《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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16―森の賢王

「本当に、凄い物が多いな………ここは」

 

 居室でそう零したモモンガは、ドワーフたちから貰った皇金の塊を眺め、遠い目をする。

 

「けど、敵も相応に凄い訳で………ああ、頭が痛い」

 

 まず、古龍に警戒されている。ツァインドルクスに聞いていたマム・タロトと対峙して理解した、その強大さもだが、アレに並び得る存在………つまり、レベル100レイドボス級の存在が、この辺境に複数いるという事実が、何よりも痛い。物理的にではなく、精神的に。

 

「酒にも逃げられないし………はぁ」

 

 精神作用抑制効果だけでは、精神的疲労を完全に癒すことはできない。それに加えて、種族特性による数多の制限が非常に厄介で、飲食できない、眠れない、感情は抑制されると、トコトンマイナスに働き、彼の精神を蝕んでいた。加えて、対等に悩みを吐き出せる相手が居ないのも、非常に辛い。

 

「………まあ、これらを貰えただけでも、よしとするか」

 

 シャルティアが拾った、マム・タロトの鎧に飲まれていた一つ。シンプルな攻撃力強化効果を持つ上、あと少し何かしらの手段で補うことが出来れば、近接武器の耐久値減少を大きく抑制する効果を発揮するというソレは、身に着けているだけで効果を発揮するという。一人につき一つまでしか効果を発揮しないとはいえ、数を確保できれば現地人の大きな助けとなる筈だ。

 

 それだけではなく、特に装備枠を使用する訳でもないのに、一つは確実に効果を発揮してくれるという、モモンガたちユグドラシル勢にも有用な代物だ。あの後、総出で漁った中からこれ以上の発見こそできなかったものの、そこそこの数はあった為、ドワーフたちを上手く説得できれば、生存圏安定の大きな一歩となるだろう。

 

「本当に、宝の山だったな、あそこは………けどなぁ」

 

 最高に魅力的なのに、マム・タロトの存在のせいで気軽に立ち入れない。

 

「ああああああああ……………」

 

 静かにベッドに身を投げ、現状を嘆く。

 

「ナザリックの戦力は嬉しいけど、NPCたちの対応が………はぁー………」

 

 ありもしない胃が、痛みっぱなしだ。兎にも角にも、精神的な疲労が全く癒えないのだ。

 

「人間化………ああ、けど俺アンデッドだからなぁ………」

 

 そして、最悪なのがアンデッドという種族の、特性の一つ。如何なる種族からも、アイテム一つで転生が可能な代わり、アンデッドから他種族への転生は、原則として不可能なのだ。例外がワールドアイテムであるが、言い換えればそれ以外では、希少な割に種族レベル喪失という特大デメリットを持つアイテムを使い一時的に、くらいしか方法が無い。

 

「使い切りは不用意に使えないし………うわ、マジで八方塞がりじゃん」

 

 自身の現状に軽く絶望し、突っ伏す。

 

「………いや、どうにかする方法を考えねば。頑張れ、俺!」

 

 と、意気込むも束の間。ドアをノックする音により、意識を引き戻される。

 

「モモンガ様、宜しいでしょうか?」

「うぇ?!あ、んんっ!問題無いぞ」

 

 急ぎ取り繕い、アルベドを迎え入れる。一瞬物凄い表情になるも、モモンガが気付く前に上手く取り繕った彼女は静かに入室し、一礼。淫魔の本能を抑え込み、己の職務を成すべく、口を開く。暴走する暇も無く事態が動いていたせいで溜まりに溜まっている為、万一抑えることが出来なければ、モモンガはそのまま捕食されていただろう。

 

「我々で行っていた森林調査の結果、驚くべきことに、人語を介するモンスターの存在を確認することが出来ました。また、そのモンスターに意図的に逃された影の悪魔(シャドウデーモン)によれば、我ら守護者に並び得るモンスターを従えている他、非常に理知的であったとのことです」

「………まあ、森林の調査については、必要な事だ。報告が無かったことも、大目に見よう」

(報告は欲しかったけど、現状が現状だからな。ここは自主性に感謝する場面だろう)

 

 報告の有無については、現状の忙しさへの配慮に加えて、モモンガ自身がすっかり忘れていた事もあり、マイナス評価には繋がらない。付け加えるならば、問題が発生したことに独断で対処しようとせず、しっかりと報告に来たのはいい傾向だと言えよう。特に現状、未知の要素が多すぎるこの世界で、少数による独断は避けねばならない事態だ。

 

「しかし、理知的か………一度会ってみるべきか?」

「危険です。シモベを派遣し、代理とするべきかと思われます」

 

 アルベドの反応は想定通りであり、同時にモモンガも少なからず懸念していた事項だ。

 

(まあ、そうだよな。知恵が回るってことは、それだけ危険な訳だ)

「では、少々様子を見てみるとしよう。頼ってばかりだが、ニグレドの力を借りるとしよう」

 

