《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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49―白からの祝福

 災厄から、三か月。

 

「ったく、俺にゃこういう場は合わねぇんだけどな」

「それは俺も同じさ。だが、相応の立場である以上、ある程度は割り切らねばならん」

 

 農村出身者同士、ガゼフとブレインの会話は随分と気安い。

 

「立場、立場ねぇ………人死に出してる俺に、そんな場所に立つ権利があんのかね」

「自惚れるなよ、アングラウス。どれほど強かろうと、個人の力なんてそんなものだ」

「………だからって、簡単に受け入れられる訳ねぇだろ」

 

 憤怒、悔恨を滲ませる彼に対し、ガゼフは厳しい顔で静かに首を横に振る。

 

「だとしても、生きているからには、前に進まなければならないんだ。お前はあの村と、あの戦いを背負い、俺は師匠、俺を生かそうとしてくれた仲間、部下、救えなかった民………多くの命を背負って、前に進むんだ。それが、生き残った俺たちの責務だからな」

 

 鎧の下、自身の肩に手を置くガゼフの隣で、ブレインは歯を食い縛り、床を見下ろす。

 

「………説教臭くなってしまったな。まあ、要は前向きに、ということだ」

「前向き、か」

「ああ。その悔しさをバネにしろ、と言えばわかるか?」

「………んなもん、言われなくてもわかってるさ」

 

 目を閉ざせば、炎に包まれる村の光景が浮かんでくる。

 

 ………どうしても、被害を未然に、完全に防ぐことは不可能。彼が味わったのも、それ故の絶望であり、悲嘆であり、それ故に俗世を離れ、妄執が如く強さを求め………その内に、驕っていたのかもしれない。砕竜一体を単独で打倒出来たところで、それが束になってかかって来れば、大して意味が無いというのに。

 

「さ、行くぞ。我々が遅れては、陛下の顔に泥を塗ってしまうからな」

「俺は王国側じゃねえけどな」

 

 勇ましい轟竜の鎧を纏う戦士に続き、この地で確認されていなかった『雷狼竜』の鎧を纏う戦士も兜を被り、新たな刀を片手に歩を進める。そこでブレインとガゼフは別れ、ガゼフは王のもとへ、ブレインは一人別行動としてその場を去る。

 

 彼らが次に集うのは、多くの発表の場を兼ねた式典の場。

 

「―――――まずは、先の戦いで散った者たちに、黙祷を」

 

 音頭を取るのは、スレイン法国の最高神官長。ランポッサ王を超える老齢にして、辺境最強国家の長の座に着く者は、失われた多くの命を悼み、祈りを捧げる。老王も、若き皇帝も、竜の血を引く女王も。そして骸の支配者も、等しく口を閉ざし、先の戦いで散った者たちへと祈る。

 

 この瞬間、帝都アーウィンタールから、一切の音が消え去った。

 

「先の災厄において、未知のモンスターが数多く現れた」

 

 災厄の元凶たる『風神龍』『雷神龍』、並びに『天廻龍』と、その前身たる『黒蝕竜』。

 『怨虎竜』、『雷狼竜』『重甲虫』『徹甲虫』『影蜘蛛』『青熊獣』『尾槌竜』と、多くの新種が確認された災厄。そして、多くの新種を告げれば告げる程、ある者は自身の生存を喜び、またある者は犠牲となった者たちが『少ない』と驚愕し。疑問、そして畏敬の目が、不死者たちを射抜いた。

 

「そして。未知の中に、想像を絶する厄災が存在していた」

 

 重い言葉の中、生還した者たちが立ち上がる。

 

 強大なるモンスターたちを討ち倒した証たる、全く新しい武具を纏う者たちが。

 

「まずは、その厄災に挑み、この地を守り抜いた英雄たちに、感謝の意を」

 

 その言葉に続けて、万雷の喝采が降り注ぐ。

 ある者は驚愕と共にその賞賛を噛み締め、またある者は驕ることなく瞑目し。彼らの謝意を受け止める者たちは、静かに民へと応じた。モンスターたちの活動が未だ沈静化している為、広く民が集まったこの式典に集う、彼らが守りたかった者たちの笑顔に、皆その顔が綻んでいた。

 

「………だが、この度の厄災において、彼らの尽力がありながら、多くの命を失った。二度とこの惨事を繰り返さぬためにも、我らは見聞を広める必要がある。未知を既知に変え、より磐石な備えをしなければならないのだ」

 

 最高神官長はその言葉を最後に下がり、立役者の一人―――不死者の王が、交代で立つ。

 

「そう、未知を既知に。多くを知り、多くに備えねばならないのだ」

 

 不死者の眼窩の光が、強く燃え盛る。かつての憧憬を、渇望を思い起こすように。

 

「故に、我々は外に踏み出す―――だが、我々だけでは、それは叶わない。先の戦いの傷は深く、未だどの国も、完全に立ち直ることは叶っていないのだからな。何より、陸路では危険があまりに大きい………そう、陸路では、な」

 

 含みのある言い方で一度切り、大きくアクションを起こす。

 空の配下が魔法を解くのに合わせ、ローブを大きく翻し、力強く手を伸ばす。

 

