《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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14―数多の障害

 会談を終えた竜王国首都船は、そのまま竜王国国土『入り江の砂海』を進む。

 既に各国重鎮は下船、各国へと向け帰還しており、残った部外者はモモンガたち一行程度だ。

 

「これが………」

 

 リフレッシュも兼ねた見物であったが、その成果は十分過ぎた。

 

「うむ。霊水晶………霊山龍より得られる、極上の宝物よ」

 

 触れる事すら躊躇われる程、見事な輝きを放つ紫の水晶………至高、という言葉が良く似合う美しさに見惚れたのも束の間、秘められた途方もないエネルギー量に気付く。ただの宝石ではないということをよく知らしめると共に、それだけの力を秘めたものが、あくまで産物に過ぎないということが、古龍の強大さを物語る。

 

「今回の祭りで、これを得ることが出来る、と」

「ああ。これ一つで国が傾くぞ」

 

 行われているのは、細かな砂塵による自然研磨のみ。それで、この輝きだ。

 成程、値がつけられないというのも納得できてしまう。

 

「これはいいな、ぜひとも欲しい………欲しいん、だけどなぁ」

「あー、とびっきりの問題がなぁ………ウチからの援助も、兵站以外は難しいからなぁ」

 

 黒く染まった竜たちの襲来………現在、モモンガの護衛であるパンドラ、シャルティアを除く、全NPCがその対策をより確たるモノへと変えるべく、ナザリック内で可能な準備の為奔走している最中。これまでの敵より弱い可能性が高いとはいえ、油断など出来る筈も無く、外部での戦闘経験がある者程積極的に動いているのが現状。

 

 立場的にも、精神衛生的にも、祭に参加などと言っていられる場合ではないのだ。

 

「ですが、霊山龍とやらについて詳細に調べる、またとない好機。逃す訳にもいきませんな」

 

 そう口にしたのは、モモンガ同様アイテムコレクターのパンドラズ・アクターだ。

 

「それに加えて、上手くいけば我々の抱える問題を一つ、解決出来得るのです。尚更、逃す訳にはいかない筈です。総力を以て、という訳にはいかないでしょうが、各々の職務等を考慮した上で、数名を割く価値はあるかと思われますが、如何でしょう?」

 

 パンドラの言葉を数秒咀嚼し、モモンガは彼が言わんとすることに気付く。

 

(まさか、これを金策に当てるのか!?………いや、惜しくないくらい掘ればいいだけか、うん)

 

 拠点の維持費だ。ナザリックは規模も膨大である分、維持費も莫大。これまで考える余裕が皆無であったお陰ですっかり頭から抜けていたが、死活問題の一つである。現状問題無いにせよ、何時NPCに死者が出るか、また襲撃が起こるかわからない以上、資金はあるに越したことはないのだ。前線に出るNPCが必然的にレベル100クラスに限定される以上、そちらの蘇生費用も莫迦にならないのだから。

 

「ああ、それも重大だな。となると、こちらにも相応の人員を派遣するべきか………」

「それですが、祭はどれ程の間行うので?」

 

 パンドラが問えば、ドラウディロンは気軽に応じる。

 

「長くても一週間、短ければ二日で終わるな」

「では、初日に私たちが出ますので、その状況次第で他のシモベをお連れしては如何でしょう?」

 

 何故、自分からこうも優れたNPCが出来るのか。

 モモンガが生身であれば涙が出るだろう程に感激する中、ドラウディロンは数度頷き

 

「では、そのように手配するとしよう。幸い、人手はあるだけ欲しいからな」

「人手不足………いえ、それだけ利益が見込める、という訳ですか」

「そういうこと」

 

 カップを傾ける竜王国女王は、しかしある事を思い出し、その表情を険しく変える。

 

「ん?どうかしたのか?」

「ああ、いや………我々が向かっている大砂漠の奥に、エリュエンティウがあってな」

 

 エリュエンティウ―――滅ぼされた、八欲王のギルド拠点だ。

 

「黒龍、か………」

「奴が動くことはそうそうないだろうが………その、な」

 

 数多の生物の生存圏を飲み込み拡大した大砂漠………モーラン種の古龍が回遊するその奥に存在するその場所に向かう者は、皆無と言ってもいい。砂海に浮かぶ数少ない安全地帯でありながら、しかしその実態は凶悪無比な古龍が住まう、とも言われる地。

 その存在はあくまで伝説でありながら、この世界に住まう者の多くは、それを一笑に付すことが出来ない程の脅威に絶えず晒されている。だからこそ、伝説を恐れ、多くの者はそこに向かうことをせず、大砂漠から外れた地に居を構えるなどして、必死に生を掴んでいた。

 

「確かに恐ろしいな………では、先に一度、大砂漠とやらに出て確認するか」

(怖いけど、こういう時に体を張るのがリーダーの役目だ。一応、転移魔法もあるしな)

 

