《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
シズ・デルタの新生………厳密には、金獅子の討伐から早数日。
予言の時が近づいている事もあり、徐々に外部からの人員流入が増え始めた頃。
「《
静かに口ずさめば、
「職業レベルの概念が消えた………いや、薄れたのか?流石にそこまでは判らないか」
基礎中の基礎の攻撃魔法であるが、遠距離純戦士であるシズが使える事自体、異常なのだ。
その事実を噛み締め、思索するモモンガに意識を向けず、シズは指示通り、カホウも用いての訓練を淡々と進めていく。随分と慣れてきたのか、動作も洗練されていく一方、物資の問題から実際に撃つのは何故か無限に生成される通常弾LV1のみであり、実戦とは程遠い形式だ。
「………やっぱり、こっちの方が早いかも」
そして、そんなでも、付け焼刃の魔法より最低威力の弾丸の方が威力がある。
「むぅ………魔法ガンナーって、浪漫があると思うんだけどなぁ」
(待てよ?シズに起きた異変が俺に起きれば、魔法無しで好きな武具を………いや、リスクがまだ不明瞭なんだ、変な気は起こすな。万一、使える魔法が使えなくなる、なんてことになったら目も当てられないんだからな)
一人物思いに耽る中、シズは訓練を切り上げ、モモンガのもとへ。畳んだ重弩を小脇に抱える姿は可愛らしいが、表情にはやはりまだ不安などが見え隠れしている。というのも、精神レベルで大きく変質しており、ナザリック第一主義が消え去った結果、彼女が思っている以上に優先順位が変動しているのだ。
結果、不敬を働いていないかどうか、ひたすらに不安になっているのだ………モモンガは疎か、他ならぬシズ自身の心の奥底すら、不敬だなんだということを、気にしなくなりつつあるというのに。結局のところ、彼女が過剰に恐れる原因はナザリック時代の、NPCとしての在り方であり、敬意こそあれ、過剰過ぎた分が綺麗に抜け落ちているのだ。
その欠落が、結果として余計に不安を掻き立ててしまっているという訳だ。
「ところで、近頃随分と討伐数が増えているようだが」
「単純に、武器の質が上がったお陰だと思います。皆、対処自体には随分手馴れてました」
モモンガの言うように、パンドラの手による武器生産が行われてから、襲撃による損害が大きく抑えられているどころか、討伐数が着実に増えているのだ。無論、そこまで強力でない個体が大半であるが、徐々にであるが確かな成果ということもあり、士気は確実に大きく向上している。
「成程………我々が手古摺っていた事を考えるに、やはり経験の差か」
それに加えて、不慣れな乱戦ということもあるのだろう。無論、彼らも乱戦の経験が豊富、という訳でもないのだが、ナザリック側の情報が知識頼りであるのに対し、現地の者たちは経験も伴っている分、乱戦でもある程度対処が容易となる。そこに、これまでと違い確かな手傷を負わせられるだけの武器が伴えば、それだけでかなり効率が上がるのだ。
そして、着実に経験を重ねているシズには、もう一つの選択肢が。
「新しい武器は試したか?」
「試しました、けど………その、酷いといいますか………ええと」
ちらり、と視線を向けたのは、金獅子の角二本をそのままくっつけた大筒のような重弩。
反動自体は問題なく、威力も同様。装填自体は寧ろ軽々出来る程なのだが………
「ああ、うん。見ている限り、ブレ方が酷いからなぁ」
「いえ、本当に。近づかないと当てられないので、その………はい」
補正手段は確かに存在するのだが、それを探り当てるだけの知識と余裕が存在していないことが、一番の不幸だろうか。しっかりと整えて運用出来れば強力なだけに、惜しいところだ。
シズの訓練が終わってからは、モモンガの付き添いで拠点内部の散策になる。人員の移動を解禁したことに加え、予言の日が刻一刻と迫る事もあり、短期間で活気が増したそこを回るだけでも、存外新鮮なのだ。
「お、これはいいんじゃないかの?」
「え?あの、何をどうしてこうなったんですか?」
「いやぁ、あのデカブツの機構を他の武器に組み込めんか、と思ってのぉ」
「サイズ的に槍の形がええかのぉ、と思って色々試しておってな」
「「「そしたら、こうなった」」」
