《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
リ・エスティーゼ王国北西部―――エ・アナセルからアーグランド評議国までの領域。
そここそが、この辺境における三大危険地帯の一つ。『極寒』の『グランセル氷原』だ。
「………ルルゥ」
凡そ400年前その一帯を氷雪地帯へと作り替えた存在は、とある山の頂に座す。
インベリアとは異なる地で『始種』と名付けられた一体、『凍王龍』トア・テスカトラだ。
そのお膝下である大地は、文字通りの銀世界。人間、亜人では生きて通る事すら難しい。
「ォォォ………?」
しかし、そんな世界に生きる草食種、ポポを目の当たりにすれば、そんな印象も薄らぐだろう。
この地で生活するポポの群れの只中を静かに歩むのは、マンモスにも似た巨大な獣だ。
「ルゥゥ………」
甲高い唸り声と共に、その長い鼻で少ない植物を掴み、口へと運ぶ『銀嶺』の二つ名を有するに相応しい獣は、『巨獣』ガムートの老齢体。氷原の内陸部に住まうこの草食獣は、しかし草食種ではなく、強靭な『牙獣種』に属する存在であり、この過酷な地における弱者、草食種の守護者に当たる存在でもある。
そして、氷原南方の、比較的穏やかなエリアの強者でもある。
「―――ァァァアアアアアアアアッ!!!」
「ルゥゥッ、ルアアアアアアアアアアァッ!!!」
咆哮と共に飛来した影へと、こちらも咆哮と共に突貫。重厚な足が大地を踏み砕き進み、大山を連想させる巨躯が飛来者と激突。鈍い音と共に激突したソレを近場の岩壁へと、自身の体重も乗せて叩きつければ、年若い竜はオレンジと青の鱗諸共血肉を散し、絶命。必死に突き立てられた爪牙も、その分厚い毛皮と脂肪を貫くには至らず、無意味にその命を落としただけに終わった。
「ルゥゥッ、ルアァァァッ!!!」
雄々しく叫ぶ南方の強者へと、無為に牙を剥く愚か者は早死にするのみ。
南方の強者たちは種族にかかわらず、無闇矢鱈と喧嘩を売る真似はしない。ガムートのタフネスは指折りであり、ただ挑んでは勝てないどころか、無為にエネルギーを消耗するだけで終わる事が大半。それを理解している者たちは、敢えてガムートの庇護下にある群れを狙いはしないのだ。
「………ルゥゥ」
別の箇所で、ポポを貪り食う飛竜。その姿はワイバーンと異なり、四肢で地面を踏み締めているその竜は、前足の先や口元を豊かな体毛で覆われ、鋭利な氷晶に覆われた鋭い二本の牙を剥き出している。純白のその体躯を獲物の血で赤く染め空を見上げれば、異なる飛竜が飛来してきたところだ。
「………」
『氷牙竜』の特異な老壮個体『氷刃佩くベリオロス』は、その存在の所作から状態を理解したかと思えば、大人しく引き下がる。この広大なグランセルの氷原地帯の中でも、彼ら通常のモンスターの生存圏は存外狭く、長く生きそれを理解しているからこそ、彼は自身の食べ残しを新たな客人に譲ることを決め、翼を広げ飛び立つ。
「キュァァォォ………!」
そして、歓喜と共にその食べ残しへと向け、顎を広げ覆い被せる異形の怪物。
『毒怪竜』の異名を持つ飛竜は、その特異な構造の口内で死骸を削り、細かくして飲み込む。本来ならば、それを凍らせ、住処へと運ぶべきなのだろうが、悲しいかな、この飛竜は長らく獲物にありつけておらず、その知能を発揮する余裕も無い。漸くありつけた獲物を自らのエネルギーへと変えるべく貪り食い、飢えを満たすのだ。
そんな過酷な生存競争を強いられる南方だが、アーグランド評議国へと続く海氷域もまた、似たような過酷な環境。寧ろ、主な被食者であるポポ、ガウシカが立ち入らない分、捕食者の獲物は大きく限られる………即ち、ヒエラルキー下位の捕食者が、彼らの餌食となるのだ。
「オオオオオオオオオッ!!!」
「ギュルアアアアアアッ!!!」
獣に近いふくよかな海竜と、青白い鱗に身を包む獣竜が激突。そこに、数多の影が飛び掛かる。
『凍海獣』ポカラドンと相対する『氷獰竜』ギアオルグへと、果敢にも躍りかかる小型海竜たちの正体は、ポカラドンの雌であるポカラ。関係は被食者と捕食者であるが、ポカラ種も決して喰われるだけでは終わらない。雄のポカラドンを筆頭とするハーレムを形成するこの種は、長であるポカラドンが死を厭わず外敵へと立ち向かい、ポカラたちもそれに続く形で果敢に戦うのだ。
「オオオオ」
「キュアアアアアアアッ!!!」
そして、そんな彼らの争いに横入りし、弱く小柄なポカラたちを幾らかかっさらう存在が。
