《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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26―強いられた変化

 弾丸を切り替えてから、シズ・デルタを襲う反動は一気に軽くなった。

 

(弾によって違う?炸薬は無かったはずだけど………わからない)

 

 カホウ【狼】を抱え、シズは迎撃拠点外周部を駆ける。

 

「ッ!」

 

 そして、隙を見つけ次第、反動の軽い通常弾を装填した重弩を構え、撃つ。

 『アサシン』職のスキルが注意を逸らしたところで、『スナイパー』職の補正で素早く狙いを定め、撃つ。反動が軽い事もあり安定した弾道と共に、放たれた弾丸はラージャンの傷口へと吸い込まれ、焼け爛れた傷を広げ肉を抉る。

 

「ギュアアアアアアッ?!」

「ふっ!」

「《現断(リアリティ・スラッシュ)》ッ!」

 

 怯めば、そこに空から畳み掛けられる。シズに意識を向けさせまい、という一念からの過剰火力による飽和攻撃が金獅子の注意を引き、再びシズの安全を確保。素早く物陰へと隠れたシズの次の行動は、カラの実へと毒々しい紫色の茸を詰める作業。『毒テングダケ』との調合により完成した『LV1毒弾』を装填しようと、通常弾の時以上に重いレバーを引く。

 ほっと一息吐いた彼女は、物陰から静かに機を窺い………隙を見つけると共に、飛び出す。

 

「―――ッ」

 

 自動人形(オートマトン)の冷静な思考が、照準を傷口へと合わせる。そこから反動を考慮した修正を加え、引き金を引けば、強烈な反動と共に弾丸が放たれる。金獅子の無防備な背中へと突き刺さった弾丸は、肉を抉りながら毒素を放ち、その身を毒で侵していく。

 が、金獅子はその屈強な四肢を使い、強引にシズ・デルタを目掛け跳躍。

 

「ッ!?シズ、逃げろぉ―――ッ!!!」

 

 モモンガが、パンドラが、コキュートスが道を阻もうと遠距離攻撃を放つも、金獅子は足を止めない。その剛腕に、その機械の体躯が砕かれるか―――絶望、悔恨、憤怒に包まれた外野たちが気付かない中、シズ一人は自身の体躯に奔る()()()に気付き、明確な驚愕と恐怖を抱いた。

 

『あら、あの悪趣味な肉人形とは違うのね。まあいいわ、少しばかり『実験』させて貰うわよ』

 

 未知の存在のその声が、力が、自動人形の体躯に、その更なる根底に干渉する。

 ユグドラシルという異邦の存在に、『彼女たち』の法則が何処まで馴染むのか、試す為に。

 

「―――ぁ」

 

 その思考に紅雷が奔れば、この場を切り抜ける最善手が、予想だにしない形で導き出された。

 

「っ、ハッ!」

 

 振り抜かれた拳を踏み、大きくラージャンの後方に抜ける形で跳躍。

 

「狙い、よし………!」

 

 そして、空中で発射。三連発の毒弾が背中へと叩き込まれ、金獅子から絶叫が響く。着地と共に振り返ったシズは続けて、通常弾へと弾丸を切り替え、素早く撃ち込んでいく。他ならぬシズ自身が驚くほどにスムーズな所作であるが、当然金獅子とて怯んでいるだけではなく、彼女を狙い突撃もする。

 

(これで………ううん、これしか、ない!)

 

 迫る剛拳に対し、錐揉み回転と共に飛び込む形で回避。武器を畳んだシズは地面を転がり、金獅子から大きく距離を置くと共に、紅雷により()()()()()()知識を実践するべく、最低限のチェックもまだの弾丸片手に、この世界で生まれ育った金獅子へと跳ぶ。未知の体術により攻撃をやり過ごされた事で、動揺する金獅子の尻を踏み跳んだシズは、その衝撃を利用し重弩の展開と素早い装填を済ませ、金獅子の顔面へと撃ち込む。

 着弾と共に拡散したソレは、顔面全体を巻き込む形で散らばったモノを爆発させ、その熱と衝撃に加え、爆音で金獅子を強襲。更にアグレッシブなことに、突然の爆発に怯んだ金獅子の顔面を踏み、再び跳躍したシズは、今度は重弩そのものを構えて落下し―――

 

「ハァッ!」

「ギュァァァッ?!」

「「ええええええええええええええ!??!?!」」

 

 全体重と重弩の重みを乗せ、金獅子の右角をぶん殴ったのだ。

 

「ちょ、シズぅ!?」

「まだ、足りない」

「っ、ええい!説教は後だ!パンドラ!コキュートス!」

 

 綺麗に変わったシズに驚きつつも、モモンガは動揺の鎮静化のお陰で、即座に切り替え、動く。

 

 何が原因かといえば、間違いなく紅雷の主の干渉であるが、『彼女』が手を加えることが出来たのは、ナザリックの………もっと厳密には、デミウルゴスの判断にある。大前提として、プレアデスの活動域はカルネ村周辺、及び安全の確保されたトブの大森林の辺境………そう、トブの大森林に、活動域を有しているのだ。

