《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

59 / 78
48―ナザリックの変化

 二か月―――モモンガに休息を押し付けたナザリックは、見事なまでに様変わりしていた。

 

「「「「「お帰りなさいませ、モモンガ様」」」」」

「………」

 

 まず、一般メイドたち。皆その顔付きから大きく変わり、儚い空気をそのままに、力強さを兼ね備えたものとなっている。そして最大の違いとして、あまりに自然な空気で物々しい武器を携えており、有事となれば即座にそれを手に取れるよう、携行する位置まで細心の注意を払っている。

 

「このような出迎えとなってしまい、申し訳ありません」

「え?ああいや………ぇ?」

 

 次いで、出迎えに現れたシズと、ナーベラルの装備。

 どちらも鎧姿であるが、シズは暗い赤と黒の竜鱗で彩られた『黒炎王』の鎧を、ナーベラルの体は、青みが強い黒と鮮烈な青で彩られた『青電主』の鎧を纏っている。前者は対古龍戦での功績で、後者は防衛戦において、最前線に立ち最後まで生き残り、戦い続けた実力を評価され与えられた代物であり、その質は神器級(ゴッズ)に次ぐ伝説級(レジェンド)の中でも最上位と遜色ない程だ。

 

「………凄いな」

「デミウルゴス様とパンドラ様のご厚意です」

「今後の有事において、より一層の働きが叶うよう、と、姉様たちからも強く勧められました」

(もしかして、読んでたのか?あいつら、本当に優秀過ぎないか?)

 

 彼らにとって、大したメリットとならない狂竜結晶を、念のためのストックを除いて換金して、先の戦いで『あれら』が負った損壊の修復費等により、がっつり減ったギルド維持費を補充。モモンガに『十分に働いた、働き過ぎていた』と休暇を出しながら、彼の心労を減らすべくこのようなことまで計画し、二か月という短期間でここまで形にして。

 

 更には、読まれているのかと思う程の察しの良さ。嬉しい以上に、申し訳なく思えてくる。

 

「………差し出がましいようで申し訳ございませんが、その」

「判っている。ユリたちにも、活躍のチャンスは与えるとも」

(そもそも、あの戦場に立ってくれてただけで万々歳なんだから………それに)

 

 ユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン………紅蓮とセバス、一般メイドたちと、多くのNPCが戦死を遂げた中で、明確な異変があった。まず、紅蓮とセバスだが、彼らのみ、ナザリックの備蓄を消費してのシステム的な蘇生を行うこととなった。死亡前後の記憶がしっかり残っていたのは幸いだが、それ自体に問題は無い。

 

 問題は、プレアデスと一般メイドたち。彼女たちは死体が残っていた者はその場で蘇生が出来たのだが、セバスと紅蓮は死体がその場で消失したというのだから、随分と違いが大きい。ペストーニャが主導となり多くの人間、亜人の蘇生を行っていたが、手応えに差が無かったという証言と、後の確認で判明した、マスターソースの変化から、何かが起きていることは確実。

 

(シズは名前以外閲覧不可になっていて、オーレオール以外のプレアデスも、情報がかなり希薄になっていた。その場で蘇生した組は、それに加えてレベルダウンまで起きていた訳だから、確実に何かがある。シャルティアとパンドラも変化が大きい点から見るに、現地環境での活動時間か?)

 

 一人思案する間に、玉座の間に到達。並び跪くNPCたちの前を通り、最奥の玉座へと腰を下ろす。

 

 その目を、毒々しいドレスメイルを纏うエントマに向けてから、意を決する。

 

「………まずは、この二か月のお前たちの働きに、最大限の称賛を」

 

 その空気に飲まれながらも、モモンガはそう口に出すことに成功する。

 

「積もる話もあるだろうが、まずはお前たちの成果を見せて欲しい」

(焦って順序を間違えるな。何事も、こっちの状態を確認してからだ)

 

 無論、モモンガとて何もしていなかった訳ではない。方々との打ち合わせや、各種調整に奔走、高位の転移魔法を活用した緊急時の移動支援、その他ナザリックの蔵書等の知識などを現地に還元するなど、地道に働いていた。その中には、先の会談に、強引に手続きを蹴っ飛ばしたツケで忙殺されていたツアーと、彼の属する評議国とのパイプ構築も含まれているなど、外部での活動は確かな実りを見せている。

