《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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古戦場から逃げれなかった………

鏖魔G5ソロが未だ達成できない。


15―身近な脅威

 エ・ランテルから離れた、トブの大森林付近。

 

 かつて消えた『カルネ村』は無事復興を果たし、その様子を観察していたナザリックの者たちは、ある疑念と共に、小規模な計画を立てていた。何より、モンスターの格好の住処となり得る土地に隣接した村が複数ある、というだけでも異常なのだ。故に彼らは―――

 

「この森に、古龍………或いは、それに並び得る強大な存在が隠れ潜んでいる可能性があるわ」

 

 その言葉に、集まった守護者たちの表情が強張る。

 

「故に、早急な調査が必要なのだよ」

「現在、姉さんの手で探査が行われているわ。私たちは今後、三カ月後に備えた準備の傍らに、このナザリックに最も近しい森林内の脅威に対する備えもしなければならない。苦しいとは思うけれど、このナザリックを手放さない為にも必要な事よ」

 

 そう。ギルド拠点をも滅ぼせる怪物が居る以上、最悪への備えは必須なのだ。

 彼女らにとって、このナザリックの安否は自分たちの命より、はるかに重いのだから。

 

「も、モモンガ様に報告は………」

「最低限、周囲の安全を確認してからの予定です」

 

 そして、その頃。トブの大森林では、彼が放った影の悪魔(シャドウデーモン)を探知している者が。

 

「む………?」

 

 蠢く影を察知し、身を起こしたのは白銀の毛に包まれた巨獣。

 

「何者にござるか?某の縄張りに踏み入るとは、随分と勇敢なようにござるが―――」

 

 その目で睨まれた影の悪魔(シャドウデーモン)は、瞬時に力の差を理解した。

 

「弱い。あまりに弱過ぎでござるな。某に気付かれた幸運に感謝するにござる」

 

 そう告げた獣の左右から、青い鳥竜がそれぞれ飛び出す。

 

「ギュォッ、ギュオッ!」

「ギュアアアアッ!!!」

 

 赤い目をした二体に吼えられ、シャドウデーモンはすっかり竦み上がってしまう。

 なにせ、どちらも守護者クラスの力を有していると、瞬時に理解できたのだから。

 

「其方らの主に伝えよ。其方に敵意があるのであれば、某らは持てる総力を以て応戦する、と」

 

 これで尚、総力では無いのだと暗に示す存在………『森の賢王』を前に、影の悪魔(シャドウデーモン)は少しでも多くの情報を届ける為の撤退を選択。洞穴を抜ければ、先程まで居なかった筈の様々なモンスターが現れており、肝を冷やす、どころではない恐怖の中、焦燥と共に撤退。

 

「追う必要はないでござるよ。それより今は、龍の来襲により、大きく乱れた縄張りを整えるのが、先決にござるからな。特に湖の方に下手な竜が居座るようになっては、たまらないでござる」

 

 そう口にした『森の賢王』の異名を持つ巨大な魔獣は、二体の鳥竜、特異個体のドスランポスとその配下たちへと手振りで指示を下す。この魔境の中で、数多のモンスターとの協力体制という形で強かに生存圏を確保している知恵者は、隔絶されているが故に独自に編み出した魔法を用いて、自身の領域を事細かに確認していく。

 

 先の古龍の来襲に伴うモンスターの大移動に加えて、嵐で乱れた環境を再度事細かにだ。

 

「やはり、余所者も相応に居るでござるなぁ………穏当に済めばよいのでござるが」

 

 『森の賢王』の異名を持つ魔獣は、この南部に支配域を有する者として、密かな溜息を零す。彼が従えるモンスターたちは、その多くが温厚、或いは強弱を理解できるだけの経験値を持つ者であり、同時にそこまで突出した強さを持たない者が大半を占める。

 

 その為、総力を以て侵入者へと対処できない今、北部の、或いは西部の強者の襲撃を受けるようなことがあれば、最悪この一帯を手放さざるを得ないだろう。無論、そう簡単に敗ける程弱くは無いが、単独で他方の強者に勝てる程強くも無い、というのが、賢王の自己評価だ。

 

「まあ、仕方ないでござるか。さあ、はたらくでござるよー!」

 

 ひとかどの強者として、森の賢王が意気込む。

 

 その知恵により多くのモンスターが外敵に備えるべく纏まる事で、結果的にエ・ランテルの近郊に位置する多くの村落の安全を確保していたほか、北や西の森林部に住まう強力なモンスターの流入も防いでいたのだ。その恩恵は、東端の大都市エ・ランテルの発展に一役買っており、一部からは厚い信仰に近いモノを向けられている。

 が、双方にとって不幸なことに。賢王はその強大さから同時に恐れられることで、人々がトブの大森林へと踏み入る事が激減し、知識を得る機を失った。それにより、同時に独自に様々なオリジナル魔法等を編み出したわけだが、今度はその中から有益なものを人々が学ぶ機会が無くなったのだ。それは同時に、モンスターたちが数多住みついたことでより繁栄した、この世界に由来しない植生を知る機会を失ったということでもあるのだ。

