《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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閑話


EX―超越者たち

 大陸、南方―――エリュエンティウより、更に南。

 

「キュアアアアアアォオオオオオオオオ―――――ッッッ!!!」

 

 標高の高い山嶺が立ち並ぶ領域を移動する、巨大な積乱雲。

 警戒と警告の咆哮が轟く空を舞うのは、美しき金色。一部結晶が析出した、鋼龍に近しい姿を持つ古龍は暗雲へと消え、荒れ狂う空の中での激戦が幕を開ける。禍群を生み出す対龍をも退ける嵐に挑む、金塵纏う美しき龍を見上げ、異邦からの来訪者、ヒトならざる異形は静かに零す。

 

「自然、ヤバいわ。思ってたより、遥かに」

「言ってる場合じゃないだろう!?ほら、さっさと逃げるよ!天神様の争いに巻き込まれる!」

 

 森でひっそりと暮らすヒトたちは、そんな客人を急かし、嵐の勢力圏外を目指し、急ぎ移動。この一帯に住まう者にとっては、外部からの危険な存在の侵入を妨げる、ある種の守護神であることに違いは無いが、同時に在るだけで害を齎す神でもある。あくまで、その力が結果として益を齎すだけであり、彼らは何処まで行っても、無力な存在であることに違いは無いのだ。

 その信仰は、龍に届くことは無い。ただ、あるだけで振われる力による益を享受し、害を避け続けることで、生存を続けるのみ。幸いなことに、空は大荒れで、古龍の気配によりモンスターたちも戦闘より逃走を優先する状況であり、この領域に住まう者たちが逃げるには充分だ。

 

「ほれ旦那、コレ被っときな!」

 

 投げ渡されるのは、この一帯の重木を加工した外套。非常に高い強度と、衣類としての快適さを併せ持つ逸品でありながら、この一帯では当たり前のように用いられるモノでもある。それこそ、北西の辺境地に知られれば、喉から手が出んばかりに求められる程上質なモノだ。それを雨風を凌ぐため被った異形と共に、森に住まう者たちは嵐龍の力による暴風域から逃げていく。

 

「日本の信仰みたいですねぇ。異世界でも、その辺は変わらないのでしょうか?」

 

 荒れ狂う空を見上げる異形は、周囲の山の一部を切り崩す程の激烈な水流に、雨粒の中でも判るほどの巨大な結晶が入り混じった輝く竜巻に言葉を失い、同時にどうにもならない存在なのだと本能で理解。世話になっている者たちと共に、危険な領域を逃れるべく駆ける。

 

「………」

 

 その中でただ一つ、龍の暴威に飲まれぬ山嶺の頂。

 

 荒れ狂う雷雨の中でただ一体、蒼白を纏う牙竜は。古龍ではなく、地上を見下ろしている。荒れ狂う空には、その只中で暴れ狂う災厄には一切興味を示さず、悠然と………そこに確かな警戒を抱いていた雷狼竜は、異邦の者が500年前の愚者と異なると判断を下したのか、興味を失ったように視線を空へと移す。

 何か気に食わないのか、喉を鳴らしてこそいるものの、それ以上のことをする気配はない。絶大な力を有する古龍に対し、欠片も臆する気配を見せぬ怪物は、あくまで己の力を客観的に理解するが故に、見に徹する。その一帯に、不自然なまでに余波が及ばないのも、二体の龍が彼我の差を理解しているからこそ。

 

「―――――ギュルアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 暴風により、暗雲が吹き飛ぶ。大気中を舞う金塵が、結晶が月明かりを反射し、幻想的に輝く夜を演出する中、住処を吹き飛ばされた白き龍は怒り狂い、神々しい白を禍々しい黒へと染め上げ、龍雷の紅を奔らせる荒神へと姿を変える。それと共に、消し飛んだ暗雲が黒き龍の周囲へと引き寄せられるように集い、雷轟を響かせる。

 

 その様を目の当たりにした異邦の客人は、己の知識をもとに、その姿を評する。

 

「………天津禍津神、或いは天津禍龍、といったところでしょうか」

 

