《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
竜王国―――輝きの異なる武具を纏うパンドラの手中には、それをも凌駕する輝きを放つ杖。
「あまのまひとつ様の武具を用いて、漸くですか………」
紅の甲殻で形作られたソレをイビルアイに渡し、同時にパンドラが大きく肩を落とす。
あくまで、ユグドラシルの法則に強く縛られる彼らでは、加工一つにも限界があるのだ。
「あのお方が居れば………いえ、無いものねだりをしている場合ではありませんか」
「ああ。だが、この杖………恐ろしいくらいの力を感じるな」
イビルアイの握る杖、弩岩竜の素材を加工して生み出したソレは、青紫のオーラの輝きを纏い、同時に尋常でない力を放っている。その凄まじさは
それを生産可能とする覇種の強大さもさることながら、それを容易く屠ったという滅尽龍の強大さもまた、頭痛のタネとなっている訳だが。根本のルールが異なる以上単純比較は出来ないものの、これもまたユグドラシルの法則、及びそれに近しい法則の影響が強いが故の弊害か。
「それでは、皆様準備のほどは」
「問題ありません」
新造された紅の大剣を背負うラキュースが答え、同じ甲殻を纏う剛鎚を手にガガーランが頷く。
「では、《
あまのまひとつの八割では、フル
「グルオオオオオオオッ!!!」
「ぐ、このぉッ!」
そこにあったのは、赤黒い稲妻に纏わりつかれたシャルティアと、彼女が留まる空目掛け赤黒いガス状の攻撃を、瓦礫の投擲を行う恐暴竜の姿。その姿から、皆緊急事態の意味を即座に理解し、戦闘態勢に入る。イビルアイが赤い瞳でその背を鋭く睨めば、残る二人に素早く指示。
「私が背中の古傷を抉る。その隙を逃すなよ」
「ええ」
「おうよ!」
そして、低位悪魔の舞う空へと、イビルアイが飛ぶ。地上に目を凝らせば、無惨にも食い千切られた悪魔の亡骸や、龍殺しのガスに焼かれ死んだ悪魔の亡骸が転がっている。デバフを撒き散らす死亡時スキルを持つ個体ばかりであるが、その暴れ振りを見る限り、どの程度効果を発揮しているのか、イマイチ判断できない。
それもそのはず、怒り狂った『健啖の悪魔』は自らの筋肉の隆起により、古傷が開いてしまう。その性質上、当然猛烈な苦痛が生じる為、より一層凶暴性が増すのだ。自らより巨大なモンスターにすら襲い掛かる獰猛さと、アンデッドから竜までを貪り食う食性、それらを支える単純な強靭さに、更に怒り時の凶暴性が加わるからこそ、『恐暴竜』の討伐に対し、どの勢力も積極的なアクションを起こせなかったのだ。
「っ、イビルアイとやら!このバチバチはなんなんでありんす!?」
そこで、シャルティアから疑問の叫び。
「龍殺しの後遺症だ。属性を宿す魔法の類は、一切使えなくなるぞ」
属性封じの力。それこそが、『竜』たちの用いる龍殺しの力の一端であり、危険性。こと厄介さで言えば、間違いなく最上位だろう。マジックキャスターであれば、《
「暫くすれば自然回復する―――《
と、筋肉の隆起に伴い押し広げられた、過去の戦闘による古傷へと、短剣を叩き込む。アース、即ち大地に類する属性、中でも水晶系に特化したイビルアイだが、そこで大いに役立つのが弩岩竜の力を宿す杖。弩岩竜の武器が有するのは、何処までもシンプルに高い物理性能であり、比較的物理寄りの性質である水晶系は恩恵も大きい。
「ギュアアアアアッ!?」
鋭い水晶の短剣の一部が、見事古傷を抉る。威力が増幅されている事もあり、ダメージも相応。恐暴竜の注意が空へと向き、その隙にと、地上の実力者二人が一気に動いた。ラキュースが細くも強靭な足を狙うのに対し、ガガーランは彼女を信頼し、頭を狙う準備を進める。
「はあああああああッ!」
豪快に振り抜かれた弩岩獄大剣【
「ギュアアアアアッ!?グルアアアアアアアオッ!!!」
明確な痛みから、即座に足元のラキュースを危険な存在と判断し、そちらを喰らわんと鋭牙並ぶ大顎を開く下顎に突起という形で突き出した鋭牙の数々が迫るも、そこを見逃すベテランではない。
「待ってたぜぇッ!」
弩岩獄鎚【粉塵砕】による痛烈なアッパーが決まり、下顎の牙を粉砕し、脳を揺らす。
「ギュアアアアアッ!?」
「ついでだ、これも持っていけッ!
