《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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バルファルク、特殊個体でしたかぁ………
イブハタは少々予想外の形で………どう落とし込んだものか………


23―襲撃者

 謎の結晶を調べていた二人は、ふと接近する気配に気づいた。

 

「隠れますよ」

「ええ」

 

 即座に声を潜め、隠密魔法を行使。身を隠し、接近する者を待ち構え………絶句。

 

「グルルルル………」

 

 何かに勘づいているのか、警戒と共に唸る青炎纏う龍。その身の輝きが、秘めた力を雄弁に示す。

 

(絶ッッッ対ヤバいでありんすよね、アレ)

(あの光、マム・タロトに似てますね………歴戦王、という事でしょうか)

 

 熔山の王妃は不機嫌そうに喉を鳴らし、蒼炎を消し去ると共に、屈強な前足で岩盤を破砕。

 この地を形作るに至った巨大龍の死後、残された生命エネルギーの残滓が宿る特殊な燃石炭である『龍脈炭』を喰らう。炎龍たちの主な食糧である燃石炭であると同時に、炎妃が生まれ育った大陸南方で、彼女が歴戦王と呼ばれる精強な存在に至る手助けとなった莫大なエネルギーを秘めるモノでもあるそれを噛み砕き、飲み込む。

 

(え、アレ食べれるの?!)

(いやぁ、あのモンスターの食性が特殊なだけかと………)

 

 と、二人が揃って、宝玉の如く輝く牙を有する『炎妃龍』歴戦王ナナ・テスカトリを観察し続けてみれば、食事を終えたらしい彼女は身を翻し、空へと舞い上がる。姿を変えたパンドラが高性能な索敵スキルを用いてその動向をギリギリまで追い続け、探知できなくなり次第、急ぎ食事場へと駆けていく。

 

「パ、パンドラ?!」

「あれだけのモンスターがわざわざ食すとなれば、相応の物である筈………ビンゴ!」

 

 鑑定を行ったパンドラは、その結晶が秘めた性質に、静かに歓喜を見せる。

 

「『龍脈炭』ですか………燃焼時の熱量が凄まじいですね。これを確保できれば………」

 

 彼らの不幸があるとすれば、これの原型である『燃石炭』を発見できなかった事だろう。

 というのも、火山という環境に適応したモンスターは強力な種ばかりであり、凶暴性も高いものが多くを占めている。現状、この灼熱環境もあり交戦経験等が絶望的に足りておらず、対処しようにも相手の攻撃属性、弱点属性や攻撃手段など、情報が無さ過ぎる故、迎撃という手段を選ぶリスクが非常に高いのだ。

 強いて言えば、ブラキディオスなら空から魔法による波状攻撃で撃破できるが………空の脅威への警戒からわかる様に、その選択を取ることは難しい。乱戦となった場合、空から狙われ、叩き落とされないとも限らないからだ。《飛行(フライ)》の魔法では、飛翔能力に長けた飛竜を相手にするには、機動力が足りない。その為、こういった場所で無ければ、満足な調査もままならない。

 

「幾らか確保しましょう。取り過ぎれば、あの龍に気付かれてしまうので、程々に」

「了解しんした。アレと敵対は御免願いんす」

「いや、本当に。青い炎の性質は不明ですが、間違いなく難敵ですからね」

 

 そう肩を竦め―――視界の端を舞う、暖色のナニカに気付く。

 

「これは………ッ?!」

 

 警戒した時には、既に手遅れ。

 

 炎国の王妃は、()()()()()()()こちらを睥睨している。

 

「グルルル………ルァオァアアアアアアッ!!!」

 

 鋭利な牙は、それ自体が発火石に近い性質を併せ持つ。その打ち合わせが火花を起こし、大気中を舞う微細な、極めて高い発火性を有する塵粉に着火。それが瞬時に二人の居る領域まで、まるで見せつけるかのように激烈な爆破を連鎖的に引き起こし迫るのだ。小さくしか見えない蒼炎から、猛烈な速度で迫る爆発というのは、視覚的インパクトも劇的だ。

 

「《転移門(ゲート)》ッ!パンドラ、逃げるでありんすッ!」

「ええ!流石にこれは無理ですねッ!」

 

 出来得る限りの龍脈炭を抱え、即座にゲートに飛び込む。

 その結果、精々餌場から追い払う程度のつもりであった炎妃は拍子抜けし、つまらなそうに鼻を鳴らしたかと思えば、貴翼を広げ番と共に住まう深部へと飛翔。本来ならば、こことは異なる場所まで追い立て、適当なモンスターの相手をさせるなり、灼熱環境でよく育つ植物なりを手にすることが出来たのだが………如何せん、転移魔法という存在に対し、彼女の認識が甘かったと言わざるを得まい。

 

 そして、そういった魔法を完全に無効化できる存在は、『禁忌』の存在以外居ない。

 

