《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
砦蟹が、倒れる。
「………今回のぷれいやーは、随分とやるようだね」
それを遠目に見ていた白金鎧は、加勢せずに済んだことにひとまず安堵の息を零した。
「しかし、あの武器は………一度、接触してみる必要があるかな?」
「そうね。
純白の少女がそう口にした瞬間、白金鎧の主―――ツァインドルクス=ヴァイシオンは最大の警戒と敵意、殺意を以て武器を展開。声のした場所へと全力で叩き込むが、既にその場所には何も存在していない。声を発することが出来るような存在も、その痕跡も、何も………だ。
「酷いわ。折角、貴方たち古き民の力を真似て、作り出して動かしているのに」
「な………っ!?」
くすくすと笑う少女を、しかし絶句するツァインドルクスは認識できない。声は知覚出来ても、それ以外は全く以て知覚できないのだ。まるで、存在としての格そのものが違うかのように、この世界において最強に違いない竜王を手玉に取る少女は、彼の認識の外から声だけを届ける。
「古き民は、順当に力を増している。異邦の民がそれに手を貸す事自体、悪いとは思わないわね」
真紅の瞳に白金の鎧を映し出すも、白金の鎧がその姿を知覚することはできない。
「………キミは、何者だ?」
「さあ?あちらの世界では『祖なる者』、『白き王』なんて呼ぶけれど」
誰も知らないのにね、と寂しそうに笑い、白の現身は振り返る。
「なに?」
「こちらでは、誰も知らないわ。ええ、死した者であろうと、例外無く、ね」
それを最後に、古き民の力………即ち、
*
そして、周辺地域―――そこに座す者たちも、
氷原の主たる凍ての王は蒼白の瞳を戦地へと向け、銀を纏う龍、氷を纏う龍、共に戦闘を一時、中断。警戒とも、称賛とも取れる視線を向け、しかしそれもほんの数秒の事。直ぐに銀流が、氷塊が激突する熾烈な縄張り争いが展開される。
そして、古龍は何も彼らだけではない。
「ォォォォ………」
昏く、深い水面の遥か下。深淵にて、黄金が声を響かせる。そこにあるのは警戒か、感嘆か。
「キュルィィ………」
アゼルリシアの険峰より、白き獣が大地を見下ろす。青い瞳で彼方の事変を見届けた、蒼雷纏う幻獣は静かに踵を返し、白い雪で包まれた大地を駆ける。興味が無いのか、それとも脅威と見ていないのか………
「………」
その遥か下、アゼルリシア山脈内部の洞窟では、白い輝きを纏う皇金を纏う龍が、それを察知。
ドワーフたちに崇められる古龍は、周囲の者が何事かと狼狽える中、未知なる存在への警戒と共に視線を向け、その瞳を細める。見事な皇金の鎧を身に纏う古龍は、暫しの間そこに佇み続け、少ししてから身震いと共に動き出す。
その行動と共に幾らか剥離する皇金をドワーフたちが拾い集める中、皇金の龍は地脈に沿い形成した己が住処を進む。200年前より、ドワーフたちに崇められる歴戦の王は、外界の脅威に対し確かな警戒を抱きながらも、しかし強者として取り乱すことはせず、悠然と振舞うのだ。
*
リ・ボウロロール―――その夜、そこはお祭り騒ぎにあった。
「いやあ、モモンガ殿には本当に、頭が上がらぬ!」
「義父上の言う通りだ。改めて、礼を言わせて欲しい」
「いえ、礼なら私ではなく、あそこまでヤツを追い込んだ部下たちに言って頂きたい」
ボウロロープ侯、バルブロ王子が頭を下げ感謝する中、モモンガは苦笑気味にそれを窘める。
「彼らもだけど、貴方のお陰であることも事実よ」
そう柔らかく笑うのは、ハーフエルフの少女、番外席次。
「撃退に留めてきたツケとはいえ、私たちだけでは足止めも出来なかった。ただでさえタフさだけは難易度より遥かに上、とされてきた怪物だったけど、剛種になってそれも底上げされてたんでしょうね。本当に助かったわ」
「この地は王国でも特に広大な上、鍛冶業の街でもあります。喪失の痛手を思えば、モモンガ様のお力添え程喜ばしいことはございませんし、この結果以上に素晴らしいモノは、恐らく何があっても掴めないでしょう」
死者、ゼロ―――どれ程望んでも難しいソレが、最大の危機の中達成されたのだ。
「本当に、ありがとうございます。この過酷な地で育った戦士たちは、何物にも代え難いもので」
「ん?過酷な………?」
モモンガの中では、この辺境のモンスターがデフォルト基準と化しているのだ。
その事実に気付いた番外席次は、どうしたものかと軽く額に手を当て………
