《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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29―悔恨と進捗

 ナザリック地下大墳墓、深層部。

 

「クソがッ!」

 

 先の防衛戦の結果に、自己嫌悪とやり場のない怒りを抱き、怒鳴り声で強引に出力。その胸中に渦巻くあらゆる負の情念は中々沈静化されてくれず、延々とモモンガを苛み続ける。他ならぬ己自身への怒りが、それを増長させるのだ。

 

「ああ、クソ!何を自惚れていたんだ俺は!」

 

 捕食―――考え得る限り、最悪の死に方。それも、偶々冒険者たちだけであったが、あの場には、シズ・デルタもいたのだ。万一彼女が狙われたとして、あの状況で一切反応できなかった自分は彼女を守れたか?………答えは、否だ。あの場でシズが狙われていれば、成す術無く彼女は貪り喰われ、彼はそれを黙って見届けるしか出来なかっただろう。その可能性を考えていなかった己自身が、何よりも許せない。

 

「蘇生できる出来ない、じゃないんだよ………!」

 

 そして、死者を出した事実。幸いというか、高位の蘇生魔法を使えば蘇生できたものの、そういう問題ではない。最早、この世界はゲームでなくなっている以上、蘇生の可否で図るのは許されない。それを平然と受け入れた自身に対しても、過度に動揺しない点は評価できているものの、人命を軽視してしまった点はどう考えてもアウトと判定を下している。

 

 ゲームのルールが一部通じるだけで、ここは現実。弱肉強食の世界なのだから。

 

「あの時、()()を使っていればよかったのか?」

 

 スキル『The goal of all life is death(あらゆる生ある者の目指すところは死である)』。

 だが、その思考は悪手そのもの。それをすれば最後、竜たちは彼を、彼らを八欲王を超える異物と見做し、排除しにかかる。彼らによる、北西地域の人類の発展を喜ぶ超越者たちであろうとも、その一点だけは決して覆らないし、覆すことはできない。生命のみならず、その骸が還るべき大地すらも死滅させる力など、生ある者が許す筈がないのだ。

 

「………どうすればよかったんだ、俺は」

 

 想定外の強敵ではあったが、剛種と比べれば非常に弱いモンスターであったことに違いはない。それを相手にイチイチ切札を切る訳にはいかないし、それをし続ければ敵が増える云々以前に、経験値を積むこともままならない。情報の有無というのは非常に重要で、今回の場合も未知の復活現象に対する事前知識が無かったからこそ、何もできない内に死者を出すという最悪の結果に至ってしまった。

 

 この件でモモンガを強く苛むのは、彼は種族特性であのモンスターの生存を知っていたにもかかわらず、目先の脅威に気を取られるあまりそれを見逃していた事だ。ヌシとでも呼ぶべき強大な火竜は間違いなく脅威であったし、そちらを警戒した判断も決して間違いではなく、それ故に彼を責める者もいないのだが、だからこそ一層、モモンガは自身を責めていた。

 

「………皆なら、こうなる前にどうにかできたのか?」

 

 浮かべるのは、ギルドの仲間たち。各々が思い思いのロマンに従い割り振ったビルドの、その癖してユグドラシル云千のギルドの中でも最上位にまで上り詰めた、あらゆる意味で心強かった友人たち。彼らならば、死者を出すことなくあの戦闘を終わらせられたのか―――

 

「………いや、無いものねだり出来る余裕もないんだ。しっかりしないと」

 

 そう、無いものねだり。ここに居るギルドメンバーは、モモンガ一人なのだから。

 

(………けど、皆が残してくれたものはある。あるものは、使えるだけ使えばいい)

 

 だが、その悔恨もいい一歩になった。彼のもとには、仲間が残したモノが数多くある。

 そして、それを活かす術も、モモンガは持ち合わせている。魔王ビルド様様である。

 

「最悪ではあるけど、()()()()俺が前に出る、って手もある。その時は、頼みますよ」

 

 手元の課金アイテムに刻まれた名に目を落とし、モモンガは静かに零す。

 彼自身は純魔法職であるし、ステータスも相応の物である。あるが、それを多少誤魔化す手段が存在する上、その状態で使える上等な武具も数多く持っている。使いこなせるかは不明だが、参考に出来る相手もいれば、教えを乞える相手もいるはず。無論、貴重な魔法火力を失うのは宜しくないが、緊急時の手段の一つとして悪くはない。

 

「となると、課題は緊急時か………課金アイテムは貴重だし、考えないとな」

 

 我が子のような者たちを守る為にも、手段は選ばない。

 

 長がそうであるように、配下たちもまた、手段を選ばず、戦い方を探していた。

 

「む、むぅぅぅ………!」

「ナーベラル、不器用」

「いやいや、シズ殿が器用なだけではござらぬか?」

「そもそも!お前は何故その手でそんな器用なことが出来るのですか!?」

 