「あー、死ぬかと思った………結局、収穫はこれだけでありんすか」

「ですがまあ、アベリオンの方で大まかな地図は購入してあります。これをもとに、次は別口からのアプローチを試みるなり、直接ではなく魔法を用いて遠隔で探査するなり、手段を選べますよ。少なくとも、東部から馬鹿正直に溶岩地帯に踏み入るのは、悪手中の悪手と判りましたし」

 

 炎妃に狙われた経験以前に、獄狼竜と砕竜、千刃竜の戦闘に巻き込まれた事が響いたらしい。

 幸いなことに、アベリオン聖獣連合の過去の調査をもとにした大まかな地図で、既に複数の探索経路を考案していた事もあり、『また次回』という形で、今日の調査は切り上げる事に。肉体的疲労の抑制は出来ても、精神的疲労はどうにもならず、緊張が過ぎる現状で再び潜り込めば、何かしらのミスを起こすことも予想できる。

 

 その為、探索については一度帰還した場合、その日の残りは休息に当てるよう、モモンガに厳命されているのだ。事実、今回の探索で、ローブルの危険性を身を以て理解した二人は、わざわざそれを無視しようなどと、到底思えない。

 

「デミウルゴス様に報告してから、お互い休憩しましょう」

「そう、でありんすね………ああ、早くお風呂でさっぱりしたいでありんす」

 

 二人とも、冷や汗で非常に気持ち悪いことになっており、パンドラも無言で同意を示した。

 

 

 帝国東部の迎撃拠点建設が進む中、同時に襲撃の頻度も増加を始めていた。

 

 それと並行して、王国辺境の大都市エ・ランテルは、一つの災厄との対峙を強いられていた。

 

「女子供が先だ!急いで逃がすんだ!」

「だ、ダメです!城門もこれ以上は!」

「ああ、クソッ!お前ら、死んでも足止めする気でいくぞ!」

「お前たちは避難を優先しろ!こんな時くらい、老いぼれにも格好つけさせろよ」

 

 城門が粉砕される轟音を耳にし、冒険者たちが覚悟を決める。

 地獄絵図の中、幸か不幸か、情報交換に出向いていたデミウルゴスが、気付かない訳がない。

 

「これは………」

「恐暴竜………カッツェ平野のアンデッドを食い荒らしていたモンスターが、何故今更………」

 

 都市長のパナソレイが呻くように零しながら、しかし鋭く目を細め、事態をつぶさに観察。

 

「いや、あれはおかしいですな」

「そうなのですか?」

 

 暴虐の限りを尽くす獣竜だが、その生態を知る者からしてみれば、違和感のある姿でもある。

 

「暴食の権化であるあの竜が、一切を喰らっていない。ただ破壊するだけ、なのです」

「………家屋も喰らう、とは記載されていませんでしたが」

「ええ、精々生物やその亡骸、アンデッド程度です………が、獲物が居るのに、狙わないのです」

 

 獲物とは、住民のこと。事実、人間であろうと容赦なく貪り喰らう怪物が、それを狙うことなく暴れ狂っているのだ。偶然、避難ルートと移動ルートが重なってしまっていると見抜いたパナソレイは文官にそのことを報せ、避難ルートを変えるよう指示させるべく、そのまま走らせる。

 

「わざわざ、アンデッド多発地帯という餌場を捨てるとなれば………」

「………逃げている?」

 

 そう、逃げているのだ。少しでも遠くへと………わざわざトブの大森林に踏み入る事を選ばず、だだっ広いだけの西に進む理由は、それ以外あるまい。そこで疑問として浮かぶのは、パナソレイたちが知る『恐暴竜』イビルジョーの強大さ。古龍種に次ぐ、或いは匹敵すると目される程の存在が、ここまでなりふり構わず逃げ惑う程の脅威とは何か………当然、その疑問に対する回答は用意されている。

 

「帝国の災厄に伴い、古龍でも近づいている、と考えるべきですかな」

 

 間抜けに見せる為の風貌からは想像もつかない、冷静な声と結論。

 

「古龍………」

「それも、鋼龍より更に上位の。そうでなければ、あれ程までの振る舞いは想像できません」

 

 その判断は正しい。正しいと、情報が少ないデミウルゴスですら納得できてしまう。

 

「確か、電気属性に弱いとのことでしたが………《伝言(メッセージ)》」

 

 この街に愛着がある、などということは、欠片も無い。だが、この街を喪う事となれば、彼らの貴重な最寄りの情報源の喪失に加え、モモンガの信頼を損なう可能性も出てくる。決して主を侮る訳ではないが、最低でも街の外まで撃退。可能ならば、討伐しておきたいというのが、本音であろう。

 

「パンドラ、シャルティア、緊急事態です。至急、エ・ランテルに」

 

 それだけ簡潔に告げ、竜王国へと出向中の二人への連絡を切り上げる。

 