強靭な水晶槍が深々と古傷を抉り、一際悲痛な咆哮。さしもの恐暴竜といえど、ただでさえ筋肉の隆起に伴い開かれた古傷を攻められてはひとたまりもなく、強靭な筋肉のお陰で致命傷には至らないものの、ダメージは絶大。ガガーランによる激烈なアッパーによる軽度の脳震盪、ラキュースの斬撃による足へのダメージも加わり、立ち続けることが出来なくなり、近隣の家屋を粉砕して転倒。
「今のうちに金級以下は避難誘導を進めろ!俺たちは逃げてきた道を塞ぐぞ!」
「え、援護はいいんですか?」
それを察知したイグヴァルジが怒号を飛ばす中、避難誘導中の鉄級冒険者から疑問。
「あそこに効果的な援護なぞ出来やしねぇんだ、邪魔しねえでやれる事やんだよ」
少しばかり拗らせているところはあるが、彼は自身の武器と前線で振われる武器の質の差を理解していた。彼らの武具………アダマンタイトですらないソレでは、恐暴竜の古傷をピンポイントで狙撃でもしない限り、ダメージすら与えられないと。そして、自分たちが不用意に邪魔をすれば、避難に支障が出かねない、とも。
「………武器だけ、じゃねえんだよな」
非常に上質な武器の存在がより際立たせているが、三人の連携は見事の一言。上空のイビルアイと地上のラキュースが絶えず注意を引き、隙が出来次第ガガーランが頭部に重い一撃を叩き込み、徐々に徐々に行動力を奪っていく。無論、個々に危険が伴うが、この連携精度こそが、彼女たちがアダマンタイト級に数えられるだけの成果に繋がっているのだ。
転倒し、藻掻くイビルジョーの頭部目掛け炸裂する武技『超級連続攻撃』が吸い込まれるように直撃し続ける。獄鎚による破壊の嵐が恐暴竜の牙を砕き、頭殻を割り、頑強な頭蓋に護られた脳を無茶苦茶に揺らす。それにより、転倒から復帰するどころか、強烈な脳震盪によりその場で伸びてしまう。
「………えぇー………」
「見ての通り、奴の体を支えるのは二本の足だけだからな。上手く崩せれば、隙を作ることが出来るんだ。とはいえ、やはりこれらの武器のお陰だろうな。魔法にしたって、位階そのものが上がったような気さえする程だ」
相性もあるにせよ、剛種を超える覇種の力を宿す武器の性能は、間違いなく極上。事実、彼らの誇るナザリックにさえ、覇種武器を超える性能のモノはそうそう存在しない。現状、サンプルとなるものが弩岩竜の武器のみながら、これらを超えると断言できる物理特化武器は存在しない程だ。
そして、この恐暴竜は安定した餌場を得てしまったが為、実質的な難易度は280ちょっと程度まで抑えられている………要は、経験が足りていないのだ。カッツェ平野の弱いアンデッドを数喰らう、という安定を選んでしまったために、栄養状態と併せて、今以上に至る事が出来無いのだ。
「しかし、これだけの武器があっても、尚健在とは………恐ろしいモンスターだ」
NPC指揮官と定義されていただけあり、デミウルゴスによる悪魔の用兵は見事の一言。総合力最強であり、且つ飛行能力というアドバンテージ込みながら、シャルティアひとりで進軍を抑え込ませていた事からも、それはよくわかる………が、言い換えればデバフを多量に盛りながら、足を止める以上のことは出来ていなかった。
だが、対モンスター戦の経験が豊富な三人が、更に強力な武具を纏ったことで、形勢は逆転。
『蒼の薔薇』が纏うのは、ナザリックの錆鋼龍素材の在庫全てを注ぎ込んだ、錆鉄色の鎧。それが内包する力は、激しい運動による消耗を抑制する『体術』、回避を補助する『回避距離UP』と、無傷の際攻撃力を底上げする『フルチャージ』………そして、近接戦士職である二人の場合、武器耐久値減少を抑制する『業物』が、遠距離職であるイビルアイの場合、MP消費を僅かに軽減する『反動軽減』が発動している。
どれも、防御能力は
「グォォ………ッ」
命の危険を察知した恐暴竜は、そそくさと逃走を図る。ダメージの深刻さからか足を引き摺り、西ではなく北………一時凌ぎが出来るだけの食糧がある、トブの大森林を目指す。その意図に気付いた者たちが急ぎ止めんと動く―――より早く。
