本当に恐ろしい………筈なのですがね」
漆黒聖典の隊長がそう零す中、シェンガオレンから徐々に力が失せていった。