《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
凄烈な爆風に揉まれ、その体が塵のように吹き飛ばされる。
「ぐ、げほっ、ごほっ!出鱈目が過ぎるだろ!」
モモンガが素の口調で声を荒げる中、番の炎龍は雄々しく咆哮を上げる。
「ああ、クソ………まだ目がチカチカする………!」
戦闘に支障が出るレベルではないにせよ、赤と青の強烈な発光により、大分視覚をやられている。
「っつ………?」
鈍い痛みに呻く彼は、ふと気づく。
灼熱が荒れ狂った後にしては、妙に涼しいな、と。
「間に合ったか!遅ればせながら加勢するぞ、ヴァイシオン!」
氷に近い質感の、和を感じさせる鋭利な蒼白鎧。モモンガたちの世界で言うなまはげ、或いは鬼を思わせる氷の鎧を、それを操る者の名を、
「オラサーダルク!?何故」
「最強の竜王たる貴様が出たのだ。真なる竜王として、加勢せずしてなんとする!」
威勢よく叫ぶ竜王は、真の敵である雷神龍、そして天廻龍へと、その頭を向ける。若輩の身で、過去の真なる竜王に並ぶ程に鍛えたドラゴンは、その鎧越しに強烈無比なる龍の力を感じ取り、遥か彼方の地で冷や汗を浮かべながらも笑みを零す。竜王の名を得るに至った、強大なドラゴンに相応しい、余裕に満ちた笑みを。
「凄まじい圧であるな………だが、我らが大敵たる龍には及ばぬわ!」
『
「げぇっ!?あんのバーサーカー来やがった!」
「アノ者………フム」
冷気属性の使い手としてか、或いは別のシンパシーを感じてか、コキュートスが零す中。
雷神龍は怒り狂い、暴風と雷鳴を激化させる。それに対し、竜王が操る鎧は一切ガードすることなく、災厄そのものへと身を投じる。それは自滅行為そのものであり、素性を知らぬ者からすれば、何を考えているのかも理解不能。多くの者が言葉を失う中、しかし若輩の身で真なる竜王となり、強大な異名を得たドラゴンの始原の魔法が、その力を示した。
「………はいぃっ!?」
氷が形作る武者鎧が、砕けた傍から再生される。原形を損なう程に壊れる前にその損傷を完全に修復するのは、鎧を形作る強烈な冷気によるもの。『
「ぐ、ぬおおおおおおおお!!!!」
が、風そのものに逆らうには力が足りず、大きく吹き飛ばされる。
「いや考えなしかよ!?」
視覚化されていないだけで、冷風による加速もしているのだが、如何せん出力が足りなかった。
「ああ、うん………やっぱりオラサーダルクだ」
間違いなくポテンシャルはあるのだが、絶妙に相手が悪い。若手最強であることに違いはなく、しかし
「うむ、無理だな!我一人ではあの風を貫けん!任せたぞ!」
「潔いね、相変わらず」
「可、不可を割り切れねば、無為に死ぬだけよ」
豪快に笑い飛ばした武者鎧は、改めて腕を組む。
「さて、如何にして奴を打倒する?」
「………奴は、随分と弱っている。俺たちもかなりやられたがな」
モモンガが立ち上がる中、高度を上げるだけの余力も無い雷神が唸る。
あれだけの灼炎に晒されながら、多量の氷、或いは流体金属で身を包み何とか凌いだ者と、狂竜結晶で凌ぎ切れずその身に深い傷を負った者。純然たる素のフィジカルのみで、その尋常ならざる再生能力で完治する程度にとどめた怪物とに比べれば、格の違いは一目瞭然だ。
「問題は、古龍の攻撃に巻き込まれないようにする必要がある、ってことか」
「ならば、我が援護に回ろう。貴様らは存分に戦え」
「それなら安心だ。モモンガたちも、気にせずいこう。最優先目標は、あの巨龍だ!」