 

 

「………おぉぉ………!」

「これが、ドワーフの聖域か………!」

 

 同刻。ドワーフ国へと来訪していたモモンガ、パンドラ、シャルティアの三名は、彼らの許可を受け踏み入った『聖域』の輝きに魅了されていた。皆、金属素材を極力用いない装備へと切り替えており、装備の質というアドバンテージは損なわれていながら、しかしそのことを忘れる程に、ドワーフの一部の活動域である『聖域』は美しかった。

 

「『皇金』と儂らは呼んでおってな。白金より、更に美しい上、強度も桁外れでな」

 

 と、皇金の欠片を集める者たちの一人が、僅かな欠片を見せ笑う。

 

「だが、未だ加工法は成立しておらん。それまでは、ただの観賞用よ」

 

 そう辛辣に零したドワーフは、その皇金の欠片を革袋に放り、溜息を零す。

 

「これ、ゴンド!」

「事実じゃろう。儂らでは、加工の目途すら―――」

 

 その言葉を聞きながら、モモンガは岩肌に転がる皇金の欠片を拾い上げ、パンドラに見せる。

 

「どうだ?」

 

 同様に皇金の欠片を拾っていたパンドラは、珍しく渋い表情を見せる。

 

「これはまた………凄まじい力を秘めていますね。ですが、これ単独では………?」

 

 パンドラに続き、シャルティアが無言で警戒を露わにする。最初、首を傾げたモモンガだが、奥から慌てた様子で駆けてくるドワーフたちと、その奥に見える巨影を目の当たりにすれば、否応なしに事態の凡そを理解する。いや、そうせざるを得なくなるのだ。

 

「ま、マム・タロト様!?」

 

 山羊の如き大角を持ち、皇金をドレスとも鎧とも取れる形に纏う、巨大な古龍。

 強靭な足で大地を踏み締める龍が纏う輝きは、生物が有するには明らかに異質なもの。そのお陰で、モモンガたちも即座に目前の龍が只者ではないと、即座に理解できた。今の彼らの装備であれば、容易く屠られるだろう。それ故、NPC二人はいつでも盾となれるよう、モモンガはいつでも皆で転移できるよう、身構えている。

 

「ルゥゥ………アアアアアアアアアッ!!!」

 

 咆哮。三人が竦み上がる中、灼熱により皇金の鎧が剥がれ落ちる。露わになるしなやかさと屈強さを両立させた体躯は強烈な圧を放ち、眼前の異邦人に対する確かな警戒を示している。敵意とまではいかないながら、しかし確かな圧を受け、モモンガは戦闘態勢に入ろうとする二人を手で制する。

 

「言葉が通じるかは知らないが………私たちに、交戦の意思は無い」

 

 両手を挙げ、武器指輪の類が無い事を示し、静かに訴える。その静かな訴えが届いたのか、古龍は静かに彼らを一瞥し、灼熱で岩盤を溶かしどこかへと去る。たっぷり時間を置いてから、三人は周囲のドワーフたちと共に、揃って大きく安堵の息を吐いた。なにせ、揃って心当たりが殆ど無いのだ。中でもシャルティアは、万全でも尚太刀打ちできるか怪しい怪物が攻撃に移らなかった事に、最も安堵している。

 

(びっっっくりしたぁ!?なんなんだよいきなり!っていうか、明らかに敵意持ってたよな?!)

 

 一通り焦り、驚き、怒ってから、一度精神が沈静化。冷静な思考が可能となる。

 

(もしかして、俺がプレイヤーだからか?となると、マジで移動にすら苦労するぞ………)

 

 そんなモモンガの懸念であるが、実際はプレイヤーだからではなく、彼がエクリプス職を有する最高位の死霊術師(ネクロマンサー)であるから。その最大の原因は、クシャルダオラを撃破する際に用いたエクリプス職最高位スキル『The goal of all life is death(あらゆる生ある者の目指すところは死である)』という規格外にある。なまじ、相手が歴戦の、それも高い知能と野生の本能を併せ持つ古龍たちだからこそ、その本質に気付いてしまったのだ。

 

 あらゆる防護を無視した『絶対の死』―――それそのものを恐れるのではなく、それが影響する範囲を理解したからこそ、強大な力を有する者たちは彼の、彼らの動向に強い注意を払っていたのだ。そう、モモンガのスキルが影響を及ぼすのは、()()()()()()()()()()()()

 

「あれは一体………」

「マム・タロト様じゃ。200年前、この国に来襲した魔神を滅ぼしてくださった古龍じゃよ」

 

 様付けで信仰される古龍………彼らに強烈な危機感を抱かせるに足る力を秘めた存在であるが、その事実は同時にその思慮深さと、本来の気質が比較的温厚であることを意味している。それを理解できてしまえば、彼女の警戒の理由も凡そが説明できてしまう。それだけのことを、愚かな先人はしていたのだから。