 トブの大森林を始め、モンスターたちが集まり、確たる生態系を構築している領域の多くにて、この世界本来の法則、及びユグドラシルの法則の大部分が損なわれ、『彼ら』が本来属する世界の法則が色濃く表れる。浅いエリアでは影響も薄いが、ゼロではなく、その影響をプレアデスが受けていたからこそ、シズ・デルタに対し、『彼女』が干渉することが出来たのだ。

 

 言うなれば、『ユグドラシルの法則』というヴェールの僅かな綻びを、力業で大きな裂け目まで広げていくようなものだ。あの瞬間、シズ・デルタはナザリック地下大墳墓のギルドNPCという括りから強引に引き剥がされ、一個の命として確立させられたのだ。

 

魔法三重(トリプレット)最強化(マキシマイズマジック)、《現断(リアリティ・スラッシュ)》ッ!」

「はぁッ!」

 

 魔法が、業火が叩き込まれる中、シズも的確な援護射撃を行う。スナイパー職の恩恵を、大いに受けた精密射撃の数々を、しっかりと傷へと叩き込んでいるが、やはり経験不足からか、連携としてはやや拙いところが目立つ。それを、モモンガの経験とパンドラの頭脳が補うことで、その火力と併せ強引に金獅子を抑え込んでいる。

 ラージャン自身もかなり消耗しているが、まだ絶命には至らない。その生命力は伊達ではない。

 

「しぶといな………!」

 

 生物としてあるべきリミッターが壊れた金獅子は、絶命の瞬間まで暴れ狂うのみ。弱みすら見せないのは、最早後がないと察知しているからか、迫りつつある絶対者への本能的な恐怖を和らげる為か。

 

 炎は消え去る刹那が最も眩いというが、その言葉を実感させんばかりの暴れ様だ。

 

「こいつ………ッ!」

 

 シズはカホウを畳み、小脇に抱え全力で逃げる。気光ブレスを放つエネルギーも枯渇したのか、ただただ暴れ狂う狂獣であるが、その膂力に巻き込まれれば、現地人以下の耐久力しかない彼女では粉々確定。強烈な一撃に対する対処は出来ても、嵐の如き連撃に飛び込むのは自殺行為。

 半端に距離を詰めていた事が仇になっているが、そこにアルベドがすかさず割り込む。

 

「やらせるものですかッ!」

 

 【真なる無(ギンヌンガガプ)】の破壊不可属性を利用した防御と、その筋力を組み合わせた防御でも尚、その体はどんどん後退させられていく。が、言い換えれば攻撃は一切受けておらず、また武器の性質をも駆使することで、暴風雨の如き乱打を完全に凌いでいる。そして、如何にリミッターが外れていようと、体力には限界があり、その底が見え始める。

 

「くっ、たばれえええええええッ!!!」

 

 その僅かな動作の鈍りを見逃さず、横っ面を鉄拳で殴打。その衝撃で角が折れ砕け、後足で踏ん張っていただけの体躯が綺麗に転がっていけば、立ち上がる事も難しいその体躯に、一斉に攻撃が集中。モモンガの魔法、パンドラの業火、コキュートスの斬撃、アルベドの剛力が一斉に集中すれば、瀕死の金獅子に耐え凌ぐ術は無く、瞬く間に命火は消え去る事になった。

 

「ギュアァァァアアァアァ………ッ!」

 

 力尽きた金獅子から一度離れた一行は、それぞれ身構え………大きく肩を落とし、安堵。

 

「終わったか………しかし、こいつだけとはな」

「不自然ではありますが………以前にも増して凶暴でしたし、妥当と考えるべきかと」

 

 長く襲撃を見てきたアルベドが冷静に分析し、門の奥へと視線を向ける。

 

「セバス、共に見張りに立つわよ。コキュートス、申し訳ないけど、城門の予備を」

「ウム。取換ヲ急ゴウ」

 

 比較的戦闘に関与しなかった二人が率先して動き、コキュートスも連日の襲撃に対応するべく編み出した手法を実行するべく、疲労を押して動く。過ぎ去る刹那、一瞬だけ鋭い視線をシズに向けるも、二人はそれを自身の役割でないと割り切り、主の裁量に一任し、淀みない足取りで拠点外部へ。

 

「………さて、シズよ。手を借りた手前申し訳ないが、幾つか訊かせて貰いたいことが出来た」

 

 モモンガが赤い眼光を鋭く光らせる中、シズは緊張の面持ちと共に、静かに跪く。

 

「………はい」

「まず、無謀な参戦だが………これはパンドラが許可した事だ、追及はせん」

「いえ、これは私が望んだ事です。罰されるべきは、パンドラ様ではなく私です」

 

 堂々と、主に意見できたことに驚くシズであるが、それはモモンガも同じ。

 

「………ではシズよ。何故、あの時逃げるのではなく、立ち向かうことを選んだ?」

「………御方のお役に立ちたい、と思ったからです」

 

 そう告げると共に、静かに顔を上げる。その瞳には、確たる意思があった。

 