 そう思考する間にも、幾多もの生存、逃走策を考え出し、それに使用優先順位をつけていく。

 現状ある情報は、レベル100でも数秒で死ぬほどの継続超火力攻撃と炎属性、神器級(ゴッズ)クラスの装備でも貫き切れない圧倒的防御力。あまりにも不安が多いが、戦うことを考えず逃げに徹すれば、或いは………そんな希望を抱くモモンガであるが、それをよしとしない者が。

 

「ならん。万一奴が動けば、最悪霊山龍の移動ルートが変わりかねん。そうなれば、我が国は」

「………すまない、配慮が足りていなかったか。だが、そうなると………むぅぅ」

 

 参加、不可能………様々な方面への配慮を考えると、それが最善。その現実に、モモンガは盛大に肩を落とす。ここで私心と一国の大事、どちらを優先するべきかの分別はつくし、だからこそ、これ以上無く心躍る事態を前に何も出来ない、という現実が、辛く、重くのしかかってくるのだ。

 

「いや、本当に申し訳ない………モノだけでよければ、冒険者を雇うという手もあるんだがな」

「冒険者………ああ、そういえばそんなのもあったな」

 

 この世界の情勢のせいですっかり忘れていた職を思い出せば、ドラウディロンから補足説明。

 

「冒険者というのはまあ、元々この世界の状況に対し、打開策を求める者たちが立ち上げたものが発端でな。だがまあ、当然あちこち過酷極まりない上、優秀な者を遊ばせておく余裕などありはしない。結果として、情報の少ない地域の調査が時折、他は兵より動きの自由が利く点を活かした防衛活動が主軸なんだ。が、調査の名目であれば、相手が頷く限りはかなり融通が利く」

 

 夢が無い、と思う反面、確かにそう遊ばせておくわけにもいかないか、と頷いたモモンガだが、同時に彼女が言わんとしている事を理解し、少しばかり思案する。要は、冒険者たちに祭への参加を依頼し、彼らと上手く交渉して産物を手に入れる、ということだ。

 

 利点は、自分たちが赴かずに欲しい物が手に入り得ること。問題は、信用できる人物でないと、様々な不安が残る事か。特に、得られるものが悉く高価である以上、桁違いの額を吹っ掛けられる可能性もあれば、持ち逃げされる危険もある。現地のレベルが高いせいで、秘密裏の処分にも守護者クラスを動かさざるを得ない以上、かなり危険な賭けになりかねない。

 

「それに、充分な伝手もあるようだし」

「ぇ?」

「………あれ、まさかとは思うが………『蒼の薔薇』、知らんのか?」

「………あっ」

 

 そして、モモンガは考え得る限り最も安全で、確実な伝手を有していた。

 

 

「―――成程、理由はわかりました」

 

 そして、思い立ったが吉日とばかりに。

 

 モモンガの姿は、王都リ・エスティーゼの冒険者組合にあった。

 

「本来ならば、時期を考慮してお断りしたいところなのですが」

 

 三対三の面談の中、『蒼の薔薇』リーダーのラキュースは、歓喜を隠さず笑みを浮かべる。

 

「受けます!というか、受けさせてください!」

「お、おぅっ!?」

 

 目を輝かせ、身を乗り出す彼女に、思わずモモンガが身を引く。

 

「あー、ラキュースの言う通りだ。霊山龍の来訪というのは、非常に稀でな」

「な、成程」

「一生に一度、とはいかないが、今を逃せば次まで生きていられるか、不明瞭だからな」

 

 この世界の過酷さが垣間見える言葉に納得し、続けて残りメンバーである巨女、ガガーランへと視線を移す。年齢不詳の女戦士は、ラキュース程明確な反応を示してはいないが、特段乗り気という訳でもないことが判る。

 

「ま、オレは二人に任せるぜ。稼ぎもそうだし、経験としても悪くねえからな」

「私は受けようと思うのだけど、イビルアイはどう思う?!」

「………まあ、息抜きには丁度いいだろう。そういう訳だ、モモンガ」

 

 イビルアイの同意により、彼女たち三人はモモンガの依頼を受けることを決定。

 依頼料の交渉に入ってみれば、そこではイビルアイからの助け舟が入る。

 

「それと依頼の件なんだが………報酬は二人の武具、ということにして貰えないか?」

「構わないが………わざわざ報酬という形を取らなくても」

 

 モモンガが私物を売り払ってでも資金を確保しようと考えている中で、その提案だ。特にイビルアイの知識に助けられている身としては、悪くない提案であるのだが、そちらは別の謝礼という形で報いたい。そう考える彼には、少々頷き難い提案でもあるが、これも気遣いあっての提案。

 

「私たちはアダマンタイト級………こちらでは最上位のせいで、組合を通した場合の依頼料が莫大な額になってしまうんだ。そちらに気を遣って貰った手前、余計な負担までかける訳にもいかない。そこで一番負担が軽く済むのは、この世界で作成されたことの無い武具を報酬として渡す、という形になるんだ」

