《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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IF.3―『冒険』の一幕

 鋭い咆哮の中を、二つの影が疾駆する。

 

「ギュガアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「氷狐竜とは、また珍しいものですね」

「キツネはウチだけで十分やけんなぁ」

 

 灰色と白で彩られたドレスメイルを翻し、双剣を手にしたエルフが冷気を躱す。

 妖狐はバックラーで防いだ冷気の裏で刃に薬液を塗布し、摩擦で発火させ、熱で氷を破壊。

 

「っしゃあ!」

 

 力強く叫ぶケマリの隣を、美しい剣二振りを手にソフィアが疾駆。

 

「ふッ!」

 

 紫水晶を思わせる結晶から削り出した刃が、分厚い甲殻を切り裂き、麻痺毒を流し込む。荒い気性の持ち主である氷狐竜はその華奢な体を引き裂かんと発達した前脚を振うが、その間に大剣を構えた白骨が割り込み、分厚く強固な刃で強引に受け止める。不死者は大きく吹き飛ぶが、その体で視界を遮ったエルフは、その双剣で的確に竜の肉体を切り裂いていく。

 

「ギュッ、ガアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

「あら、そう怒りっぽくては、レディのエスコートは出来ませんわよ?」

「はん!旦那はん以外にゃ、手ぇ取らせる気ぃない癖に!」

 

 鋭利なレイピア状の剣がその頭を乱れ突き、気力を奪っていく。

 

「よし、下がれ!ド派手なの、喰らわせてやる!」

 

 キーノの編み出した創作魔法―――赤黒い雷が収束し、光線となり放たれる。

 

「―――――《瘴龍滅光》、いくぞッ!」

 

 極めて強力な、龍殺しの光芒。その威力も折り紙付きであり、龍殺しを苦手とするモンスターであれば、喰らうことすら避けたい一撃。事実、氷狐竜も全力で逃げようとするが、味方からの攻撃を掻い潜り迫ったソフィアが双剣で腹を切り裂き、麻痺毒を蓄積。僅かに動きが鈍り、数多の竜を喰らってきた怪龍のソレを模倣した光線が甲殻を貫き、肉を灼き、氷狐竜が思わず絶叫する程のダメージを負わせる。

 

「ホンマ、ソレ見ると、地底湖のイカちゃんが大人しくしとるんが有難くてしゃーないわ!」

 

 高濃度の毒を塗り込んだ使い捨てナイフを、傷跡に的確に突き刺し、より多くの麻痺毒をその身に巡らせる。これまでの蓄積と併せ、モンスターの高い免疫力でも抵抗し切れぬ量に達したそれが肉体の自由を奪えば、キーノは魔力回復薬を飲み干し、再び古龍の力の模倣を発動。

 

「お前らは龍属性が弱点だからな。存分に喰らえッ!」

「あらあら、私では踏み込めませんわね」

「まあ、賢明だな。属性攻撃を打ち消す龍属性攻撃を受けたら、強みが消えちゃうし」

 

 その間に、強靭なドスキレアジのヒレでささっと刃の損耗をケアし、サトルと共に恐ろしく軽い動きで龍光の合間を縫うケマリと、彼女が用いた『減気の刃薬』により眩暈を起こし倒れた飛竜を見やる。続けて、キーノがガス欠を起こしたのを確認し、二人は頷き合う。

 

「さて、参りましょうか」

「ああ」

 

 硫斬剣を構えたサトルに続き、ソフィアが疾駆。重量に加速を乗せた一撃に続けて、強固な甲殻に刻まれた深い傷跡へと、冷酷無情な連撃が叩き込まれ、ワイバーンレックスを祖とする飛竜が悲鳴を上げるが、彼ら四人が容赦する理由にはならない。容赦できる程、氷狐竜は可愛げのあるモンスターではなく、容赦してやれる程、余裕のあるスケジューリングでもない。

 

