《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
ナインズ・オウン・ゴールは名の通り、九人で構成されている。
その望みは『未知の探求』と凡そ一致しているが、その先の望みはそれぞれ微妙に異なっている。
「ッ!」
狼にも似た、しかしそれより遥かに精強な獣が起き上がり、傍らの乙女が目の色を変える。
「あら、戻られたのですね」
透き通るような、淡い金髪を持つエルフの美女が微笑みを浮かべる。途中の作業を切り上げた彼女は精強な牙獣『ガルク』を伴い、部屋を出る。それとほぼ同時に両隣の部屋のドアが開け放たれ、ダークエルフ、冷気を纏う妖精の二人が転がり出る。一瞬呆気に取られたものの、それを過度に気にする事もなく、彼女はガルクと共に目的の部屋へと向かっていく。
そして、目的の部屋に到着する頃には、既に他六人が集まっていた。
「みんな、早いなぁ………何も伝えてないのに」
「ウチらの勘、舐めたらアカン言うてるやろ?」
「ケマリが飛び出したお陰で、ボクたちも気付けたんです」
「黙らっしゃいッ!」
中性的なヒトの姿を取る妖狐が顔を赤くして怒鳴り、少女………に見える少年が肩を竦める。
集まった面々は、種族が関係の無い者たちだ。アンデッドのサトル、キーノに始まり、かつては貴人御用達の仕立て屋一族の神童、純粋な技量では間違いなく最高峰の武人に始まり、一介の商人に、秘境の部族の裔、流浪の薬師、サトルとは異なる『異邦人』とその友人たちまでと、その幅は広い。
そして、その目的が『未知の先』にあることが、彼らの共通点だ。
「それで、サトル。今日はどんな発見があったんだい?」
物腰柔らかに問うのは、エルフに似た青年。違いは、膝下の構造と手指の数。
「あー………それについてなんだけど、その前に悪い報せだ」
空気が変わる中、サトルは臆することなく事実を告げる。
「古龍の影有、だ。それと、あそこは思った以上に複雑そうでさ」
「まず、内部か地底部かに、灼熱地帯が広がってて、生態系も愉快なことになってるの」
と、端的な情報をキーノが黒板に羅列していけば、必然的に知識人は表情を険しく変える。
「ドラギュロスが成す術無く………っつーか、本体が正確に見えない速度ってアリかよ」
「え?神獣様はそれくらいできましたけど」
「うん、アンタんトコは色々例外だからな?な?」
世間知らずの妖精少女に、この中でサトルたちに並ぶ戦歴を持つダークエルフがツッコむ。超がつく箱入り娘の妖精、名をレナという彼女は、適応力こそ高いものの、基準を彼女が出身地で崇めていた『神獣様』にしているせいで、認識のずれが多大なのが欠点だ。が、言い換えればこの面子の中で最も思考停止を起こしにくく、その点では間違いなく優秀だ。
「シルヴィは知らないのか?」
「知らねぇ………ああいや、赫い光だと『凶星』の伝承があったな。アレ絡みか?」
そして、ダークエルフのシルヴィ。歴戦の猛者であり、知識の量、質共に優秀だ。何より、魔法込でも真っ向勝負であればサトル、キーノペアをボコボコに出来るだけの実力を持つアマゾネスである癖、流浪の経験から伝承などにも詳しく、頭もキレる優れ者。欠点は口の悪さ、超がつく悪筆、そして脳筋と食への無頓着くらいか。
「飛行能力と凶暴性を考慮して、あの子たちの同行は控えるべき、ですかね」
「いや、灼熱地帯の探索なら可能だろう。その辺りの采配は、ハクに任せるさ」
ハクと呼ばれた、元人間の少年は真剣な表情で考え込む。
「難しく考えないで大丈夫だ。モンスターたちの様子も考慮して、数日開けるつもりだからね」
キーノが優しく声をかけ、続けて他の面々に意見を求めるべく、視線をやる。
「
「ウチも同感や。あっち行って色々探したいけど、ウチらはそう強ぅないからなぁ」
エルフの淑女ソフィア、妖狐の薬師ケマリが同意を示せば、他から反対意見は出ない。
「ゴルドはどうだ?意見があれば、躊躇わず言ってくれて平気だぞ」
「うんにゃ。儂もケマリらと同じで、戦うのは苦手じゃからな。反対も何もないわ」
「僕も同意見だな。危険なモンスターが確認できている以上、安全には最大限配慮しないと」
獣人の商人ゴルド、異世界の種である『竜人族』の青年タツミが方針に賛同し、方針を決める会議は完了。ここからは、最大の生命線である情報の共有から、探索方針の決定などについて話し合う事となる。
個々の願望が発露するこの場は、サトルが一番大好きな時間でもあった。
「っぱ、ウチとソフィアは幅広く調べたいわなぁ」
「ですね。植物、昆虫もそうですが、好奇心は尽きませんから、ね」
ケマリ、ソフィアの共通点は、求めるモノの幅広さ。ケマリは薬剤の原料として、ソフィアは布の材料、或いはそれを染める染料として、幅広いモノを求めているのだ。