 

「それでは僭越ながら、私から報告を」

 

 一歩前に出たパンドラが指を鳴らすと、控えていたメイドたちが台車をモモンガの前まで運ぶ。彼女たちがかけられた幕を引けば、蒼白を基調とした禍々しくも神々しい、絶大な力を秘めた杖が露わとなる。その力に覚えがあるモモンガが息を飲む中、玉座の傍らに控えていたアルベドがそれを手に取り、恭しく献上する姿勢を取る。

 

「こちら、パンドラズ・アクターが手ずから作成した『神淵の風繰リ』となります」

「神淵の………」

「『風神龍』イブシマキヒコの素材の力を、『雷神龍』ナルハタタヒメの素材で高めたモノとなります。モモンガ様の秘めたる究極の力には遠く及ばないながら、竜殺しの力を秘めた逸品として、お使い頂ければと」

「………お前………!」

 

 感激に打ち震える主の姿に、多くの者が強烈な喜びを覚えるも、それを必死に堪え、続ける。

 

「んんっ!続けて、私から報告を」

「あ、ああ。許可しよう、アルベド」

 

 その視線を受けたアルベドが深く頭を下げ、報告を行う。

 

「モモンガ様の武器の作成完了後、各国との交渉で得たモンスターの素材を用い、シモベの武具を刷新いたしました。中でも、先の戦いで生存したシズ、ナーベラル両名には、彼らが『二つ名持ち』として強く危険視するモンスターの素材を用いた装備を与え、今後の活動の主軸となって貰うことも検討しております」

「うむ。では、話を遮るようで申し訳ないが、私からも一つ報告しておこう」

 

 ここがちょうどいいと判断し、モモンガが温めていたプランを投下する。

 

「正式な発表は今から一か月後となるが、我々と辺境諸国の共同で、飛行船を用い大規模な『外』の調査隊を編成することが決定した。が、肝心な飛行船の数が現状は少なく、人員もすぐには集まらないだろう」

 

 一息入れて区切れば、既に多くの者は次を理解している様子。弾んだ声が、その心情を語る。

 

「そこで、ナザリックの人員による飛行船の試験運用、並びに試験調査を行うことを決定した。行先はアーグランド評議国であり、司銀龍の縄張りを避ける為、海を経由して、安全な移動ルートを模索することを目的とする」

 

 ナザリックの人員による―――その言葉に、メイドたちが身を強張らせる。

 

「選出は後に行うが、今回は守護者たちを除いた面々で編成することを考えている」

 

 危険です、などという異議は無い。守護者級ですら、事前情報なしでは最悪殺されかねない過酷な環境で、あまりに今更過ぎる言葉であり、その程度の覚悟すらない者はここに居ない。寧ろ、レベルという意味ではあまりに隔絶していたメイドたちがある程度やれるようになっている現状、更なるスキルアップの機会として、ハイリスクハイリターンな賭けでもあるのだ。

 

「………さて、では一度、お前たちからの報告に戻ろう」

「それじゃあ、あたしから!」

 

 そして意外なことに、アウラから報告が上がる。

 

「賢王の許可が下りたので、トブの農場を拡大しました!」

「ふむ」

「湖にも生簀を追加して………あと、あの子たちも農場で育ててます!」

(あの子………まさか、雷狼竜か!?)

 

 『雷狼竜』ジンオウガ………彼らが保護したその子供を、あの場所で育てているという。

 

「すっごく可愛い上、最近は元々森に居たモンスターの子供たちも集まってて!エントマが見つけてきた虫たちも増えて、とっても賑やかになりました!」

「えっと、あと、深いところの森を木材にしたら、浅いところの樹より凄くて、それで」

「あ、そうそう!木材として優秀とかで、魔法で増産できないかを調整してるんです!マーレが」

 

 その報告は、中々に驚きのもの。それほど優れているのなら、幅広く使えるだろう。

 

「その木材を用いた装備も作成しております。量産体制が整い、メイドたちに行き渡り次第、それの流通、販売を事業とすることも視野に入れております。ただ、デザイン面が少々………」

「デザインが?」

「和風寄りでして」

「あー………性能の方は?」

「普通に強いです。攻撃力、クリティカル確率、回避補正と武器性能の、命中のプラス補正と」

(つっよ?!)

