《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
ご注意お願いします。
暗天の下。虫の息の風神へ向け、金色の雷神が飛翔する。
「ギュッ、ルァアアアアアアアッ!!!!!!」
「ッ!」
「っ、ぐぉぉぉぉ!?」
無差別に放たれる稲妻が、滅尽龍のみならずモモンガたちを、飛行船をも襲う。
「退避―――ッ!」
「さっ、せるかあああああああああッ!!!!」
黒焔の《
「ぜぇ、ぜぇ………っ」
黒龍と共鳴し、その力を引き出せようと、その身は龍に遠く及ばず。出力を高めれば高める程、その肉体への負荷は爆発的に増大する。そもそもの話、真なる竜王たちをも凌ぐ災厄の化身たる古龍の中でも、始まりに最も近い格別の存在の力。始原の魔法の規格へと落とし込み、行使できていること自体が、本来奇跡に等しいのだ。
如何に黒龍とて、その力の源泉は担保できても、肉体への負荷まではどうしようもない。加えて相手は、後先を考えず全力で電撃を放っており、完全に防ぐには相当な出力を要求されていた。単純に攻撃するより、その力による防御を行う方が格段に難しいこともあり、当然の負荷だろう。
「グルルゥ………ギュォアアアアアアアアアッ!!!!」
その威力は滅尽龍を退かせる程であり、巻き込まれた風神龍にも多大なダメージを与える。
が、どちらにせよ、風神龍はもう長くない。風袋による浮遊もできず、龍殺しの力を振うことも叶わず、電磁力操作を取りやめ急降下する雷神龍を見上げるのみ。その体を無理に動かそうとはせず、何かを待つように。
「ォォォォォ………ッ」
「ァァァ………ッ!」
か細い唸りに促され、雷神龍が―――――異形の咢を開け、風神龍へと喰らい付く。
「っ、攻撃を集中しろ!奴を止めるんだ!」
その瞬間、魔法により状態を視ていたモモンガが叫んだ。それは、悲鳴にも近かった。
(不味い不味い不味い不味い不味い!HP、MPの移譲?いや違う!明らかに元より格段に!)
「
ワールドアイテムによる攻撃を行うには、距離があり過ぎる。
強力な魔法攻撃を、MP残量に構わず解き放つが、相手は刻まれる裂創に構わず事を進める。
その姿は、
「ォォォ………」
金色の体躯が、光を放つ。《
「あの、後ろ脚の………アレが、卵だったのか!?」
「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
紫電が奔り、空に浮かぶ者を、地に在る者を無差別に襲う。
「まっず!」
「キミは休んでいるんだ!」
「ぐ、ああああああああッ!!!!!」
「ク、ソが………ッ」
ドラウディロンに変わり、鎧の大部分が砕け散り、原形を留めぬツアーが始原の魔法による船の防護を行う中、空に居る他の者たちも各々の手段で防護。だが、その出力は先の全力以上に高まっており、番外席次は武技により受け流し切れなかったエネルギーに焼かれ、シャルティアは『不浄衝撃盾』《
「シャル、ティア………!」
そして、それはモモンガも同様。極めて高い耐性を以てしても、それだけのダメージを受ける程の力を解き放った金色の雷神は、より禍々しき姿へと変貌を遂げていた。金の鱗には群青が混じり、触手上の器官は禍々しくも美しい紫へと発光。何より、その身に溢れる絶大なエネルギーが、光としてその巨体を包んでいるのだ。
「モモンガ様!」
「アルベド様、そちらをお願いします!」
アルベド、そしてシズが船を飛び出し、片やモモンガを、片やシャルティアを抱き止める。
「っ、待て!シズに、飛行スキルは………っ!?」
そして、落下ダメージを恐れるモモンガの視界の先で。
「っと!」
シャルティアを抱き止め、平然と着地するシズの姿。
「………は?」
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!!」
唖然とする中で、ボロボロの黒蝕竜が大地を駆る。翼腕をも駆使した六足による疾駆により瞬く間に距離を詰める、黒鱗が剝げ白の割合が増えた竜へと襲い掛かるのは、風神とでも呼ぶべき絶大な能力を受け継いだ、雷操る古龍。荒れ狂う狂飆はその歩みを阻み、後から襲来する雷電がその身を焼き、黒き竜を大きく吹き飛ばす。
「ギ、シャアアアアアアッ!?」
吹き飛ぶ黒蝕竜に目もくれず、三体の超越者は眼前の存在へと攻撃を開始。