武器を浮かべ、ツアーが鋭く叫ぶ。純白の龍も危険ではあるが、先の炎王の降臨に伴い、その力の源と思しき物はほぼ焼き払われ、更には弱点でもある炎攻撃を受けたことで、その力は先程までより格段に弱まっている。それこそ、翼に甚大なダメージが入ったのか、全くと言っていい程に漆黒のナニカが放出されていない。
ならば、戦場そのものを牛耳ることが可能、且つ比較的に弱い相手から倒すのが一番だ。
「………安心していいの?」
「さっきの爆炎を大幅に減衰させたのが、彼の魔法だ」
番外席次の問いに対する答えは簡潔で、それだけで十分だった。
「オッケー。なら、まずはアレを仕留めましょう」
「気軽に言ってくれる、けど………まあ、他の連中と比較すれば、各段に弱いからな」
情報系魔法のお陰で、モモンガは特に多くの情報を得ていた。
そのお陰か、随分と肩の荷が下りている。何せ、他の古龍と比べ、一番勝算があるのだから。
「アルベド、及びコキュートス、御身の前へ―――どうか、共に戦うことをお許しください」
「地上ニ近イ今ナラバ、我ガ刃モ届キマショウ」
新たな戦力の参戦に、威嚇の咆哮を上げんとした雷神龍へと、砲弾が降り注ぐ。
「ァアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
「ハッ、こっちを気にする余裕も無しか!そら、再装填だ!奴が隙を晒し次第、叩き込むぞ!」
「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
主力となる者たちの士気を、ドラウディロンの威勢が伝達し、船の者たちに広がる。
「………ッ!」
そんな中、古龍―――超越者中の超越者たちが、一斉に身構える。
滅尽龍は狂猛な笑みを浮かべ飛翔し、他の龍たちはそれに続くように、新たな脅威を足止めするべく飛翔。純白の龍はそれらから危険を察知し、その翼を広げ、南西へと逃げるように飛び立つ。唯一、接近する存在の、朧げな気配から恐怖を思い出したツアーであるが、飛翔していく面々の強さをよく知るお陰で、理性により本能を一時ねじ伏せることが出来た。
「どうやら、龍たちは奴らの退路を断つようだ。なら、彼らの仕事を減らさないとね」
「………そうだな」
気になる点はあれ、今それを問う必要もない。だから、気にしない。
「では、先鋒はわたしが!」
「貴女一人にいい顔をさせるとでも?」
「………まあ、いいさ。今は守りを考えるより、一気に攻める方が確実だ」
駆け出す二人に呆れつつ、モモンガは使える支援魔法を二人にかける。随分とMPを消費した為、今後のMP管理に気を付けよう―――そう思考を巡らせたモモンガの体を、魔力が満たしていく。突然のことに驚き振り返れば、蒼白の武者鎧が何でもないように声を響かせる。
「我らの始原の魔法は、魔力を用いぬ。我に不要な力だ、貴様が存分に使え」
あまりにも堂々と口にした彼は、その力を解き放とうと溜めに入る龍へと、静かに手をかざす。
「温いな。司銀龍であれば、その数秒で千の精鋭を滅ぼすぞ!」
大地より突き出す、堅氷の剛槍。攻撃動作に入った瞬間を狙い、死角から叩き込まれたソレが力を暴発させ、龍自身に自傷ダメージを負わせる中、防御、回避の必要を無くした戦士たちが全速力で突撃し、その身へと攻撃を叩き込む。ユグドラシル最高クラスの武器ともあれば、単純な個体としての質で剛種に及ばぬ龍の肉体は、相応の傷を負う。
激高し、指向性も制御も放棄した力を解き放つも、二人を即座に分厚い氷壁が守り、撤退を可能とするだけの時間を稼ぐ。対司銀龍では呆気なく貫かれ、術者本体が瀕死の重傷を負わされる結果を幾度と重ねてきた防御だが、相手が悪すぎるだけで、積み重ねた修練により得た物理的強度はかなりのもの。
「………つっよ」
