《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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13―厄災の予兆

 合同会議―――辺境国家のトップが一堂に会するその場に、モモンガは居た。

 

(き、気まずい………!)

 

 当然、元一市民に過ぎない彼には、非常に荷が重い空気である。

 

「まずは、急な招集に応じていただけましたこと、感謝致します」

 

 老齢の神官長たちの代理として出席している、漆黒聖典隊長が一礼。

 

「詳細は訊いています。二体もの剛種の出現を確認した為、ですね?」

 

 そう告げるのは、冷たく鋭い空気を纏う女傑、リ・キスタ・カベリア。カルサナス都市国家連合に内包される都市、ベバードの長であり、カルサナスの代表として出席した人物でもある。そんな彼女が口にした召集内容に、リ・エスティーゼの隣国であるバハルス帝国の長、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス帝が肩を竦め、軽く溜息を吐く。

 

「ああ、あの最悪の報せか。確かに、我らが逃した個体がそうなれば、それこそ一大事だからな」

 

 アゼルリシアを隔てているとはいえ、隣国は隣国。そして、強力なモンスターが育つ場所が滅びるようなことになれば、数の東、質の西と八方塞がりに近い最悪の状況となりかねないのだ。そして、シェンガオレンの例からわかる通り、過去に撃退したモンスターがそうなるようなことがあれば、それこそ死活問題だ。

 

「ええ。幸いにも、そちらのモモンガ殿と、その臣下の方々のお陰で、事なきを得ました」

 

 集まる視線の圧に思わず硬直するも、それが却って悠然とした姿に見えたらしく、周囲の者たちは一様に納得し、その視線を進行役へと移す。隊長は特に気にした様子も無く頷き、諜報型の聖典部隊『風花』『水明』が集めた情報をもとにした資料へと視線を落とす。それと共に、他の者たちもそれらの情報が詰まった冊子へと目を向ける。

 

「では、最初にですが―――『辿異種』。老衰ではなく、より強靭な成長を遂げた三体の動向に関しましては、当面安全とみてよいでしょう。グランセルの司銀龍は現在冰龍との縄張り争いの最中にあり、ローブルに住まう黒炎王も同様。エイヴァーシャーの棘竜はその気質から、警戒する必要は無いでしょう」

(辿異種って、また知らないのが………要するに、老いて強くなった、ってことか)

 

 さらりと開示された情報であるが、今回初めて代表として来訪した二人は、告げられた名に愕然となり、信じたくない、といった様子で僅かに首を揺らす。その中で口を開けたのは、都市の長としての職歴が長いキスタ。

 

「『黒炎王』………まさか、二つ名を得るに至った存在が、更に高みへと至ったとでも?!」

「む、ベルン殿から聞いておられませんでしたか。最悪な事に、彼の地に住まうリオレウスは、仰る通り『黒炎王』の辿異種。かの地の最上位の一角ですが、老齢であるからか、行動範囲は広くありません。その点では、非常にありがたい事です」

「………ああ、もうなんか、ウチに被害が来なければなんでもいいや」

 

 王国代表のザナックが突っ伏す中、他の支配者たちも同意を示すように頷く。

 

「つまりのところ、問題は無いという訳じゃな」

 

 ドワーフの代表が大雑把に纏めれば、隊長は苦笑と共に否定。

 

「そうなります、と言いたいのですが………『占星千里』が予知をしました」

 

 瞬間、空気が引き締まる。

 

「どちらからだ?南か、東か」

 

 死活問題であるバハルス帝国のジルクニフがピリピリする中、隊長は真っ直ぐ見つめ

 

()()()。予言によれば、数多の()()()()()()()()()()()()()()が来襲する、と」

 

 ジルクニフが盛大に舌打ちし、キスタが静かに頭を抱える。

 黒く染まった、とは何か。何故傷付いたのか、とモモンガの内から疑問が沸き上がる中、同様のモノを抱いたらしい面々が困惑、焦燥といった感情を露わにし、一人の女性の護衛として控えていた騎士が声を上げる。

 

「待て、何故そうなったのかは不明なのか?」

 

 レメディオス・カストディオの疑問に、隊長は首を横に振り回答。

 

「不明です。ただ、東の空が荒れ、黒く染まっていた、とか」

「………古龍、だね」

 

 それに一つの推論を出したのは、ツァインドルクス。

 

「だろうな。しかし、黒く染まるか………迂闊にウチから戦力は出せんな」

「臆したか?」

 

 ドラウディロンが考え込めば、ジルクニフから軽い挑発。

 