そんな会話が聞こえてくるのは、ドワーフや現地人も加わった鍛冶場の区画。
「いや、あの、これ使える人」
「すまない、それなのだが、俺に試させてはくれないか?」
いるんですか?と続けようとしたパンドラに、そう依頼する人物。
「貴方は………帝国のナザミ殿でしたか」
「ああ。腕力には、それなりに自信がある」
そう告げる彼の視線は、浪漫を形にした結果、偶然完成したことで発見された大型の近距離武器『ガンランス』へと向けられている。砲撃機構内蔵のランスという大型武器と、大型故の隙をカバーする為の大盾をセットで運用することを前提としたそれは、奇しくも竜たちの世界でも普及している代物だ。
「………一応、こちらでテストをしてから、という形にしたいのですが」
「では、お前たちが付き添いという形でテストしてはどうだ?」
そう提案したのは、偶然訪れていたモモンガ。その目には、未知なる武器への好奇心で満たされており、上質な鉱石を多量に用いた鋼鉄の銃槍を興味津々に見つめている。すると、帝国出身の鍛冶師がそれを持ち上げ、神妙な顔を彼らに向ける。
「それなんですが、先にお伝えしたい事がありまして」
と、銃槍を半ばから折る。機構に則った動作と共に薬莢に収まったままの砲弾が吐き出され、床に落下したかと思えば、乾いた音を立ててから光の粒となり消失。アイテム破壊のエフェクトと同様のそれに驚くのも束の間、見せられた薬室にしっかり収まる砲弾が存在することが判り、驚きの声が。
「えええ………どうなっているんですか?これ」
「さっぱり判りません。それとこれ、実は砲弾だけじゃなくてですね………と、続きは外で」
そこで切り上げたのは、屋内でやるには危険だから。それを了承したパンドラ、モモンガにシズとナザミ、ガンランスを完成させた鍛冶師たちは、最寄りの訓練場―――主に新調した武器の感覚を試す為の場―――へと移動。そこで魅せられたものは、色々な意味で驚くべき者であった。
「では、まずは私めが試しに」
「いや、俺がやろう。優れた鍛冶師に何かあってはならん」
と、ナザミはガンランス………彼の立場から『インペリアルガーダー』と名付けられるそれを、鍛冶師の手から受け取る。確かな重みをもつ鋼鉄の銃槍と、それと合わせたデザインの鋼鉄の大盾を構えた彼は、静かに訓練用ターゲットへと、まずはその鋭利な刃による刺突を叩き込んだ。
「手応えは悪くない。それと、これは刺突より………ふッ!」
そこから、二枚盾で多くの攻撃を凌ぎ続けた剛腕により銃槍を振り上げ、上段から叩きつける。
「この方が威力は出るか。だが、そこからどうカバーするかが問題だな」
ターゲットを粉砕した銃槍を持ち直し、ナザミは持ち手の引き金に指をかけ、引く。
「むぅっ!?」
「おお!」
強烈な反動にナザミが驚く中、モモンガもまたその光景に感嘆の声を上げた。
「これはまた………しっかり踏ん張らねばならないな。扱いも難しそうだ」
「まあ、複雑な機構ですからね………というか、何故こんなものを」
「いや、だが悪い事ばかりではない。この砲撃を至近距離から浴びせれば、かなりの痛手となる筈だ。無論、扱うのは簡単ではないが、習熟できれば攻防一体を高いレベルで体現できるだろう。どうか、俺に試験運用をさせて欲しい」
静かにナザミが頭を下げる中、モモンガは見るからに浪漫に溢れた武器をじっと見つめ、内心の欲求と静かに格闘を繰り広げる。純魔法職であり、且つ現在ユグドラシルのルールの影響以外を殆ど受けていない彼では、装備すら出来ない武器である以上、その葛藤は無意味なのだが。
「両盾と比べ、防御力は下がるだろうが………使いこなせれば、あちらより戦線維持は楽だろう。守るだけでは、この先で通じるか判らん以上、何としてもこれをモノにしなければな」
モンスターと人間とでは、当然前者の方がほぼあらゆる面で上。それが数多攻め込む防衛戦の中では、耐え凌ぐ以外の手段が極端に少ないこれまでのナザミのスタイルだと非常に不利なのだ。なにせ、眼前の脅威を取り除くにも、仲間の協力が不可欠であり、乱戦でその協力をどこまで得られるかも不確かなのだ。
