《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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40―集結の時

 ナザリック地下大墳墓、表層―――

 

「こうして招集に応じてくれたこと、心より感謝する」

 

 一部の領域守護者を除く、すべてのシモベが跪く。

 

「まず最初に、一時ナザリックが機能を停止することを宣言させてもらう」

 

 モモンガの言葉に、多くの者が目を剥く。同時に、半数が納得を示した。

 彼の背後に従えられた、ナザリックが有する正真正銘の奥の手、究極の切り札の数々が並ぶ様は、その正体を知らぬ者であろうとも、不退転の覚悟であることを理解できる程。加えて、最前列に並ぶ者たちの中には、桜花聖域守護者のオーレオールの姿もある。切り札の数々の指揮官にして、ナザリックの転移機能を司る人物である以上、彼女が表に出たからには、転移機能を含め機能停止するのが道理であった。

 

「そして、お前たちにはこの日を以て、シモベであることをやめて貰おうと思う」

 

 真意を知る者たちが、言葉選びの悪さに苦笑を浮かべる。が、それ以外はそれどころではない。

 

「そ、そんな!?わたくしたちに、何か至らぬことが!?」

「お、お許しください、モモンガ様!どうか、どうか見捨てる事だけは!」

「―――――静まりなさい。それと、モモンガ様。少々言葉選びが意地悪かと」

 

 シモベたちを一喝し、しかしその姿に同情も示すアルベドは、主にそう苦情を申し立てる。

 

「ですね。では、私から説明させていただきましょう」

 

 不在のデミウルゴスに代わり、パンドラが姿勢を正す。

 

「まず、モモンガ様から我々への命令は、今後大きく減ることとなります」

 

 引き攣るような悲鳴を上げたのは、誰だったか。少なくとも、外部での活動が増えた一般メイドたちではなかったが、彼女たちの顔色もよろしくはない。捨てられるのではないか、という不安が拭えないのは、彼女たちも同じなのだろう。

 

「理由は簡単で、わたしたちが命令を遵守するように動いては、不測の事態への対応が難しくなるから、でありんす。お前たちは率先して戦うこともそうないでありんしょうが、万一の時に指示を待つことになれば、最悪その瞬間にお前たちは殺されてしまいんすからねぇ。それを防ぐために、わたしたちを含めて、自己判断で動くように、ということでありんす」

「絶対服従のシモベであることは許されない、ということね」

 

 シャルティアから驚くほどスムーズに理由を語られ、アルベドもそれを肯定。

 そこに至り、オーレオールはモモンガの『考えて決断しろ』という言葉の真意を理解した。

 

「故に、最後に問おう―――――この先、かつてのナザリック防衛戦を超える死闘となる」

 

 端的に事実を述べ、眼窩の紅炎を燃え上がらせる。

 

「お前たちは、どうする?………命令はしない。お前たち自身が、どうしたいかを判断せよ」

 

 沈黙が流れる間もなく、最初にアルベドが口を開く。

 

「我が命に代えても、御身をお守りいたしましょう」

「それは、それがお前の役割だからか?」

「いいえ。モモンガ様を愛しているからこそ、にございます」

 

 対抗するように動くかと思われたシャルティアは、しかし冷静に宣言する。

 

「わたしも、モモンガ様と共に戦いましょう。我が力、存分に使ってくださいませ」

「頼りにさせてもらうぞ、シャルティア………では、少々ズルいかもしれないが」

 

 その手に小さな石のお守りを乗せ、差し出す。

 

「お前の力を高めてくれるだろう。お前が発見したものだ、お前が使え」

「は………はいっ!」

 

 シャルティアに一層の気迫が満ちる中、少しの思考を挟み、コキュートスが顔をあげる。

 

「我ハ、前線ニテ刃ヲ振ルイタク思イマス」

「そうか。だが、相手は空に舞う存在だぞ」

「ナラバ、堕トセバヨイノデス。モモンガ様トシャルティアナラバ、或イハ可能デショウ」

「ふっ………言ってくれる。だそうだぞ、シャルティア。私たちも頑張らねばな」

 

 少しばかり気安くなったコキュートスに、モモンガは嬉しそうに応じる。

 その姿を視界の端に収め、セバスは難しい顔で考え込み………

 

「私は、後方に回らせていただきたく思います」

「ほう?」

「確かに、強大な龍を相手取る戦力も必要でしょう。しかし、殿を預かる者も必要でしょう」

「その通りだな」

「それに、デミウルゴス様は直接戦闘向きではありません。護衛の一人二人は必要でしょう」

(ああ、なんだかんだ言ってたっちさんの子だなぁ………)

 

 セバスの決断を嬉しく思う中、パンドラは言う必要もない、とばかりに直立不動。

 そして、アウラとマーレが決断するより先に口を開いたのは、予想外の人物だった。

 