 幾ら対策をしてもし足りない現状、ニグレドのビルドは最高クラスの効果を発揮している。

 こと索敵においていえば、スクロールを始めとした消耗品を抑えることが出来る上、豊富に搭載された索敵特化スキルの数々でモモンガを大きく凌駕する能力を発揮できるのが、アルベドの姉であるニグレドだ。特に、現状逆探知対策は幾ら積んでも困らない為、彼女の存在は非常に有り難いのだ。

 

 そして、そのせいで下調べなどについては、彼女の手を借りる事ばかりになってしまう。

 

「手間をかけるな、ニグレド」

「滅相もございません!」

 

 そんな彼女が観測した映像は、《水晶の画面(クリスタル・モニター)》で表示される。

 そこに映し出された存在に、モモンガとアルベドが警戒を露わにした。

 

「イャンガルルガ………!」

 

 シャルティアが、デミウルゴスが一度追い詰められた、黒い鳥竜種モンスター。

 それが今、一体の鳥竜種モンスターを追い森の中を疾駆していた。

 

「………あのモンスター、賢いですね」

 

 細身の体躯を駆使し、イャンガルルガに減速を強いるルートを選び駆ける。体格差を活かした、相手の行動選択肢を狭める巧みな逃走に、アルベドは気付いていた。狡猾な黒狼鳥とて、それを理解していない訳ではないのだろうが、大した相手ではない、と警戒より闘争心が勝っている様子。森の中を、所狭しと駆け、格段に弱い小型鳥竜を追い続ける。

 

「あの地面は………?」

 

 そんな中、アルベドは青鳥竜が向かう先の地面に違和感を覚え、目を凝らす。小型鳥竜がするりと駆け抜けたそこをガルルガが踏み締めれば、蔦に草葉を絡めたトラップが機能し、大きく沈み込む。が、イャンガルルガはそれを見切っていたようで、体が沈む前に飛び退き、そのまま滑空し―――

 

「ぬぉっ!?」

「くぅっ!?」

「ああああ!?」

 

 視界を塗り潰す、光量の暴力。三人がそれぞれ苦悶の声を上げる中、画面の向こうから黒狼鳥の情けない悲鳴が響き、続けて穴に落ちたことを示す、何かが崩れる音。くぐもった悲鳴が響く様子から察するに、頭から落下したらしいことが判る中、三人は回復した視界で事態を目の当たりにし、改めて森に住まう存在の危険性を理解した。

 

「これは………!?」

「そんな?!」

 

 穴に嵌り、赤い粉塵が散る中でもがくイャンガルルガを取り囲む、モンスターの数々。

 それらを率いるかのように異色を放つその魔獣は、モモンガの知識にもある姿をしてこそいたのだが、放つ威圧も、眼光の鋭さも似ても似つかない。何より、所々を蒼く染めた白銀の体毛が、傍らに脱ぎ捨てられた蔦に草葉を絡めた迷彩外套の存在が、その獣が非常に高度な知恵を持つ存在であることを雄弁に語るのだ。

 

『起爆にござるよ!』

「ござる!?」

 

 まさかの口調に唖然とする間もなく、イャンガルルガによく似た鳥竜数体が液状の何かに引火した炎を吐き出し、それの付着を皮切りに大爆発が発生。しかも恐ろしいことに、魔獣と他のモンスターたちは適切に距離を置いており、爆発の熱波の影響すら受けていない様子だ。そしてなにより、爆音に竦んだ様子を見せる一部鳥竜を除き、欠片も怯んでいないどころか、絶えず警戒を続けているのだ。

 

『黄金の泥で爛れた体に、熱茸の粉塵を用いた爆破はよく効くでござろう?』

 

 穴の底を注視すれば、魔獣の言葉通り黄金色の泥に包まれ悶えるイャンガルルガの姿が。その強靭な筈の外殻は煙を上げ溶けており、動きも鈍いことから、相当な準備を重ねていたことが判る。それだけする必要がある強敵、というガルルガへの認識も然ることながら、そこまでの策を練り上げることが出来る知恵も、舌を巻く他ない。

 

『生憎と、貴殿と某らでは、共に歩むことは叶わぬ。故に、死んで貰う他ないのでござるよ』

 

 最早イャンガルルガに動く余裕は無く、泥中目掛け華美な鳥竜が放つ蒼白の液体に、青い鳥が噴霧する青い液に含まれる催眠成分により意識を落とされ、外殻を侵す強酸の泥へと沈んでいく。それを皮切りに、周囲の地面が崩され、黒狼鳥を泥ごと生き埋めにしていく。

 

 より確実に息の根を止めるべく、何より犠牲を大きく抑えるべく立てられた作戦は、彼ら三人に驚愕と警戒をさせるのに、十分過ぎた。いや、これだけ周到な計画を見せつけられれば、誰であろうと警戒せざるを得なかったであろう。何よりも、ここまで油断ならない存在が身近にいるという事実に、モモンガは否応なしに危機感を増大させる。

 

『やはり、北から流れてきてござるな………翁殿たちも心配でござる』

 

 音声を拾っていたお陰で、魔獣の言葉から『翁』なる存在を知ることが出来た。

 

「攻め入られる分には問題無いが、攻め入るとなると確実に難敵、か………あっ」

 

