《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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低気圧による体調不良&スランプにより、遅くなってしまいました………申し訳ない。


19―黒く染まり

 セバスが飛び出して直ぐ、コキュートスから報告が行われた。

 

「モモンガ様、緊急事態デゴザイマス」

『何があった!?』

「モンスターノ、襲撃デス。ソレモ、明ラカニ異質ナ」

 

 そう告げたコキュートスの視線の先で、セバスとガララアジャラが激突―――しなかった。

 

「………ナント」

『な、なにが起きた?!』

「息、絶エマシタ………襲撃者タル、モンスターガ」

 

 そう、息絶えたのだ。いざ戦わんとした、その目前で。

 

「何が………」

 

 動揺を隠せぬセバスは、静かに黒く染まった竜へと触れ、気系スキルによりその体躯を探る。

 

「む?………ッ!」

 

 すると、強烈な寒気と共に、その体内に違和感を認める。本能が強烈な警鐘を鳴らす中、放置するわけにもいかないと手刀でその体躯を貫けば、手先に何か硬質な感触。体を蝕む悪寒に顔を顰めるセバスが手を引き抜けば、異様な紫の輝きと共に、禍々しさを放つ美しい結晶が握られている。そしてそれは、恐怖等の精神作用を無効化している筈のセバスに、一瞬未満ながら理性が消え失せるという強烈な精神作用を与えた。

 

「これは………不味いですね」

 

 完全耐性を持つセバスですら、一瞬にも満たない間理性を消した未知の結晶。急ぎセバスはそれをハンカチで包み、他者の目につかぬよう隠す。怪しまれるのは百も承知であるが、耐性を有するセバスですら精神作用を防ぎ切れぬ以上、仕方のない処置と言える。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ。このモンスターの死因は恐らく、病か呪いでしょう。不用意に触れない方が宜しいかと」

 

 あくまで穏やかに対応するが、内心は決して穏やかではない。

 

「この死体は、私が見張りましょう。皆様は、他をお願いします」

「見張る、といいますと?」

 

 怪訝そうな視線を受けるも、セバスはその程度で気分を害さない。

 

「この死体が病、或いは呪いの媒介となる危険がありますので」

 

 場の空気が最大限の緊張を帯びる中、セバスは静かに、彼方を睨む。

 

(地中からも来襲するとなると、非常に厄介ですが………)

 

 黒く蝕まれたモンスター………その来襲は、果たして何が起こしたものなのか。

 

 それを思案する間もなく、セバスを猛烈な寒気と共に立ち眩みが襲い、その場に膝を突かせる。

 

「ぐ………ッ!」

(油断、しましたか………!)

 

 病、及び呪いへの対策は万全だった。問題があるとすれば、その力が耐性を無意味に変える世界に等しい力、ワールドアイテムに匹敵する力に由来するものであることだろう。気功系に由来する自己回復スキルを発動するも、効果は芳しくない。吹き出る冷や汗の感触に顔を顰めながら、惜しみなく自己回復スキルを総動員し、回復力を底上げする事で強引に動けるようにして、職務を果たさんと立ち上がる。

 幸か不幸か、その数秒は見られておらず。セバスは平静を装い見張りを続け

 

「無事か!?」

 

 急ぎ飛んできたモモンガが現れたことで、その護衛のアルベドの目に留まるまで、その体の変調は察知されることが無かった。言い換えるならば、その間で完治する事が無かったことにより、事態の根幹に存在する異常が早期に発見されることとなった。

 

「モモンガ様、お下がりください」

「む?」

「セバス、何があったのか、詳細に報告しなさい。貴方の今の体調も含めて」

 

 鋭い視線を受け、セバスは元々報せるつもりでいた事実を口にする。

 

「そのモンスターの亡骸を調査しましたところ、呪い、或いは病と思しきモノを受けました」

「待ちなさい。貴方には完全耐性があった筈でしょう?」

「ええ。ですが、症状からそのどちらか、としか思えず」

「そんなことはいい!アルベド、急ぎペストーニャを呼べ!」

 

 モモンガが怒鳴るように叫べば、離れた場所の者たちも驚き、彼らへと視線を向ける。

 

魔法範囲拡大(ワイデン)最強化(マキシマイズ・マジック)、《要塞創造(クリエイト・フォートレス)》!」

 

 発動したのは、第十位階の建造物作成魔法。消費度外視で規模と強度を底上げすることで、疑似的な隔離施設としても運用することを考えたソレにより、東方と作成中の拠点とを隔てる。その内部にガララアジャラの死体を、セバスとアルベドを収めたモモンガは、強烈な緊張を威圧として放ちながら、焦燥混じりに詰問。

 