特に、ケマリは毒も薬も等しく求めており、マッドサイエンティストと呼んでも差し支えない程度には節操なしにアレコレ作り、その癖実用的なものはしっかりと量産体制を考慮して。加えて、被害が出る時は自分一人で完結している為、身の安全に気を付けろと釘をさすくらいしかできないのだ。
「なら、序でに特産や鉱脈も調べたいところじゃな」
「そうだな。僕も皆の役に立てるよう、微力ながら協力しよう」
商人として、財を成すことを夢見ると共に、未知を求める姿に感銘を受けたゴルドは、金銭面で彼らを支え続けている。そこに積極的に協力する姿勢を見せるタツミが目指すのは、未知の世界を解き明かす事。サトルとはそれぞれ異なる世界について語らう友でもあり、女性であれば、キーノの嫉妬を買っていた事だろう。
「暑いのはやだ」
「知ってるから大丈夫だ」
種族柄、彼女は熱気を嫌う。尚、十分な対策を施している為、心情を除けば活動に問題は無い。
「お嬢は暑いの嫌いやからなぁ。せやけど、一気に下まで調べるんか?」
「行くなら、あたしも下に回るぞ。対応力を考えると、ハクもこっちに欲しいな」
「ボクは構いませんけど」
「レナ、お留守番希望」
消極的にも思える発言だが、この中で魔法を使えるのはサトル、キーノ以外だとハクとレナだけであり、他の者では緊急時の連絡が行えない。しっかりと土地を吟味した上で成立している彼らの拠点だが、当然絶対ではない以上、備えは必要。そして今回、情報の足りない溶岩地帯の調査にハクが不可欠に近い以上、レナが留守番する他ないのだ。
「わかった。それじゃあ、チーム分けは俺とキーノ、ソフィア、ケマリ」
「それと、僕とゴルド、シルヴィ、ハクだな。それで、レナは連絡要員も兼て待機と」
そこまで纏めてから、皆一様に大きく肩の力を抜いた。
「えーっと、確認できているモンスターの弱点は………」
「深く考えず、いつも通りで行こう。その方が気が楽でいい」
と、ある程度大雑把に出来るのは、皆マジックアイテムに武器等を収納している為、いざとなればその場で即座に切り替えることが出来るから。無論、ある程度幅広い対応力があるに越したことは無いが、未知の環境においては臨機応変な対応が求められる以上、やむを得まい。
「じゃあ、そういうことで………出発は五日後にしたいけど、構わないか?」
大事を取って、長めに準備期間を設ける。古龍が去っていればよし、そうでなくとも準備を万全にすることが出来る。文字通り次元違いの化物を知るナインズ・オウン・ゴールの面々であるが、それを理由に過信できる程、世の中が甘くないことはよく知っている。ここに集う者たちでさえ、絶対なんてモノは存在しないのだ。
当然、準備期間があるに越したことは無く、反対意見は無し。
その決定を最後に、会議の場は雑談の場へと変わる。
「しかし、古龍とはなぁ………ツいてんだかツいてないんだか」
「シルヴィが戦った『奴』よりはマシだろ?」
「あん畜生クラスがポンポンいてたまるかよ」
苦々しい顔で思い出すのは、彼女とサトルたちとの出会い。キーノも表情を引き攣らせており、そうそう思い出したくない部類の記憶であるのは事実だろう。それはサトルも同じなのか、かなり本気のトーンで謝罪し、咳払いと共に場の空気を切り替える。
「あ、そうだ!」
そこで強引に空気を切り替えたのは、精神的な意味で一番若いハク。
「新しいマジックアイテムが出来たんですけど、あとで見て貰って大丈夫ですか?」
「え、マジで!?どんなのなんだ?」
「武器に組み込むタイプのです!………まだ低位階だけだし、何回か使うと壊れちゃいますけど」
「いやいや、凄いじゃないか!」
サトル、キーノの二人で様々なことを教授した少年の、試行の産物をサトルは賞賛。魔力切れを考慮して、重弩使いとしてもやれる彼だが、その実アイテム作成にも高い素質を見せていた。職業レベルという軛が大きく緩んだ大陸の内部だからこそ、各々が専門職でなくとも、努力と才能があれば新たなモノを創りだすことが出来るのだ。
この拠点作成の際もだが、この少年のそういったセンスはずば抜けていた。
「ぜひとも見せてくれ!俺も学ぶことが多いからな」
「ネーミングとかね」
キーノのツッコミにサトルが顔を背け、笑いが巻き起こる。
「ウチとしては、お
「………私が悪かったから、その話はこの辺りで」
「シルヴィも字が………アレですし、気にしないでいいと思いますよ?」
「こっちに飛び火したぁ?!」
ダークエルフのアマゾネスが悲鳴を上げれば、再び笑いの嵐。チーム三大戦力であるが、同時に三人それぞれ結構な欠点を抱えている。それこそ、サトルとキーノを慕うハクですら、真顔になり無言で首を横に振るレベルであり、チーム名決定に際しては偽物疑惑まで出た程だ。とはいえ、そんなわかりやすい欠点など、人間味に溢れているからこそ、こうして慕われている訳だが。