「ええ、過酷な。このリ・エスティーゼ近郊はとても肥沃な土地なのだけど、育つモンスターたちもその分強靭になるの。この一帯だと凡そ難易度285前後………大体、あの超巨大スライムに匹敵するモンスターが育ちやすいけれど、帝国辺りになると難易度270が時折現れる程度になって、竜王国一帯だと難易度240の個体がごく稀に出没、程度になるわ」
「………」
「補足いたしますと、我々の目測でモモンガ様たち御一行の大半が、難易度300相当となります」
早い話、ゲームに例えた場合、モモンガは転移地ガチャで最悪の次くらいの立地を引いた訳だ。
「マジか………」
「無論、これらもあくまで普段の話になりますが。200年前、竜王国を襲った『弩岩竜』、この国を二分する惨劇を起こした『刻竜』は、それぞれ限界まで低く見積もって尚、難易度330を大きく超えるとされておりますから」
モモンガがざっと計算した結果、要するにレベル110相当という―――
「双方、覇種と定義される怪物だな。これを上回るとされているのは、ツアー………評議国最強の竜王、ツァインドルクス=ヴァイシオンの全力を刻竜共々受け止め、尚もヤツと共に健在だった輝界竜が定義づけられた『烈種』くらいか」
「機械竜?」
「『輝界竜』ゼルレウス………黒き竜が国諸共魔神を焼いたのと異なり、こちらは魔神のみを正確に滅ぼした存在ですね。『刻竜』ラ・ロが『雌火竜』リオレイアに類似しているのに対し、こちらは『火竜』リオレウスに類似しているのですが、如何せん情報が少なすぎまして」
続々聞きなれない情報が、聞き逃せない情報が出てくる中、バルブロとボウロロープ侯は真剣に話を聞き続ける。この辺境で最も長い歴史を持つスレイン法国、その最精鋭である二人が持つ情報は、イビルアイとは異なる方向に充実している。
「それと本題ですが、刻竜の所在はいまだ不明………しかし、『占星千里』の予知によれば、暫くの間は大事も起こらないようです。現在、王国で確認されたというモンスターたちの出没地近郊に、それぞれ調査の人員を送っておりますので、詳細はまた後日となるでしょうが」
そこで言葉を切った隊長は、安堵を見せるバルブロへと目を向ける。
「現状非公式ではありますが、我が国は近々、合同会議を開くことを決定致しました」
「承知した。私から、父上に伝えよう」
「近く、正式な書状が届くと思われますので、どうかお願いしたい。それと」
そこで、視線がモモンガへと向く。
「モモンガ様。貴殿らにもご出席を願いたいのですが、宜しいでしょうか?」
その申し出に、モモンガは無条件で頷く。なにせ、合同というコトはそれだけ多くの人物が集合するというコトであり、多くの情報が一気に手に入るチャンスなのだ。ユグドラシル以上の強敵がゴロゴロしている世界だからこそ、情報を手にする機会を逸する訳にはいかない。
「それで、詳細は?」
「後日、正式な文書が王国に届けられます。ですので、可能なら王国に人員を置いて頂ければ」
「わかった。では、そうだな」
モモンガが視線を向けた先には、酒盛りの只中にある守護者たちの姿。
「マーレ様のあの魔法、凄かったです!」
「あの、出来れば私たちにも教えていただけませんか?」
「え、いや、あの、えっと………」
ダークエルフたちに尊敬の目を向けられたマーレが助けを求める視線を彷徨わせる。
さらりとシャルティアが適当な女冒険者を連れ席を外す中、それに気付いたパンドラは
「マーレ様、あちらのプレデターハニーに漬け込んだという唐揚げ、とても美味ですよ」
「ほ、本当ですか?!あの、僕取りに行ってくるので!」
マーレに美味しい料理を振舞っている場所を教え、そちらに行くよう暗に示す。
「………パンドラに任せるとするか」
(なんだかんだ、普通に優秀だしな、アイツ………時折、胸が痛くなるけど)
やや遠い目をするモモンガだが、直ぐに意識を切り替え、視線を下げる。
「となると、その内に他二体のモンスターも撃破する必要があるのか」
「そっちは私たちに任せて。沢山手を借りた以上、このまま終わる訳にはいかないわ」
そう口にした番外席次の目には、確かな信念が見て取れる。しかし、未知の素材という好奇心を刺激する数々の要素である上、この辺境の過酷さの度合いを測る意味でも、そう易々と頷けるものではない。が、不確定要素の塊ゆえ、そういった私情を抑える必要があるのも事実。
「むぅ………」
「シェンガオレンの亡骸でしたら、喜んでお譲りしましょう。どうか、ここは退いて頂きたい」
そう口にしたのは、驚くことにバルブロだ。
「確かに、モモンガ殿もその部下の方々も精強。しかし、それに頼り切る訳にはいかんのです」