「ただ、樹の成長度合いにより変わるようで、若い樹だとクリティカル確率と回避補正だけです」

「随分落ちたな………んんっ!そこの采配はお前たちに任せよう」

 

 細かな採算は部下に任せ、モモンガは口を閉じる。

 

「最後に。既にお察しかと思われますが、一般メイドたちにも戦闘訓練を施しました」

「やはりか。悪いとは言わん、が」

 

 その意図を察した知恵者たちは沈黙し、同じ疑問を有することを肯定。

 

「彼女たちについては、モモンガ様が仰られた調査隊編成まで、引き続き農場の業務を任せます」

「ソレト、訓練モ忘レズニ、継続サセル予定デス」

 

 その言葉に頷き、モモンガは複数の議題を持ち上げる。

 

「では、私からも幾つか」

 

 彼がまず持ち出したのは、カッツェ平野について。

 

「まず、カッツェ平野のアンデッドだが………ただただ、弱い。ユグドラシル相当と思えばいい」

 

 アンデッドを支配下に置くだけなら、とにかく簡単だ。

 が、ハッキリ言って、弱すぎる。それこそ、旨味が皆無と言えるほどに弱いのだ。

 

「そこで、だ。仮に支配するとして、お前たちならばどう活用する?」

(ぶっちゃけ、労働力としてもなぁ………)

 

 事実、カッツェ平野のアンデッド増加で困るのは、モンスターの誘引程度なのだ。

 それこそ、村娘ですら死者の大魔法使い(エルダーリッチ)級以下なら普通に倒せるレベル。

 

「………ええっと、それは」

「うむ。正直言って、あまりに旨味が無いのだ」

 

 アンデッドを使うような労働も無ければ、そもそもそれを必要とする環境もない。

 壁として使えるのも、精々死の騎士(デス・ナイト)程度であり、そもそもその場しのぎ程度であれば、モモンガなら簡単に生み出せる。戦力としても、壁としても、アンデッドモンスターをわざわざ使う理由が無いのだ。

 

「………いっそ、滅ぼしては?」

「私も考えたのだが、原因不明というのがなぁ」

 

 そう、原因不明―――それ故に、不用意に手を出したくない、というのが本音だ。

 

「申し訳ございませんが、ユグドラシル基準の低レベルアンデッドとなると、使い道が………」

「労働力として見るとして、現地の人員との差は」

「スケルトンを使うくらいなら、そこらの村人を雇った方が数倍効率的だろうな」

「………素直に滅ぼしましょう。序に、そこに都市でも築いては如何でしょう」

「それは考えていた。カッツェ平野を平定し、飛行船の中継基地としようか、とな」

 

 飛行船の建造技術が広まれば、その恩恵は計り知れないものとなろう。無論、陸路と異なる課題は生じるが、迎撃兵器を積み込み易く、その分有事の備えもやりやすくなっていることだろう。竜王国の、砂海での生存のため発達した造船技術により得られた強度は生半可な攻撃をものともしない分、陸路を征くより安全面では上だろう。

 

 その利便性は言うまでもなく、モモンガの案には知恵者たちも同意を示す。

 

「商船の補給地と共に、彼らが商いを行う商業都市とする、ということですか」

「素晴らしい提案かと。そのような形で運用できれば、我々の商業活動も容易になります」

「各国からの距離も考慮すれば、人員の休憩にも適しているかと思われます」

 

 と、そこまで好意的な意見が上がる中、最大の問題が残される。

 

 カッツェ平野への、対処だ。

 

「超位魔法では範囲が足りず、かといってワールドアイテムを使うのは………」

「そもそも、そう簡単に解決する問題なんでありんしょうか?」

(それは思うんだよなぁ)

 

 真相を知らぬ者たちからすれば、不思議な土地。だが、真実を知るには、何もかもが足りない。

 

「それについては、ツアーたちと相談するか………では、次にだが」

 