 敵対する意図は現状無いが、無意識のうちに分析の結果を口に出していた。

 

「如何なさいますか?」

「敵対する理由もあるまい。何より、時期が時期だ。無駄な消耗に繋がり得る以上、穏便に済ませるべきだろうな。それに、あの作戦に使われただけでも、我々が知らない物が豊富にあるんだ。ユグドラシルのアイテムではないが、代用になり得る物を発見できる可能性もある」

 

 明確な利益があるのだと口にして、今近くに居る面子を確認。一度頷き、モモンガは決断。

 

「アルベド、供をせよ。あの魔獣と接触するぞ」

「き、危険です!」

「だが、数を連れ過ぎれば、警戒される。なら、少数で敵意が無い事を示さねばな」

 

 アルベドのカルマ値が懸念事項であるが、ビルドで考えれば間違いなく当たりだ。

 

「有事の際は転移で離脱する。交戦は考えるなよ」

「ハッ」

 

 その返答に頷き、モモンガは転移魔法を発動。目的のモンスターたちの只中で姿を晒した。

 

「何奴にござる!?」

 

 警戒を露わにする巨大ジャンガリアンハムスターという、何とも気の抜ける絵面なのだが、幸いにも先程の戦闘を見ていたお陰で、油断や慢心は生まれない。寧ろ、そのギャップがあるからこそ、モモンガも全力で警戒しつつ、しかしそれを表に出さぬよう細心の注意を払い、口を開く。

 

「こちらに敵意は無い。戦う理由が無いからな」

「ふむ?其方らが敵対せぬというのなら、某らも戦う理由はござらんが」

 

 魔獣はふむと頷き、手振りで周囲のモンスターを制す。

 

「それと其方らの侵入を許与するかは、別問題にござる。故に、その意図を問いたい」

「同盟、或いはそれに近い友好関係を結びに来た、と言えば、納得して貰えるかな?」

 

 可能な限り穏やかに口にすれば、森の賢王は静かに腕を組み、その言葉を咀嚼。

 

「成程。ならばまず、其方らの得る利をお教え願おう」

(こいつ、本当に頭が回るな………ユグドラシルプレイヤーです、って言われても信じられるぞ)

 

 驚きつつも、しかし予想していた質問だ。

 

「私たちの拠点が、この辺りの付近でな。我々は拠点の安全と、森の物資を得ることが出来る」

「物資、物資でござるか。成程、確かにヒトの寄り付かぬ一帯故、自然は豊富にござるな」

 

 頷くも、その眼光に油断の色は欠片も無い。

 

「しかし、某もはいそうですかと頷くわけにもいかんのでござる。この一帯に居を構えるのは某らだけではござらぬし、某の縄張りにあっても、支配下という訳ではない場もあるのでござる」

 

 少しばかり圧が増すと共に、側近と思しき鳥竜種モンスターたちが唸る。特に、青鳥竜二体から放たれる圧は尋常ではなく、反射的に庇いに前に出たアルベドでさえ、無意識に武器を強く握り締める程。対し、他のモンスターたちは力の差を理解してか、そそくさと退散していく。

 

「故に、そちらの思う程自由な活動、というのは許容できぬのにござる。それでも、同盟を望むのであるならば、某は構わぬでござる。某が欲するのは、数と知識の二つ………某の縄張りに踏み入った影を扱うのが其方ならば、前者も解決は容易にござろう?」

「数、ということは人手か。そちらでも十分だと思うが?」

 

 用意できることを否定せず、同時に相手の意図を窺う。

 

「生憎、そういったやり取りの経験は皆無故、直球でいかせていただくでござるが。某の配下たちでは、数もいて身軽でござるが、如何せん隠れるに向かず、非力ゆえ。対し、あの奇怪なる影は隠密にも優れてござる故、より確実に異変を報せる事が叶う筈にござるからな」

 

 部下を把握している上、たった一度の遭遇から影の悪魔(シャドウデーモン)の強みを見抜いている賢王の言葉に、流石のモモンガも驚かされる。同時に、これだけ知恵の回る存在であるならば、野放しにするのではなく、何とかして友好関係を構築したい、とも。

 

「いいだろう。そちらの方は、望み通り工面できるよう努力しよう」

「モモンガ様!?」

「ほう、モモンガというのでござるか。感謝するでござるよ、モモンガ殿」

 

 まずは、一歩。

 数多の未知なる脅威に溢れる世界の中で、モモンガは確実な手応えと共に、最寄りの未開を解き明かす為の前進に成功。そして後に、この和平と共に人の手に渡る未知の多くが、この辺境に生きる者たちにとっての、大きな希望の光となるのだ。




★設定

・『森の賢王』配下

鳥竜種が多くを占め、有事の際には賢王の指揮下に入る。全体的に、他の地域より賢い。
中でも側近格に当たる二体のドスランポス特異個体は、ナザリックの守護者級。


・『翁殿』

賢王の支配下に無いモンスターの一体。強力な酸を秘めた、黄金の泥を使う。




・シャルティアが拾った石

作者が4G時代に愛用していた神おま。
具体的には、スロットとお守りだけで攻撃小と業物が使える。
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