「無謀とはわかっています。ですが、こうして力を示さねば、私たちはモモンガ様のお役に立つ事すら許していただけません。私たちは『戦闘メイド』プレアデス………戦場でお役に立つ事こそ、至上の喜びなのです」

 

 そう、戦闘メイド。メイドである以前に戦闘員である彼女たちが真に臨むのは、前線で戦うことなのだ。モモンガの手を煩わせる事無く、自分たちで事を片付ける………この世界では、困難極まりないとわかっていても、そう望んでしまう………その筈、だったのだ。

 

(あ、れ………?私、なんで………)

 

 しかし、シズは言い終えた瞬間、自身の違和感に気付いた。

 あれ程渇望していた役目を遂行できたというのに、それに対する喜びが沸き上がらないのだ。

 

「あ、あれ?なんで、私、確かに………」

「し、シズ?どうした、シズ!?」

 

 この世界を侵す法則に侵され、個として独立させられた彼女は、最早ナザリックに囚われない。そう、シズ・デルタという存在のアイデンティティが、根幹から揺らいでいるのだ。ギルドに仕えることを、ギルドの役に立つことを至上とするギルドNPCの枠組みから強引に引き剥がされたという事実を認識するには、まだ少し時間がかかるだろうが………それを知らなくとも、彼女たちの主が対応を変えはしない。

 

「そ、その、すまなかった!別に、そんな責めている訳では………」

「ちが、違うんです、モモンガ様………私、わからない、けど………」

 

 泣きそうなのに、自動人形(オートマトン)故涙を流せない。それでも、その苦しみ様から事態の深刻さを察したモモンガは、素早くパンドラと目配せし、《転移門(ゲート)》を発動。素早く立ち上がり、復旧に取り掛かる者たちにラージャンの亡骸の移送を任せ次第、パンドラと共に仮拠点へと移動。

 

 詳しく聞けば聞くほど、二人は事態の深刻さが予想以上であることを知らしめられた。

 

「いきなり聞こえた声と、流れ込んだ知識………どう思う、パンドラ」

「かなり不味いですね。しかし、情報自体はかなり有益なのがまた………」

 

 渋い顔を突き合わせる親子の前では、シズが今にも泣きそうな顔で頭を抱え、蹲っている。

 

「………シズよ」

「っ、はい!」

 

 どこか怯えが見え隠れするのは、染み付いた御方至上思想によるものか。

 

「お前の全てを赦す。だが、お前自身がそれをできるか判らん以上、当面はこちらに残留して貰おうと思う。パンドラが新たに発見した武器が普及するようならば、その使い方のレクチャーや弾丸作成の補助をして欲しい。それに忌避感があるのなら、罰と思ってくれても構わない」

 

 そう告げてから、モモンガは思わぬ重大情報に内心頭を抱えながらも、立ち上がる。

 

「では、パンドラは当初の予定通り。シズには事が動くまで、私の手伝いをして貰おう」

 

 かなりのショックを受けているシズを慮り、モモンガはそう指示を下す。

 パンドラの退室を確認してから、モモンガは腰を下ろし、シズに座るよう促す。

 

「さて、それでは早速で悪いのだが」

 

 ビクッ、とシズが姿勢を正す中、モモンガは至極真剣に、現状強く惹かれるモノについて質問。

 

「あの武器、使い勝手はどうだった?」

「………へ?」

「いやなに、ガーネットさんのように、銃を使う仲間も居たからな。それと似た武器ではあるようだが、微妙に色々と違うみたいだからな………あ、それもだが、森の方も色々と気になっていてな。もし新発見の類があったようなら、是非とも教えて欲しいのだが」

 

 少しでも気を紛らわそう、という思惑もあるが、同時に自信の欲求も満たす話題のチョイス。

 とはいえ、その欲求が顔を出しているお陰か、支配者ムーヴも幾らか和らいだように感じ、シズはふと表情を綻ばせ、自身と姉妹たちがアウラと共にやってきたことや、森の賢王に教わった諸々などについて、楽しそうに語っていった。




★設定


・『シズ・デルタ』

??の介入により、ギルドNPCの枠組みから引き摺り出された存在。
早い話、竜たちの世界の法則が色濃く適用されるようになり始めた。

結果、それまでの自身との乖離に苦しむことに。
現在、モモンガがカウンセリング中。淫魔が嫉妬するのも時間の問題か………


実は、プレアデス全員とアウラも、同様のことをされる下地が出来上がっている。


・世界の法則

大まかに、『元の世界』『ユグドラシル』『MH世界』の三つ。
現在『元の世界』『ユグドラシル』二種が色濃く適用されているが、『MH世界』の法則も多少の影響を及ぼしている。また、各地のモンスターによる生態系が構築された環境では、特にその影響が濃く、そこを起点として徐々に影響力を増し続けている。

そして、トブの大森林のようなモンスターの生態域に長期間いる場合、彼らの世界の法則の影響を色濃く受けるようになる。シズ・デルタが外部からの干渉で一気に段階をすっ飛ばしたのに対し、自ら長期的に身を置いたことで適応したのが、ブレイン・アングラウスである。
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