「フン。強くなくば生きられぬのなら、果てを求めるは当然のことよ」
「キミ、何度死にかけたんだっけ?」
「生きていればよい。死なねば安いものよ」
その姿と言葉遣いに反し、その支援は的確の一言。それほどまでに、彼の技量は見事だった。
攻撃を遮る盾としても、行動の補助をする足場としても、相手のペースを乱す攻撃としても。
「常々思うのだけど、キミは支援に専念してみてはどうかな?」
「我が目指すのは、一角の戦士なのだが」
「ナラバ、共ニ征コウデハナイカ。竜王ノ強者ヨ」
戦意溢れるコキュートスの申し出に、若き竜王は闘志を滲ませる。
「実に嬉しい誘いだな、異邦の戦士よ」
「それなら、さっさと仕留めるわよ」
「お供します」
番外席次が戦鎌を構え疾駆するのに続き、シズもまた駆ける。それを合図に、地上組が一斉に、勝利のために動き出す。モモンガは魔法職として後方に位置する中、他の者たちが上手く散開し、空を舞う龍を墜とすべく、確実に仕留めるべく、その力を、技術を駆使するのだ。
(時間停止は使えない―――――それで?)
「ふ―――――ッ!」
「ぬぅんッ!」
「ハァアアアアッ!!!!」
一息の合間に放つ、無数の斬撃で。その手中に作り出した、絶対零度の大剣で。心より慕う創造主より賜った、究極の一振りで、龍の肉体を切り裂く。自傷によるダメージ箇所を狙った攻撃に絶叫する龍へと、重弩を抱えるシズもまた疾駆する。
「アルベド様!」
「アルベド!」
短く名を呼んだだけだが、不思議とその意図が読めてしまう。躊躇する彼女へ、シャルティアの叱責が飛べば、その躊躇を飲み込み、己の得物を力いっぱい振り回す。最低限の配慮として、刃を向けぬよう振り抜いたソレを足場に、シズは巨大な神龍へと一気に急接近し―――
「ッ!」
その強靭な肉体にナイフを突き立て、強引に停止。肩が外れる、では済まないであろう、強烈な負荷がかかるも、不思議とその体は平然と耐えて見せ、すかさず重弩をその背に突き付け、至近距離から弾丸を叩き込む。強度が大きく上昇したその龍鱗は、他ならぬ自身の力で傷ついて尚、その弾丸の威力を大きく減衰させるが、背部に注意を向けるだけでいいのだ。
「待ってた………ッ!」
力尽くで振り払われた彼女は宙を舞い、確実に仕留めんと大口を開けた龍へと笑みを向け
「その口の中まで、強固な訳ないよね」
「そら、持ってけッ!」
「
シャルティアの、モモンガの放つ強力な魔法が口内で炸裂し、龍が絶叫を上げる。
「よしっ!………」
(今のやり方を続けるなら………もしかして)
モモンガに渡されたマジックアイテムと、その中に収めた武器を思い出し、暫し思考を回す。
「ッ、皆下がれ!」
後方から俯瞰していたモモンガが叫ぶ中、雷光を束ねた光線を、光輪を無数に解き放つ。
「チィッ!この数では氷壁も役に立たん!可能な限り逃げよ!それと、油断はするなよ!」
視界を阻む氷壁は可能な限り使わず、退避を促す。司銀龍との対峙で、幾度となく瀕死の重傷を負い磨き上げられた竜王の直感の通り、生半な魔法防御は数秒で貫かれ、雷神龍の名に違わぬソレを回避した彼らだが、相手は一息吐く間も与えない。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
大地を割り屹立する、幾多もの岩柱と岩塊。電磁力で引き上げたソレを、風神龍の力で射出し、雷光を束ねた光線、光輪の数々で、文字通り隙間なく追撃する。逃げ場を失った彼らは、しかし魔法防御で容易く防げる岩の飛来する場所へと適切に逃げ、防御していく。
それすらも、相手にとっては下準備に過ぎないのだが。
「………なんだ、あれは」