 一難去って随分と余裕を持った彼らだが、決して油断することなく、自分たちの活動域の安全の確保に向け、出来得る限りの尽力を行う。それは奇しくも、『悪のギルド』として名を馳せたアインズ・ウール・ゴウンではなく。その前身である、対異形種狩りクランであり、たっち・みーの理念を形にした、ナインズ・オウン・ゴールに近しい姿勢であると言えよう。

 

 その在り方は、主であるモモンガからしても、喜ばしいものであった。

 

「―――――流石に不運………いえ、幸運の連鎖も、一旦打ち止めかしら」

 

 そして、その変化を喜ぶ者は、他にも。

 

「邪悪な者たちは、この世界を知り、その悪性を薄れさせる」

 

 邪龍の忌み名を持つ龍が、不機嫌そうに喉を鳴らす。

 どうしようもなく邪悪な、人間の負の側面の具現であった八人を思い出して。

 

「強大な竜たちとの戦いで、忌むべき力は失われ、龍たちの忌避も薄れた。妄信を是とする気質は失せ、彼らは意思無き被造物から、意志ある命へと転じた………何れ、彼の願いも叶うかもね」

 

 白き者は笑う。多くの死と隣り合わせの過酷さこそが、彼ら最大の幸運なのだと。

 

「今なら、黄金郷の主も歓迎してくれるかもしれないわね」

 

 滅尽龍は南へ飛び、強大なる龍たちに足止めされた黒き竜は、再び行方を晦ませた。

 辺境の竜王を睨む龍たちが、この世界に根付いた強者たちが忌む力が消えた今、彼らが犯しうる過ちといえば、八欲王の二の舞程度。それとて、あの地で『上』の強大さを見せつけられたのだから、そうそう欲をかけるものでもない。

 

「それにしても………ふふ。飛行船だなんて、かつてのあの世界みたいになってきたわね」

 

 彼女たちが生きた世界。龍は疎か、竜の居場所も消えつつあった、懐かしき世界。

 

 侵略にも近い形で居場所を広げたモンスターたち、全ての祖は、過去を偲び微笑む。

 

「貴方たちなら、また見せてくれるかしら?………彼らのような、生命の力を」

 

 たった一人で、猛る角竜を討ち果たした英雄がいた。

 彼の、彼らの偉業を機に、数多の英雄が現れ、人々が未知を切り拓いた時代。

 

 そして………己に挑む勇者たちを生んだ、生きる力に満ち溢れていた時代。

 

「………生ける屍に求めるなんて、随分な皮肉だけど、ね」

 

 神と呼ばれし龍は、その再来を、密かに渇望していた。






・ナザリック

悪性は大分鳴りを潜め、外部環境での活動が長い者ほど思考が柔軟に。
また、ユグドラシルのシステムという枷から解き放たれつつある者も。

また、アルベドの、創造主からの装備の喪失に対する反応から判るように、徐々に創造主への忠誠等が希薄化しており、長く外部に居た者ほどその傾向が強く表れている。


・シズ、ナーベラル、エントマ

先の戦いで生存し、その功績で優れた武具を与えられたプレアデス三名。
それぞれ『黒炎王』『青電主』『紫毒姫』と凶悪無比なモンスターの素材を用いた鎧を纏い、期待と羨望を背負う立場に。その武器も含め、実質的にナザリックの階層守護者級に次ぐ立場となり、こと外部での活動においては、彼らの代理として動くことを求められる地位に。


・虫たち

エントマが東の森で発見した生物。彼女が生還できた最大の要因。
現在、ムシツカイである彼女以外には従う意思を見せず、彼女主導で育成、調教を行っている。


・カッツェ平野のアンデッド

一般人ですらレベル80~90相当のステータスを持つ中、ユグドラシルレベル相当のステータス。
一般人ですらエルダーリッチ以下なら簡単に倒せ、冒険者が出張れば、文字通りあっという間に殲滅が完了する。そのため、無尽蔵に出現したアンデッドが周囲のモンスターを刺激するのが目下最大の懸念という、原作とは別の意味で面倒な土地に。
また、先述した事情から、労働力として見ても、素直に現地人の手を借りた方が効率的。兵力としても、デス・ナイト以外は論外の領域であり、モモンガ含むナザリックの面々の認識が共通であった(+現地人への蔑視が無い)ことから、労働力としても兵力としても、一切見向きもされなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。