「症状は?!」

「倦怠感と―――」

 

 完全耐性を整えるのが容易な病であるが、それを無力化するモノが存在している、という可能性が生じた時点で、モモンガの中の警戒心は最大を通り越した。状態異常系の完全耐性を貫くことが出来るのは、それこそ一部の極特化職か、ワールドアイテムしか無いのだ。警戒するのは当然であるし、ユグドラシルの通常の力が通じない脅威を、既に彼は知っていた。

 

「………古龍の仕業か?」

 

 位階魔法による天候操作を無力化した、鋼龍の力。それに近しいものであると判断したモモンガであるが、同時に病、或いは呪いを広げる存在という未知に対し、強烈な警戒を抱く。警戒を抱くからこそ、襲撃を仕掛けたというモンスターが、何かしらのアクションを見せることなく息絶えたという事実が、重くのしかかってくる。情報らしい情報を得ることが出来なかったというのは、それだけで今後の対応に遅れ取りかねない。

 

「予定を大幅に変更せねばならないな。セバス、お前はペストーニャの診断後、暫くこちらに待機して貰う。今後複数回の診断を行い、問題無いと判断されてから、ナザリックに帰還して貰うことになるだろうな」

「………ハッ」

 

 事実上、当面の帰還禁止だ。が、それもやむを得まい。情報が少なく、どの段階まで感染力が持続するのか、どの種族まで感染するのか、どこまで症状が重篤化するのか、など不明瞭であることを踏まえれば、感染拡大を防ぐためにも出入りは制限せざるを得ない。

 それを理解していても、やはり精神的なダメージは大きいらしく、目に見えて落ち込んでいる。

 

「とはいえ、こうなると人員の移動も制限せねばならないな」

「と、仰いますと?」

「戦力の分散を行う。私とアルベド、コキュートス、セバスを中心に、役職的なバランスを考慮してこちらに留まる、という形でな。戦闘職に偏り過ぎてしまうが、ここの拠点拡充をより迅速に行う為にも、悪い判断ではあるまい」

 

 病か呪いかも不明であるが、拡散を防ぐ上での最善手はこれであろう。

 

(本当に、大変だな………というか、本当にただの状態異常か?仮にも古龍由来だろう物だぞ)

 

 頭痛を覚える現実の中、モモンガは事態の中の断片的な情報を冷静に吟味。こういう時に、強制的に思考をクールダウンしてくれるアンデッドの精神的特性は非常に有り難い。特に、イビルアイにより齎されたものを除き、情報らしい情報が大きく限られているこの辺境においては、そのアドバンテージのお陰で動揺を抑えて事態を俯瞰でき、より冷静に事態を調べられる。

 

「………それと、遅ればせながら」

「む?」

「死亡したモンスターの体内より、このようなものが」

 

 セバスがハンカチの包みを開いた瞬間、戦士職二人は全力でその場から飛び退き、仲間たちから距離を置いた。元一般人のモモンガはそこまで反射的な対応こそできなかったものの、何かが起きたことは、精神作用の抑制効果のお陰で理解できた。

 

「何が起きた!?」

「ワカリマセヌ。デスガ、アレガ危険デアルトイウコトハ、今ノ一瞬デ判リマシタ」

「精神耐性を無効………たったこれだけで、それを成すとは」

 

 戦慄を隠せぬ二人だが、実のところ、まだ上があるのだ。

 襲撃者であるガララアジャラがそこまで強靭で無かった為、体内で結晶化したモノの純度もそこまで高まる事が無かったからだ。幸いというべきか、帝国に流入するモンスターたちの基本的な強さは、王国に出没するモンスターや三大危険地帯の個体に比べれば平均値で劣る。この理性を奪う結晶体の、より上位の品が早々お目にかかれるものでない、という一点は、間違いなく救いになるだろう。

 

「危険、なんて物じゃないな………アンデッドにまで通じるって………」

 

 幸いなことは、このランクであれば、完全耐性を貫くのは一瞬程度であることか。

 

「黒く染まった竜………黒化と仮称するが、これの出現の際には、我々で対処に当たる事とする」

「この結晶を早急に確保する為、ですね?」

「そうだ。完全耐性を持つ我々でこれである以上、耐性も備えていない者たちに及ぶ影響がどのような物なのか………我々より酷いことになるのは容易に想像がつく以上、詳細が判明するまでは我々で対処するべきだろう。だが、問題はこのような個体が、どの程度の頻度で来襲するか、だ」

 

 頻度、個体数が多過ぎれば対処が難しく、かといってこれが少な過ぎれば情報を得る機会がそれだけ激減する訳で、来たる襲来への備えが万全から遠のいてしまう。実に絶妙なバランスを要求される、クソゲーという他ない超高難易度………そこに未知の状態異常、という要素が付加されてしまっているのだ。

