《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
アルベドが多大なメンタルダメージを負った翌日。
彼女とシャルティアが偶然採取した植物は、シズの手に渡っていた。
「………できた」
「………え、これどうなってるんだ?キノコと葉っぱで、これが?」
彼女の手中にあるのは、爆薬………そう、爆薬。
現地で知られる製作法より、格段に楽な手法で完成したそれは、量も十分。
「やっぱり………ってことは、もしかして」
同じ葉をカラの実に詰めれば、次の瞬間には一発の弾丸が。
「マジか!?」
「………これ、栽培できれば、きっとすごいことになる」
そう呟き、シャルティアがこれまでの経験から回収した種子と、アルベドの力で地盤ごと引っぺがして持ち帰った数株へと視線を向ける。根が一部千切れてしまってはいるが、ナザリックとカルネ村の共同農場で徐々に手を加えていけば、それなりの生産は可能になると思われる。それが叶えば、爆薬を始めとした諸物資の流通に大きく関与も可能となるだろう。
この世界に根付く上での利益として見ても、この世界で生きていく前提で見ても、非常に上等と言えよう。無論、不用意に独占しようとすれば反発は必至。だが、カルネ村という、良くも悪くも『恵まれた土地』はそうそうなく、また『森の賢王』の支配域に農場を設えることが出来たことを思えば、他より優位に立つことは容易いだろう。
………とはいえ、モモンガはそこまで頭を回していないが。
「しかし、面白いな。どんなものなのか、試してみたいな」
「それなら、少し待ってください」
と、シズは細かく刻んだ葉………『火薬草』のそれをカラの実に詰め、『LV1火炎弾』を量産していく。そうして完成したソレをカホウに装填していけば、連射機構を取り除いた分莫大な量が収まる。しかし、それでも尚余る余剰スペースに。シズは無言で目を細め、少し操作を加えれた後、余剰スペースに装填した火炎弾を回し、他の弾丸を続けて装填していく。
「………よし。終わりました」
「大量に入るな、それ」
「それだけ大きな装置を取り除きましたから」
と、カホウを畳む準備に入ったところで、けたたましい鐘の音が響いた。
「っ!」
「お供します!」
弾かれたように《
その先に居たのは、黒く染まった火竜リオレウス―――『黒炎王』の名が過るも、紅い龍殺しの残滓を放つ傷が、無数に刻まれた体躯が、灼熱の輝きを放つ胸部が。そして、引き連れられたモンスターの存在が、その先の思考を許さない。鋭く響き渡る、本能を強く刺激する咆哮が、全身全霊を以て望まねば死ぬのみだと、現実を突きつける。
「ギュアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ぐぅッ!?」
「っ!?」
モモンガ含む、迎撃用の広場に集まった者たちが竦み上がる中、雄火竜の前の黒い塊が蠢く。
「――――ッ!!!」
鳴き声にも聞こえる、軋むような破裂音。その主の名は『影蜘蛛』ネルスキュラ。
『毒怪鳥』の外皮を纏い、自らが苦手とする電撃への耐性を得た鋏角種モンスターは、その肢で大地を踏み締め、黒く染まった体躯を以て雷顎竜へと躍りかかる。それを阻止するようにヌシたるリオレウスが飛翔し、強靭な脚でその体躯を掴み、持ち上げる。
武器である前肢も、致死の猛毒を宿す鋏角も届かず、腹部に形成された猛毒の結晶も、催眠毒を宿す毒針も届かせることが出来ない中で、その体に叩き込まれるのは灼熱の劫炎。ゴム質の外套皮が最も苦手とする攻撃を、至近距離から叩きつけるように浴びせられ続けたことで、悶絶したネルスキュラはリオレウスの拘束を逃れ、墜落。
「ギュアアアアッ!!!」
「グルアアアアアアッ!!!」
