《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
青々とした森を、二人と一体が進む。
「この先に、某らの生命線である湖がござる。が、同時に某の支配下に無い場所でもござるな」
些細な情報も逃すまいと、モモンガが意識を集中。
「縄張り意識が強い竜もおる故、不用意な動きは厳禁にござるよ」
「わかった」
「逆に言えば、縄張りさえ侵さねば、某らがついておらずとも、ある程度安全でござるな」
と、賢王の案内の中、森を抜ければ、湖が広がる。
「キュアオオオオオオオッ!!!」
「キシャアアアアアアアッ!!!」
そこに響いた咆哮に続き、彼らの視界の端で雷光が弾けた。
「ぬぁあっ!?やはり来て御座ったか!某はあちらの加勢に向かうでござる!」
血相を変えた賢王が駆け出し、少ししてからモモンガはアルベドへと顔を向ける。
「助けに行くか」
「………そうですね」
話の通じる魔獣と、通じない竜。どちらが残る方がいいかは、アルベドも理解できている。
「では、ナザリックより」
「いや、今は我々だけでいい………が、備えは必要だな」
と、アルベドの援軍要請を許容。移動と並行して備えをさせた二人が向かえば、そこでは大空に翼を広げるワイバーンと、地上からそれに対処せんと必死に足掻く賢王と海竜の姿。昆虫のような鋭利な飛竜と、麗しさを強く魅せる細身の海竜であるが、モモンガは前者の情報を、知識という形で有していた。
「『電竜』ライゼクス………アルベド、電気と、空からの攻撃に備えろ!」
『電竜』ライゼクス………『
「ハッ!」
威勢よく返事したアルベドが飛び出し、海竜を狙っていた雷球に対し『ミサイルパリー』に加え『カウンター・アロー』のスキルを発動。非実体の属性攻撃に対する防御は正常に機能し、弾き返すことにこそ成功したものの、相手は卓越した飛行能力を以て回避。紅の瞳で新たな敵を捕らえ、鋭く吼え叫ぶ。
「キシャアアアアアアアアアアッ!!!」
ライゼクスが羽ばたく中、賢王が鋭く叫ぶ。
「奴を湖に落とすにござる!某らに、空での戦いは不可能故!」
「勝算があるのだな?」
飛来したモモンガの問いに、賢王は静かに頷き、静かに警戒する海竜に叫ぶ。
「其方はなんとか湖の上へ誘導を!《
森の賢王が扱うのは、森に住まう者たちに着想を得たオリジナルの魔法。酸を練り込まれた泥が直撃すれば、大抵の竜の外殻を侵すことが出来るのだが、当然機動力のある相手にはそうそう通じない。だからこそ、機動力を制限できる森での戦いが基本であるが………今回のような環境では、それなりの使い方がある。
「
モモンガが放つのは、無属性最強の攻撃魔法。三重に発動したソレを叩き込まれたライゼクスの外殻には相応の傷が刻まれ、墜落しかける。が、高度があった事でギリギリ持ち堪え、湖への墜落は避ける。同時に、激昂を告げる荒い吐息と共に鋭く吼え叫び、モモンガを標的に一気に飛翔。
「チィッ!」
そして、それこそ『空の悪漢』の異名の由来。卓越した飛行能力は、マジックキャスターの行使する《
「シャアアアアアッ!!!」
「《
転移魔法でギリギリまで引き付け離脱し、湖側へ。
(遠距離攻撃に徹されたら不味いが………どう来る?!)