 その名を、アマツマガツチ―――最早かつての法則が殆ど残らぬ地に住まう、古き龍。

 対峙するは、本来嵐龍の生息圏より更に高い領域に住まう龍、ガルバダオラ。

 

 一見、何かの前触れに見える激突であるが………その実、この戦闘はただの偶然。金塵龍が好む水源が存在するこの地に戻った時、不運にも嵐龍が鉢合わせただけ。というのも、この一帯の河川には砂金などが多く含まれており、適切な技術と安全の確保が叶えば、ソレで栄えることが出来る程。そしてその砂金は、この山林地帯のすぐ外部で得られる特殊な鉱物と共に、金塵龍という種の特徴を形作る重要な要素のひとつ。

 この地を好む一個体に過ぎないながら、全体で見ても上位に位置する実力者同士である為、なあなあで済ませる訳にもいかない双方は、一層激烈な戦いを繰り広げる。暴風が、舞い散る結晶が爆ぜ、龍雷を纏う激流がそれらを切り裂き、金色の体躯に、漆黒の体躯に傷を刻みながら、大地を切り裂き、吹き飛ばす死闘は幕を開ける。

 

「退散退散。冗談抜きに、命が幾つあっても足りませんね」

「そりゃそうさ。だから、こうやってできることを最大限やるのさ」

 

 亜人の男が静かに笑い、空の暴威を見上げる。

 そこでは、光の球体に身を包むガルバダオラと、それに対抗するように多量の水と龍殺しの力を宿す竜巻を身に纏うアマツマガツチの姿。同時に、雲の消し飛んだ一帯を尋常ではない輝きが満たしていき、地上の生命は一目散に逃げを選ぶ。

 

 微細な結晶を風に乗せ、金塵龍自身を包むように、球状に薄く展開したソレの正体は結界―――天空に撒き散らした結晶により、陽光を乱反射させ続け莫大な熱量を生み出し、周囲一帯を文字通り蒸発させる絶技より身を護るための、彼の龍唯一の防護手段。微細な結晶が光を増幅していき、水が形を保つことすら難しくなる中、嵐龍は凄絶な竜巻を以て、大地を満たす水と土砂を巻き上げ、それにより熱量から身を護る。

 

 成程、これは災害だ。人知の及ばない、逃げるしか無い天災。抵抗などとんでもない。

 

「ワールドエネミーどころじゃありませんね、アレ」

 

 文字通り、地形を丸ごと変える程の激突。真っ当な生物が巻き込まれれば、命は無い。

 

 だが、彼らの超越者と呼ぶに相応しい怪物の多くは、あくまで爪を隠しているだけで、大陸各地に散らばっている。その根幹にあるものが『ユグドラシルプレイヤーへの警戒』であるのか、はたまた『真なる竜王への警戒』なのか。それともただ好ましい地に根付いているだけなのかなど、違いは多々あれ、この世界は未知と、それを遥かに超える脅威に満たされているのだ。

 

 

 その、脅威の数々………中でも最たるモノは、遥か東方の水底に。

 

 水という物質の常識を覆すかの如く、赤熱した海域。並の生物は生育すら困難であろう領域は、大陸と巨大な構造物を隔てるかの如く広がるソコの深奥に、『厄災』は住まう。不死者の王が秘めたる、使えば龍に排斥される死の力でのみ、完全なる殺害が可能となる大地の現身は、灼熱と共に紅光を放ち続ける。

 

 その領域に踏み入る事が叶うのは、ごく一握りの超越者のみ。

 

「―――――」

 

 水の中を伝う音に、不死とも称される絶大な生命力を有する『煉黒龍』は顔を上げる。

 

 水底を四肢で歩む異質な龍は、それを静かに見上げる。

 そう、異質。生物としては、明らかな欠陥であろう。その身を包む鱗は全て逆立ち、水の、空気の抵抗を欠片も受け流すことは出来ないというのに、その体躯は煉黒龍程でないにせよ巨大。その胴体をも包み込めるであろう巨大な翼も、水中という環境に住まう生物としては不要と言わざるを得ない。