 

「すまないな。どうやら、我々は歓迎されざる存在だったようだ」

「そのようですね。最低でも、この聖域とやらへの立ち入りは控えるべきでしょう」

 

 あまり頭が良くないシャルティアですら、異を唱える必要が無い程よく理解できた。彼女の全力を以てしても敵うか怪しい怪物に、何時牙を剥かれるかもわからない場所に、愛しの主が踏み入るのを許容できる筈も無く、彼女も素直に頷く他ない。

 

「そのようじゃのぉ………って、お主らはなにしておるんじゃ!?」

 

 ドワーフの責任者が叫んだ方へと目を向ければ、灼熱の残る皇金の鎧の残骸を、ドワーフたちがどうにかして運ばんとしているのがわかる。その輝きはユグドラシルにおける超希少金属の数々にも勝り、モモンガとしても幾つか欲しいもの。手伝うついでに交渉するべきか、と真剣に悩み始めたところ、隣のパンドラが何かに気付き、大声を上げた。

 

「お、おおおおおおおお!?」

「うぉっ!?な、なんだ一体!?」

 

 駆け出した彼に驚き、その姿を視線で追う。シャルティアにドワーフまでもが呆気に取られている間に、彼は皇金の塊が織り成す隙間から僅かに除く突起を慎重に、灼熱を帯びた皇金の塊の合間から引き出していく。その姿が露わになると共に、呆気に取られていたドワーフたちの顔に驚愕が浮かび、モモンガもまた、驚愕を隠せずに叫んだ。

 

「武器だと!?」

 

 駆け寄り、見下ろしたそれは、武器だった。それも、ユグドラシルの素材を用いた中でも極めて上位の伝説級(レジェンド)に位置する代物という、マム・タロトの過去の交戦経験を暗示する代物。皇金塊が付着している為、詳細は不明であるものの、皇金によるものか、マム・タロトの力によるものか変質しているのは明らかだ。

 

「お、おおおお!?」

「これは、初めて見るな………急いで上に運ぶぞ!鑑定魔法が使えるモンを集めさせろ!」

 

 モモンガたちにとっても想定外であるが、ドワーフたちも同様。理解が広まると共に、聖域へと降りていた全てのドワーフたちが忙しなく動き出し、その殆どが作業を中断し、未だ灼熱を帯びている武器を上に建設された街へと運ぶ為の準備を始めている。モモンガが何とか一枚噛めないかと思索する間に、パンドラは抜け目なく一手を打つ。

 

「我々も、高位の鑑定魔法を使用できます。お手伝い致しましょう」

「お、おお?それは有難いが………うむ、まあよいか。では、急いで準備をするとしよう」

 

 悩む素振りを見せた責任者は、しかし高位の、というフレーズに興味を持ち、パンドラの申し出を承諾。マム・タロトの動きという予想外はあれ、彼女が敵意を見せながらも、しかし攻撃をしなかった分、彼らへの不信感の類もマシであるようで、人手が欲しい現状も合わさり、そのまま彼らも皇金塊、及び皇金を纏う武器の運搬の為駆り出されることに。

 

 それを不快に思いつつ、しかしモモンガとパンドラが共にノリノリであるせいで殺気立つことも怒ることも出来ず、燻るシャルティア。不承不承ながら、皇金塊を運搬する為、飛び散った塊をそれぞれ確認しようと進んでいると、不意に何か硬いものを踏んだ感覚。

 

「あん?」

 

 荒み気味の声と共に、足元に転がる何かを手に取れば、今度は体に奔る奇妙な感覚に驚き、反射的に手を引く。明確な警戒があるながら、同時に体を満たした感覚が不快なものでないことに遅れて気付き、再度恐る恐る手を伸ばす。

 

「な、なんでありんすか………?」

 

 その手のひらに収まる程小さなソレは、一見するとただの石だろう。だが、シャルティアの体を満たす不思議な力の感触が、その石がただの石ころでないことを雄弁に物語る。少しの間、どうするべきか悩んだシャルティアだが、自身が役に立つまたとないチャンスと判断し、その石を握り締め、皇金塊の確認も忘れ、モモンガのもとへと駆け出した。




★設定

・トブの大森林

アゼルリシア山脈南部の麓に広がる、大森林。
500年前を機に多くの亜人の生存圏としての機能を喪失し、モンスターの巣窟に。
それに由来し、人々が踏み込めない奥地の生態系は、現地とかけ離れた物に変貌している。


北西部、東部の周辺地域ではモンスター被害が生じているが、南部では森林に由来する被害は皆無。


・『森の賢王』

200年前より生き続ける、トブの大森林南部を纏める未知のモンスター。
人語を介する他、200年生き続けたことで、魔法を始め多数の独自技術を有する。

南方に住まうモンスターたちを統率しており、数と知恵で弱さを補っている。
その統率能力は非常に高く、森林という地形を利用したゲリラ戦術の類にも長ける。
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