《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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漸くここまで来れた………冗長になり過ぎたか


42―龍群、激突

 始原の魔法が、空中における足場となる飛行船を転移させる。

 

 その数、二。

 

(まさか、こんなことになるとは、ね)

 

 ツァインドルクス=ヴァイシオンは、古き竜王において、最強と呼ばれる存在だ。

 世界が歪められる以前、八欲王の時代に多くが滅ぼされた竜王の一角であり、世界の変成を体感した世代でもある。黒き龍によるプレイヤーの鏖殺を目の当たりにし、多くの竜王が滅ぼされ、空白となった地を龍が作り替え、竜が満たす様を、それに抗う民を見続けた。(ドラゴン)である彼は、過度に肩入れすることなく、亜人たちをまとめ上げた評議国へと籠り続けていた。

 

 だが、同時に彼らを………辺境の人間を、見守り続けてもいた。

 彼らが何か過てば、すぐに見放す程度の関心でしかなかった。だが、彼らは間違うことなく、自分たちを救ってくれた存在に依存するのではなく、自らの力で生存圏を広げていった。竜王たちが敗戦の傷、或いはそれを言い訳にした自己保身で保守的に立ち回っていた間に、人類は弱いモンスターたちを利用し、時に迷い込んだプレイヤーと手を結び、強かに立ち回り続けてきたのだ。

 

「………今更、異物として排することができる、とは思っていないさ」

 

 八欲王をはじめとするプレイヤー以上に、上の際限が無い龍たちを排除することは、不可能だ。

 キュアイーリムが用いた《滅魂の吐息》は滅尽龍に通じず、その体躯とゾンビの鎧を以てしても短時間の生存が精々と、上位に位置する存在はトコトンまでに強大で、凶悪なのだ。ツアー自身、多くの竜王が集う評議国周辺の監視を行う古龍たちのお陰で、反抗心なんてものはとっくに折れている。

 

 だが、全てに反抗するつもりは無くとも。

 

「彼らは、私の友たちが守った民だ」

 

 使える始原の魔法から、ありったけの強化を仲間たちに施す。

 

「ならば、私が、彼らを見捨てる訳にはいかないだろう」

 

 もし、スレインが神に選ばれた国と驕り、増長しているようであれば。肥沃な地の王国が、腐敗の限りを尽くしているようであれば、ここまで強い思い入れを抱くことはなかっただろう。だが、彼らはツァインドルクス=ヴァイシオンの、最強の竜王の琴線に触れたその輝きを損なうことなく、多くの脅威に抗い続け、生存圏を勝ち取り続けたのだ。

 

「装填、出来ました!」

「シズ様から、あちらも準備できたと報告がありました!」

「では、開戦の合図だ。着弾次第、我々も出るぞ」

 

 ナザリックのメイドたちが船の武装の準備完了を報告し、モモンガが指示を下す。

 

「………改めて目にすると、モンスターが逃げ惑うのも納得がいくな」

 

 木々が根元から引き抜かれ、暴風の中を土砂と共に舞い。荒れ狂う轟雷が木々を貫き、土砂の塊を破壊し、どす黒い風壁を漆黒の鱗粉がより深い黒へと染め上げる。その中では、赤と金の稲光と共に紫の爆炎が閃き、現実離れした光景を作り出している。が、飛行船が姿勢を保つのにも苦労するほどの暴風が、それに揺られる不安定な足場が、否応なしに現実だと突き付けてくる。

 

「ハァッ!」

 

 ツアーの始原の魔法が、暴風の壁に穴を穿つ。

 

「今ッ!」

「撃ぇっ!」

 

 そこを通し放たれる、設置型兵装による攻撃。荒れ狂う稲妻により撃ち落されるものも見られるが、天災を掻い潜った砲撃は空を舞う龍たちへと飛来し、赤い爆炎の花を咲かせる。機動力の高い黒蝕竜、怨虎竜は見事に離脱して見せたが、対の龍はその巨躯から完全に逃れることはできず、その身に強烈な爆発を浴びることとなった。