「どうか、私たち一同に、ナザリックに残る許可をいただきたい!」

「………エクレアか」

 

 驚いた様子のモモンガだが、ペンギン使用人は、背後の者たちは動じない。

 

「皆様方がお帰りになられるときに、出迎える者がいなくては、寂しいではありませんか」

 

 その言葉が、モモンガの心に深く突き刺さる。

 見送るばかりで、ただ一人残された彼の心を、強烈な感情の波が揺さぶるのだ。

 

「い、いいだろう。どうやら、勝って帰る理由が増えてしまったようだな!」

 

 抑制し切れぬ感激に声が震える中、一般メイドたちが逡巡した様子を見せる。やがて、彼女たちは二手に分かれ、それぞれの代表者が一歩前に出る形で、自分たちの決断をモモンガへと告げていく。その目は、外界と触れたお陰もあるのだろうが、確かな決意に満ちていた。

 

「エトワルほか17名、エクレア様と共に、モモンガ様のお帰りのため、尽力したく思います」

「シクススほか22名、モモンガ様たちのご助力のため、前線に出たく思います」

「………お前たち………」

 

 帰りを信じ、ナザリックの維持を申し出る者たちがいた。

 主たちの勝率を上げるため、脆弱な体を押して役に立とうとする者たちがいた。

 

「アウラ・ベラ・フィオーラ、モモンガ様のお手伝いをしたく思います!」

「マーレ・ベロ・フィオーレ、モモンガ様のお手伝いのため、頑張ります!」

 

 具体案は浮かばない。浮かばないなりに、二人は主の身を案じ、共に戦うことを決意した。

 

「………私は、前に出ます。一番あのモンスターたちを知っているのは、私です」

 

 シズの言葉に、姉妹たちは安易に追従することなく、自身の決断を口にする。

 

「私は後ろに控え、人間たちと共に戦います」

「あたしもです。腕っぷしは劣りますが、回復魔法はいっぱい使えますので」

「私はデミウルゴス様の補佐をできればと。目が多いほど、指揮もやりやすいでしょう」

「………微力ながら、モモンガ様たちと共に戦うことをお許しいただきたく思います」

「頑張ります!」

 

 皆が考え、考え、己の意思で決定を下していく。その度に、モモンガの声が喜色に満ちていく。

 

「オーレオール・オメガ、全力を尽くすことを誓いましょう」

「同じくルベド、御身の敵を討ち滅ぼすことを誓います」

 

 二人が宣言したところで、一部以外の視線がパンドラへと集まる。

 

「パンドラズ・アクター、モモンガ様のお望みのため、尽力することを誓いましょう」

 

 そこに含まれる多重の意味を全て読み解けたのは、果たしてどれだけ居るのか。

 

「では、オーレオール。手間をかけるが、彼らを第九階層まで送り届けてほしい」

「あ、エクレア!あの子たちの世話、お願いね!」

「遊び相手というより、遊び道具として見られてる気がするんですよねぇ、私」

 

 最後になるかもしれない会話を数度交わして、待機を決めた者たちがナザリックに戻る。

 それを責めはしない。なにせ、ナザリックのNPCの大部分は趣味優先で、ユグドラシル基準では、戦闘の役に立たないどころではない程低レベルの者が殆どだ。だが、彼らの選択は臆病風に吹かれた、などではなく、彼らの勝利を願い、祝う準備をするためにと、敢えて守りが失われるこの地に残ると、そう宣言したのだ。

 

 そして、彼らを必要とするもう一つの勢力が、この地を守るために到着する。

 

「ピュィアアアアッ!」

「キュァオオオオオッ!」

「………ヒプノックと、ホロロホルルだったか」

 

 モモンガが名を呼んだ鳥竜に続き、他にも数多のモンスターが、ナザリック周辺に集まる。

 森の賢王は最前線に出ているが、本能に抗い切れぬ者たちの多くが、こうして同盟者の拠点防衛のために集まったのだ。個々の力はそう高いものでもないが、彼らは数の利と、それを効率的に使い強大な個を磨り潰す戦術を理解している。

 

 これは激励だ。『必ず勝て』、そして『生きて帰ってこい』という、この地の命からの。

 

「まったく………退路を断つのが上手いな、本当に」

(元々、退路なんてないけどな。しくじれば、森どころかナザリックも危ういんだから)

 

 赤い眼光を一際強く輝かせ、《転移門(ゲート)》の魔法を発動。先は、決まっている。

 

「―――――行こうか」

 

 ローブを翻す。死地へと赴く背中へと、異形の軍団が付き従う。

 残ると決意した者たちを孤独にしないためにと、強固な決意を宿す、精強なる軍団だ。

 