 

 ただ幸いなのは、ことモンスターの知識において、帝国の戦士たちは東方からの来襲にも対応してきた経験から、王国の戦士と比べ知識の幅が広い。その分、個々への知識の深さはまちまちであるが、それらも法国が総括し、情報としてまとめ、幅広く出版している為、経験から敵を早期に割り出して貰えるだけで、対応の難易度は大きく下がる。

 

「それで、モンスターは………」

「帝国の者たちは、ガララアジャラと呼称しておりました」

 

 セバスの報告と共に、ペストーニャが転移してくる。彼女による診断の付き添いをアルベドへと任せ、モモンガは手持ちの書籍から該当するモンスターの記された箇所を開き、真っ先に生態についての情報を調べる。モンスターを示すアイコンの、一目でどのモンスターなのかが判る見事な出来栄えに軽く感嘆しつつ、しかしその感嘆も直ぐに失せ、警戒レベルが跳ね上がる。

 

「基本的な生息地は湿地帯?だが、ここは平原だぞ………となると」

(何かしらから逃げている、或いは逃げていた、と考えるべきか)

 

 冷静な思考を積み重ね、モモンガは決断を下す。

 

「リスクはあるが、マーレを呼ぶ。時間をかけて、地形も含めた防衛ラインを整えるぞ」

 

 地中を掘り進めるモンスターも居るようだが、打てるだけの手は尽くす。

 そう決定したモモンガは、早速戦力をどう分散するのが最適かと、全力で思考を回した。

 

 

 それは、遥か東の大地にて―――

 

「グルアアアアアアアアアッ!!!」

 

 爆裂と共に、漆黒のオーラを纏う巨躯が嵐の中を舞う。

 

「ギュオオオオオオッ!!!」

「キュルオオオオオッ!!!」

 

 暴風が、稲妻が荒れ狂う中、それを物ともせず、極限へと至った禍威の竜は爪牙を伸ばす。

 

「キシャアアアアアアアッ!!!」

 

 慟哭の如き咆哮が奔れば、数多の爆発が嵐の中で巻き起こり、二体の龍諸共乱入者を襲う。

 

「グゥッ、ルガアアアアアッ!!!」

 

 しかし、それでも尚翼を持たぬ竜は堕ちない。紫炎を爆裂させ、強引に推力と変えることで荒れ狂う天空を舞い、その身を極限へと至らしめた竜へと目掛け、鋭牙を突き立てんと飛翔。強靭な翼を以てそれを躱した黒き竜だが、魔竜は諦めることなく紫炎の爆裂を駆使し、その身を追い立てる。

 そこを一網打尽にせんと一対の龍が暴風を、稲妻を放てば、諸共に巻き込むことこそ出来れど、片や堕ち切る前に暗黒翼で体勢を整え、片や逃げ惑う竜たちを喰らい蓄えた紫炎………鬼火の爆裂を以て強引に空を舞う対の龍へと躍りかかる。

 

 それは、異様という他ない光景だ。超越者たる古龍、その対を相手に、漆黒のオーラを纏う竜は欠片も臆せず、それどころか自らの爪牙を以て、その血肉を喰らわんと襲い掛かってさえいるのだ。大半のモンスターは、古龍が現れては逃げる外ないというのに、あまりに異質が過ぎる。

 

「キシャアアアアアアアッ!」

「ギュオオオッ!?」

「キュルアアッ!?」

 

 激闘の最中にある三体を狙い放たれる、莫大な量の鱗粉。それが一斉に粉塵爆発を巻き起こし、更にそこへと数多の流星の如き禍々しい攻撃が雨霰と降り注ぎ、三体へと痛烈なダメージを叩き込んでいく。風で、磁力で宙を舞う対の龍が、一時的に能力の制御が覚束なくなる程の攻撃を叩き込まれ、流石の魔竜も墜落―――しかし、寸でのところで身を翻し、しっかりと着地を成功させる。

 

「グルゥゥ………ッ」

 

 そして、空いた胃袋を満たすべく、先の災禍より逃げる者たちへと狙いを定め、大地を蹴る。

 他の生存圏にて、『怨虎竜』―――マガイマガドの名を与えられた竜は、極限へと至ったその体を以て、自らの糧を求め地を蹴る。ある者は天災より逃れんと、ある者はその恐れを忘れぬまま狂いて、結果群れの体を成してしまったモンスターたちを、その爪牙を以て屠り、喰らわんと疾駆する。

 

 西の辺境に知られることの無い脅威は、紫炎の鬼火と共に、確実に接近していた。

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