《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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18―予兆

 森の賢王との接触から、時は流れ。

 

「いや、凄いな、本当に………」

 

 ナザリック地下大墳墓、第六階層………そこに広がる森林では現在、トブの大森林から採取した様々なモノの栽培が、試験的に行われていた。というのも、兎に角有用なものが豊富であり、今後の備えとして量産体制を整える準備が進んでいるのだ。

 

 なにせ、あと二カ月で襲撃の時を迎えるのだ。備えておくに越したことは無い。

 

(順調に増えてる、とは言い難いが………何が悪いんだ?)

 

 そんな中で、モモンガが疑問を抱いたのは、その収量。

 マーレを始めとした高位のドルイドが手を加えて尚、その収量は安定しているとは言い難い。彼は知る由も無いが、トブの大森林を始めとした、大陸随所に広がる魔境の植生を支えているのは、そこに住まうモンスターの排泄物という天然の肥料なのだ。

 

 そして運の悪いことに、モモンガのリアルはサラリーマンであり、且つリアルの世界では植物栽培はごくごく一部の業者の手で行われているのみ。ブループラネットならばまだしも、モモンガには生物の排泄物を肥料として利用する、という知識などありはしない。また、ユグドラシルに由来する存在であるNPCたちも、高位のドルイドであるマーレでどうにもならない理由がそんなものである、などとは露ほども思わず、故に収量が中々上がらないのだ。

 

「失礼します」

「む、入れ」

 

 報告書に目を通していたモモンガが顔を上げ、ドアをノックした人物の入室を促す。

 

「先程、『蒼の薔薇』の者たちとの連絡役である影の悪魔(シャドウデーモン)より、祭の日程についての報告が上がりました。そちらの方を表に書き出しましたので、そちらの提出に参りました次第でございます」

 

 デミウルゴスは淀みなく報告し、書類を提出。受け取り目を通せば、竜王国にて行われる祭の、日程情報が書き記してある。とはいえ、報告として挙がった情報量が少ないのか、情報量自体はそこまででもない。デミウルゴスはしっかりと私情を廃しているようで、本当にシンプルな情報だけだ。

 

「素晴らしい出来栄えだ、デミウルゴス」

「いえ。この程度、お褒めに頂くほどのことではございません」

 

 そう謙遜するデミウルゴスは、続けてモモンガの手元の報告書に目を向け、気付く。

 

「おや、その数値ですと………もしや」

「ああ、察しの通りだ。マーレでもどうにもできない、となれば、我々が知らない未知の法則の類が働いているのだろう。だが、その法則がどのようなものなのか、皆目見当がつかなくてな」

 

 これについては、先述の通り、リアルの環境を思えば仕方の無い事だ。

 

「しかし、マーレ以上のドルイドとなれば、それこそブループラネット様以外にはおりますまい」

「ま、まあ、そうなる訳だな」

 

 ギルメン神聖視に苦笑しつつ、同時にマーレ以上にドルイド職に特化しているのは、名を挙げられたブループラネットくらいであるのも事実だ。同時に、自然に対する深い造詣から、現在最もいて欲しいギルメンの一人でもある彼の名を聞き、ふと考える。彼に教えられた中に、こういった時の打開策は無かったか、と。

 

「………」

「ところで、アウラから報告は来ていますか?」

「む、アウラから?」

 

 そこにデミウルゴスから告げられたのは、これまた驚くべき内容。

 

「はい。湖から森内部の貯水池に流れ着いていた魚なども、これまた特異な物が多く見られたとの報告がありまして。現在、アウラが調査に向かっているのですが………成程、詳細が確定するまで、不用意な混乱を招くまいとしていたのでしょう」

 

 と、フォローする文言を述べてから、モモンガに対し現状上がっている情報を説明。

 

 それから数日後。中間報告も兼ねた会議の中で

 

「森で捕まえた魚たちですけど、第四階層で森の植物とか虫を与えて育ててみたら、上手く育ってきました!………ただ、今後もあっちに行って、虫とか捕まえてこなきゃですけど。それと、あのハムスターも魚については詳しくないみたいだから、育てたはいいけど、使い道は模索していくことになりそうです」

 

 最初意気揚々と、しかし後半は肩身狭そうに告げたアウラだが、その情報には非常に有益なものが含まれていた。本来の守護領域を外れた場所で成果を上げた彼女を、弟のマーレは恨めしそうに睨み、シャルティアは先んじて成果を挙げられたことに焦燥を見せ。アルベド、デミウルゴス、そしてパンドラの三名は、彼女の取った手法に興味を示した。

 

「ふむふむ、森の虫を………ユグドラシルのものではなく、ですか」

「うん。育ちは、その、外のに比べると幾らか劣ってたけど………」

「ということは、あの森の環境に要因があるのかしら?」

「あの森とナザリックの違い、となると………山ほどあるな」

 