 目撃例が稀有であるのは、その警戒心の強さと、極めて高い凶暴性によるものであると、彼らは冒険で蓄積した経験から知っている。だから、その怒りが頂点に達した今でも、感情の昂りに応じた肉体の変調を強引に抑え込み、速攻をかけているのだ。

 

「とどめ、もらうで!」

 

 ケマリの美しい細剣、ルナティックローズが氷狐竜の急所を貫き、息の根を止める。

 

 武具の質は、大陸全体で見ても最上位。更には、発動スキルに関してもサトルが廃ゲーマー時代の知識と経験をフル活用しており、それぞれが得意とする武器、戦法、更には扱う武器に応じた微調整を加えており、かなりのハイスペックに仕上がっている。比較的に若い個体には、荷が重すぎた。

 

「ひとまずおしまい、だな」

「氷狐竜のお陰で、人手がほぼ入っていないことは確定したな。後は………」

 

 顔を上げ、目的地を見上げる。

 

「ここまで近い場所で活発に動いている辺り、確実に不在でしょう」

「有難いっちゃ有難いけど、ちょっち残念やなぁ」

「なら、お前の言うイカちゃんとでも戯れてきたらどうだ?」

「堪忍、堪忍や!古龍バリバリ喰ろうとる子とか、おっかなくてかなわんわ」

 

 四人が想起するのは、いつの間にか地底湖に住み着いていたモンスター。あらゆる意味で異質な癖して、その性質は古龍と呼ぶほかない存在であり、恐暴竜以上の旺盛極まる食欲を有する怪物。最初こそ、ハクの『友達』すらも喰らおうとしていたが、いつの間にやら番犬代わりと化した、あらゆる意味でよく判らないモンスターだ。

 

「………レナの奴、気軽に演奏を聞かせてた気がするんだけど」

「あの嬢ちゃん、肝据わり過ぎてんねん」

 

 ちなみに、時にモンスターに合わせ即興で作曲し、様々な楽器を魔法で奏でるなど、その技巧はメンバー周知の事実である。同時に、故郷ではその才覚で編み出した曲、先祖が編み出した曲を『神獣』への奉納として奏でていた経験から、肝の太さもずば抜けており、周囲をひやひやさせることもしばしばだ。

 

 もっとも、地底湖で危害を加えようものなら、次の瞬間には消し飛ばされるのだが。

 

「それじゃあ、魔法を使うぞ」

「それしかないな。あの高さまで地道に登るとか、ある種の拷問だし」

「ま、あらウチでもキッツいわ。楽々いけるんは、シルヴィくらいやない?」

「彼女のことをなんだと………なん………申し訳ありません、否定できませんわ」

「大丈夫、俺たちも否定できないから」

 

 凶悪無比なる古龍を相手に、片目片腕を喪失する程の満身創痍の癖して、気合一つで喰らい付き続けていたアマゾネスの姿を思い出し、二人は何とも言えない空気に。その時に与えた傷が格段に深く、更には勝機にも繋がったのだから、余計に何とも言えない。それを察知したのか、二人はぎこちなく笑い、肩を竦める。

 

「………まあ、シルヴィさんは最強、ということで」

「やー、地下探索組は安泰やわぁ」

「安泰な地下組との合流の為にも、早めに調査しないとな」

 

 彼らの活動、特に2チームに分かれて行う場合には、時間を厳密に決めている。この制限時間は、過酷な環境、危険が予測される場であればある程短くしており、この時間が来たなら、どんな状況であろうと即時撤退、合流すべしと定めている。単独であろうと複数名であろうと、それは変わらず、その為に特殊なアイテムの常備を義務としている程だ、

