《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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46―淵源に挑む『英雄』

 風が、雷が勢力を落とす中、疲弊した雷神龍へと攻撃が殺到する。

 荒れ狂う雷光と共に、束ねられた稲妻が、赤光纏う暴風が大地を薙ぐが、その力も落ちている。

 

「―――ふんッ!」

 

 強力なノックバック効果を付与した武器の数々が突き刺さり、更に始原の魔法による爆撃。物理的な衝撃まではシャットアウトできない雷神龍が墜落すれば、そこへと『武器戦闘最強』の、攻撃特化ビルドであるコキュートスが迫る。その四本腕全てに、用意できる最強の武器群を携えた彼が放つスキル攻撃の威力は、ナザリックのNPCでもトップクラス。

 そこに加わるのは、アルベドと番外席次の攻撃。筋力に物を言わせただけの乱打と、武器の質も手数も劣る攻撃であるが、双方ともに確かな能力を有しており、傷ついた嵐鱗を砕き、裂き、その下の肉へと確かな傷を穿っていく。

 

「ギュアアアアアアアアアアアアッ!!?!?!?!」

「ぜっ、あああああああああああッ!!!!」

 

 そして、『総合力最強』シャルティアのスキルが、宙に浮かぶツアーの操る武器が、モモンガの魔法が、狙いやすい腹部―――裂かれ、産み育むべき卵を喪失した発電器官へと集中。そのまま最大の弱点でもある部位への攻撃に絶叫し、しかし雷神と呼ぶべき力で、亡き番より受け取った力で地下の岩石を浮遊、射出し、迎撃を図る。

 

「ヌ、グゥッ?!」

「小賢しい真似を………!」

 

 空中に打ち上げられた二人が零す中、周囲から人が消えたことで、ドラウディロンが号令。

 

「撃ぇ―――ッ!」

 

 飛来する砲弾が激突し、灼熱と破片でその身を傷付ける。傷から響く激痛に呻くも、既に冷静さを取り戻した龍は電磁力、風力を使い浮かび上がる。風の力を使うことで地上への牽制も兼ねるがその風で舞い上がる岩、木々の残骸を足場として、駆ける者が。

 

「ふっ!」

 

 シズがその体に降り立つと共に、腹部の雷袋へと金獅子の角を有する重弩を突き付け

 

「これなら、絶対外れない」

 

 ありったけを込めた弾丸―――徹甲榴弾、拡散弾を、強烈な反動を受けながらも撃ち込む。至近距離であるお陰で多少のズレは意味を成さず、裂かれた外膜から内部へと侵入した弾丸は、その破壊力を余すことなく重要な内臓器官へと叩き込み、雷神龍はその激痛と、能力の一端となる器官への甚大なダメージにより大きく体勢を崩す。

 が、風神龍の力で強引にその巨体を支え、それどころかバレルロールのような挙動でシズを振り払い、そのまま強靭な尻尾を叩きつける。瞬間、込められた電気エネルギーが爆裂を引き起こし、華奢な体が盛大な土煙と共に地へと叩きつけられる。

 

「シズッ!?」

「生きて、ます、から………ッ!」

 

 間一髪でガードが間に合ったシズが声も絶え絶えに叫べば、皆は優先順位を間違えることなく、眼前の大敵へと意識を向ける。手負いの獣程恐ろしいというが、相手は生命力溢れる古龍種モンスター。モモンガの目に映る体力は、最初と比べれば間違いなく瀕死に近いとすら言えるほどに追い込めているが、それでも恐ろしい程に多い。

 

「………本当に、恐ろしいな」

 

 幸いにも、先の数秒で一割強から二割ギリギリは削れたため、まだ希望はある。が、これをこの場に集まった者たちだけでやれたか、と訊かれれば、まず間違いなくノーだ。皆が皆攻撃に特化している訳でないこともそうだが、相手の物理、魔法耐性に、攻撃属性と手段、弱点はどこかなど、兎にも角にも情報が足りな過ぎる。