「黒く染まり、何が起こるのかが判らねば手も打てん。万一、敵に回ればどうなる?」

「………」

「女王の言う通りだ。未知を相手には、逃げに徹し動くべし………生存の鉄則であるぞ」

 

 ジルクニフが黙り込む中、連合代表の護衛の一人、バザーが鋭い視線を向ける。彼の背後の騎士と老人が微かに身構える中、モモンガは静かに手を上げ、それを制する。眼下に浮かぶ紅光が隊長へと向き、続けてその場の数多の集団へと移動する。

 

「この場で重要なことは、いがみ合う事ではなく、未知の事態にどう対処するか、なのだろう?」

「その通りだ。無論、全戦力を回す、とはいかないが、我が国からも人員は派遣しよう」

 

 ザナックがそう口にすれば、続けて隊長からモモンガへと、王国の現状が報告される。

 

「王国にて確認された白海竜ですが、暴鋸竜の手で滅ぼされた事が確認されました」

「あいつか………こりゃ、どっちにせよ当面は漁業停止か」

 

 ザナックが肩を落とす中、続けて驚愕の情報。

 

「爆発の件ですが………調査隊が発見したのは、既に討ち滅ぼされた砕竜だったそうです」

 

 その目は鋭く、告げられる情報も相応に重大だ。

 

「………アングラウス、か?」

「刻まれた裂創から、可能性は高いかと」

 

 気になる情報であるが、今はそれよりも重大な事態が迫っている。

 

「では、そちらは問題無いのだな。となると、問題は東からの来襲か………」

「予知によれば、黒く染まる竜には火竜、電竜、轟竜のような強力なモンスターも存在していたとのことです。これらの竜がどのような状態にあるかも不明である以上、戦力は可能な限り万全に近づけておきたく思います」

 

 火竜、電竜、轟竜………どれも、強力なモンスターとして知られる存在。

 モモンガが警戒レベルを跳ね上げる中、それは他も同様。寧ろ、この世界で生きてきた為、その警戒度合いは彼らより数段上。同時に、そちらに面している勢力に属する二人からは、長年の経験からその情報が有する違和感に気付き、それを口にしていた。

 

「待て、奴らが纏まって来襲だと?あり得んだろう」

「彼の竜たちはいずれも、かなり気性が荒い筈だ。集まり次第、殺し合いに発展するのでは?」

「我々も疑問に思いましたが、彼女からは『そのような光景を視た』としか聞いておりません。恐らくですが、彼女が視たのは、本当にそれだけなのでしょう。我々にできるのは、齎された情報から対策を立て、備える事のみです」

 

 隊長が冷静にそう告げれば、モモンガは静かに頷き、対抗手段を思索。

 

(帝国側はモンスターも弱め、って話だけど、それでもレベルがなぁ………)

 

 戦力として派遣するとなれば、ナザリックだと守護者クラスでなければならない。

 

 そして、それ以外の支援要員を派遣するには、あまりに情報が足りていないのが現状だ。

 

「それなら、もうちょい早くこの話題を切り出すべきだったかのぉ」

 

 そう口にしたドワーフの代表が円卓に置いたのは、幾つもの鉱石。

 青、緑、紫………と、色とりどりのそれは、モモンガたちも見たことが無い代物だった。

 

「それは?」

「儂らドワーフの坑道が、かなりの深度に達したようでな。そこから発掘された代物じゃ」

 

 深い場所―――その意味を考えるより先に、手が伸びていた。

 

「申し訳ない、どのような物なのか、鑑定させて頂いても?」

「構わん。儂らには、既存のどの鉱石とも異なる、という以外はさっぱりでな」

 

 それらを受け取ったモモンガが鉱石へと鑑定魔法を使えば、周囲から彼へと視線が集まる。

 

「………どれも、アダマンタイトより良質な鉱石素材だな」

(これ単体には特に効果が無いようだけど、組み合わせると劇的に変わるみたいだな………これが深いところから得られた、ってことは、これまで確認されていなかっただけか?それとも、ヴァイシオンが言ってたみたいに、世界が変わった結果、地底に生まれて、表出するまで時間がかかっていたのか………)

 

 静かに思案し、手元の鉱石を睨む。

 

(恐らく、後者だな。でないと、正確な命名までわかる訳がない)

「マカライト、ドラグライト、カブレライト―――」

 

 ドワーフが発掘したという鉱石の名を告げていけば、ツァインドルクスが静かに唸る。

 

「………君が命名したのかい?」

「いや、そのような名である、と判明したんだ」

「となると、竜たちの世界の………加工は出来るのかい?」

 

 彼の問いかけに、ドワーフは静かに首を横に振る。

 