 これは、互いの身の安全を考慮したものであり、違反した場合、厳罰等は無いのだが、他の皆にきつく られることになる。主な理由としては、当然相互の安全確認が第一で、撤退も伝言(メッセージ)による連絡も出来ないような窮地にある、或いは『最悪』の可能性を考慮したものであり、皆がきつく叱るのもそれが理由だ。本当に危険なのか、ただのミスなのかの判断が必要となるだけで、初動に大きく遅れが生じてしまうのだから、生存率にも大きく影響が出かねない分、真剣に怒るのだ。

 

「それじゃあ、皆集まって。一気に飛ばすよ」

 

 サトルが、キーノが魔法を発動し、柱の如く聳え立つ岩峰の頂を目指し、残り二人を連れ飛翔。

 龍の住処に近いこともあり、飛竜の襲撃もなく頂まで到達。そこにあるのは、幾らかの竜骨と、赫く輝く岩肌。その原因までは読めないながら、異質さは龍の痕跡として十分過ぎるものであり、四人はすぐ散開。それぞれ痕跡について調べ、思い思いの視点から情報を記録していく。

 

(この骨は………種類が多いな)

「鱗?………とりあえず、確保」

「お?見たことないモンめーっけ。持ち帰り確定やな」

 

 残された骨からモンスターの特定を試みるサトルと、剥離したと思しき鱗等を次々回収していくキーノの背後では、地形等をスケッチするソフィアと、奇妙な石を確保するケマリが忙しなく動いている。彼女の場合、薬品の材料となり得ることもあり、サンプルとしても大量に確保したい、という思惑が透けて見え、事実尻尾もご機嫌に暴れている。

 

「しかし、こんな光景は初めてだな」

「ですけど、この色から察するに、龍属性の力が強いモンスターの可能性が高そうですね」

「たーだ、それにしちゃ、随分色が特徴的なんよな。赤黒い、やのうて赫色って感じで。この龍の力に由来するモンか、土地柄によるモンか………下じゃこないな特徴見られへんし、たぶん龍の方によるもんやろな。そーなると、この龍はある程度定期的に戻ってきた可能性が高ぅなる訳で」

 

 それでいて、確かに特徴を捉えている辺り、抜け目は無い。

 

「ま、変質した臭い石ころの一つ二つ程度じゃ、それっぽいこと言うしかできひんけどな~」

「流石の慧眼だね。日頃やらかしているのも、無駄じゃないんだ」

「じゃかあしゃぁ!」

 

 耳、尻尾を逆立て叫ぶも、キーノは大して相手にせずメモを続ける。スケッチを取らないのは、その凄惨な絵心から、情報としての価値が皆無という悲しい現実があるから。尚、相方のサトルに関しては、変に捻ろうとしない限りは大抵わかりやすい名前になる為、ネーミングセンスの無さは置いておいて、そこまで危険視されてはいない………それはそれとして、生暖かい目を向けられるため、サトル自身ヘンに命名しようとはしないが。

 

「甲殻一枚にしても、かなり強固ですね。それと、銀色が綺麗です」

「銀色………そういえば、天翔龍も銀色だったな」

「もっと言えば、金塵龍も光を反射するような鱗だな。高高度に適応した結果かもな?」

 

 冒険の中で目撃した龍を例に挙げ、推察を続ける。

 が、程なくしてタイマーアイテムが音を響かせ、時間切れを告げる。元々時間を短く設定して、且つ交戦も避ける方向で動いていたのだが、氷狐竜との遭遇場所が悪すぎた。本来なら、キャンプの設営に適した地の把握までしたかったのだが、今回は古龍の存在、並びに棲家と思しき場所の調査を最優先としたため、叶わなかった。

 

 音が鳴るや否や、ドキドキノコと呼ばれる不思議な茸を、魔法的に加工した玉を地面に叩きつけ、緑色の煙を発生させる。別途マーカーとなるマジックアイテムが必要になるとはいえ、瞬間的に、且つお手軽に指定の場所まで転移できる、非常に便利な代物だ。材料も手軽で、大陸の南端付近の国家では大体利用されている。

 