素早く絶対零度の海へと潜り込んだそのモンスターは、すかさず多量の海水を飲み込み、ポカラたちを溺死させ次第、その海水を排出。両生種、という独立した種に属するモンスター『化け鮫』ザボアザギルもまた、この氷海域の被食者側に当たるモンスターであるが、成長した彼らは立派な捕食者。その特異な体質も相まって、都市国家連合の国土にある北方の海では、相応の被害を叩き出している。
「ッ!?」
しかし、ここはリ・エスティーゼ国土の肥沃さに由来する、豊かな海。古き龍により大地が凍てつこうが、その事実を覆すには至らず、それ故にこの環境に惹かれたモンスターが、時に自身に合わない環境に身を投じてでも来る価値がある、と判断し、住み着くこともある。
「オオオオオオオオオオッ!!!」
そして、その際たる者が―――このグランセル氷原、沿岸部の『帝王』。鋭利な鋸状の刃を持つ翼で、背鰭で海氷を割き飛び出したその竜は、鋭利な刃で貫いた化け鮫を氷上へと投げ捨て、その裂創へと顔を突っ込み、その腹に収まるモンスター諸共、その肉を貪り食う。
鋸を思わせる鼻先の角から『暴鋸竜』と称される飛竜、アノルパティス。空陸海全ての領域での活動が可能な怪物であり、同じようにこの氷海域で活動する水蛇竜も、時折現れる氷獰竜は疎か、それ以外のモンスターですら食糧と見做す凶暴なモンスター。更には、その活動範囲の広さでリンデ海にまでその魔手を伸ばしており、その所々焦げた外殻が、ここ最近で行われた捕食活動の存在を、その生存が勝敗を示していた。
その手にかかった化け鮫は、最後その胃袋の中で貪り食われたポカラたち諸共、亡骸を海中へと放り捨てられる。海中のモンスターの、魚の餌食となるだろうそれを放り捨てた暴鋸竜は、その角と翼を駆使し海氷を砕き、再び海中へと消える。
そんな、熾烈な生存競争の場である南方であるが、これでも中部~北方の中継点よりはマシだ。
「ルァオオオオオオオオオオッ!!!」
「ルァアアアアアアッ!!!」
銀流と水流が激突し、氷槍となったソレを銀刃が切り裂く。
「ルオオオオオッ!!!」
赤く巨大な角状の箇所を中心に、兜の如く流体金属を纏うのは、『司銀龍』ハルドメルグ。
「ルァァァァ………ッ!」
相対するのは、鳥を思わせる姿の上から氷の鎧を纏う古龍、『冰龍』イヴェルカーナ。その身を包む輝きが、ただの古龍でない事を雄弁に語ると共に、それと対峙している司銀龍もまた只者ではない、という事実を強く物語る。グランセル氷原中部域に縄張りを有する司銀龍、そして北方に縄張りを持つ冰龍共に、縄張り意識が強く排他的な古龍であり、それ故縄張り争いもまた、幾度となく繰り返されているのだ。
「ルァオオオオオオオッ!!!」
流体金属による攻撃は、氷の防御を容易く貫く。
「ルァアァアアアアアッ!!!」
対し、過冷却水を用いた変幻自在の冷気攻撃は、あっという間に流体金属を凝固点まで冷やし、その鎧を無力化。双方とも、数瞬とせず再発動可能な程度であるが、互いに相性は悪い。本気で殺し合うにはリターンが割りに合わない、と知能が高い双方とも判断しており、全力には至らない。
が、遊びというには少々苛烈が過ぎる行動であり、双方の縄張り意識の強さが窺える。
いや、事実として、非常に縄張り意識が強いのだ。それこそ、司銀龍に至っては400年程前の領域への侵入の報復として、未だ北の評議国を襲撃し続ける程に。その苛烈さたるや、転移魔法以外での移動を全面的に禁じられる程であり、王国に対しても、そんな評議国の惨状を知る法国からの厳重極まる警告が行われ、人類の手による調査は一切行われていない。
万一襲撃される国が増えれば、如何に法国といえど対処が出来ないからだ。
「―――――ォォォォォ―――――」
しかし、人類にとっての不幸として。
この二体の古龍すら絶対者ではなく、警戒せざるを得ない存在がいる、という事実。
「ルァオォ………!」
「ルゥ………ッ!」
龍に並ぶとされる、古龍級生物。その苛立ちを込めた咆哮が雪崩を引き起こし、二体の戦闘を強制的に中断。迫る豪雪の激流から逃れるべく宙を舞った二体の龍は、その咆哮の主が座す地を睨む。
そこは、山々の連なりの只中にある小さな盆地。『白き神』は一人、そこに座している。
「ォォォ………!」
強靭な四肢に似合う巨躯と、シャベルの如く発達した下顎。その鋭利な縁と、鋸染みた巨大な鰭を有する体躯から、その肉体が強固な氷床を割き、泳ぐ為の物であるとわかる。咆哮の音圧による衝撃波で周辺の雪は綺麗に吹き飛んでおり、その屈強な四肢で大地を踏み締めると共に微かな地震が生じる。
「ギュオォォォ………!」
評議国とを隔てる危険地帯の名に恥じず、この地も強力なモンスターが数多く生息している。