 

「―――――ッ!?」

「効果は薄い、か。だが、怯ませることはできた」

 

 《生命の精髄(ライフ・エッセンス)》による変化の確認はできなかったが、反応一つでも十分な成果と言える。そんなことを考えていると、同時発動していた《魔力の精髄(マナ・エッセンス)》が新たな反応を知覚。驚き顔を上げれば、そこを起点として強烈無比な冷気が広がり、風で巻き上げられた土石が氷塊へと変化していく。

 

 空気を青白く染め上げ、()()()()()()()()()、冰龍が顕現する。

 

「ギュアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 極低温の世界を作り出し、氷を纏う龍が翼を広げる。

 

「援軍、なのか………ッ!?」

 

 続けて空中に生まれたのは、銀色の雫。それは肥大し、無数の液刃を龍たちへと放つ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」

 

 辿異種。『司銀龍』の異名を持つ古龍、ハルドメルグが咆哮する。

 

「司銀龍まで………!」

 

 そして、暴風の風越しにもわかる、絶大な力の発露。それに、思わず絶叫する。

 

「魔法だと!?」

「ギュオオオオオオオオッ!!!!」

 

 魔法で生み出された、銀色の流体金属が形を変え、放たれる。

 

「歴戦の個体が使えることは知っていたけど、まさか辿異種までとは」

「アレと同格なのだから、不思議ではなかったけどね。神官長たちの胃痛の種が増えるわね」

 

 静かに笑い、番外席次はマジックアイテムにより《飛行(フライ)》を発動し飛び出す。

 それに続きツアー、シャルティアが飛翔し、接近してきた場合に備えてアルベド、コキュートスが待機する。戦力の動きを確認し、モモンガは大きく息を吸い込む。無論、それを受け入れるべき肺が存在しない以上、仕草だけなのだが、それはある種の決意のための行動。モモンガというプレイヤーとしてではなく、鈴木悟という人間としての、決意だ。

 

「私も出る。船は任せたぞ」

「ハッ!」

「オ任セ下サイ!」

 

 飛翔し、暴風圏に突入。その凄烈さは魔法で到底抗えぬ域であり、皆思うように動けず、流されている。空中戦など夢のまた夢に思われたが、モモンガを除く三人は上手く風に乗り、浮かぶ岩塊や氷塊をうまく利用している。戦士として歴戦である二人はとにかく、シャルティアがそこまで動けるようになっているというのは、嬉しい誤算であった。

 

(ペロロンさん。貴方のNPCは今、立派に戦ってますよ)

 

 魔法攻撃で二体の龍の気を引くシャルティアは、『死せる勇者の魂(エインヘリヤル)』をその特異な色彩により隠れ潜ませ先行させている。そして、生気のない分身騎士が風の流れに乗り、その中核となる風神龍へと肉薄、その身に鋭槍を叩き込んだ。

 

「―――――?」

「ッ、オオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

 不気味な感触に分身が動きを止める中、風神龍の放つ赤雷が荒れ狂う。咄嗟の回避が間に合わず被弾する分身は、次の瞬間に雷神龍の放つ轟雷を浴び、数秒としない内に消滅する。が、その一瞬の反応から異質なナニカがあると察知したシャルティアは、魔法による転移で二体の龍の死角に回る。

 

「シィッ!!!」

 

 スポイトランスを突き立てれば、その違和感に気付く。

 

(ゴムを突いてるような………ッ)

 

 そう、ゴム。似ている、とだけだが、斬撃武器では難儀させられるだろう手応えだ。

 

「オオオオオオオオオオオッ!!!!」

「《力の聖域(フォース・サンクチュアリ)》ッ!」

 

 龍殺しの雷を纏う暴風を魔法で一瞬停滞させ、転移により離脱。その先は、対龍の上だ。

 

「『清浄投擲槍』―――ッ!」

 