叩き込まれる灼熱の刃が、黒染めの体躯から前肢を斬り落す。そこへとすかさず、猛烈な雷光を纏った剛顎が喰らい付き、外殻をバリバリ破砕し、電撃を叩き込んでいく。悲鳴染みた金切り音が響く中、とどめを刺さんと構えた三体のモンスターは、しかし何かを察知し大きく身を引く。
「グルォオオオオオオオオオッ!!!」
「ッ!?」
「なにか、来る………ッ!」
慟哭染みた咆哮と共に、紫炎を纏い飛来する影。息も絶え絶えの影蜘蛛へと喰らい付いたその影は、激突によりその体躯を弾き飛ばし、鋭利な尾を以て息の根を止める。ヌシたる火竜が威嚇するように吼え叫ぶ中、『雷顎竜』アンジャナフ亜種と『斬竜』ディノバルドは左右に広がり、凶悪無比なる餓竜より距離を置きながら、警戒を続けている。
「な、んだ、あれは………」
「不味い、不味いぞ、ありゃあ………!」
一目でわかる、その脅威度。モモンガは即座に空のヌシより少しばかり劣る程度であると目星をつけ、経験は豊富にある冒険者たちも警戒レベルを跳ね上げる。三体を獲物と見做した牙竜へと、ヌシ・リオレウスが咆哮を響かせ、三対一の激闘の幕が切って落とされることに。
そこに、彼らが介入する余地は無かった。
「ギュアアアアアアアッ!!!」
「グルォオオオオオオッ!!!」
激しく激突し、取っ組み合う二体の戦場は、空へと移る。圧倒的不利に見られた『怨虎竜』の名を持つ牙竜、マガイマガドは、莫大な紫炎を放ち、それを炸裂。その衝撃を利用して『空の王者』の領域へと舞い込み、爪牙を以て強力無比なる天空の竜との激戦を繰り広げる。放たれる業火を、猛毒を宿す鋭爪を、紫炎こと『鬼火』を用い巧みに躱し、圧倒的機動力を持つ飛竜種を相手に果敢に挑みかかるせいで、地上からの手出しは困難を極める。
「まずっ、火が!」
「チィッ!私が防衛に回る!お前たちは戦局から目を離すなよ!」
しかし、戦火は空からも容赦なく降り注ぐ。現地の魔法位階では威力不足である事から判るようだろうが、彼らの用いることが出来る魔法防御では、火竜クラスの攻撃を完全に防ぐなど夢のまた夢。故に、魔王ロールを求めたことで豊富な魔法を有するモモンガ以外、満足な防衛が出来る人間は居ないのだ。
「『不浄衝撃盾』ッ!」
だが、NPCであれば。
「はあああああッ!!!」
シャルティアの、アルベドのスキル防御が、飛来する戦火を霧散させる。
「ああもう、何なのよあれは!?」
「ペロロンチーノ様なら………いや、流石にあの御方でも、あんな馬鹿げた芸当は………」
そして、二人のみならず、多くがその激突を目の当たりにしていた。
空中で炸裂する紅炎と紫炎、その元凶たる灼熱の光を放つ火竜と、それを喰らわんと躍りかかる鬼気の餓竜。帝国の冒険者、ワーカーの多くが知る火竜より数段格上と化したヌシに対し、臆することなく挑みかかった挙句、対等に近い激突を繰り広げる存在は、彼らに強烈な恐怖を刻み込む。
だが、怨虎竜とて、無敵ではない。
「ルゥッ!?」
「ッ、ギュルアアアアアアアアアッ!!!」
纏う紫炎が途切れ、その体を空中に留まらせていた爆発が起こせなくなる。
それを好機と見た火竜は毒爪をその身に幾度となく突き立て、生半な金属を消し飛ばすだけの超高温を秘めた灼炎を叩き込む。炎熱への高い耐性を持つ禍威の竜も、流石に不安定な空中で直撃を受けてはどうしようもなく、地上に真っ逆さま。激突の衝撃でその体はバウンドし、炎に包まれたまま地面を転がり、死んだかのように投げ出された。
「不味いな、これは………!」
モモンガたち、人間側が空の王者への警戒レベルを跳ね上げ、死を覚悟する中。
「………不味い」
シズ・デルタはただ一人、竜たちと共に禍威の竜から視線を外さず、叫んだ。
「あの竜を総攻撃して!」
カホウを構え、死んだかと思われているマガイマガドを撃つ。
「シズ!?一体何を………!?」
そこで初めて、モモンガは気付く。
(ああ、クソ!気付かなかった!)