「何から何まで、すまないな」

「いえ!二人を救って頂いた恩を思えば、まだ足りないくらいです!」

 

 モモンガが感謝する中、ラキュースはとんでもないとばかりに手を振る。

 蘇生魔法には死体が必要である為、文字通り跡形も無く消し飛ばせるクシャルダオラを相手に、二人が追い込まれていた事態は文字通り最悪中の最悪。そこで二人を助けてもらった上、最大の脅威二つを討伐までして貰った相手だ。その恩義は、モモンガが思っている以上だ。

 

「そ、そうか………あー、んん!では、前払いで武具を渡すとしよう。後払いの方は、そうだな」

「それでしたら、祭で得た品の三割程度で構いません」

「え、いやいや!流石にそれはこちらが申し訳ない、せめて半分は持っていってくれ!」

 

 そして、その認識の差異が、モモンガに罪悪感という形で襲い掛かった。

 

「私たちも祭を楽しませていただきますので、それで十分です」

「いや、せめて半分だ。それくらいは持っていって貰わねば、そちらに申し訳ない」

 

 人間であったなら、汗だらだらだろう程に慌てて、モモンガは徹底抗戦の姿勢を示す。

 

「………では、お言葉に甘えて四割程を」

「ああ、それでいいや………んんっ!では、パンドラ。早速だが、武具の見繕いを」

「ハッ!」

 

 心の中で一息を吐き、モモンガは来たる事態への備えをどうするべきか、思考を巡らせる。

 

 そしてその頃、彼が一つの小さな冒険を断念せざるを得なくなった、その理由たる地で。

 

「今回のゆぐどらしるぷれいやーは、随分と慎重みたいね」

 

 眠れる白き龍に寄り掛かり、その意識を宿す純白の少女が笑う。

 

「あーあ………一人だけだったなら、楽しめたかもしれないのにな」

 

 残念そうに零したかと思えば、その目を眼下―――黒き龍の座す廃街へと向ける。

 

 その体温で溶けた武具が漆黒の甲殻と混ざり合い、溶け込む中、八欲王を滅ぼした災厄の化身は外部などどうでもいいとばかりに、この地でかき集めたユグドラシルの装備品の残骸を纏い続ける。データクリスタルの力は損なわれていながら、しかしそれらの武具は確かな重みと共に、その身を包む鎧へと変じていく。

 

「やっぱり、退屈ね」

 

 憂うような、嘆くような言葉と共に、空を見上げる。

 

 その視線の先、遥か北東に広がる曇天の中。紅の瞳が捉えたのは、二体の異形と空中で激突する漆黒の影。彼女を祖とし、彼女と同じ血を有する者たちと、将来そうなる者との激突という、本来ならばあまりにも不利な戦局でありながら、しかし優勢なのは、毒々しい紫の光を放つ結晶を纏う、黒き竜―――その力はある種の規格外であるが、それもまた一つの命として認められた種としてのものでもあるのだ。

 

「貴方たちは、果たして越えられるのかしら?」

 

 意図して起こしては、いない。ただ、あの竜が彼らの東方にある山嶺に目をつけ、そこへと居を移さんと動いたイレギュラーであるというコト。そして、それと偶然遭遇した一対の龍が、一切の加減無しに迎撃を行った結果、周囲のモンスターへと多大な影響が及んでしまったに過ぎないのだ。

 

 距離を考えれば、まだ数カ月の猶予はあろう。だが、その先には何があるのか―――

 

「確かめなさい。その為にも―――黒く蝕み、地を染めなさい」

 

 慟哭の如き禍々しい咆哮を、少女の感覚が捉える。

 それに負けじと、風を、雷を操る龍たちが、鋭く吼え叫んだ。




★設定

・『入り江の砂海』

竜王国の領土。入り江のように大陸中央部から伸びている為、そう呼ばれる。
その地形のお陰で山龍が侵入する事も無く、比較的安全な地となっている。


・『大砂漠』

エリュエンティウの残骸を中心に広がる、広大な砂漠地帯。
巨大龍の回遊による砂の流れから、陸路での侵入は自殺行為。
生息モンスターは、砂流に適応できる者か、空を飛ぶ者のみ。


・冒険者

依頼も可能ではあるが、大抵の場合モンスターへの備えを優先。
国や各領お抱えの兵団より素早く動ける為、モンスター襲撃の初動対処を主に担当。

元々は未知なるモノに、人類の現状の打開を求めた者たちが立ち上げた一団であるが、肝心なモンスターの脅威に対抗可能な人員を遊ばせることも出来ず、道半ばで計画が頓挫。その名だけが現在まで変わらずに残る結果になった。


・『黒き竜』

古龍二体を相手にできる、非常に強力な個体。

『黒く蝕み地を染めん』


・『対の龍』

黒き竜と空中戦を繰り広げる存在。
その余波の影響が、地上に現れ始めている。
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