だからこそ、彼は程々の火力と高い防御能力を併せ持つことを可能とした、この最新武器へと目をつけ、使いこなさんと決意を固めたのだ。自らの生存もそうであるが、彼は立場も加わりその存在が士気に関わる人間でもある。その意味でも、これは非常にタイミングが良かったと言えよう。
「では、モモンガ様。私はエネック様の試運転に付き合うので」
「ああ、わかっているさ。少しばかり、見学させて貰うだけだ」
静かにその場を後にしたモモンガとシズは、その足で工房へ。新造された重弩や、その新造過程で新たに発見された軽弩などを筆頭とする武器の調整の為の人員、設備などが置かれたそこで、パンドラたちが作成した武具のデザインを眺めるのが、ある種の楽しみでもあった。
「………あ」
そんな声が隣から聞こえたかと思えば、シズは適当な道具を手に取る。何を、と呆気に取られる間もなく、彼女はカホウを展開。道具を器用に駆使し一部を分解したかと思えば、抜いていいのかも不明な機構を引っこ抜き、再度組み立てる。唖然となる周囲に対し、シズはマイペースに武器を構え、少しばかり顔を顰める。
「やっぱり、重心が………」
「えーっと………あれは、抜いても大丈夫だったのか?」
モモンガが恐る恐る指さすモノを一瞥したシズは、何といえばいいかと口籠る。
「あれは………なんて言えば………」
説明が難しいと判断したシズは、一度弾丸を装填。
「んん?」
「さっきのは、一気に大量に装填、連射する為の機構でした。けど、この反動だと活かし切れないと思ったので、それを取り払って機構を単純化したんです。重心が変わって取り回しが難しくはなりましたけど、発射機構周りが単純化した分、威力の減衰も抑えられている………筈」
「おお、成程。では、早速試してみようじゃないか」
歯切れの悪いシズだが、モモンガはそれが何者かに与えられたものである、と判断。深くは追及せず、どの程度変化したのかを確かめようと提案。好奇心の見え隠れするその弾んだ声に面食らうシズは、直ぐにカホウを抱え、共に訓練場へ。
その姿を遠目に眺め、嫉妬の炎を燃やす影が二つある事に気付かぬまま。
「シズ・デルタぁぁぁぁ………!」
「態度もなんかおかしいでありんす………!」
アルベド、シャルティアの両名だ。とはいえ、シャルティアの言葉には、アルベドも正気になり
「ええ、そうなの。先日の防衛戦以来、様子がおかしくて………モモンガ様は、そのケアと共に原因を探るべく、ああして彼女を傍に置いているのよ。今でこそ落ち着いているけど、直ぐ後は本当に見ていられなかったわ」
そこで、シャルティアからとても常識的なツッコミ。
「………それに嫉妬するのは、ちょっと違うんじゃありんせんか?」
「けど、それはそれとして妬ましくない?」
「妬ましいでありんすねぇ」
それはそれとして、妬ましく思う気持ちも本物なのだが。
「………ああ、プレアデスを呼ばない理由はそれでありんすか」
そして、理由を整理したシャルティアが結論付ければ、アルベドが驚く。
「貴女、そこまで頭よかったかしら?」
「失礼な!?わたしだって、あんな魔境に放り込まれりゃ賢くなるっつーの!」
語気が荒くなるのは、過酷な経験を思い出したストレスでか。最後、若干涙声になっていることに気付いたアルベドは目を丸くし、シャルティアをまじまじと見つめる。彼女がそこまで追いつめられる程過酷な環境、というのが予想できないアルベドが口にしたのは………
「な、なにがあったの?貴女の討伐経験を考えると、そこまで酷いなんてことは」
「アルベド」
いっそ寒気を覚える程、穏やかな笑顔と声色に、淫魔の顔が引き攣る。
「あとで、熔山帯に行きんしょう。あそこの石炭が一番良質なんでありんすよねぇ」
「却下で」
「いいから行くぞ!あそこに行けばこの世界がどんだけヤバいか一発でわかんだからな!?」
与えられた設定を投げ捨て、シャルティアはアルベドに掴みかかる。
翌日、アルベドが与えられた部屋から出てこなかったかどうかは、定かではない。
★設定
・シズ・デルタ
魔法職を持たないのに、魔法を使えるようになった。
が、威力は非常に低いため、恐らく今後使われることは無いだろう。
・ガンランス
現地職人たちが偶然完成させた武器。
複雑な構造である分運用難易度が高く、また大型で重い分取り回しに難あり。
帝国騎士のナザミ・エネックが試験運用を行うことに。