「お待ちしておりました、モモンガ様」

 

 モモンガの腹心が跪き、肩を並べ戦う戦士たちと共に出迎える。

 リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国、アベリオン聖獣連合………近隣の国家のほぼ全てから、戦力が派遣されているのだ。無論、帝国以外は自国内の脅威への備えも必要である以上、総力を集結こそできていないが、およそ考え得る最高戦力を、惜しげもなく投入していることに違いはない。

 

「コノ、寒気ハ………」

「冰龍の影響だね」

 

 そう零すツァインドルクスを除くと、皆武具の上から分厚い防寒着を纏っている。中でも、特に辛い思いをしているのは、スレイン法国から貸与されたワールドアイテムに身を包む、カルカであろう。その美貌を引き立たせる、深いスリットの入ったチャイナドレス【傾城傾国】であるが、ボディラインを際立たせるほど薄いそれに、防寒効果などある筈もない。

 

「時間は無さそうだ」

「無いでしょうね。あと、三日も残されていないんじゃないかしら」

 

 番外席次の言葉に、しかし誰も動じはしない。

 『いつか』が、『すぐ』になっただけだ。予想外は数多くあったが、残された猶予が少ない程度のことを気に留めはしない。もとより、いつ死ぬかも判らぬ仕事を生業とする者たちだ。命惜しさではなく、未知の脅威を未知のままにしないために生存を選ぶことこそあれ、死ぬことを恐れるような者は皆無。何より、未知と幾度となく対峙したおかげで、そういうものであると心構えが出来上がっていることが、大きかった。

 

「………理解しているだろうが、近いうちに決戦となるだろう。砦蟹のそれとは、異なる決戦に」

 

 ガゼフが険しい顔で頷き、王国、法国の者が一斉に姿勢を正す。法国側の戦力派遣は聖典部隊が主でこそあるが、情報の共有はしっかりされている。それとは異なる、と前置きこそされているが、決戦という響き、そして砦蟹を比較と挙げられたことで、その意味の重さを噛み締めるのだ。

 

「で、あろうな。数以上に、黒く染まる現象が広がる可能性を考えれば………」

「ああ。私と、私の部下数名………そして、スレイン法国の精鋭とで、前に出る。我々が古龍たちを抑え込む間、皆にはこちらに逃げ込んでくるであろう、モンスターたちへの対処を頼みたい。無論、我々にできることならば、幾らでも手を貸そう。そのための備えはしている」

 

 モモンガの背後では、こちらに出向いた非戦闘系のシモベが動き始める。彼らの戦いを支える為にと、ナザリックから持ち出したものを惜しげ無く使い、文字通りできることに全力を尽くしていく。戦えぬながらも、こうして主のためにと前に出た者たちは、事態の重大さを肌で感じたことで、心の内の嫌悪、侮蔑を完全に投げ捨て、全力を尽さなければ、と持てる力を存分に振るうのだ。

 

「………かたじけない」

「代わりに、こちらは任せるぞ。私たちでも、古龍級四体を相手にするので手いっぱいだ」

「そこは安心していただきたい。我らの命に代えても、守り抜いて見せましょう!」

 

 対古龍の戦闘には参加しないながら、間違いなく精鋭に位置する者たちが力強く首を縦に振る。

 そこから次の話題に移らんとしたところで、転移魔法により『蒼の薔薇』が現れる。

 

「すまない、遅くなった!まったく、一番早いのが私だからって、あいつらは!」

「い、イビルアイ、落ち着いて………」

「おう、貴族様方と、あと陛下たちからの贈り物だ!」

 

 その背後には、よく《上位転移(グレーター・テレポーテーション)》一回で運べたな、と感心するほどに、支援のための品々が山積みにされた荷車が。その数も相当なものだが、イビルアイが再び転移魔法を使おうとしたところで、デミウルゴスが待ったをかけ、慌てて彼女に追従。数回に分けて、支援物資の山を運び込んだ。

 

「すまない、助かった………この寒さは、冰龍か」

「その通りだね。幸い、今は奴だけだけ………ど………」

 

 ツアーが言葉を失い、空を見上げる。何事か、と他の者たちも空を見上げ、少ししてその元凶が現れてから、揃って言葉を失った。船とは本来、水上を移動するものであり、竜王国という特殊な環境でこそ、砂上を走るという非常識でも許容は出来ていた。だが、だが―――

 

「………そんなのありかよ」

 

 空を飛ぶ船、なんてものは、誰一人として、考えたことすらなかっただろう。

 

「おいおい、なんだありゃあ………これ、あそこに向かえばいいんだよな?」

 

 そして、そんな非常識を頼りに、個人として最強に近しい男もまた、同じ場所を目指した。

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