《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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32―束の間の

 『砲甲虫』とでも呼ぶべき巨大モンスター、ゲネル・セルタスの亜種。

 

「―――――ッ!!!」

「来るぞ!絶対に巻き込まれんじゃねえぞ!」

 

 設定として与えられた廓言葉を投げ捨て、シャルティアが叫ぶ。

 種として通常のゲネル・セルタスを超える巨躯を有するモンスターの突進は、破壊力も絶大。更には砂漠地帯に適応した走破能力も加わり、一度疾走を開始すれば止めるのも至難の業。巨体と重量、速度と全ての要素を加味すれば、誰でも危険であると理解できる。

 

「ッ、あれで小回りまで効くってマジかよ!?」

「厄介な要素のオンパレードだな………ッ!」

 

 強靭な脚力で縦横無尽に駆け回る姿を睨み、モモンガは思索する。

 

(死んだのが気にならないのは置いておくとして、まずは動きを止めないと………と、なると!)

「《時間停滞(テンポラル・ステイシス)》ッ!」

 

 対個人の、時間停止―――すぐに効果が発揮され、砂漠の重甲冑は動きを止める。

 

「ありがとうございます!」

 

 そこにシズが駆け寄り、罠を設置。時間停止が解けた砲甲虫は、突進の勢いのままソレを踏み、発せられる強烈な電流により拘束される。動きが止まれば、如何に強大なモンスターといえども出来ることは限られる。距離を取っていた戦士たちが一斉に動く中、ツアーなどのように遠距離攻撃手段を持つ者は、そちらを優先する。

 

「『清浄投擲槍』、喰らえッ!」

「はああああッ!」

 

 シャルティアのスキル攻撃が穿った傷を、数多の武器が集中攻撃。

 

「いやあ、出遅れてしまったでござるなぁ。某も働かねば!」

 

 その言葉と共に飛び出した森の賢王は、同時に敵を睨み、思考を回す。

 

「虫………あそこまで大型のは初めてでござるな」

 

 賢王の生息域で、甲虫種モンスターは殆ど見られない。が、昆虫自体は生息しており、光蟲など日頃から利用している種もある。それらの十倍、どころでは無い体躯から、常識が通じないことを念頭に入れて、懐から次なる罠を取り出し、起動準備を整えると共に投擲。

 

「そこな戦士殿、これを!そのまま地面に叩きつければ使えるでござるよ!」

「感謝します!」

 

 地面に叩きつければ、ネットが広がり、続けて小規模な爆発が穴を穿つ。そこに甲虫が落下し、広がったネットが絡み付き行動を阻害する事で拘束手段として機能する。落とし穴に巻き込まれていない足と、頭部を護るように閉ざされた爪を除けば、攻撃手段など無いも同然のその体へと、戦士が攻撃を叩き込む中、後衛は彼らが手を出せない足を狙い、低威力や効果範囲の狭い攻撃魔法を叩き込んでいく。誤射の心配はあっても、それを気にする余裕は無い。

 

「消耗を考えねば、これが最善手にござるが………ぬっ?!」

 

 魔獣の聴覚が、東方から飛来する複数の、虫の羽音を捉えた。

 

「皆の衆、散開を!」

 

 察知した異変は、即座に伝達。勢力圏を、犠牲少なく維持し続ける上では不可欠な芸当だ。

 

「何かが迫ってござる!」

 

 獣の聴覚に由来する指示に従い、戦士たちが散逸。そこ目掛け飛来したのは、緑の弾丸。

 

「なんだ?!」

「あの時の………いえ、角が違う」

「どっちにせよ、危険に違いありんせん!」

 

 防御能力に長けたアルベドが、防御手段をバランスよく有するシャルティアが警戒する中、飛来した甲虫は二対の肢で砲甲虫の外殻を掴み、何と落とし穴から引き摺り出して見せた。それに驚いたのも束の間、恩など感じていないのか、巨大甲虫は背に乗る、鋭く尖った角を持つ『徹甲虫』へと尻尾を叩きつけ、抑え込む。その動作に二人は身を強張らせ、続けて響いた異音により最警戒状態へと移行する。

 

「わたしらの後ろに回れ!死ぬぞ!」

「冗談じゃないわよ………!」

 

 不運にも、北上していた『砲甲虫』。本来の配下である『斧甲虫』こそ二匹しかいないものの、森林部には原種である『重甲虫』、そしてその雄個体である『徹甲虫』が生息しており、当然彼らも古龍の脅威から逃れるべく西へと移動していた。そして、原種と亜種とでは、生息環境や体格に差異があるものの、発するフェロモンはほぼ同一であり、それ故に本来無関係な徹甲虫までもが誘引され、こうして複数が現れる事となったのだ。

 

(何かを貯めてる………それなら)

 

 シズは拡散弾をカホウに装填し、持てる全てを使い狙いを定める。

 

(今―――――ッ!)