 そう零したモモンガだが、それを素直に受け入れるとなれば、有用なアイテムを得るのに、わざわざトブの大森林へと踏み入る必要が出てくる。質の劣化もそうだが、数を得られないとなれば、リスクも跳ね上がる上、下手に根こそぎ採り尽くすようなことをしてしまえば、森との関係悪化も考えられる。

 

 これは、この世界が『彼ら』の世界のルールに塗り替えられ尽くしていないことが、悪い形で作用してしまった結果と言える。強力なモンスターが数多住まう場所ほど、『彼ら』の世界に近しい領域へと塗り替えられていくのだが、『ユグドラシル』由来のギルド拠点内部や、モンスターの生息域から離れた都市部等では、当然侵食も非常に緩やか。

 安全な領域というのは、言い換えればこの世界由来の物資以外の入手が困難であり、その分だけモンスターたちへの対抗手段も貧弱になっていく。逆に、危険な領域ほど良質な資源が生じていき、その地域の者たちの尽力次第ではより確たる対抗が可能となるのだ。一例として、ドワーフ国はマム・タロト以外のモンスターが存在していない為、地底部で未知の鉱石類を得ることが出来たものの、かつて天然の要害として用いた『溶岩の川』付近では、そういった資源が()()()()()()()()()()

 

「となると、栽培区画に森の土を運び込むべきでしょうか?」

「やむを得ないでしょう。至急、森の賢王に許可を取った上で、必要量を調べましょう」

「では、茸類の栽培にも、森の樹木を使えないか、かけ合う必要がありますね」

 

 三人は速やかに、どうすべきかを決定。

 

「ああ。では、可能な限り早急に必要量を纏めておいてくれ。私の方で、頼んでおこう」

(それくらいはやらないと、な)

 

 モモンガはそう告げ、同時にNPCたちに、現地の人間に無い視点から思考を広げる。

 

(訊いた話によると、森の賢王や、それの支配域外部の強力なモンスターの存在から、人類は中々トブの大森林に踏み込めていなかったとか。だが、それにしたって森の中だけ、毛色が違い過ぎている。例えとしてはあれだけど、まるで別ゲーのダンジョンをぶっ込んだみたいな………)

 

 ユグドラシルを知り尽くしているからこそ、そして賢王の支配域を調べ尽くしたからこそ、辿り着いた疑問。外部ではそれなりに見られる、ユグドラシルのものと類似した植物などといったアイテムが、森の中では綺麗さっぱり消え失せているのだ。生命力が違うにしても、それならば何故外部を侵食していないのか………

 

「ところで、モモンガ様」

「ん?」

「竜王国の祭ですが、冒険者たちに一任するだけで宜しいのですか?」

 

 アルベドから言及されたのは、参加を断念した竜王国の祭について。

 

「ああ、それなら大丈夫だ。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を用いて眺めるつもりだからな」

 

 苦肉の策であるが、それならば誰にも迷惑が掛からない。そう考えての案であったが、アルベドが目を妖しく光らせる。舌なめずりは堪えたものの、モモンガは強烈な悪寒に襲われ、瞬時にシャルティアが殺気立ち、他の面々が一斉に身構える。

 

「ですが、万一ということもあります」

「ぇ」

「その為、有事に備えて、()()()()()()!視察するというのは―――」

「それならば!第六階層の闘技場で、戦闘が可能なシモベを集め、行うべきでしょう!」

「ええ、その通りかと!現地に出れぬ者たちの理解を深める、いい機会となるでしょう!」

 

 シャルティアの殺意が最高潮に達する前に、デミウルゴス、パンドラズ・アクター両名が大急ぎで割り込む。この場での不幸は、帝国とのパイプ作りも兼てセバス、コキュートス両名が外部に出払っていたことだろう。二人が万一殺し合いを始めれば、止めることが出来る者がいない以上、やむを得ない。

 

「そ、そうだな、うん。では、パンドラよ。そのような段取りで予定を組め」

「ハッ!」

「予定が出来ましたら、私から皆に通達しましょう。それでいいね?」

「勿論ですとも。お願いしますよ、デミウルゴス様」

 

 シャルティアがどや顔でアルベドを見上げ、アルベドは般若の如き形相でそれを睨み。

 

 そんな空気の中、モモンガは安堵の溜息を零し、アウラとマーレは二人に感謝の視線を送った。

 

 

 時を同じくして、バハルス帝国東部………来たる襲撃に備え、数多の拠点が作成されている地。

 

「オオオオオオッ!!!」

「だぁ、クソッ!こういう時くらい大人しくしてろよなぁ!」

 

 その作業の中、現れた襲撃者たちへと、バハルス帝国のワーカーが一人毒吐く。

 

「いいから斬る!妖巨人(トロール)にぶっ壊されたら、洒落になんないんだから!」

 

 ハーフエルフの弓使いが叫ぶ中、襲撃者である亜人………妖巨人(トロール)たちを火球が襲う。

 

「しかし、この数………間違いなく、スレインの予言は真実でしょう」

「ああ。これまでの散発的なものとは、明らかに違う」

 