「あの竜を狙えッ!あいつは―――まだ、生きている!」
アンデッド種の基本特性が、死んだかのように倒れ伏す怨虎竜の生を知覚。
何故気付けなかったかと言われれば、凶悪無比なるヌシたる空の王を警戒し過ぎた故か。
「急いで、急いで仕留めないと………!」
戦士の多くが近付けない中、モモンガ、シズらによる遠距離攻撃に、二つの火炎が加わる。
そこまでして滅ぼさんとされている牙竜の体躯からは、
(っ、なんだあれは!?)
「総員、構えろ!何かが来るぞ!」
その目が開かれ、狂気的な赤に染まった瞳が露わとなる。その外殻は瞬く間に禍々しい黒紫へと染まっていき、傷口から滲み出す血も紫色へと変わる。生物と見做すには、あまりに悍ましい姿へと変わったモンスターは、禍々しく変質した咆哮をとどろかせる。その姿を前に、人類とモンスターの意思が一つになる。
アレは、生かしておいてはいけない―――と。
「―――――ッ!!!」
禍々しい咆哮を前に、モモンガは後悔する。
実力、人格を併せ持つセバス、コキュートスを、使節に出すべきではなかった、と。あと一日、予定を遅くしておけば―――と。強力な前衛というのもそうだが、見るからに炎耐性が高い相手に対し、冷気属性に長けたコキュートスの存在が、強く響いた可能性も高いのだ。
「あ」
そして、狂気に飲まれた牙竜は、間近なエサ―――軽装の冒険者の一人へと躍りかかり、その命を食い潰した。文字通り、一撃で息の根を止めたかと思えば、その身を包む軽装鎧ごと、骨肉を諸共に噛み砕き、飲み込んだのだ。
「………な」
ヒトを喰らう光景を目の当たりにするのは、モモンガにとって初めてのこと。
「冗っ、談じゃねえぞ!」
「軽装の者は下がれ!重装の者は構えを緩めるな!」
「後衛は大人しく逃げろ!」
だが、辺境のはぐれ亜人を知る冒険者たちは、それが危険とは思えど、思考停止には至らない。ヒトを喰らうはぐれ亜人もいれば、弱り果てた末に貪り喰われる者もいる………現状、積極的に人間を喰い殺すモンスターは確認されていないが、連日のモンスターの襲撃と、帝国東方の亜人集落の存在、そして亜人の襲撃頻度の劇的な低下を関連付けて考えることが出来る者なら、最悪のケースとして考慮もしている。
「―――――ッ!!!」
「………ッ!」
飢えた竜は、糧代わりにヒトを狙う。それを阻止せんと、復帰したモモンガは動く。
「こ、の………!」
シズが撃ち込む弾丸では、決定打足り得ない。足を止めることが出来ない。
「その足を止めろ!《
「―――ッ!」
理性なき牙竜は、その身を深々裂かれようとも止まらない。が、大きくバランスを崩したことで標的から大きく逸れ、どす黒く染まった涎を零す牙竜は地面を転げていく。そこへと叩き込まれるのは、人間の魔法より格段に強力な、灼熱の渦と劫火球だが、如何せん相性が悪すぎる。鬼火を物ともしない耐熱性が、火属性ダメージを大きく減衰しているのだ。
「チィ………ッ!」
「お待たせ致しましたッ!」
しかし、それ以外の属性であれば。
「っ、そう来るか!」
水、冷気、電気の一通りが叩き込まれ、狂気の牙竜より悲鳴が奔る。モモンガのソレを超える大火力を叩き出した魔法を行使したのは、彼の親友の一人であるバフォメットの姿を模したパンドラズ・アクター。再現できていないワールド職により大分火力は落ちているが、それでもモモンガより高い威力の魔法を湯水の如く叩き込んでいく。
モモンガも続く中、街の防衛を済ませた二人も遅れて参戦。