「なにっ!?」
一陣の雷光と共にその巨躯が宙を舞い、轟音と共に建物を粉砕し、大地へと叩きつけられる。
ペロロンチーノの姿を模倣し、空から退路を断つべく放った炎は空振りに終わり、綺麗に抉れ、焼け焦げた地面を更に熱するのみに終わる。スナイパー型らしく広大な索敵範囲を持つ筈の、ペロロンチーノのビルドですら捉えられなかった超高速の主は、その青い瞳で忌まわしき暴竜を睨む。
「キュアアアアアアッ!!!」
「ギュアアアアッ!?」
「な、なにっ!?」
「一体、何が―――ッ!?」
続けて、数多の落雷。圧倒的強者の手で齎されたソレは、第九位階魔法《
「………おいおい、冗談じゃねえぞ」
ガガーラン、ラキュース、イビルアイは、一様に死を覚悟した。
「………ギュルゥ」
静かに
「ぶっ、はあああああああッ!?なんなんだ、ありゃあ?!」
「………一度だけ、インベリア周辺で見たことがある。『幻獣』キリンで間違いないだろうな」
あそこまで強力ではなかったが、と付け加えるイビルアイだが、細部の違いには触れない。
(目の色もそうだが、細部が大分違っていた………単なる個体差、ではないだろうな)
ツァインドルクスに聞かされていない、強大極まりない存在。イビルアイも目撃した経験のある古龍であるが、格があまりにも違う。纏う空気で言えば、滅尽龍にこそ劣れど、覇種と同等、あるいはそれ以上の力を秘めている、と即答できてしまう程。風貌に多少の差異はあれ、纏う神々しさはこちらの方が遥かに上だ。
「………敵視されて、いんしたねぇ」
敵視、ではなく警戒なのだが、如何せん圧が強すぎたため、綺麗に誤解されている。
純白の幻獣もまた、この北西部の辺境に集う『竜王』を警戒する存在であり、『始原の魔法』というワールドアイテム級の力を、不用意に振われぬよう監視する者の一角………パンドラを警戒しないのは、その本質が中立であるからか。
「………恐暴竜を滅ぼす為に?それとも、北上させない為でしょうか?」
敵意、と誤解しながらも、しかしデミウルゴスは冷静に思考を巡らせる。
北、と口にした彼は、静かに北方―――トブの大森林と、アゼルリシア山脈を睨んだ。
★設定
・龍殺しの後遺症
龍属性やられのこと。
属性攻撃が打ち消される他、属性攻撃魔法、スキルは発動した瞬間から不発に終わる。
魔法職、特に属性特化のエレメンタリスト系の天敵。ただし、イビルアイはこれに強い。
・杖(魔法職武器)
ガンナーに分類。
剣士武器から切れ味を除いた他、武器によって特定魔法の強化が存在。
また、強化を重ねた武器には、素材元となったモンスターの力が宿る事も?
・魔法職(スキル)
ガンナー分類の為、スキルもそちら準拠。
反動軽減→消費MP軽減
連発数+1→二重化以上で使用時、MP消費無しで追加発動
各弾強化→通常(単体攻撃)、散(複数・範囲)、貫通(抵抗難度強化に補正)
など。ただし、当然のように知識も何も皆無である。
・クジュラシリーズ
蒼薔薇三人の纏う鎧。当然未強化であるが、上位相当のイビルジョー相手には充分。
神官戦士として回復が可能なラキュースの存在により、フルチャージ維持が容易。
そこに、アダマンタイト級としての経験を併せた連携が加わり、無類の強さとなった。
・覇種武器
弩岩竜をはじめ、『覇種』に分類される七種のモンスターの素材により、一部武器の性能を引き上げることに成功した武器群。同じように力を引出した一部防具と併せる事で、ギルド武器でも最上位クラスに近しい力を発揮できる。
ただし、武具の生産ノウハウ等の不足、覇種の希少性から、作成は困難を極める。
また、この段階以上の力を引出す事が可能な武器も存在しているが………?
・弩岩獄大剣【
独断と偏見のもと、ラキュースは大剣使いと判断し持たせた武器。
名の通り『弩岩竜』オディバトラスの素材を用いた覇種武器。
何故ここに書いたかというと、読みがユニーク過ぎる為。
一応、念の為断っておくと、この読み方が公式である。