「キシャアアアアアアッ!!!」
咆哮と共にモモンガ目掛け飛来したライゼクスは、雷球を無茶苦茶に放つ。
「がっ?!ぐ、ぅぅぅ………!」
(なんて、な)
さも効果抜群です、といわんばかりに呻くモモンガだが、それは演技。
そもそも、モモンガのユグドラシルにおける電気耐性は完全。つまり、本来は無効なのだ。無効耐性が機能しなくなっているといっても、元の耐性が高ければそれだけ減衰も大きく、モモンガは元の魔法防御力の高さも加わり、ダメージを大きく抑え込んでいた。それこそ、危機感を抱く必要が皆無な程に。
そうして相手をおびき寄せ、確実に湖に叩き落とす………算段、だったのだが。
「クゥッ、クズがあああああああああああッ!!!!」
アルベド、激昂。その忠誠心の高さに『モモンガを愛している』という文言まで加わった彼女の眼前で、モモンガが手傷を負ったとなれば、彼女が激昂しない筈が無いのだ。ここで冷静に、彼の意図を理解するだけの精神的余裕があればよかったのだが、二重以上の愛を向ける彼女にそれを求めるのは、酷というものだろう。
「アルベド?!」
激昂したアルベドが翼を広げ飛翔し、振り向いたライゼクスの頭部を全力で殴り飛ばす。結果、攻撃を続ければ落とせそうな骸骨よりも、より攻撃的で危険な淫魔へと標的を変更。帯電した角を叩きつけ、それを躱されるや否や羽ばたきを止め一回転し、逆サマーソルトで尻尾を叩きつける。
体格差と不安定な空中という条件により、その剛腕を存分に振えぬアルベドが下に弾かれれば、その隙を逃すまいとライゼクスが飛翔。それを黙って見ていられるモモンガではなく、異なる種類の転移魔法を連続発動。強引にアルベドを引き連れ、ライゼクスの攻撃範囲を逃れる。その直後、アルベドが居た場所をその翼が大きく薙ぎ、そのまま大地を深く抉った。
(あれが、武器として使えるレベルに発達した翼か………っ!?)
その爪で大地を抉った翼の、透き通る翼膜が緑色に光る。
「あれは………」
「不味いな、帯電されたか………」
(確か、脆くなる代わりに攻撃力が上がるんだったか。狙えればいいんだが………!)
動きを見切り、対応できるだけの経験値があれば、チャンスと言えるのだろう。
が、当然二人は初遭遇であるし、モモンガは純魔法職。アルベドならば、と考えるも、防御特化の彼女の機動力では、ライゼクスに追従するのは少々難しい。武器についても、【
「シャアアア―――ッ!?」
威嚇するように唸っていたライゼクスへと、紫の液体が叩きつけられる。その先に視線を向けてみれば、毒々しい紫の鬣に、乳白色の鱗を持つ海竜の姿。四肢で大地を踏み締めるその竜は、明確な敵意を以て眼前の侵入者を睨み、鋭く吼える。
「キュィアアアアアアアッ!!!」
『紫水獣』ロアルドロス亜種………湖近辺を根城とする海竜種の中でも、強力な部類に入る大型モンスターであり、同時にこの場に現れたという事実が、その力を暗示する。事実、ライゼクスは外殻を伝う毒液に侵されたのか、口端から毒々しく染まった唾液を零している。
「キシャァァァァ………!」
「キュォォォ………ッ!」
睨み合う両者に構わず、横合いから飛び掛かる影。
「キュアオオオオオッ!!!」
「ッ!?」
即座に応戦せんと動くライゼクスだが、『泡狐竜』タマミツネの方が、地上では上。蛇にも似たしなやかな体躯と、その下部を覆う紫毛、それにたっぷり含ませた滑液を駆使し、刺々しい黒の巨体を泡で包み込む。その瞬間に、形勢は一気に逆転していくのだ。
「な、ぁ………!?」
「あれは!?」
ライゼクスの細い足では、踏ん張りが効かない。その翼を、尻尾を使い何とかバランスを取るので精一杯で、飛翔するなど到底できない中、森の賢王はロアルドロス亜種、タマミツネの二体の動きを見極め、適宜攻撃を挟んでいく。
「《
毒素の浄化作用を持つ泡により、外殻に残留するロアルドロス亜種の猛毒を中和しつつ、同時にタマミツネにより奪った自由を継続して奪う。タマミツネが体捌きと尻尾によりライゼクスを湖畔へと追い詰めていく中、森の賢王から追加の魔法攻撃。
「《
麻痺成分を含んだ泡が迫り、タマミツネが飛び退く。それが無数に弾ければ、ライゼクスの踏ん張りが弱まる。そこにダメ押しとロアルドロス亜種が飛び掛かり、押し出されたその体躯を、今度はタマミツネの尻尾が下からかち上げる。綺麗に尻尾の一撃が頭に入り、ふらふらと押し出されたライゼクスが覚束ない足取りで揺れ、そして―――
「キュアアアアアアアォッ!!!」
「キシャアッ!?」