「一気に叩くわよ!」
「えらく必死でありんすねぇ。まあ、モモンガ様の敵を滅ぼすという一点には同意いたしんす!」
アルベドの剛腕が、今まさに飛び掛かったマガイマガドを大きく吹き飛ばす。鬼火を使える程は回復していない彼の竜は地面を転がり、そこへと次々魔法が飛来。それだけでなく、モンスター二体も積極的に火球を叩き込んでいく。狂竜と化したモンスターがどのような存在であるのか、端的に示す中で、狂ったが故にダメージ認識が壊れた怨虎竜は立ち上がり、眼前最大の脅威へと向け大地を蹴り駆けていく。
「させぬでござるよ!」
「ちょ、いきなり!?」
そこに、横合いから突進する巨影。
「も、森の賢王!?それに、アウラも!?」
「助太刀にござる!」
そう声高らかに叫んだ、丸々とした喰い応えのあるであろう魔獣へと、餓竜は狙いを定める。
「さあ、任せるでござるよ―――ナーベラル殿!」
取り出した何かを、地面に何かを叩きつける。刻一刻と迫る狂竜を恐れすらしない偉大なる魔獣は静かに、確かな信頼と共に、この戦場まで自身を送り届けた者の名を叫ぶ。その名にアウラ以外が驚愕する中、魔獣の隣へと鎧と一体化したメイド服に身を包む美女が降り立つ。
「失敗したら承知しませんよ………!」
そして、魔法によりその場より転移。瞬間、置かれた機材からネットが広がり、小規模な爆発がその下へと空洞を穿つ。結果、そこ目掛けて飛び込む形となった牙竜はその穴に落下し、突然のことによる混乱も加わり、何事かと藻掻くのみになる。そこに、アウラのスキルによる弱体付与の狙撃が着弾次第、彼女の口よりモンスターたちへと号令。
「今なら炎も通るはず!だから、一気に畳み掛けちゃって!」
ビーストテイマー職がそうさせるのか、それともなんとなく意図が伝わったのか。
ヌシたる火竜と、付き従う二体の精鋭獣竜は一斉に怨虎竜へと最大火力の攻撃を叩き込み。その残滓が残る中でも、モモンガらマジックキャスターたちが総出で攻撃を叩き込む。図らずとも、マガイマガドを蝕んだ狂竜ウイルスの蔓延防止に最も効果的な手法となったそれにより、狂竜の悪影響もあった怨虎竜は、魔法飽和攻撃の中絶命。
本能的に察知した竜たちと、種族特性で把握したモモンガが攻撃の手を止めた、数十秒程の後、他の者たちも牙竜の絶命を認知。非常に高い戦闘能力を有するモンスターの討伐であるが、ここまでで初の死者を出してしまった事、何よりこれが最後であると限らない。その事実を誰もが理解してしまっているのか、雰囲気は決して明るいとは言えないものであった。
★設定
・マガイマガド
襲撃者への襲撃者。防衛戦で、初めて死者を出した怪物。
初めて、狂竜に至る過程を見せたモンスターであり、強大なモンスターの飛び抜けぶりを見せつけた怪物。襲撃した相手が少数精鋭であった為、相手のヌシの得意分野で挑んだ末に敗北した若輩者。
複数体存在するうちの、一体に過ぎない。
・???
数多襲撃するモンスターたちの中で、一部の個体を蝕むもの。
ヌシのような強大な個体が優先的に排除せんとする、特大の脅威。
雷顎竜が攻撃を控えていたのは、過剰に攻撃すれば危険と理解していた為。
ノーリスクで戦闘できるのは、現状ヌシとアンデッドのみである。
・森の賢王
前線に飛び入り参加した、トブの大森林南方の主。
本能的に危険を察知しての参加であるが………?
何気、レベル的に見ればヌシたる火竜より上だが、タイマンでは絶対勝てない。