 ナーベラル、シズ、森の賢王は、それぞれ手元で何かを弄っている。

 ナーベラルが失敗を繰り返す中、シズは木箱の中で木、石を削り出した細かな部品を組み合わせると共に、そこにネットを、小さな虫を仕込んでいく。森の賢王手製の小道具、トラップツールとでも呼ぶべきソレを組み合わせ、組み上げて完成したモノは、そのまま罠として使うことが出来る。

 

 これは、シズ自身の職業構成も上手く働いての事だろう。

 

「しかし、ナーベラル殿も、そこまでムキになる必要はないのではござらぬか?」

「お前には関係のないことです」

「あの時の、罠への誘い方………アレを使いこなしたいんでしょ?」

 

 シズの冷静な分析に一瞬動きを止めると共に、加減を間違えて工具を破壊。

 ………プレアデス最高レベルのナーベラルですら、この世界の戦闘では足手纏いに近い。そんな中、森の賢王と共にマガイマガドを罠に嵌めた、設置し誘い込み、転移で離脱するという戦法は、彼女が皆の役に立つための、数少ない画期的な手段でもあるのだ。その為にも、必要な罠から数を持っておかねばならず、こうして作成に一枚噛んでいるのだ。

 

「あ」

「まあ、某が幾らでも作れる故、気にする必要は無いでござるよ」

 

 と、森の賢王の名に恥じぬ手際で、人間ですら扱いに苦心するであろう細かな道具を作り上げていく。彼女以外でこれを作れる者は恐らく、ナザリックに数名程度であろう。そして、これらの道具の有用性の高さを考えると、需要と供給の釣り合いが悲惨になる事請け合いである。

 

「………いえ、そもそも!何故、こんな虫一匹で………痛っ!?」

 

 草を編んだ籠の中の虫、雷光虫を豪快に掴んだナーベラルは、その放電の直撃を受け手を引く。

 

「それは、某にもわからぬでござるなぁ」

 

 苦笑し、魔獣は組み上がった工具を箱に詰め、地面に置く。

 

「これらは、某らが強者を退ける為、試行錯誤する中でできたモノにござるからな。ネットを組み込んだモノもそうでござるが、やはり万能ではござらん。痺れ罠は電気を通さぬ毒怪鳥には効かぬでござるし、落とし穴も地面を掘り進める竜や、落ちた後に絡み付くネットを強引に無力化できる竜などには無意味にござる。それに、地面の状態次第では仕掛けることもままならぬ故」

 

 軽く伸びをして、森の賢王は別の作業に移る。ナーベラルが作り出した失敗作と、大森林に自生する植物の一種であるトウガラシを持ち出し、数秒程するとそれらが光り輝き、一枚の葉として地面に落ちた。ナーベラルがその現象に、シズが産物に驚く中、賢王はその作業を淡々と続けていく。

 

 

 その一方、他プレアデスたちが管理の一端を担う、大森林内の農場、及び生け簀では………

 

「………ねえ、ルプー?」

「あたしのせいじゃないっす」

「目を逸らさないで」

「あたしのせいじゃないっす」

 

 畑には巨大なカボチャが無数に転がり、巨大なトウモロコシが立ち並ぶ。他の植物の生育への悪影響は、現時点ではないようだが、悪戯好きのルプスレギナの性格と、カボチャの異様な大きさから疑われてしまい、少しばかり後ろめたい好奇心もあった為か、ルプスレギナは目を逸らしている。

 

 名を『ペピポパンプキン』、そして『オオモロコシ』というこれらの植物は、文字通りの巨大なカボチャとトウモロコシであり、見た目通り食用にもなると共に、また他の用途にも使うことが可能なのだ………彼女たちだけでは、後者の用途を知る術も、そのように運用する術も持ち合わせていないのだが。

 

「とにかく、これは撤………収穫ね。明らかに異様ですし、モモンガ様に報告しないと」

「まあ、そうなるっすよね。にしても、こんなの植えた覚えは無いんすけどねぇ」

 

 ぎっしり実の詰まったペピポパンプキンを軽く叩き、ルプスレギナは首を傾げる。事実、これらはここに植えられたものではなく、元々埋まっていたものが農場として整えられた広い土地で無事発芽、成長したものだ。自然の中では中々万全な生育が可能な環境が整わないのだが、森の中に作られたこの農園は綺麗に条件が揃っていたわけだ。

 

 そんな、イレギュラーな作物の収穫に二人が移る中、生け簀では。

 

「えーっと………なんだろ、アレ」

「刃物、みたいな感じだけどぉ………おさかな、だよねぇ」

「そ、それもだけど………大きいの、多くない?」

 

 拡張され、生け簀へと作り替えられた元ため池。湖と繋がっている水源は、地上での魚類の飼育などの為、栄養価の高いと思われるエサの供給などを積極的に行っており、それが湖に生息する魚の来訪に繋がったようだ。その中には、刃物のように鋭い体を有する異様なモノから大きな口吻を持つ巨大魚、竜のソレに近い質感の鱗に覆われた魚など、初めて見るものも。