 モモンガ自身、緻密な対策と卑怯とすら言われる程念入りなトラップ、心理戦も含め勝利を掴んで来たタイプのプレイヤーであり、それが出来ない戦いでの勝率は低い。また、手札が豊富な分一発一発の威力は一般的なビルドに劣る上、相手は高い知能を持つも、対人やAI相手のセオリーが通じない野生の生物であり、そういう意味でも相性は悪いのだ。

 

 が、不運と幸運、どちらの比率が高いかと言われれば、やはり幸運の方が多いだろう。

 

(ここまで追い込めた………なら、後は倒すだけだ)

 

 難しいだろうが、十分可能な範疇。であるならば、可能な限り冷静に、対応していけばいい。

 

「………なら」

 

 一通りの強化魔法を仲間にかけ、モモンガ自身は一旦降り立つ。MP管理のためだ。

 そうして一時戦線を離れた彼は、先程シズが墜落した場所まで駆ける。

 

「シズ!」

「だい、じょうぶ………じゃ、ありませんね」

 

 あちこちの電撃の傷跡が残り、ところどころ焼け焦げている彼女は、まず移動することを最優先としたのか、随分と土で汚れている。腕は一目で使えないだろうと判る程に無残な状態であり、立ち上がることなど到底不可能。そんな体で、必死に這って移動していたのだから当然ではあるのだが、その様子にモモンガは心を痛め、最上位のポーションを一本その身にかけ、他数本をポーチに突っ込む。

 

「これを使え」

「ありがとう、ございます………っ!?」

 

 彼女が感謝を言い終える前に、彼はその華奢な体を抱き上げ、《転移門(ゲート)》を発動。

 

「シズを頼む!」

「任せろ。そちらこそ、頼んだぞ!」

「ああ!」

 

 やり取り短く、飛行船に彼女を預け、モモンガは再び大地へと降り立つ。

 

「さて………《完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)》」

 

 戦士化の魔法を発動し、予め持ち込んでいた武具をショートカット装備。MPは回復こそしないものの、モモンガの自然回復速度であれば減少もしない。何より、この状態であれば、攻撃支援も十分にできる。そう考え、手頃な武器は無いかと、武器を詰め込んで来た無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を漁り………

 

「―――よし」

 

 パンドラが急ピッチでモンスター素材を消費し作製した、武器の数々。

 それぞれ異なる重みを秘めたそれを握り締め、静かに頷く。

 

「さあ、最終ラウンドだ!」

 

 地を蹴り、『禍ツ槌ノ幽鬼グラージ』―――怨虎竜の素材を用いた戦槌を、その頭へ叩き込む。怨虎竜の操る鬼火と同様の性質のエネルギーが、強烈な爆発で追撃を与え、巨龍の頭を軽くかち上げる。頭蓋を砕くことは疎か、罅を入れることすら叶わないながら、その脳を揺らし行動に数瞬の遅延を生むことに成功。そしてその『鬱陶しい』で済ませるには少々強力な攻撃が、そのまま相手の注意を引くことに繋がる。

 

「モモンガ様!?」

「心配なら、さっさと仕留めるわよ!」

「そういうこと!こいつが生きてるんじゃ、守るだけ徒労でありんすえ!」

 

 多少のダメージならば、スポイトランスの効果で回復………シャルティア自身のビルドの完成度も然ることながら、数々の危機で磨かれた直感、積み重ねた経験が加わることで、豊富な手札が存分に活用されている。有効打となる高位階属性魔法を習得していないことを抜きにしても、その手数と職業スキルによる火力ブーストとは、確実に効果を発揮している。

 

 そして、アルベドの心配を二人が両断したように、ここで一時守りに回っても、手数が減り戦局が不利になるだけである。寧ろ、彼女の豊富なヘイト集中スキル、防御スキルを活用して注意を引き、得意のカウンターを叩き込めばいいのだ。それに気付いてはいるのだが、それをすれば強力なダメージディーラーであるコキュートスが攻撃する機会を奪ってしまう、となまじ頭がいいせいで、ドツボに嵌っているのだ。

