《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
地図に書き加えられていく、モンスターのアイコン。
「よろしいのですか?」
「無論、よろしくはありません」
魔将の疑問に、デミウルゴスは即答。しかし、パンドラの手もデミウルゴスの思索も止まらない。
「ですが、前線で死者が出てしまったのであれば、そうも言っていられません」
「死者は士気を下げる原因になりますし、単純な手数の減少にも繋がりますからね」
二人が見下ろす地図は、ローブル熔山帯のもの。龍の亡骸より生まれた、灼熱の地だ。
「やはり、空白が多いですね」
「無茶を言わないでいただきたい」
「冗談ですよ。この辺境でも最上級の魔境なのですから、やむを得ないでしょう」
その内情は、驚くほど知られていない。住まうモンスターは断片的に知られていても、内部の地形などは、まず情報からしてない。なにせ、過去の数百人規模の、人間亜人混成の精鋭調査隊の生存者は僅か数名であり、彼らも命からがら帰還したため、地形など頭に入る訳も無い。
ではなぜ、そんな魔境を調べ直しているのか。
「鉱脈があるとすれば………いや、けどなぁ」
「便宜上、過去の地名からプラートと呼びますが、そこだけは行きませんからね?」
「いや、わかってますよ?ですが、鉱脈の心当たりがそこしかないんですよね」
鉱脈………つまり、鉱物資源。
「でしょうね。つまり、そこが最も『深い』場所と言えるのやもしれません」
「プラートより離れたとなると、ホバンスやデボネ周辺が狙い目か、或いは………」
「ロイツはダメですね、アルベドとシャルティアが言ってましたし」
「ああ、赤い飛竜と黒い巨竜が争っていたという………よく生きてましたね、あの二人」
そんな二人の交わす言葉に、魔将は諫めることを諦めた。覚悟は固く、同時に自分たち程度では助力すら出来ない、しても意味を成さぬであろう魔境のことなのだろうと察し、その先の補助を行う方が有益だろうと判断を下したのだ。万一のことがあろうと、この二人がどちらも死亡する可能性は低いと考え、より確実に『次』へと動けるよう、備えることを選んだ判断を、即座に言葉として投げる。
「それでは、我々はどのように準備を?」
「迎撃地点、及びドワーフ国の鍛冶師たちに通達と支援を」
「拠点側の鍛冶師が拡張を求めているようでしたら、そちらのサポートもお願いします」
淀みなく即答しながらも、二人は地図を睨み続けている。
「では、手始めに旧カリンシャ周辺の調査から、ということで」
「そこから南回りに進み、旧リムン、旧ホバンスを目指しましょう。北部は危険ですので」
ドワーフ国だけでは、そう多く産出しない未知の鉱物。その殆どが、かなりの深度からのみ産出して、そこより浅い場所では一切産出していない。その為、試行に使う分を抜くと武器一つ作る事すら贅沢であり、量産に使うには到底足りない。それ以外にも、問題は山積みなのだ。
しかし、二人の知者は気付いた。これらの鉱物資源と、森の資源の源流は何か、と。
そして何故、ローブルでは『龍脈炭』などという未知の鉱物が得られたのか、と。
「………有事の際には、私が殿を務めましょう」
「自分で言うのもなんですが、そうした方が効率的ですからね」
結論だけ言えば、彼らはローブル熔山帯に、まだ見ぬ鉱脈が眠る可能性を把握した。
そして良質な武具を求められている今、ユグドラシル産でも高位のものを人数分、そこに予備も加えて量産しようというのは無謀にもほどがある。ナザリックの在庫を把握しているパンドラがそう判断した以上、デミウルゴスも別の手を探らざるを得ず………揃って、この危険地帯の存在を思い出したのだ。
危険すぎるが故に人の手が加わっていない、古龍の骸より生まれた大地。見返りは十分の筈だ。
「では、善は急げです」
「とはいえ、長居せず定期的に戻るようにはしましょう。その方が安全ですので」
と、二人は早速場所の目星をつけ、過去の転移地点を利用して旧聖王国へ向かう。
*
事情が変わろうと、モンスターたちを取り巻く環境が変わることは無い。
迫る災厄と、それから逃れんとする本能行動が、大きく狭まった陸路とが、攻撃以外を選ばせることなく、モンスターたちを導き続ける。ヒトの生存圏を侵される以上、人間も攻撃という手段で応じるほかないが、そうしなければ自分たちが死ぬ以上、モンスターが妥協する事など出来はしない。
「キシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
鋭い咆哮が響く中、逃げるようにモモンガでも覚えのある異形たちが転がり込んでくる。
「オーガにトロールかよ?!」
「こんな時に………ッ?!」
黒く染まり、赤い光をその目に宿す亜人たちは、次の瞬間に命を奪われる。
「シャァァァァァァ………ッ!」
両翼を地に着け、翼膜に角とを鳴らし威嚇する、狂える電竜。その翼が、亜人たちの命を一撃で奪い去り、地面に紫に染まった鮮血と共にその身を構成していた残骸をぶちまける。残虐なる捕食者である電竜は、しかしそれらをエサと見做すことなく、狂気と本能の入り混じった攻撃性のもと、障害物を排除すべく碧雷を纏う。
「来るぞ!」
(不安はあるが………やれなくはない、筈!)