 

「これ、獲った方がいいんじゃない?」

「けど、私たちじゃ、万一のことがあったら」

「えーい!」

「「エントマ様!?」」

 

 一般メイド二人が驚く中、重しのつけられた網をエントマが投擲。大量の魚を確保、となるかと思われたものの、鋭利な体を持つイチノタチウオによりネットを切り裂かれてしまい、見事目論見はご破算。イチノタチウオ、カジキマグロはそのまま武器に加工できた他、ヨロイシダイの強固な鱗は防具の素材となった為、勿体無いと言えば勿体無いのだが………生半可な刃物より鋭利なイチノタチウオの危険性を鑑みれば、この結果でよかったというべきか。

 

「あうぅぅ………」

「ネットではダメ………ここは素手で!」

「いやいや、危ないからやめよ!?」

 

 れっきとした効果を持つ装備品とはいえ、一般メイドたちのレベルは最低の1。最大限の安全を確保しているこの農園の内側でのみ活動を許されている事もあり、無茶は許されない。徐々に、本当に徐々に、本人が自覚できない程徐々に変化が起きているものの、当然心許ない程度でしかなく、戦闘能力などある筈もない。

 

 賢王が離れていても、この森において確立された安全圏は損なわれない。彼女に従う者たちには裏切るだけの利益が無く、また強大な敵から縄張りを護る為にも、彼女の知略と知恵が不可欠。また、ナザリックも確かな益を森の住民に与えており、そうそう害をなされることもない。ある意味では、人間の街以上に安全と言えなくもない。

 

「えぇ………どうしよう?」

「ユリ姉、ちょっと来て!」

 

 エントマが首を捻る中、ソリュシャンの叫び声。各々が作業を切り上げて向かうと、そこには

 

「し、痺れて動けませんんん………」

「ああ、ホワイトブリム様ぁ………!」

 

 いろいろな意味で、大惨事。茸栽培の為の設備で、文字通り一大事である。

 

「暫くの間、ここは立ち入り禁止にしましょう。そして、これらの駆除を」

 

 ビン詰にされた、二種類の茸………触れるだけで大の大人をも麻痺させるオオマヒシメジ。それに加えて、吸い込むだけで竜にすら幻覚を見せる猛毒の混沌茸と、文字通りの一大事である。実際、耐性を持たぬ一般メイドたちに被害が出ており、更に混沌茸の場合、その作用が別の意味で危険極まりない。

 

 創造主に会いたい、言葉をかけて貰いたいという願望は、多くのNPCが抱くモノ。前線に出ている為にそんな願望に浸る間も無い上位NPCならばともかく、戦闘能力に乏しく、そのせいで苦しんでいるNPCたちにとっては、文字通り劇物にしかならない。二つの意味で、早急に対処しなくてはならないモノだ。

 

「モモンガ様、デミウルゴス様にご報告っすね。っつーか、胞子だけでコレっすか………」

「それどころか、コレに至っては触れただけで麻痺させられたわよ」

 

 ブループラネットが居れば、『カエンタケみたいだな』などと吞気な感想を述べたかもしれないのだが、当の本人はここに居ない。どちらにせよ、危険であることに違いはない以上、サンプルを確保した後は駆除の徹底が成される事だろう。

 

 そして、この報告から十分とせず、茸の栽培所への立ち入りに際し、各種状態異常への完全耐性確保が絶対条件として下され、モモンガの私物からそれを可能とする装備品が支給されることとなるのだが、至極当然の結果と言えよう。




★設定

・トラップツール

森の賢王手製の小道具類。雷光虫を組み込めばシビレ罠、ネットを組み込めば落とし穴になる、モンハンシリーズ恒例のアレとほぼ同じ構造をしているが、現状森の賢王以外作成できない。

森を生き抜くうえで、生態系の上位者との直接戦闘を避けるべく試行錯誤する中で組み上がっていったものであり、二種類の罠を作る上で最低限必要となる、共通構造に気付いたところから簡易化されていき、現在の形に。基本使い捨てである為、森の賢王はこれを大量に作り上げ、保管している。

・トブの農場

トブの大森林の浅いエリアに作られた、ナザリックの外部施設。
第四、第六階層の施設との比較実験用であると同時に、森の中有数の安全地帯。定期的にデミウルゴス、アウラ、マーレたちが確認を行うほか、基本的な管理はプレアデス、一般メイドが任されている。規模自体はそれぞれの階層に劣るが、環境のお陰か収量では勝っている。

反面、屋外だからかイレギュラーな物が混入する事があり、モモンガ含む上位者にはそれを危惧する者も。事実、今回生け簀にイチノタチウオ、茸の栽培所にはオオマヒシメジ、混沌茸が発生するなど、やはり絶対安全ではないことが証明されてしまった。
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