「その通りではあるな。あいつらも、私に頼り切らないよう、適度に手を抜かせて貰っているし」
その言葉で、モモンガもその意図を理解できた。
確かにモモンガたちは強い。強いが、それに頼り切って堕落してしまう、と言っているのだ。
「………はは。叶わないな、全く」
自分であれば、喜んで手を借りてしまっていただろう。
この世界の人間は、自分が思うより遥かに強かで、逞しい。
「わかった。そちらの要望に従おう―――それと、お二方。少々、人を貸してくれないか?」
彼が脳裏に思い描くのは、ナザリックにあるモンスター二体と、今日討伐した砦蟹。
「貴殿のことだ、何かしらあるのだろう?」
「買いかぶり過ぎですよ、ボウロロープ侯。私の部下が、モンスターの鱗、甲殻等を加工した武具が優れている事を発見しまして。その性能が如何程かを、貴方方の兵に試して欲しいのです。数を揃えるには厳しいでしょうが………」
「なんと!あのモンスターたちの鱗、皮を加工できるのですか!?」
「ええ。私の手元にある物となりますので、クシャルダオラとガルルガ、それとシェンガオレンの三体になりますな。無論、どのような武具になるか調べてから、となるので少しお時間を頂くこととなりますが」
二人は真剣に考え込んでから、顔を上げる。
「では、我が最精鋭に話を通しておきましょう」
「私の方から、王国戦士団に打診いたしましょう」
武具というのは重要だ。何より、生存率を高められるのは最高と言っていい。
「流石ですね………いやはや、貴方様方のような方々と会えた我々は、幸運という他ない」
信心深い隊長が静かに祈りを捧げるような所作を取る中、番外は難しい顔をしている。
「ただ、武具の力と己の力を勘違いしないよう、適度に叩き直す手段はあるといいかもね」
「………嫌味ですか?」
「さあ?」
心当たりのある隊長が一変し顔を引き攣らせる中、番外はグラスを傾ける。
「その通りだな。武具に頼り過ぎれば、それが無い時、或いは変えた時、あっさり死にかねん」
イビルアイの言葉は、モモンガにも突き刺さる。
ユグドラシル時代、武具を新調したはいいものの、これまで頼っていたスキルが無い、或いは低ランクの物になっているのを忘れ、それが原因で倒された仲間を知っている。なんなら、モモンガ自身も経験はあった。うっかり炎無効と神聖属性無効の装備を取り違え、仲間に迷惑をかけたのも、今となっては笑い話の一つか。
「その通りではあるな。私も昔、色々しでかしたものだ」
「なんと、モモンガ殿も!?」
「完璧な存在などいない、という当たり前のことですよ。私だって、皆さんが当たり前に持つものを持っていないのです。私は皆さんより優れた力を持っているのかもしれませんが、同時に皆さんは、私に無い信念と覚悟を持っている。お互い様ですよ」
そう笑い、ガルガンチュアに運ばせた、リ・ボウロロールの城壁外にあるシェンガオレンの亡骸を見上げる。アレを使いアンデッドを、と試したい欲求も無くは無いが、それをやって万一のことがあっては困るし、素材としての価値を見れば勿体無い、どころではない。
「む、紅蓮殿はこれが気に入りましたか。では、こちらを。俺なら、自分で取ってきますので」
「あー!まだだ!アルベド殿、もう一勝負!」
そんな彼らの真剣な会話の合間にも、ナザリックの者たちは現地の人々と交流を重ねていた。
★設定
・?????
真紅の瞳を持つ、純白の少女。正真正銘の超越者。
この世界の古き法則に則る、として、始原の魔法を真似ているようだが………?
・凍ての王
グランセル氷原が生まれた元凶である、古龍の中でも特に古い龍。
アウラが知覚してしまった存在。
・銀を纏う龍
グランセル中部に縄張りを持つ強者。赤い角と、それを覆い隠す流体金属の兜を持つ。
・氷を纏う龍
グランセル北部に縄張りを持つ強者。大陸中央の方から流れ着いた歴戦の王。
・深淵の黄金
リンデ海沖の深海に座す者。当然、未発見。
・地底の龍
皇金とも称される、白金に近い輝きを放つ特殊な金を纏う龍。
ドワーフたちに神と崇められ、彼らに様々なモノを齎した、歴戦の王。
・リ・エスティーゼ近郊
肥沃な土地故、他に比べ強いモンスターが出現しやすい。
ゲームで例えるなら、上位個体以上ばかりが出現するクソゲー地帯。
・『輝界竜』
一部地域で現在まで信仰されてきた白き竜。
過去、刻竜と激突したようだが………
・大型モンスターと難易度
~239:簡単、下位若個体
240~269:下位個体
270~285:上位個体
286~300:変種・剛種
300以上:覇種、烈種等
※特異個体の場合、+15前後