少しばかり高く舞い上がった龍が、その口から小さな、小さな蒼光を零す。
聖域の守護者の、最大の攻撃にも似たそれを知る者は無くとも、誰もが危険を察知した。
「クソッ!」
「貴様らは動くな!ええい、この鎧もここまでか!」
鎧に宿す力の全てを使い、オラサーダルクが龍を囲うように極低温の結界を形成する。
蒼光の雫が地に落ちた瞬間、それは炸裂し、強烈な紫電の光を奔らせる。
「ぬ、おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
鎧に宿した全ての力を使い、竜王が吼える。暴れ狂う紫電が大地を融かし、始原の魔法による防壁を内側から貫かんと激しく閃く中、彼はありったけの力で冷気を増幅し、冷風で紫電を誘導することで、力と技のゴリ押しでそれらを防ぐ。完全な相殺など叶う筈も無い程に出力は隔絶していたが、極大の電流を強引に上方へと逸らしたことで、地上の者たちに被害は及ばない。
「す、凄いな………助かったぞ、オラサーダルク殿!」
感謝の言葉に、返事は無い。そこにあるのは、無数の氷の欠片だった。
「その言葉、私から伝えておこう………その氷は、もう、ただの抜け殻だからね」
竜王の意識は、そこには無い。維持する力も、意識を繋ぎ止める術も失った氷片は、そこに居た痕跡として、大地に染み込んでいく。炎龍の力を減衰させた上で、先の攻撃を大きく減衰させたのだから、その消耗度合いはツアーの比ではない。寧ろ、あれだけの大技を立て続けにここまで減衰させた分、鎧に宿した力の総量はツアーを超えている、とも言えるだろう。
「………本当に、逞しい後進が育ってくれたものだよ」
渾身の力を振り絞り、神龍は随分と疲弊している様子。対し、受け得た大打撃を回避した彼らには、随分と余裕がある。ある者は眼前のチャンスを逃すまいと、またある者は一人の戦士の全力で生まれたチャンスを逃すまいと、各々武器を持つ手に力を籠める。
「モモンガ様」
「判っているさ」
言葉は、それだけで十分。
吼える龍へと向け、全ての影が疾駆した。
★設定
・オラサーダルク=ヘイリリアル
評議国へと移住した
『
原作にあった傲慢さは鳴りを潜めた反面、強欲さは強さの探求に対し強く発揮されるようになり、南方での防衛線参加回数トップを誇る理由もそれに起因。また、寒冷地と化した評議国周辺で、冷気属性攻撃を得意とする身で高い戦果を挙げていることからも、その実力が伊達でないことが判る。
鎧が和風である理由は、彼が初めて倒したモンスター『雪鬼獣』をモチーフとしていることに起因している。また、この鎧こそが『永凍』の異名の由来であり、鎧そのものを形成し続ける力がある限り、形を維持する極低温の冷気が大抵のダメージを即時回復できる。無論、大きく損傷すればその限りではないが、回復速度が非常に速いため、強烈な一撃を受けない限りまず壊れない。
また、貯蓄可能な力がツアーより多い。更に、冷気系の始原の魔法を極めていることから、龍殺しを除く対属性防御において、ツアーをも凌ぐ力を発揮できる。それこそ、鎧を犠牲にすることを厭わなければ、古龍の強大な力すら大幅に減衰できる程。
ただし、対物理防御ではツアーに軍配が上がる他、冷気属性に耐性を持つ相手とは相性が悪い。また、ツアーと比べ手札が冷気・攻撃に偏っているなど、総合的にはツアーに及ばないが、今後に期待されている。
ちなみに、垢消しビームならぬ垢BANビームが使えたが、『これでは己を鍛えられない』とその効果を消し、単なる超強力な冷気攻撃に変えたことがある。尚、
・『??』
東方から飛来していた飛竜。西方の実力者たちが足止めに向かった。