 そんな集団の先頭に立つ帝国騎士、『激風』ニンブル・アーク・デイル・アノックと、『不動』ナザミ・エネックの二人が険しい顔で敵集団へと斬り込み、ナザミが攻撃を防ぐ間に、ニンブルが妖巨人(トロール)たちの息の根を止めていく。再生能力が高い亜人種であるが、急所を的確に穿たれれば再生も間に合わず、即死せずとも後続に仕留められる。

 

 彼らは、かつて栄華を誇ったトロールの大国の残党。国を喪ったことでバラバラになった中で、この辺境へと辿り着き、しかし人類と手を取り合おうとする事無く餌と見做していた者たちと、その子孫だ。過去の襲撃失敗で大きく数を減らして以来、不定期に散発的な襲撃を繰り返すのみだった彼らは、何故かこのタイミングで、これまでにない規模で襲撃を仕掛けてきたのだ。

 

「ドウ見ル?」

「武人はおらず………ですが、何かに怯えているのでしょうか」

 

 その群れと対峙する………事無く、拠点から避難する者たちの護衛を任された二人は、遠目からその戦闘を眺め、分析する。加勢しない代わり、戦う術を持たない者たちの護衛を任された彼らは、自らの意思で戦線に出向き、果敢に戦う者たちの雄姿を目に焼き付ける。

 

 武具の質の為、トロール(妖巨人)の一撃でも致命傷であろう軽装の戦士たちだが、率先して前に飛び出し、的確に攻撃を叩き込むことで亜人の直接的な脅威となり、無視することが出来ない状態を作り出す。そうしている間にも、図体が大きな妖巨人(トロール)という狙い易い的目掛け、後方の遠距離職が物理魔法問わず攻撃を叩き込んでいく。

 

「勝負アッタナ。練度カラシテ、比較ニモナラナイ」

「ですが、油断は禁物。今の我々は、彼らの護衛なのですから」

 

 眼光鋭く二人が睨む先では、次々トロールが仕留められ、崩れ落ちていく。

 彼ら妖巨人(トロール)種の長所が巨体と高い筋力、再生能力であるのに対し、バハルス帝国のあるこの一帯には、アゼルリシアの麓に広がるトブの大森林に加えて、ボウン沼地、東方の国境より先からの来襲など、強力なモンスターとの交戦経験は、質こそ王国に劣れど、量では勝っている。その殆どが大型、且つ凶悪なパワーと強固な外殻を併せ持つ為、それらを相手にしてきた猛者たちとの相性が、ひたすらに最悪なのだ。

 剛腕は避けられ、攻撃は届かない。それでいて、相手は確実に当ててくる。それが出来る腕前が無ければ、モンスター相手に生き延びることが至難なのだから当然だが、それ故に巨躯の亜人たちは次々斃れ、息絶えていく。元よりモンスターの襲撃に備え、優秀な人材を集めていたのが、これ以上無く吉と出た形と言えよう。

 

 だが。その血臭が、死臭が、更なる脅威を呼び込むことになる。

 

「ム―――セバスッ!」

「わかっています!」

 

 コキュートスの声より一瞬早く、セバスが駆ける。

 

「っ、ヘッケラン!」

 

 悲鳴に近い警告が飛んだ直後、ヘッケランと呼ばれた剣士は眼前のトロールと共に、地中からの強襲を受けた。ギリギリでガードしたものの、武器は砕け、衝撃で骨どころか内蔵にまでダメージが及んでいるらしく、口からは血が溢れ出す。

 

(やべ………っ、こいつは?!)

 

 襲撃者たる、見覚えのある黒く染まった蛇竜に目を剥く間に、牙を持つ鋭利な嘴がその体目掛け迫る。死を受け入れ、目を瞑ろうとした彼は―――しかしその寸前、鉄拳がその頭を殴り飛ばすのを目の当たりにしたことで、逆に見開かれる。その実行者たる老紳士は、そのまま空中で体勢を整え、重傷者であるヘッケランを抱え、後衛たちのもとへと跳んだ。

 

「彼の治療をお願いします。ここは、私が引き受けましょう」

 

 そう口にして、四肢を持つ蛇の如き竜を睨むセバスに、それを知る者たちから情報が。

 

「そいつはガララアジャラよ!けど、そんな色は見たことが無いわ!」

「亜種、とも思ったけど、明らかに違う。何かあるかもしれない」

「尻尾の先と背中がひたすら硬いんだ!飛ばされる甲殻にも気を付けてくれ!」

「それと、牙!麻痺毒があるぞ!」

 

 口々に叫ぶ中、明らかに異常な光を放つ赤い目が、セバスへと向けられる。

 

「………情報、感謝致します」

 

 静かに身構えるセバスを睨み、ガララアジャラ………『絞蛇竜』はとぐろを巻き、吼えた。

 

「キュシャアアアアアアアアアアッ!!!」

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