 何より、ただ在るだけだというのに、赤熱した海水中を黒雷が奔り、水中だというのに無数の火の粉が舞い散る。ただ見ているだけならば『幻想的』と口にすることも許されたかもしれないが、これは現実。しかも、起こっている現象は異常そのものなのだから。

 

「―――――ッ」

 

 黒き巨龍が立つ。後足で水底を踏み締め、太く強靭な尾で大地を揺らし、火山の如き形の各器官から、溶岩にも似た赤熱する体液を噴出する姿は、最早龍というより火山の化身。そして何より、巨大………仙高人が小さいのではないか、と誤認する程だ。そして何より、深海の闇の中、赤熱する体液の流動により輝く姿は、見る者に恐怖を刻み込む。

 

 最古の龍に連なる『黒龍』の一角、『煉黒龍』グラン・ミラオス。

 最強の竜王の、旧友が眠る地を守護し、同時に監視する怪物は、終焉の現身とも呼べる同胞を、静かに睨む。生物として異端であると共に、同じ古龍としてすら異質を通り越して異常とも呼べる怪物が、何故わざわざ動いたのかを問い詰めるように。

 

「―――――」

 

 対し、もう一方の禁忌『煌黒龍』は臆することなくその巨影を見上げる。無数の角が折り重なり形作られた『天を統べる角』を有する古龍は、水の中響く声と視線の交わりのみで意思疎通をこなす。そこにあるのは、共通の懸念であったらしく、一つの世界など容易く滅ぼすことが可能な怪物たちは静かに頷き合い、巨龍は静かに倒れ込み、翼龍は水底を蹴り、光の届かぬ領域から空高くまで、瞬く間に飛翔する。

 

「―――キュアォアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 そう、飛翔。

 そこに適応した生物が住まう深海域から数秒とせず、海の更に上に広がる空へと舞い上がった。体にかかっていた強烈な水圧が、瞬く間に消え失せたことによる不調も無ければ、全身を包む逆鱗による水の抵抗、空気の抵抗による負荷も、疲労も感じさせない。そうある事が当たり前であるかのように、終焉の現身は空を舞い、空気を打ち高くへと翔ぶ。

 それと共に、空は瞬く間に暗雲に包まれる。巨大な雹、大粒の雨、そして荒れ狂う雷轟の中心を飛翔する『煌黒龍』アルバトリオンは、それらの全てを意に介さない。紅黒から蒼白へと纏う光の色彩が変化している事も、その変化に伴う余波で、赤く染まる『厄海』の表層が丸ごと蒸発したことも。それにより、厄海が荒れ狂った事も、その余波が大陸にまで波及することも、恐らく欠片も気にしていないのだろう。

 

 龍とは、そういうものだ。在るだけで災いとなるからこそ、そこに悪意など介在しない。そんなものとは程遠い、何処までも純粋な天災。生命でありながら、生物として規格外の存在。そして何よりも、『黒龍』の名を持つ、始原の龍に連なる古龍とはそういうものだ。規格外中の規格外、理不尽という言葉すら生温い理不尽………世界を滅ぼす厄災とは、そういうものだ。

 

「奴まで動く、か………ツァインドルクスめ、何をした?」

 

 それを遥か彼方より知覚したのは、真なる竜王が一角『七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)』。

 強大なる竜王の一角は、忌むべき存在と、何を以てしても超えられぬ怪物とへ視線を向ける。

 

「私に言われても、何もわかりませんよ。既に、スルシャーナ様たちがお造りになられたスレイン法国は、とっくに我々を必要としなくなっております。だからこそ、私は彼らのもとを離れ、世界を彷徨ったのですから」

 

 柔和に笑うのは、スレインが信奉する神の一柱『死の神』の第一従者とされたNPC。逞しく変わり続けたスレインを離れた、唯一生き残っている従属神は、己を敵視する竜王にすら柔和に接する。あくまで温厚な振る舞いに対し、変に敵対的になる訳でもなく、七彩の竜王は溜息を零す。

 

「そうだったな………ああ、忌々しい。忌々しいが、奴らが無ければ、我が子孫は………」

 