 

「………よし」

 

 そして、眼下の戦場を睨んでいたシズが、傷が癒えたことを確認し、声を零す。

 彼女を即死級の攻撃から守った金獅子砲は、表面が大分焦げてはいるが、健在だ。

 

「行くのか」

「それは無理。けど、休んでもいられないから」

 

 戦局は依然不利寄り。無理は禁物だが、かといって、何もせずにいられる程の余裕はない。

 

「………砲弾は?」

「装填済みだ。報告も上がってる」

「それなら、あそこに撃ち込んで。タイミングは、私が合図したら」

 

 彼女の指先が示すのは、アルベドがいる周辺。より注意を散らす為、それぞれの立ち位置に最大限の注意を払っている為、巻き込まれる心配はない、と言いたいところだが、アルベドが如何に頑丈であろうと、巻き込み消耗させるのは下策もいいところ。

 

「だが、それでは彼女に」

「大丈夫。アルベド様なら、十全以上の結果を出せるから」

 

 そう口にした彼女は、ブレの少ないカホウに持ち替え、構えると共に意識を集中させる。

 

(大丈夫、アルベド様なら気付いてくれる―――!)

 

 スナイパー職のスキルで弾道を導き出し、間隔を開けて三度、立て続けに引き金を引く。

 

「ッ!」

 

 飛来するソレに気付いたアルベドは、反射的にスキルを発動。

 魔力を帯びない飛び道具による攻撃を弾き、龍の体躯へと叩き込めば、そこから毒々しい紫の煙が立ち昇る。三発連続で、しかし間隔をあけて飛来したそれが、何の意味も無いとは思えず、アルベドが暫し思索する中、シズは反動が強烈な弾丸へと切り替え、再度狙いを定め、引き金を引く。

 

「爆発したら撃ってッ!」

 

 全身を使い跳ね上がった重弩を抑え込むシズの叫びに続けて、アルベドが拡散弾を弾き、龍の体から立て続けに爆発が起こる。それを合図に、二隻の飛行船に積まれた全砲が火を噴き、ぎっしりと火薬を詰め込んだ砲弾の数々が高速で飛翔する。着弾と共に爆発し、衝撃と灼熱で龍の注意を引く中、本体を外れたそれらが殺到する光景を前に、アルベドはその意図を理解。

 

「『カウンターアロー』『ミサイルパリー』―――ッ!」

 

 彼女のスキルで弾かれ、威力を増した砲弾の数々がより深々とその身に突き刺さり、炸裂。悲鳴を上げる雷神龍の、怒りで赤く染まった目がアルベドへと向けば、確実に彼女を、彼女たち、小さき者たちを滅ぼさんと雷光を束ね、龍雷纏う暴風を引き起こし、大地を砕き数多の岩弾、岩柱を引き上げ、一気に撃ち出す。

 

「チィッ!」

(今仕掛けるか?………いや、アルベドが何か)

「ぅおらァッ!」

 

 飛来する岩弾も岩槍も、風で撃ち出しているだけのもの。

 ならば、彼女のスキルで撃ち返すことは容易い。彼女が選んだのは、雷撃と風は自力で耐え切ることに期待し、ダメージソースとなり得る大質量を撃ち返すこと。高い知能を有する古龍とて、それくらいは予想しており、しっかりと撃ち返された岩弾を相殺する攻撃を叩き込んでいる―――が

 

「ぜっ、りゃああああああああ!!!!」

「―――――ッ!?」

 

 僅かなズレ。点で飛来する岩槍を完全に相殺する為の攻撃の僅かなズレが、双方に致命的な結末を齎す。本来多少外殻を抉る程度で済んだ筈の大質量が、龍の腹へと突き刺さり、鱗を砕き、肉を潰し、内蔵に届く程に食い込む。自身が与えた加速と、岩槍自体の質量が生み出す破壊力をそのままに、アルベドの持つスキルの一部が乗ったソレは、砕けながらも龍へと決定的な一撃を撃ち込んで見せた。