「そう気にする必要は無いさ。欠点の無い人間などいないのだから」
「せやせや。ウチなんか見てみぃ、顔と体がエエ以外取り柄無しや!」
ケマリがおちゃらけ、再び軽い笑いに包まれる。
「てなわけでや、旦那はん。あとでちょっちウチの新薬に名前つけてーな」
「絶対弄られるだろそれ!?」
「安心せぇ、注意書きはシルヴィ、絵はお姫さんにお願いするさかい」
『安心できる要素が無い!?』
はぐれ狐の冗談で笑いに包まれ、何となしに各々が自由に話題を出し、盛り上がっていった。
*
冒険者チーム『ナインズ・オウン・ゴール』の拠点『
それは、ただの平和な場所、というだけに留まらない、特異な地に座している。
「キュル?」
「キュァァッ!」
ワイバーンにも似た小型のモンスター………ホルク。異なる姿の六体が集う湖畔では、穏やかな時間を微睡んで過ごす『泡狐竜』たちの姿が散見できる。湖を囲うように広がる森林の、彼らの城とを隔てるように小高い柵が並び、その内外をモンスターが闊歩している。ただそれだけならばまだしも、草食のモンスターと肉食のモンスターとの争いが無く、それどころか被食者である筈の存在たちが一切怯える様子を見せていないのは、異常が過ぎる。
「ニャー!ご飯の時間ですニャ!………ニャアアアアアッ!?ボクは違うニャ!?」
モンスターたちに追い回される、綺麗な毛並みのアイルー。
そう、この地のモンスターは、ほぼ全てが人為的に移住してきた個体。何を馬鹿な、となる事実であるが、そもそもこの
モンスターたちのことなど、これらの事実を前にすれば些細なことに過ぎない。
『絶島』………『赤き大蛇』とも語られる巨竜が最初に現れ、全てを喰らい尽くした跡地。
そんな、文字通り不毛の大地と化した孤島を再び芽吹かせたのは、怪物たちの怒りを買った異邦の者たちが有する力。絶島主が去ったこの島を発見し、最初に到達したのはユグドラシルからの来訪者であり、大陸南端の荒れ地以上にどうしようもなく喰らい尽くされた島を再生したのは、彼が有していた超位魔法だった。
それを知る者は、彼ら一行を除けば、超越者たちしか存在していない。
もっと言えば。
★設定
・冒険者チーム『ナインズ・オウン・ゴール』
サトルの記憶の片隅にあった名を冠した、この世界最強の冒険者チーム。
完全な独立勢力であり、各勢力に手を貸すこともすれ、基本的には未知を求め大陸を駆け回っている。齎す情報の質から、彼らを起点に流通する品々まで、大陸南方に大きな影響を与えている。
・チームメンバー
結成時のメンバーは、サトルとキーノ含め男四人、女四人、妖狐一人。
元人間、獣人、エルフ、ダークエルフ、氷妖精、妖狐、竜人族と、種族問わず未知を求める者が集まっており、また数多の死線を潜り抜けたことで強固な結束を得ている。が、それはそれとして命の危機を幾度と潜り抜けたこともあり、皆多少の怪我程度では動じない程度にはシビア。
アイルーたちは結成当時、仲間を探し別行動をしていた為、初期メンバ―には含まれない。
・チーム拠点『ソウセイ』
蒼星。異世界人のタツミが知る御伽噺に由来した名を冠する。
隔絶した孤島の只中、緑に囲まれた湖の畔に築かれた小さな城。
超位魔法《
・『絶島』
大陸南端の更に先、海原に浮かぶ孤島。NoGの拠点地。
絶島主が最初に降り立った地であり、飢えから最も徹底的に食い荒らされた地。文字通り草木の一本すら生えることが出来ない大地であったが、冒険の末にこの地を発見、到来したサトルの超位魔法により、年月をかけ回復。住む者すら無かったお陰で、特に何事もなく移住まで完了できた。
将来的には、異なる大陸の存在を調べることも考え、設備拡張を予定しているとか。
・ハク
元人間の、少女のような少年。異形種への転生前時点で、二十歳未満。
キーノのソレにも匹敵し得る、規格外の
『モンスターと心を通わせ、強化する』という特異なタレントを有しており、彼らの知る限り唯一のモンスターテイマー。従える程の強制力は持たないながら、穏やかな気質から多くのモンスターとの友好関係を築いており、主従とは異なる形での共闘を可能としている。
それでいて、本人もマジックキャスターとして優秀な他、重弩の扱いにも長けるなど、戦闘力も低くは無い。低くは無いのだが、チーム内だと相対的に低い部類。支援などが主な役割となる。
・??????
絶島の地下空間、かつて『絶島主』が一時の休息の為作り出した場所に居を移した龍。
ハクとの交流の末、彼に心を許した特異な個体であり、現在成長中。一度住居を移してしまったため、成長に遅れが生じており、向こう数十年から数百年は絶島を離れることが出来ない状態に。
実のところ、洒落にならない、どころでは無い存在なのだが、メンバーは誰も知らない。