 

 スナイパー………その名の通り、超長距離での射撃戦闘を前提とした職業であり、スキルを見ても長距離射撃戦向けのスキルも揃っている。それらを総動員すれば、シズ・デルタが狙った展開を引き起こすことも、不可能ではない。純粋な個人の腕前、武器性能の二つの要素を更に幅広く、事細かに補強できるのが、ユグドラシルの者の強みなのだ。

 

「―――――ッ!?」

 

 圧縮水弾を放たんとした口腔に弾が突き刺さり、炸裂。同時に圧から解放された体液も炸裂し、その頭を自らの力で吹き飛ばす事となった。強靭な外骨格を有する巨大な甲虫種モンスターをも粉砕するだけあり、それを撃ち出す水弾もまた非常に強力で、それが行き場を失い暴発した以上、砲甲虫もただでは済まず、その命を喪うこととなった。

 

「―――――……………」

 

 巨体が崩れ落ちる中、事態を飲み込めていない徹甲虫は可愛らしく小首を傾げる。

 だが、複数体飛来していることに加えて、その卓越した飛行能力を以ての突進攻撃の危険性に、紛れもない敵意を有するモンスターである以上、対処は決まっている。比較的小型だからといって、見逃す事など出来はしないのだ。

 

「っ、ツアー!シャルティア!奴らを叩き落とすぞ!」

 

 思考の復帰したモモンガが叫べば、他の者たちも口々に指示を飛ばし動く。

 

「あの羽虫どもを落とすぞ!攻撃を集中しろ!」

「突進と飛び道具に注意なさい!それ以外の攻撃手段は、見たところ持っていないわよ!」

 

 アルベドが己の持つ情報を叫ぶ中、徹甲虫たちは飛来する矢、魔法から逃れるので手一杯。

 そもそも、彼らの強さ自体は、砲甲虫に及ばない。種としてもそうだが、難易度の点で見ても、彼女たちを下回っており、森のヒエラルキーでも比較的下位に位置する存在。そしてアルベドの見立て通り、腐蝕液と突進しか対応手段がなく、その腐蝕液を撃つ暇もない以上、それこそ成す術がない。

 

 彼らの不幸は、苦手とする電気、炎属性攻撃が、スタンダードな攻撃魔法として存在している事に他なるまい。その腐蝕液、鋭利な鎌、突進攻撃と粒はしっかり揃っているのだが、如何せん砲甲虫という大敵の後であることに加え、彼ら自身は比較的弱い部類であるのが災いしている。

 

「ハァッ!」

 

 ツアーの操る武器が翅を裂き、甲殻を破砕し、深緑の甲虫を叩き落とす。地に落ちた瞬間、甲虫モンスターの死は確約され、冒険者や騎士の猛攻に晒されていく。その間にも、次々と空の甲虫が撃ち落され、その寿命を終えていく。狂竜症に侵されていない、或いは発症するに至っていないことも、一方的な印象を加速させてしまう。

 

「死ねやあああああああッ!」

 

 ついでに、アルベドとシャルティアはモモンガを殺された憎悪もあり、格段に苛烈な攻撃を叩き込んでいるせいで、余計に一方的に見える。それでも、素材として利用可能な程度の原形は留めている辺り、彼らの強度の高さと、それを木っ端微塵に粉砕する『甲虫激砲』の恐ろしさがよくわかるというもの。

 

 改めて、一人異様に波の立たぬ精神のモモンガはそれを客観的に理解し、戦慄していた。

 

(怖っ………マジでヤバいな、アレ………ていうか、なんで俺はこんなに冷静なんだ?)

 

 その要因は、彼がアンデッド………死者であるが故に、死の実感が薄まっているのが原因だ。そこに精神作用の抑制などの要因が加わる事で、驚くほどに冷静な思考を維持できてしまうのだ。言い換えれば、先の死で『鈴木悟』にあった、人間らしい生存本能に由来する死への忌避が薄れてしまっている、ということでもある。

 

 そして、不運なことにそれを察知できる者もいなければ、モモンガ自身もそれに気付けない。

 

「………終わり、か」

 

 来襲した甲虫たちは、討伐された。勝鬨の中、遠くを見つめるモモンガの横に、白金が立つ。

 

「一時、凌いだようだね………だけど、気を付けた方がいいだろう」

「それは判っているさ」

「東方だけど、気配から判るだけでも、過酷な生存競争が繰り広げられている。恐らく、今後来襲するモンスターたちは、相応の強さを身に着けている事だろう。古龍の力も、相応に強大なものと判断していい筈だ。心配ではあるけれど、ボクもそう長く離れている訳にはいかなくてね」

 

 グランセルの地に住まう『司銀龍』と、飛来する『冰龍』の存在は、アーグランドにとって最大の警戒対象。永久議員であると同時に、真なる竜王でもある彼は強大な戦力であり、他国の窮地といえどもそうそう動けるものではない。人間国家の窮地は理解しているのだが、自国の存亡がかかっている以上、他国も強く責めることはできない。