氷槍、銀刃がその身を切り裂く中、その類まれな膂力を以て頂点へと至った龍が躍りかかるも、雷神龍はそちらの攻撃を避けることに注力。しかし、大地を薄氷の如く容易に粉砕する剛腕は、その衝撃で強引に折った金剛棘を空へとばら撒き、龍の巨体に無数の穴を穿つ。
そこへと疾走し、怯んだ一瞬の間に喰らい付く二つの影。
「ッ、オオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
紫電が奔り、焼け焦げる大地を怨虎竜が声も無く転がる一方。黒蝕竜はその身に纏う狂竜結晶が焼け焦げ、熔ける中で翼腕の爪を腹部に突き立て、腹部の雷袋を―――発電器官にして、彼女らの卵を収めるソレを、引き裂いた。
「ギュアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!?!?!?!」
「ギュォオッ!」
悲鳴を上げ暴れ狂う雷神龍の腹から、卵が零れ落ちる。全てではないそれらは、地に落ち、或いは黒蝕竜の翼腕に攫われる。黒蝕竜がそれらを貪り食う一方、地上に落ちた卵へと突撃した怨虎竜は、滅尽龍に目障りとばかりに襲い掛かられ、一撃でその重殻ごと脊髄、心肺を破壊され即死。
「………グルルルルル………ッ」
対なる龍と、黒蝕竜と渡り合い続けた怪物の呆気ない最期に見向きもしない滅尽龍は、眼前のご馳走より先に、新たに絶大な力を放った存在へと目を向ける。ボロボロの黒鱗の隙間から覗く白が生命の輝きを強める中、狂竜結晶による棘を纏う竜は、静かに身震いする。
「あれ、は………?」
「………バカ、な………そんな馬鹿な!?」
半狂乱で叫ぶモモンガの目に映るのは、魔力、生命力の高まり。黒い鱗が、甲殻が崩壊するようにボロボロと剥がれ落ち、その下の純白が露わになる。光を侵蝕するかの如き漆黒から転じたその神々しい純白は、淡い虹の輝きを纏う翼から漏れ出す漆黒を纏い、その身に新たな色彩を加えていく。
その力の変化が信じられないのは、二人の竜王。全種族中、最高峰の知覚を有する者たちだ。
「そんな、在り得ない………あの竜は、さっきまで!」
「竜が、龍に………有り得ないけど、この力の高まりは、否定しようがない」
「………目、が」
そして、最大の変化は『目』。黒き鱗の下で密かに成熟した赤い瞳が、初めて世界を映した。
自身の帰郷を阻んだ怨敵を、自身へと敵意を向ける存在を、初めて視認した。
「―――――」
四足が地を蹴り、白き龍が空を舞う。天を廻り、肉体の調子を確かめる。
それが終われば、あとは簡単だ。何せ、今の龍にとって、怨敵たる龍は、
「―――――キュォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
咆哮と共に広がるのは、変質した狂竜ウィルス。空を染める雲は漆黒から透明感の強い紫に変化し、陽光は禍々しくも神々しく、龍の転生を照らす。高まりに高まった、『百竜ノ淵源』とでも呼ぶべき雷神龍の力をも容易く覆すその力の持ち主は、紫の空から無数の狂竜結晶塊を降り注がせた。
「うわぁ………っ」
その大きさは、先程とは比べ物にならず。
しかし、モモンガらは脅威と見做していないのか、余波に気を付ける必要こそあれ、まだ安全な部類であった。無論、巻き込まれれば一撃で致命傷に至ること確実なだけの威力はあるのだが、その悉くが龍たちを重点的に狙ったものとなり、その場を離れていれば、微弱な余波が届く程度で済む。
「ギュォアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
しかし、事態は膠着を許さない。新たな獲物が出来たと歓喜の咆哮を上げ、滅尽龍が地を蹴る。
「ギュアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
雷神龍の咆哮と共に大地が捲れ上がり、電磁力で浮かぶ大質量を暴風が射出。暴風が狂竜結晶の砲撃を力技で逸らす中、それを物ともせぬ滅尽龍は純然たる身体能力で岩弾を真っ向から破砕し、黒蝕竜より転じた『天廻龍』は狂竜ウィルスを結晶化させた繭を瞬時に作り出すことで岩弾を防ぎ、暴風を物ともせず急降下。