 

「が、ふ………!」

 

 だが、それはアルベドも同様。完全には修復できていなかった鎧は遂に全損し、最後の一撃まで攻撃のため使い続けた防御スキルは、最も致命的な一撃を前に使用回数が尽き、相手への決定打と引き換えに自身の防衛能力を喪失。加速の乗った大質量に腹を潰され、辛うじて上下が繋がっているだけの状態で、地面に縫い付けられる。防御寄りビルド故の高HPが辛うじて死を回避したものの、他の者の救援を求めていられる事態でもない。

 

「名付ける、なら、撃龍槍、かしら………?いい、気味、だわ………!」

 

 肉片混じりの血反吐を吐き、あちこち焼け爛れ、裂け、見るも無残な姿となった淫魔が嗤う。

 

「アルベド………!」

 

 彼女の決死の一撃で、雷神龍の残り体力はごっそり削れた。相当重要な器官にまで届いたのか、その動きは更に精彩を欠き、これまでより明らかに行動に支障を来している。もし、岩ではなく鋼鉄の、或いはそれより強度のある物体であったなら、今程度のダメージでは済まなかっただろうと確信できる程に、その弱り具合は目を見張るものであった。

 

 そして、だからこそか。

 

「ギュ、アアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 瀕死手前の龍は、瀕死の淫魔へ顎を向ける。秘める力は強大で、それでいて今は死の淵にある者だからこそ、龍にとって手早く、手軽なエネルギー補給手段となる。コキュートスでは間に合わず、それ以外では止めることが叶わぬその暴挙を前に、モモンガは久しくアンデッドであることに感謝した。

 

「………冷静になれる、ってのは、強みだな」

 

 課金アイテム『チェンジリングドール』を一つ落とし、アルベドの下へと転移。急ぎ彼女にもう一つを握らせて効果を発動すれば、モモンガが先程までいた場所の人形と彼女の居場所とが入れ替わり、雷神龍の眼前には白骨の支配者のみ、という状況に。

 

 最早後に引けぬ龍が選んだのは、眼前の屍を、その腹に収まる宝玉を喰らうこと。

 

「が、ぐ………ッ!」

 

 その体の大部分が大顎に収まり、細い骨が幾つも折れ、太い物にも罅が入る。

 

「この距離であれば、貴様も逃げられまい………!」

(消費は………いや、ケチって仕損じたら元も子もない。最初から全力だ!)

 

 竜殺しの性質故、一部以外の古龍相手に減衰されることなく通じる力。

 同じワールドアイテムの一つを使い回復させたレベルを喰らい、紅玉が再び猛威を振るう。

 

「―――――ッ!!!!」

「っ、ぉ………!」

 

 そうはさせまいと、顎に力が籠る。亀裂が入っていた骨が幾らか砕ける中、彼の手中に、脈打つ幻影が生じる。人の手で握り潰すことなど到底できないだろうサイズの筈の物は、お誂え向きに人の手に収まる程に縮小されており、彼の手はそれを確かに握り締めた。

 

「―――――ッ!?」

 

 龍の心臓を、不気味な感覚が襲う。その不自然で、不快極まる感触は、彼女の動きを止め

 

「終わりだ」

 

 竜殺しの力の奔流が、荒ぶる雷神の体内を駆け巡る。破滅的なエネルギーが、内側からその肉体を破壊し、瞬く間に命火を掻き消さんと荒れ狂う。最早モモンガを噛み砕く、どころでなくなった雷神龍は、浮遊に必要な力すら失い、大地に墜ち悶え苦しむ。制御を失った風と雷がその身を傷付け、体内という逃げ場のない空間を満たす竜殺しの力、それも古龍たちのそれと同質のエネルギーが、その傷を抉り。

 

「ォォォォォォ―――――……………ッ」

 

 発散されず、許容量をオーバーしたエネルギーが暴発し、遂に雷神龍はその命を終えた。

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