 真なる竜王を超える、数多の脅威。覇種なる弩岩竜に至っては、始原の魔法であろうと、単純な攻撃魔法では容易く屠ることも出来ぬ強敵であり、スレインを立ち上げた六大神の遺産無くして撃破は不可能であったろう怪物。彼らの世界ではギリギリ対処可能な存在であろうと、この世界にとっては危険極まりない大災害となる。

 

 そう、七彩の竜王を監視する、灼熱と極冷を纏う神々しい龍もまた、ひとかどの厄災となる。

 

「貴様は動かぬのか?」

 

 その行動原理を知る竜王の皮肉に、極致に至った灼零龍が動じることは無い。

 

「………相変わらず、わからぬ奴だ」

 

 忌々しそうに吐き捨て、多くを知る竜王は西方を睨む。

 

「今更、私に出来る事はありませんが………言葉が通じるのなら、理由を知りたかったですね」

 

 自分たちの手を離れはしたものの、スレイン法国に深い思い入れのある身として、禁忌が動く程の脅威がある、という現実に思うところはある。力になる事は難しくとも、何かしらを伝えるくらいは可能な筈なのだ。が、あまりに情報が無いが為に、何もできないというのが現状だ。

 

 それこそ、何が龍たちを警戒させるのか、それを伝えることが出来れば、最悪の結末の回避だけは確実となる。だが、それを知る手立てが存在していない以上、伝える事も出来はしない。現状、北西の辺境に現れたプレイヤーと直に会った訳ではない超越者が、わざわざそれを伝えてやるだけの慈悲を示す理由も、ありはしないのだから。

 

「フン………龍よ。我が曾孫が戦うとなれば、私も出向かせて貰うぞ」

 

 竜王の言葉に、彼を監視する超越者『灼零龍』エルゼリオンは静かに頷く。

 高い知性に加え、炎の如き情熱と氷の如き冷静さを併せ持つ古龍は、決して薄情ではないのだ。




★設定

・南方の森林地帯

山岳に囲まれた、竜の世界の法則が強く馴染んだ領域。小規模な多くの集団が、たえず移動しながら生活しており、それに応じ道具や設備も森林などでの持ち運びが容易なよう、小型化などが進んでいる。また、強靭な樹木を加工した衣類が広く流通しており、武器にもそれが用いられている。

『嵐龍』の生息域であるほか、『金塵龍』が好む条件が揃った地でもある。
また、そんな強大な古龍すら恐れる『極致に至りし竜』が住まう山がある。


・『嵐龍』

山岳に囲まれた、南方の森林地帯周辺を縄張りとする古龍。
風を操る力を持ち、それにより浮遊すると共に、住処となる積乱雲を作り出している。北方にて脅威となっている『風神龍』『雷神龍』を超える力を秘めており、その存在は文字通りの『災害』として森林の住民たちより畏怖されている。


・『金塵龍』

南方の山林地帯の、砂金が豊富な河川や、そこの洞窟などで得られる鉱物を好む古龍。
嵐龍に並ぶ絶大な力を有しているほか、普段は嵐龍の生息域より更に高空域で活動している。


・厄海

東方に広がる、赤熱した海域。『海上都市』と大陸とを隔てるこの世の地獄。


・『煉黒龍』

厄海の底に眠る、『禁忌』の龍。世界を滅ぼす悪魔にして、大地を創り出す巨人。
在るだけで生物の寄り付かぬ超高温の赤い海を作り出す、怪物の中の怪物。


・『煌黒龍』

深海から超高空域まで、あらゆる環境に適応可能な『禁忌』の龍。
存在するだけで周囲の環境を歪める、変化の余波で周囲を吹き飛ばす、怪物中の怪物。


・七彩の竜王

ブライトネス・ドラゴンロード。ドラウディロンの曽祖父。
『灼零龍』の監視下にあり、スレインを離れた従属神と共に、世界を視ている。


・スルシャーナの第一従者

スレインの変革を見届け、それを受け入れ身を引いた唯一のNPC。
現在、遠く離れた地に隠居しており、七彩の竜王と共に龍の監視下にある。


・『灼零龍』

大陸に散る、極致に至りし竜の一角。七彩の竜王の監視者。
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