「無理じゃ。儂らの設備では、熱量が足りん」

「パンドラよ、どう見る?」

 

 副官として連れてきたパンドラに意見を求めれば、少し考えた様子を見せてから

 

「後日で構わないのですが、そちらに私が向かっても宜しいでしょうか?」

「まあ、来た方が早いからのぉ。構わん、全責任は儂が負うとしよう」

 

 厳かに頷いたドワーフの了承を受け、パンドラは再度口を開く。

 

「この場で何かを断言するには、情報もサンプルも少なすぎますからね。直接多くの例を見てからでも、遅くは無いでしょう。それと、我々からも、皆様に少々お力添えできることがございます。それについて、まずはこちらをご覧いただければと」

 

 そうパンドラが提示したのは、コキュートスに渡す前に作成した試作品。クシャルダオラの外殻を始めとした諸々を素材として用いた強力な武器。それこそ、これまで現地で作成されてきた武具の質から考えれば、間違いなく神話に語られるモノにも匹敵する存在だ。

 

「これは………ッ!?」

「………っ」

 

 その質に多くの者が目を剥く中、パンドラは構わずにやや質で劣る武器………ガルルガの武器を取り出し、同じように提示。ランクは幾らか落ちても、やはり上質であることに違いは無く、同時にその武器を包むモノが少しばかり馴染みのある物へと変わった事で、一部の者はその正体に気付く。

 

「まさか、モンスターの?!」

「その通り。こちら、既存のそれを大きく上回る質を有しております。しかしながら、我々の保有するモンスターの亡骸だけでは、ごく一部の精鋭に回すので精一杯でしょう。そこで、皆様にはお手数ですが、シェンガオレン剛種の武器を預けるに足る人物を数名、見繕って頂きたいのです」

 

 剛種の―――

 その一言だけで、一人を除く者たちは過去最大級の緊張に襲われた。それこそ、預けるべき者は本当に信頼すべき者にするべきであるし、同時に前線で動けるだけの、生存できるだけの能力も要求される。その中で、一人だけ動揺していなかったザナックは、改めてそこに少しばかり踏み込む。

 

「それなんだが、防具の方はどうにかできないか?」

「難しいですね。シェンガオレンの物ならば、と言いたいところなのですが、如何せん重い上に大型の盾を構えるような手合い向けの物でして。個々に合わせたモノにできる武器と異なり、防具の方は効果が一律で、変えようが無いのです」

 

 武器については、属性が無く、防御値に加算補正が入ると悪くは無い。が、防具は護りに向き過ぎている上、やはり重くなってしまうのだ。その為、軽装戦士タイプには不向きとなりやすく、かといってイャンガルルガの素材は、既に殆ど使い尽くしている。クシャルダオラも悪くは無いのだろうが、数を用意できるかが不安なのだ。

 

「うむむ………やむを得んか」

「ですが、武器の質が上がるだけでも十分です。では、凡そ三カ月後と予測される事態に備えるとしましょう。それだけの時間があれば、慣熟にも十分でしょうからね」

『………三カ月?』

 

 その場の空気が死んだのを、反射的に問い直したモモンガも理解した。

 

「はい。三カ月『もある』と解釈されないよう、申し訳ありませんが謀らせて頂きました」

「まあ、そんな気はしていましたが………確かに、そう解釈されてはたまりませんからね」

 

 パンドラが肩を竦める背後で、シャルティアはここまでの情報の処理に必死になっている。

 

「それならま、一安心かの。ウチの祭りも無事に開催できそうだ」

「そちらにつきましては、こちらから言うことはありません。国の一大行事ですからね」

 

 隊長が鷹揚に頷く中、モモンガは静かに思案………この事態への対処と、まだ見ぬ未知なる一大イベント、どちらを優先するべきか、だ。当然、前者が優先順位としては非常に高いのだが、如何せん後者も後者で希少価値という点からも、非常に魅力的。本心としては後者に重きを置きたいところであるが、前者も捨て置けない訳で―――

 

「………やれやれだ」

 

 先程までとは別の意味で緊迫した空気の中、不死者の王は独り言ちた。




★設定

・辿異種
オリジナル要素混じり。
グランセルの『司銀龍』、ローブルの『黒炎王』、エイヴァーシャーの『棘竜』が該当。


・ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

若きバハルス帝国皇帝。竜王国の竜騎手に目をつけており、度々突っついている。


・アングラウス

ご存知天才剣士。本作で魔改造された人物の一人。


・ドワーフ

マム・タロトの滞在により、周辺地域が安全となった事で、採掘業が盛んに。
それによって、地底深くで生じていた鉱石へと手を伸ばすことが出来た。
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