と、モモンガが号令。一斉に身構えた中、
「待って!」
「奇妙な音がする!いつでも避けれるよう、警戒してくれ!」
ギシ、ギシと軋むような、そこに呻きが混ざるような、奇妙な音。
その音が消えて数秒―――身構えていたモモンガは、超高速で飛来したナニカの直撃を受けた。
「―――――」
断末魔の声は、ない。彼の知覚を大きく上回る速度で飛来したナニカは、
「………なんだ、何が起きたというんだ?!」
叫び、その身を濡らす毒々しい液体に気付く。
「う、えええええ!?な、なんだこれぇ!?いや待て、そういえばぶつかってきたのは!?」
沈静化も間に合わない、驚愕の連続。そこに至り、周囲の時間が動き出した。
「ッ、門の外だ!外から」
「そこかあああああああああああッ!!!」
激昂したアルベドが駆け出す中、シズは急ぎモモンガのもとへ。
「モモンガ様!」
「シズはモモンガ様を!わたしはあの馬鹿を止めてきんす!」
激昂したアルベドを追いシャルティアが飛び出す中、泣きそうなシズに縋り付かれたモモンガは反射的に取り繕い、しかし結局理解が追い付かないのは事実である為
「いや、大丈夫………ではないが、今はそれより!」
再度身構えんとするモモンガだが、幸いなことに電竜の注意は彼らから失せていた。
―――――キシュアアアアアアアアアッ!!!
何かが噴出するような音に続き、大地を踏み締める音が響く。
「この虫ケラがあああああああああッ!」
激昂したままのアルベドは、毒々しく染まる巨虫へと躍りかかる。彼女の腕力を以て振るわれる刃は重厚な外殻を切り裂いていくが、効果があるようには見られない。が、鬱陶しく思われたのか、その四足で大地を踏み締め、力をため体当たり。すると、アルベドの体はボールか何かかと錯覚する程に、軽々と吹き飛ばされた。
「ぐげッ!?」
「っ、ぶねぇ………!頭空っぽにして突っ走んな、この脳筋ゴリラ!」
「ぐ………!」
危機意識の差………アルベドも知識は有していたが、短期間で本能レベルに刷り込まれるまでの経験はしていない。対し、シャルティアは辺境の三大危険地帯の一つで、何度も命に係わる危険を体験してきたことにより、本能レベルで怒りより警戒を優先するよう、刻み込まれていた。
無論、双方の主へ向ける情念の重さの差異もあるのだろうが、この差は小さくない。モモンガが直々に設定を書き換えたことで、彼の潜在意識に感化され他のギルメンに対する忠誠、敬愛が綺麗さっぱり抜け落ちたアルベドであれば、尚の事。
「ああもう、クソが!」
「ッ!」
翼が振り抜かれ、二人の居た場所を過る。碧雷纏う狂竜が現れると共に、狂える重甲冑が動く。
「―――――ッ!!!」
蒸気を噴出し、大地を踏み砕き突撃する巨虫。その姿はさながら、大地を走破する重戦車。重量感と、不相応な機動力、そして不気味な色彩を纏う巨大な虫………蒸気の噴出に伴う音と併せ、迫力満点どころではない。アルベドを軽々吹き飛ばせる膂力と併せ、普通に恐ろしい。何より、パワーのほどは既によくわかっており、巻き込まれれば只では済まない。
「チィッ!」
「クソがッ!」
片や激情を露わに、片や密かに激情の炎を燃やし、流線形の甲殻に身を包む巨大甲虫の進路から退く。それにより、凶暴な電竜の標的は巨大な甲虫へと移り、激突が巻き起こる。巻き上がる土砂の合間を雷光が奔り、細身ながらも強靭な筋肉を秘めた飛竜と、見た目通りの膂力と頑強さを発揮する甲虫の戦闘から距離を置いた二人は、広場へと続く門の手前に陣取る。
どちらも紫に染まり原色は不明であるが、肉弾戦で優勢なのは甲虫の方。巨躯に見合う重量は、さしもの電竜といえ容易く押し退けられるものではなく、圧倒されてしまっている。が、電撃を交えることで強引に『砲甲虫』を怯ませ、その膂力から脱するなど、一筋縄ではいかない。
「キシャアアアアアアッ!!!」
「っ、上!?」
「なにを―――危なっ!?」
金切声染みた異音に気付いた二人は、上空から降り注ぐ液体に気付き、咄嗟に回避。
地面に落ち弾けた毒々しい液を浴び、電竜は動きを止める。麻痺毒と二人が悟ったのも束の間、巨大甲虫は異臭を放つガスを噴出し、それに誘われるかのように空の甲虫が飛来。身構える二人を余所に、甲虫はその尻尾で宙を舞う甲虫を掴み、自身の頭上に押し付ける。そして、軋むような異音と共に口元にナニカ―――体液を収束、圧縮していく。
「………なにをしているの?」
「アルベド、構えなんし。多分だけど、あれが―――」