 追尾能力を付加した、龍たちが耐性を持たない神聖属性の攻撃。理不尽にも近い圧倒的な能力差から来る、属性を帯びた攻撃によりあっさりと叩き落されてしまうが、注意がわずかに彼女に向けば、その間に他の者たちも動きやすくなる。事実として、ツアーは大きく距離を詰めていた。

 

「―――――ッ!」

 

 が、その周囲に浮かぶ武器は、古龍に向かうことなく、地上へと放たれる。

 

「グギャォッ!?」

「………奴はボクが引き付ける。悪いけど、そちらは任せるよ!」

 

 極限化した怨虎竜。ワールドアイテム、或いはそれに準ずる力を有する者でなければ、文字通り刃が立たない怪物を相手に、始原の魔法の使い手として最強の竜王が立ち向かう。更に言えば、肉体無き鎧の戦士と、底なしの食欲を以て生ある者を喰らう餓竜とは、ある意味相性がいい。

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 それと入れ違いに来襲するのは、病禍を巻き散らす黒き竜。その発達した翼腕を広げ飛来した竜と、雷神龍の間へと風神龍が割り込む。荒れ狂う暴風、赤雷をその身に浴びながら、しかし驚くほどに通用している様子を見せぬ黒き竜は、その剛慘爪を突き立て、至近距離から漆黒のブレスを叩き込む。

 双方の格差を示すかの如き激突の中、ブレスの爆発により距離を取った一瞬の間に。雷神龍より放たれる雷が黒蝕竜を襲い、漆黒の厚鱗を、厚殻を一層どす黒く焼き焦がす。その一瞬の間に、暴風のブレスによりその身を吹き飛ばされた黒き竜が、暴風の壁を突き破り飛行船の甲板上へと墜落する。

 

「きゃああああああああっ!??!」

「被害状況!」

「航行能力には影響ありません!」

 

 怒号が飛び交う船の上、身構える守護者すら意に介さず、黒き竜は翼脚を広げ立ち上がる。

 

「グルゥゥゥ………ッ!」

 

 その身に走る光が、急速に変わっていく。淡い青紫が、毒々しい紫へと変わり、暗黒翼から放出される鱗粉の量が増大する中、黒き竜は暗黒翼から伸びる剛慘爪を船体へと食い込ませ、疎らに白くなった頭部に格納された触角を、()()()()()()()()

 

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 狂竜ウィルスの鱗粉が体表に纏わり着き、結晶化していくことにより、漆黒の体を毒々しい紫へと染め上げる。激増した鱗粉の放出が、翼膜が増えたかのように錯覚させ、禍々しい黒き竜を文字通りの怪物へと変え、その鱗粉を巻き込んだ竜巻は完全な漆黒へと変貌。外から内を観測することが不可能な程に、黒く染め上げられる。

 

「ナント、イウ………ッ」

 

 竜巻が飲み込み切れなかった鱗粉が、曇天を漆黒に変える。僅かに差し込んでいた光すら完全に飲み込み、夜の如き漆黒へと包み込んだのだ。これだけの暴威を引き起こす眼前の存在へと、誰もが恐怖、警戒を抱く中、しかし黒き竜は弱き、小さき者へと構うことなく翼を広げ、竜巻へと飛び込む。

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 飛翔すらままならぬ暴風の中を、平然と舞う黒き竜。その飛行能力も然ることながら、激烈な嵐の中を舞う黒蝕竜の咆哮と共に、空が不気味に輝いた。竜巻の中の者たちは即座に危険を察知し、警戒と回避の姿勢に入る中、飛来したのは―――

 

「隕石!?………いや、違う、が」

(とにかく、当たるとヤバいのはわかる!)