 

 そして、当のグランセルの古龍二体は、迫る脅威へと最大限の警戒を抱いている訳だが。

 

「本当に、苦労しているんだな」

「ああ。ボクたちの主な武器は始原の魔法なんだけど、古龍にはそれが通じないからね。位階魔法を学んでいる者もいるにはいるけれど、始原の魔法程の力を発揮するのが難しかったりと簡単ではないから、やはり強大な古龍を相手取るのは難しいんだ」

 

 位階魔法の欠点は、まさしくそこだろう。高位階魔法を使える者が限られているせいで、手数の確保さえできれば、帝国辺りの一般的なモンスター相手ならば十分に通じる筈のところ、全体的な威力の低さのせいで数を揃えてもジリ貧となってしまっている。無論、それらの要素が揃っていても尚、強大極まる壁となるのが『古龍種』なのだが。

 

「その、強大な古龍が迫っていると思うと、頭が痛いな」

「そう、だね。最低でも二体はいる訳だから、尚更ね」

「………ぇ?」

 

 最大の幸運は、他の者たちが甲虫の、拠点外の電竜の亡骸の搬送に駆り出されていた事のみ。

 

「え、え?」

「これまでの来襲者の気配を探っていたところ、大きく三つに分かれていたんだ。一つは普通の、そこらに居るようなモンスターの気配で、これ自体は大した問題じゃない。次に、今回のような狂ったモンスターで、その身を何かに蝕まれているのは確かだね。ただ、これについては少しばかり気になるところがあって………」

 

 含みのある言葉に、モモンガは無言で続きを促す。

 

「………どうも、不完全な気がするんだ。何故、と言われると、上手く説明できないんだけど」

「それは、後程改めて尋ねさせてくれ。それよりも、最後の一つだが」

「ああ、最後の一つは、また異なる力を宿したモノだ。こちらは、蝕まれている印象は無いのだけれど、気配からも恐怖が伝わって来ている。そして、この力は竜を蝕む力を拒絶しているようで、その身に毒々しい力が侵入した傍から打ち消している。恐らくだけど、この二つがそれぞれ異なる龍に由来する力なんだと思う」

 

 見事な推察であり、年の功を感じさせるものでもある。そして、ほぼほぼ的中している。

 

「………うわぁ」

「ただ、恐らく友好関係は無いだろうからね。上手くいけば………うん、上手くいけば、漁夫の利を狙えるかもしれない。あとは、龍殺しの力を宿した攻撃手段を揃えておくとか………ごめん、あまりいい案が浮かばないや」

「いや、そこは俺たちがどうにかするべき課題だから………けど、きっついなぁ」

「本当にね。古龍二体が住まう地が近いお陰で、今回の事態の危険性もよくわかるよ」

 

 ツアーの実感の籠った声に、モモンガは静かに頷く。彼も、この世界に転移して早々に剛種古龍と対峙する羽目になり、更には悉く絶大な力を秘めた個体の情報にばかり触れていることもあり、その言葉に賛同する他なくなっている。対策を立てようにも、その前提情報からして足りていないこの状況は、モモンガにとって最も忌むべき環境であるのだから、尚の事だ。

 

「それじゃあ、ボクはそろそろ行くよ」

「ああ、助かった。そちらも、気をつけてな」

「そうだね、お互い気をつけよう」

 

 そう軽い挨拶を交わした二人が、視線を門の更に先へと向けたところ

 

「「……………」」

 

 大地を削り、木々を巻き上げる巨大竜巻が見えた。ツアーの知覚範囲の、更に外側で起きている現象であるのだが、それ故に規模が判ってしまう。言い換えてしまえば、()()()()()()()()()()()()()竜巻であるというのに、()()()()()()()()()()()()()。それはまるで、彼らの抵抗の意思を嘲笑うかのようなものであり―――――

 

「前言撤回だ。他の竜王に報せ次第、すぐ戻る」

 

 焦燥を隠せぬ声と共に、ツアーが転移。そんな中、モモンガは大真面目に金銭勘定。

 

()()()を総動員する場合の消費額が………で、あの時のダメージ量での消費量が―――それらを合計して、万一倒された場合の消費額は最大で~~~だとすると、全滅の場合の必要金額は)

 

 かつて、1500人のプレイヤーによる討伐隊を全滅せしめた、切札の一つ。成果も莫大であったものの、同時に消費も莫大で、結果として損失の方が大きくなってしまったモノであるが、あんな災害を見せつけられれば、検討せざるを得まい。

 

 フレーバーテキストを実直に再現すれば、レイドボス級もあんな芸当が出来るのだろうか。

 そんな現実逃避気味の思考を即座に打ち切り、モモンガは生存の為に記憶を漁り続けた。

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