より過酷な死線を掻い潜った経験が、シャルティアの中にナザリックでも有数の危機察知能力を与えていた。お世辞にも頭がいい、とはいえないものの、この経験値と豊富な手札を有するビルドとが噛み合い、個としての完成度を高めていた。
「きたッ!」
結果、ほぼ反射での『不浄衝撃盾』展開は、完全に相手の攻撃を防げるタイミングであった。
「―――――ッ」
しかして『甲虫撃砲』の次発を受けたのは、狂える電竜。
その頭を粉砕され、辛うじて音となった掠れ声を断末魔に絶命。彼女たちレベル100の戦士でさえ容易くは砕けぬ竜の頭を、一撃を以て破砕するその威力は、攻撃に転用するソレより更に圧縮した体液に、斧の如き形の大角を持つ甲虫を砲弾とすることで実現されるモノであり、モンスターの命一つと引き換えの火力は絶大そのもの。その直撃がなにを意味するかは、眼前の飛竜が物語っている。
成程モモンガが不意打ちで即死したのも納得というもの。それはそれとして、許しはしないが。
「成程、テメェが………アルベド、こいつを拠点まで引き込みんすよ!」
「っ、そういうことね!」
アルベドが意図を理解し、守護者の中でも特に防戦に秀でた者として与えられたスキルを発動。巨大な甲虫………偶々北上した結果、不幸にも狂竜化してしまった未知なるモンスター、『砲甲虫』ゲネル・セルタス亜種は蒸気を噴き、アルベドの意図通りに彼女目掛け突進。
「あとは拠点まで走れば」
「走って逃げ切れる相手でありんすか?」
「………いいから走る!」
そして、二人は逃げる。大地を踏み締める重厚感たっぷりの音が、巨大甲虫が蒸気を噴出する事により発せられる甲高い音が、何より巨躯が猛スピードで迫る現実が、時間と共に二人の焦燥を加速させていく。
『お前たち、ワールドアイテムは持っているな!?』
そんな声が頭の中で響き、驚愕で足を止めかけるのをギリギリ堪える。
「む、無論ですが、何故今!?」
「っべ、距離が―――」
そして、その一瞬の失速で随分と距離を詰められてしまう。
だが、モモンガの返答のお陰で、気兼ねなく動ける人物が増えていた。
『恨み言は後で私に頼むぞ!とりあえず、全力でこっちに跳べ!』
「は?なにを―――ッ!?」
「今はそれどころじゃ―――ッ?!」
閃光、爆音、続けて衝撃。だが、不思議と苦痛は無い。
「よしっ!………と言いたいが、コレ本当に大丈夫か?」
「一応、低位のモノなのだけど………あ、きた」
ゴロゴロと転がってきた黒と紅の鎧を、白金の鎧が見下ろす。
「えーっと………無事かい?」
「「死ぬかと思った!」」
力強く、非難混じりに叫ぶ二人は、すぐに気付き背後へと視線をやる。
「…………ッ!」
「アレ、恐らくリ・エスティーゼ近郊のモンスター並だね。幾ら万一に備え低位の魔法を使ったにしても、あそこまで動けるとなると、そうなんだろう。モモンガの気配が一瞬可笑しくなったから飛んできたけど、正解だったみたいだね」
外殻が焼け焦げ、しかし立ち上がれるだけの余力を残した甲虫を前に、ツァインドルクスは警戒を露わに言葉を零す。先の一撃を思い出してか、モモンガが微かに身震いする中、その一撃を目の当たりにしたアルベド、シャルティアが続けざまに見た事実を口にする。
「っ、そうだ!あの一撃ですが、あのモンスターの砲撃です!」
「砲弾はアレよりだいぶちっこい虫で、現状ここにはおりません!つまり、今のうちに!」
不意を打つように現れた、推定難易度300前後の、巨大甲虫―――
この辺境では未確認の『砲甲虫』を前に、不死者の王はすっかり冷静さを取り戻した。
「なら、これ以上の被害が出る前に、仕留めねばな」
頼もしいまでに堂々と、モモンガは眼前の強敵を睨み返し、宣言した。
★設定
・ナザリックNPCの危機意識
パンドラ、デミウルゴス、シャルティアにシズ、アウラとマーレが一番強い。
他が幾らか劣るのは、知識に対する経験の多少、有無による実感の差異による。
今回、モモンガが眼前で即死したことで、アルベドも無事トップ陣入り。
・『甲虫撃砲』
教官クエでお世話になったアレ。外道恐妻砲(勝手に命名)
その威力たるや、モモンガを一撃即死させられる程。対価は不幸虫の命。
万一拘束された場合、砲弾が斧甲虫からその人物に変わる超危険攻撃でもある。
・ツァインドルクス・ヴァイシオン
モモンガの死亡と蘇生を感知し、すっ飛んできた竜王。
古龍以外の脅威を警戒していたところ、見事推定レベル100前後のモンスターを確認。
被害拡大の可能性も考慮し、加勢を決定した。
・『砲甲虫』
ご存知恐妻が、砂漠でド外道と化した姿。
原種共々、北西の辺境域では確認されていない。