 その便利アイテムで戻ると、既に地底調査組四人が戻っており、レナから濡れタオルを渡されている。中でも、ハクは随分と疲れた様子を見せており―――不安げに腹部をさする姿から原因を察し、サトルとキーノは顔を見合わせる。彼にしてみれば特大のトラウマであり、事実二人が運よく出逢わなければ、間違いなく凄惨な最期を遂げていたのだから。

 

「ハク以外、無事みたいだな」

「ま、ありゃ不幸な事故だわな。あたしらの方は、とりあえずモンスターの分布確認が出来た程度だが、紅ヴォルに宝纏がいた辺り、いい鉱脈が眠ってそうではあるな。ゴルドはどう思うよ」

 

 立派な髭を持つ獣人に話を振れば、険しい表情を浮かべる。

 

「ま、難しいじゃろうな。立ち入るにしても、安全面を考えりゃあ、まずナシじゃわな」

「それには同意だ。僕たちはモンスターと違って、溶岩に落ちた時点でおしまいだからね」

「足場が少ない分、採掘にゃ不向きじゃわい」

 

 語られる詳細な地形については、まず溶岩が流れている場所が圧倒的に多いこと。まともに戦うことが出来る広さの足場が少なく、遠距離戦闘が出来る者であっても、かなり危険であるということ。シルヴィとハクの二人を選出したのは、奇しくも大正解だった、という訳だ。

 

「………何事も無くてよかったよ、本当に」

「大抵の相手は、シルヴィが牽制で撃ち込んだ一撃で退いてくれましたからね」

「流石というか、相変わらずというか、なんというか」

「どういう意味だゴラァッ!」

「冷静に考えい。弓でバリスタ以上の破壊力を出してる方が可笑しいんじゃぞ」

 

 半ギレのシルヴィだが、悲しいかな、味方は無し。

 

「だが、お陰で皆無事に帰って来れた。ありがとう」

「―――――っ、そう、かよ。ま、お前がそう言うんなら、そうなんだろうよ」

 

 言葉に詰まったシルヴィは、一瞬だけ誇らしげに笑い、そっぽを向く。

 

「それじゃあ、次はサトルたちの話を聞かせてくれないかい?」

「そうだな。と言っても、あまり大きな成果は得られなかったんだが―――」

 

 四人が得た情報を共有している間に、レナは双方の話を纏めた二つの冊子を作成し。猫の獣人、アイルーたちは帰還した主人たちを労うべく、彼らの荷物を受け取る者、準備を進める者とで別れる。約三名ほど、食事が出来ない者はいるのだが、悲しいことに半数以上は健康的な食事を必要とするため、アイル―たちの仕事に変わりはなく。

 

 情報共有はいつしか雑談に変わり、穏やかな時間を生んでいた。







・イカちゃん

地底湖の古龍。成長中の龍を喰らおうとして、逆に殺されかけた個体であるが、利害の一致から服従の姿勢を取るように。絶島に居る他の古龍との共闘により、飛来する龍の多くを捕食している化物。

………なのだが、当の主(?)からの扱いは割と雑。残念ながら、当然なのだが。


・シルヴィ

口調が荒いダークエルフ。美しい純白の装備を纏う実力者。超絶悪筆。
魔法こそ使えないが、サトル&キーノ二人がかりでも勝てない程強く、彼ら九人の中で満場一致の最強。事実、二人との遭遇時には、彼らの誰も真似できない所業をやってのけていた。

大体フゲン+ヒノエといったスペックを持ち、本編時空込でも最強。得意は弓であるが、性に合うと愛好するのは太刀であり、双方ともに相手に合わせ変えることはせず、装備で龍属性を底上げしたそれらでゴリ押すのが殆ど。なのだが、本人スペックと装備による回復力ブーストで大抵どうにかできてしまう程。

本編に居れば最高に頼もしかった人材、堂々のナンバーワン。
一応、本編時空でも生きてはいるが、戦士としては再起不能な状態である。
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