 

 狂竜ウィルスが形を成した、禍々しい凶星。禍々しい紫白に輝くそれらが、遥か空高くより降り注ぐ様は、世界の終わりを連想させる。事実、暗闇に包まれた竜巻の内側の者たちには、この世の終わりが如き禍々しさを感じさせている。しかし、その敵意の矛先が向くのは、小さき者たちではなく、帰郷を邪魔立てした対なる龍。

 暴風、轟雷荒れ狂う中心たる古龍の番は、シャルティアたち相手に使うことが無かった絶大な力を解き放ち、狂竜メテオを迎撃する。恐ろしいことに、赤雷も黄雷もその流星を容易く破壊、とはならず、破壊されなかった流星が二体の古龍へと激突、大爆発を立て続けに引き起こした。

 

「ォオオオオオオオオオオオオッ!!!」

「ギュアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 更に、冰龍と司銀龍がその力を存分に使い、全方位攻撃。

 

「ぬぁっ!?」

「ッ、『不浄衝撃盾』ッ!」

「く………っ!」

 

 それぞれが防護を行う中、外敵もいいところである二体の龍、黒蝕竜にも銀刃が、氷槍が飛翔。黒蝕竜が結晶の壁により攻撃を逸らす、或いは減衰させることでダメージを抑える中、対である神龍は完全な回避も叶わず、その身に深い傷を刻まれていく。

 

「………これが、古龍という存在か」

「歴戦王と辿異種って、上澄みも上澄みだから参考にしない方がいいわよ?」

 

 暴風に乗り合流した番外席次がそう零す中、魂まで凍り付かんばかりの恐怖が沸き起こる。

 

「………ひッ!?」

「―――――」

 

 奔る悪寒に番外席次が悲鳴を零す中、モモンガは声すら上げられない。

 

 『鈴木悟』が必死に叫ぶ。『逃げろ』『勝てない』―――――『バケモノが来る』、と。

 

「ギュゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 圧倒的とすら言える巨躯を誇る対なる龍が、恐怖に引き攣った声を零した。

 黒蝕竜が地上へと急降下し、全方位を警戒した。

 

 歴戦の猛者中の猛者が、異を辿り超越に至った古龍が、初めて動揺を見せた。

 

「な、なに!?なんなの!?」

「一体、何ガ………ッ」

 

 竜巻の外に浮かぶ船にまで恐慌が伝播する中、空砲の轟音が響く。

 

「落ち着けぇ!………と言っても無駄だろうがな」

「ど、ドラウディロン様………」

 

 唯一、恐怖することなく在る、自覚無き黒龍の巫女は腕を組み、空を見上げる。

 漆黒の竜巻の先、微かに視えた金剛石が如き鋭利な煌きを。

 

「………早い、早すぎるぞ………!」

 

 轟く爆音に遅れて、竜巻が霧散する。事態を把握したドラウディロンは、ただ指示を飛ばす。

 

「高度を落とせ!間違いなく好機だ、これを逃す手はないぞ!」

「ま、待ちなさい!モモンガ様は無事なの?!それより、アレは一体なに!?」

 

 アルベドまでもが冷静さを失う中、ドラウディロンは地上を指差し、口を開く。

 

「『滅尽龍』だ。イビルアイ殿の最大のトラウマで………現状、一番訳の分からんヤツだな」

 

 そこにあったのは、腹に大穴を開けられ倒れ伏す、風神龍………イブシマキヒコの姿と

 

「ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 金剛石が如き、鋭利な輝きを宿す棘に身を包む、禍々しくも雄々しい龍であった。




★設定

・黒龍の巫女

またの名を、『黒鱗の竜王』ドラウディロン・オーリウクルス。
番外席次に並ぶ偶然の連なりにより、『黒龍』と共鳴を果たした混血。世界の法則が異なることを原因として、竜人族の双子と異なりただ共鳴するだけに留まらず、始原の魔法という形でその力の一端を行使可能になった存在。
黒龍の力の一端ということから、極めて強力な炎属性と、龍殺しの性質を併せ持つ魔法を行使可能である、竜王と龍、更にはプレイヤーにまで優位を取ることが可能な最終兵器。ただし、本人が正確にコスト、リスクを把握していないこともあり、遠慮なく振るわれる機会は皆無である。
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