「ではパナソレイ殿、私はこれで」

「どうなさるおつもりかな?」

「なに、私の役職は、ナザリックの守護者でして」

 

 静かに眼鏡を直し、神妙な表情で、しかし自慢げに口端を吊り上げる。

 

「防衛戦一つ果たせなくては、名折れというものでしょう?」

 

 スキル『ゲヘナの炎』を発動すると共に、悪魔系モンスターを無数に召喚。魔法攻撃に長けた者を優先的に召喚しつつ、死亡時にデバフを撒き散らすタイプを攪乱兼肉壁として前線に放つ。それと並行して、貴重な回数制限スキルを惜しみなく発動。忠実な配下である魔将を召喚する。

 

「まずは足止め、移動経路の変更です。貴方たちは避難誘導の補助を」

「宜しいのですか?」

 

 暗に、戦力とならないでいいのか、という異議。だが、デミウルゴスは理解している。

 

「貴方たちでは、足止めすらままならないでしょう?」

 

 あのモンスターが、魔将たちでは太刀打ちできない存在であると。

 

「………承知しました」

「足止めならば、家屋を通路に向け倒壊させるといいでしょう」

 

 思わぬ言葉を訝しめば、パナソレイは街を静かに睨む。

 

「トブの大森林と近しいですからな。万一の侵入に備え、家屋の建築に際しては、それらを大通りに向けて倒せば、そのままバリケードの代用と出来るよう、徹底しております。空からの襲撃に無力、という欠点はございますがな」

 

 拠点とは、無傷で守り切るべきもの。その認識が非常に強いデミウルゴスが瞠目する中、切れ者都市長は荒廃していく都市を見下ろし、鋭い目でこのままで起こり得る事態を思索。都市中枢への突入は当然であるが、その先の最悪だけは回避したい。

 

「………不味いですな」

「不味い、ですか」

「都市中枢部には、有事に備えた大型食糧庫もあります」

 

 その生態について、人類が有する断片的な情報を持つデミウルゴスは、それだけで察した。

 

「………食い荒らされますね」

「ええ、食い荒らされますな。そうなっては、非常に不味い」

 

 そう、不味いのだ。幸い、既に都市を諦める前提の避難ではあるが、戦闘を行うならば食糧庫の存在が大きく響く。消耗の激しい恐暴竜に対し、豊富な食糧のある場所で戦うなど、自殺行為もいいところだ。何より、食糧庫の防衛を果たさねば、万一撃退できたところで、その後を凌ぐことが難しくなる。

 

「そうなると………ッ!?」

 

 そこで、空から紅が飛翔。恐暴竜の背へと、鋭槍を突き立てた。

 

「ギュアアアアアッ?!」

「早速、仕留めにかかりんす!」

 

 翼を広げるシャルティアの有する、獣竜種のようなモンスターに対する絶対のアドバンテージ。飛行能力持ち相手は分が悪いが、飛行できないモンスターが相手であるなら、その優位性を崩すことは困難。それを理解しているからこそ、紅の戦乙女(ワルキューレ)は獰猛に笑み、スキル、魔法を総動員して攻撃を開始する。

 

「全く、シャルティアは」

 

 苦笑を浮かべ、デミウルゴスは彼女の主軸スキルの補助の為のモンスターを動かす。彼女の目的は討伐へと傾いているようだが、それくらいで動いて貰う方がポテンシャルを余すことなく発揮できる、と考え、敢えてそれを訂正はしない。

 

「パンドラの所在は判りませんが………今はいいでしょう」

 

 知恵者の動向を探るより、目先の事態へと意識を傾ける。

 

「最善としては討伐、次善は撃退。更に言えば、都市中枢から遠いうちがベスト………」

「いやはや、申し訳ない限りですな」

 

 パナソレイの謝辞に、デミウルゴスは微かな笑みで応じる。

 

「なに、我々の手を伸ばしやすい街を失いたくない、というだけですよ」

 

 それに加えて、少しでも経験を重ねたかったこともある。

 現地にあり、彼らに無い最たるものが経験であり、この先の脅威に対処していくうえで、欠かす事の出来ないものだ。そして、防衛戦の経験………シェンガオレンを相手に経験はしているものの、あれは特殊な事例であり、参考に出来るか怪しい。だからこそ、この機会を逃すまいと動いたのだ。

 

「それに、まだ完遂できると断言できませんので」

 

 絶対の自信を持てぬデミウルゴスの不安を煽るかのように、恐暴竜の怒号が轟いた。




★設定

・龍脈炭

ローブル熔山帯の基盤となった、『熔山龍』の生命エネルギーの残滓。
それを宿した、この地と大陸南方の『聖域』一帯でのみ得られる石炭の一種。
発する熱量は石炭の比ではない上、莫大な生命エネルギーを宿す為アンデッドでも探査可能。

ローブルではこの原型も得られるが、過酷さのあまり、現在未発見。
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