巨大なワイバーンに似た竜が湖を飛び出し、無防備な尻尾へと噛みつく。泡によって踏ん張りが効かず、また麻痺毒により力も入らないライゼクスは、成す術無く湖へと引き摺り込まれ、必死に翼をはためかせもがく姿を最後に姿を消す。モモンガ、アルベドの両名が唖然と見つめる中、水中に僅かに見えた翼膜の輝きも消え、最後には沈黙が残される。
賢王がライゼクスを狙い打ち込んだ泥弾だが、湖に落ちれば当然水を濁らせ、広がる。それこそが、この湖の生態系の上位に位置するかの竜への合図であり、賢王たちがそうまでする必要がある、と判断するモンスターは大抵大型である為、食べ応えのある御馳走来襲の合図でもあったのだ。
「………確かに、アレなら湖に落とせば勝てたか」
少しして、冷静になったモモンガは納得し、頷く。
ライゼクスを水中に引き摺り込めるだけの体躯を持つモンスターが居るのなら、湖にさえ落としてしまえば、あとは巨大な水棲の竜が仕留めてくれる。水棲の魚竜ということで、モモンガが重要視して調べていなかった事ではあるが、この『水竜』ガノトトスは牙に睡眠毒を有しており、噛みつかれた時点でライゼクスに命は無かった。
「御二人とも、早く降りるにござるよ!ヌシ殿に敵と見做される前に!」
賢王の叫びを受け、二人は急ぎ地上へ。敵を増やすのは避けたいのもそうだが、二人とも水中戦は不得手なビルドである為、引き摺り込まれれば最期、となりかねないのだ。モモンガはアンデッド基本特性で酸素不要だが、それだけでどうにかできる程、この世界は甘くない。
「ふぅ………っと」
降り立ち次第顔を上げれば、タマミツネ、ロアルドロス亜種共に既に姿を消している。
「いやあ、タイミングが悪かったでござるなぁ」
「タイミングの問題か?」
「実のところ、先の龍の襲来による混乱が抜けきってないのでござる。そのせいで、余計にこの湖を狙う襲撃者も増えているのにござる。元々住まう者たちは、比較的温厚というか、不用意に近付かねば安心なのでござるが、時折ああいう厄介なのが暴れに来るのがひたすらに大変なのでござるよ」
大抵湖に叩き落とせばどうにかなるのにござるが、と賢王が零し、軽く肩を竦める。
「御覧の通り、某が居合わせた場合、加勢しているのにござる。が、常々こう上手くいくとも限らないのでござる。それ故、こちらの状態を把握する為にも、人員が欲しいのでござる。某の配下も弱くは無いのでござるが、恐らくあの影の方が小回りは優れてござろう故」
モモンガも水の大切さは理解しており、その危惧へと理解を示す。
「成程。それは確かに、その通りだな」
「うむ。特に、下手なモンスターが湖を汚してしまえば、水路もおじゃんでござるからな」
「水路!?」
森の賢王は頷き、ちらちらと軽く手招き。湖から離れる形になるものの、驚きのあまりややぎこちないながらもついていけば、フクロウに似た青い巨鳥から、発達した脚を持つ華美な鳥竜などが、程々のサイズの池で水を飲んでいる。催眠攻撃を行っていた二種のモンスター、『夜鳥』ホロロホルルと『眠鳥』ヒプノックは驚くも、賢王は構わずそちらへと歩いていく。
「実はこれ、某が何カ所か地面を掘って繋げたのにござる。湖まで出向くのは骨にござるからな」
尚、地下トンネルについては、蜘蛛の巣にツタの葉を絡めたモノなどで補強されており、簡単には崩れないよう工夫されている。支配域を確固たるものにした上で、自身に有利な環境を維持する為の工夫であるが、成程。これは間違いなく、森の『賢王』であろう。
「………ただ掘るだけでは、トンネルにはならないでしょう?」
「ああ、それは―――」
唖然となるモモンガの隣で、アルベドはこの魔獣の知恵を測るべく、質問を開始。
対し、森の賢王は対人経験の乏しさからか、最低限戦闘に直接関与しない情報に限りつつ、躊躇いなく多くの情報を開示していく。そして、この支配域で活用されている諸々に用いられる素材について、大層驚くことになるのだった。
★設定
・湖
原作における、リザードマン、トードマンの居住地。
実質的に独立した地であるが、実質的には温厚且つ知恵の回る賢王の領域。
外周部に湿地を好むモンスターが多く居を構えており、湖に近づくにしても彼らの縄張りの隙間を縫う等する必要がある。また、湖自体に水棲のモンスターが生息しており、完全に安全ともいかない。
その為、森の賢王は自ら複数の水路を作成しており、支配域に池を分布させている。
水源としての価値から、バランスが崩れる度に多くのモンスターが来襲する魔境でもある。
・賢王のオリジナル魔法
多くが生息域のモンスターに着想を得たもの。
また、直接撃破の為の攻撃系より、補助系が多くを占める。