純白の厚鱗と、極めて高純度の狂竜結晶とが折り重なった重殻の強度は見事なもので、雷神龍の電磁力で浮かべ、風神龍の暴風で瞬時に解き放つ大質量攻撃すら真っ向から砕き、百竜の淵源とでも呼ぶべき、規格外の存在へと変貌を遂げた雷神龍へと剛浄爪を突き立てる。だが、産み残すべき子孫を奪われた母龍の憤怒は、その程度の痛みを意に介さぬ程。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
「なっ、なぁ!?」
そして、その激烈な雷を操る能力は、外部のモノすら対象としてみせた。
「不味い不味い不味い………!」
「あんにゃろう、私らの血と汗と涙の結晶を軽々と!」
飛行船が、引き寄せられる。舵を切っても遅らせるしかできず、成す術なしかと思われた中
「砲ヲ構エヨ!今ナラバ、奴トテ防ギ切ルコトハ難シイ筈!」
「っ、っしゃあ!お前ら、ありったけ弾込めろ!」
咄嗟の機転でコキュートスが飛ばした指示に、二隻に乗り込んだ者たちが忙しなく動き回る。
「ほ、砲弾が、引き寄せられてて………!」
だが、そう上手くもいかない。錬金術による火薬を詰め込んだ砲弾の外装は鉄製。この船を引き寄せる力は磁力であり、安価ながら程々の強度を持つ為利用されている素材が、地面すら引き剥がす程の力に囚われているのだ。が、そこで狼狽えずに次の手を打てるのが、この世界で生き延びた者たち。
「ならいっそぶん投げろ!あとは私がきっついの一発、かましてやるから!」
と、ドラウディロンの指示が伝播し、砲座付近の砲弾がどんどん放り出される。それらは雷神龍自身の力の強大さが仇となり、どんどん加速して飛翔。そこへと手をかざし、竜王国女王はその金色の瞳を大きく開く。邪龍の忌み名を持つ龍と、魔法的に最も強く繋がる個人だが、その鋭い感覚が、異なる存在の到来を感知する。
「なん………っ!?総員、対ショック姿勢!急げ!」
攻撃より部下たちの安全を選び、すぐさま指示を飛ばす。
少し遅れて、空中に生じた赤と青の煌きが、雷神龍周辺の砲弾を一斉に起爆させた。
「ッ、ォアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!」
「ギュゥゥゥゥ―――ッ!」
「キシュォッ!?」
雷神龍と、それに接近していた龍たちが怯む中、黒煙すらも焼き払う灼熱の輝きが空に満ちる。
「………美シイ」
船上の
「ひ―――っ!?」
総合力最強の吸血鬼のトラウマを刺激する輝きは、次の瞬間に紅炎と蒼炎の竜巻となり、天高くまで伸びる。陽光を淡い紫へと変えていた狂竜ウィルスの紫雲が瞬く間に焼き払われ、微細な粒子であるそれらが粉塵爆発を幾重にも引き起こす中、赤と青の火球が大地へと急降下。墜落した雷神龍を、四肢で地を踏み締める龍たちを見下ろすように、炎国の王妃は翼を広げた。
「「ルァオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!」」
覇種たる炎王、歴戦王たる炎妃。
苛烈にして強大なる、相性という意味でこの場で滅尽龍以外に優位を取れる、熔山帯の支配者が降り立つ。目的の根幹を喪失した侵略者を、怨嗟のままに災厄の種をばら撒く部外者を、食欲のままに来襲した暴食者を睥睨し、二体はその力を開放。
「ッ、不味―――」
大地を薙ぎ払う、王妃の絆を示す二色の炎。その余波が、小さき者たちへと牙を剥く―――
★設定
・『天廻龍』???????
本作オリジナルの、特異個体モンスター。
真・狂竜化状態で脱皮を果たしたことで、狂竜ウィルスをより攻撃的に利用するようになった個体。前方に向けて伸び、結晶を纏う角を筆頭に、前足や翼脚周辺の甲殻は高純度の狂竜結晶が折り重なった特徴的な甲殻を纏っており、これらの箇所の防御能力を向上させている。
真・狂竜化の際に身体に生じていた狂竜結晶を、離れた場所でも自在に生成、攻撃転用できるようになり、攻撃能力が大きく向上。また、自身で生成した狂竜結晶を通常個体のように爆破することも可能で、その際にはより強力な爆発を引き起こすことが可能。総じて、通常の個体以上に攻撃的なモンスターと化している。
反面、その能力に適した形で変化してしまった狂竜ウィルスは散布能力が大きく低下。また、角が通常種以上に能力制御に重要な役割を果たしており、結晶で保護しているのもその為。ただし、物理面で強固になる反面、属性面では却って脆弱化しているなど、その保護も万全とは言い難い。