何故なら、この地は強大な古龍の住まうお膝下。『始種』と称されるのも、伊達ではないのだ。
「………古き、始まりの龍の一角。キミは、何を思ってそこに居るんだい?」
アーグランドの永久議員が一人。『
最初は、彼らもただ生きているだけだった。この世界を乱すことも、歪める事もせず、時に人類と敵対する者はいても、生存競争で済まされる程度。何より、今ほど数多くのモンスターは生息していなかったのだ。竜王たちが目を光らせていた、というのもあるのだろうが、思えば彼らは、彼らなりに弁えていたのだろう。自分たちが、異物であるのだと。
「ぷれいやーを招いた父に対する恨み、なのかな」
それが崩れたのが、五百年前………八欲王による竜王の討滅と、未知の存在であった彼らの虐殺とも、乱獲とも取れる愚行。遊び感覚で命を奪い続けた彼らに対し、弁えていた古龍たちが奮起した。そして、その先にあったのは虐殺だった。
最初に、黒き龍が八欲王の築き上げた国家を、彼らと彼らの拠点たる空中都市諸共滅ぼした。竜王たちを滅ぼし続けた八人を、そんな彼らと対等の力を有する30の守護者を物ともせず、蘇生すら許さず滅ぼし尽くした黒き龍は、今も尚その空中都市『エリュエンティウ』の残骸に座している。
「大蛇が大地を耕し、命を喰らい………赤き龍がこの世界を造り替え、浮かぶ峰が種を蒔き」
二本の脚を持つ大蛇が大地を砕く様を見た。紅の鱗を持つ巨大竜が命を喰らう様を見た。地底で覚醒した、王と呼ぶべき赤き龍を知覚した時には、その力の影響を感じ取った時には、恐ろしくて仕方が無かった。力ある竜王の多くが滅んだその時点で、最早止める術は無かったのだろう。
『始種』の一角たる異形の龍が種を蒔き、大陸の随所に彼らに適した環境が作られた。凍王龍の活動により形成された寒冷地でもまた、多くの種がより精強に育った。塗り替えられた大地は徐々に彼らの生息圏へと変わり、百年としない間にこの世界は彼らの天下へと成り果てた。
竜王たちも、彼らに並ぶぷれいやーたちも、普通の個体は兎に角、より古くからある龍に、或いは竜には勝てず、中には命を散す者もいた………かつて、共に魔神の暴挙を止めんと肩を並べた者たちも、その多くが刻竜と、魔神諸共国を焼く暴挙を止めんと命を懸け、最終的には彼らのリーダーの命と引き換えの足止めの中、ツアーは断腸の思いで最強の攻撃を解き放ち、徹底的に滅ぼし尽くした………そうしようと、していたのだ。
「………本当に、変わってしまったんだね」
南の竜王、キュアイーリムは既に滅ぼされた。彼ら竜王は、最早強者の一角に過ぎない。
「せめて、イヴェルカーナがいる間に、彼らの真意を測らないと」
だからこそ、最早私情を挟んでいる余裕は無い。彼らの生存の為にも、この世界を完全に彼らのモノとしない為にも。何より、この世界に生き、抗い続ける為にも。
「手早いのはスレインか………と、その前に皆に伝えないとね。ホウ、レン、ソウだったかな」
白き竜王は、静かに行動を開始する。
★設定
・グランセル氷原
凡そ400年前に形成された、評議国と大陸を隔てる寒冷地帯。
強力なモンスターが集まっている上、極めて危険なモンスターも生息する危険地帯。
評議国では、この地を超える際に転移魔法以外の手段を禁じている。
比較的穏やかな南部、強力なモンスターの縄張りの密集地である中部~北部で成り立ち、特に北部、中部域が非常に危険。この一帯を縄張りとするモンスターの多くが古龍、及び古龍級である上、『司銀龍』と『冰龍』の縄張り争いも発生している。
・『凍王龍』トア・テスカトラ
この世界の多くを塗り替えた、始まりの龍の一角。気質は温厚で、争いを好まない。
南方で『始種』と定義づけられており、その実力は未知数。
・アーグランド評議国
グランセル氷原にて、南方との交通を断たれた国。
また、過去の調査団による領域侵犯の報復として、司銀龍の襲撃を受けている。
冰龍が縄張りを得て以来、そちらとの闘争が優先され、襲撃頻度は落ちている。
ツァインドルクス=ヴァイシオン含む竜王は強力な戦力であり、活動に制限が課せられている。
・二足を持つ大蛇
南の大地を耕した存在。現在、所在不明。
・紅の鱗を持つ巨竜
南の地で多くの原生生物を喰らった存在。現在、所在不明。
・赤き龍
この世界の大地を支配し、自分たちの世界へと書き換えた。
現在、南方の聖域に座しているとか。
・浮かぶ峰
異形の龍。トア・テスカトラと同じように、彼らの仲間の生存圏を広げた。
・『彼』
200年前、魔神騒動に当たり肩を並べた者たちの長。
ツアーの全力の攻撃を刻竜に当てるべく、命と引き換えに足止めを成した。