「だが!竜王国が生み出した新たな手段により、空という新天地の開拓が可能となった!」

 

 どの支配者とも異なる、彼独自のカリスマ性が、この場では最もよく響く。

 

「そして、国が動けずとも、支援することは出来る。そして、それを受ける者たちは―――」

 

 その目が向いた先で、多くの者たちが胸を高鳴らせる。

 農村の防衛を始めとする諸事情により、戦いに参加しなかった冒険者やワーカーが、まさかと息を飲む中、モモンガは力強く宣言する。国に属さないが故の、起こり得る軋轢を極限まで回避できる人員である、という建前は頭から抜け、その声にはどこまでも強い羨望と、期待があった。

 

「冒険者!そしてワーカー!彼らを軸に人員を集め、この大陸を調査―――否、冒険するのだ!」

 

 かつて―――――辺境の人々の中に、活路を外部に求めた者たちがいたという。

 武器を取り、心身を鍛え上げた猛者たちは、未開の地へと踏み入り、その先を目指し、しかしてその多くが、そのまま帰らぬ者となった。始まりの理想は、過酷になっていく環境の中で叶わぬものとなり、彼らが立ち上げた名は、いつしか未知の活路を求める者から、内部で広く活動する者の名へと変わった。

 

 その失われた理想が、今再び、燃え盛ろうとしているのだ。

 

「そして。その冒険に諸君らが加わることも、可能だ」

 

 複数国家の合同プロジェクトへの参加となれば、相応の報酬が確約される。

 それだけでなく、全く新しい世界を視ることもできる、という事実が、多くの人々の心を掴む。

 

「冒険者たちは万能ではない。彼らを、諸君らが支えるのだ」

 

 その演説の中、浮かぶ飛行船に待機しているシャルティアたちは、空を舞う蒼光に気付く。

 

「て、敵襲!?」

「………敵意は感じんせん。それに、あれは………」

 

 空が、一層明るくなる。その異変に気付いた者たちの前へと向け、飛行船より更に高い空を飛ぶ光輝は、急激に地上へと接近する。そこに、不思議と危険を感じることが出来ず、飛行船の者たちは美しい輝きを目に焼き付けている。

 

 そして、快晴の空がいっそう明るくなった瞬間に、目を剥き感激する者が一人。

 

「お、おおおおおお………!」

 

 空を見上げ、フールーダが感嘆の声と共に打ち震える。

 空を見上げた者たちは、迫る輝影を目の当たりにし、伝承を知る者たちは一瞬で理解した。

 

「ゼルレウス………!」

「『烈種』モンスターが、何故!?」

 

 牙を剥く気などない竜は、明るく暖かな光で大地を照らす。皇城に降り立った純白の竜は、その紅眼で地上の者たちを睥睨し、満足したように咆哮すると、それだけで再び飛び去る。真意を解することは非常に難しいながら、過去に彼の竜と遭遇し、その威光を目の当たりにした老翁は一人、その意を読み取っていた。

 

「は、ハハハハ………激励でしょうな、これは!」

 

 ―――異世界の伝承に曰く、『白き飛竜に出会いし者は大願が成就する』………と。

 或いは、『白き飛竜に出会いし者には災いが訪れる』とも伝わるが、フールーダの思うように、この度の出現が意味するのは、激励。彼が監視を担当する地に住まう、強き命を認めたことの証左に他ならない。

 

 彼も、彼ら極みに在る者たちも、求めているのだ。

 かつて、己と相対した人間たち………彼らと同じ、生命の輝きに満ちた者の再来を。

 

「いいだろう、白き竜よ!」

 

 憤怒、悔恨、恐怖………そして憧憬を胸に生き続けた老翁が叫ぶ。

 魔神を滅ぼした絶対なる白き竜への憧憬が、他の多くを凌駕していた。

 

「儂らもまた、貴様らの高みへ!その強大なる力と対等の域まで、至ってみせようぞ!」

 

 それこそが、フールーダ・パラダインの、原点の一つ。

 魔道を極めれば、彼の竜に並び得ると願い。そして、その域に至れば、至った者を数多生み出せば、かつて目の前で起きた、数多くの悲劇を防げると願い、果ての見えぬ探求へと身を投じたのだ。

 

「………まったく、とんだサプライズゲストが来たものだ」

 

 完全にスイッチが入ったフールーダ、そして伝説上の存在とされていた竜の降臨に沸き立つ民衆と、完全に場の空気を持っていかれたジルクニフが溜息を吐く。が、彼らも輝界竜への悪感情は無く、その意図は読めないながら、こちらに好意的であるとまでは理解できていた。

 

 この瞬間、大衆は彼を、聖なる竜として見ていた。

 

「………あの時の礼、言いそびれたな」

 

 快晴の昼空より、更に明るい空の下。ヌシたる紅兜率いるモンスターたちを退けた、蒼の光線を思い出し、モモンガは無念そうに零す。その際の、異様に明るい空と同じ状況であることから、その正体であると察したのだ。ここまで敵意のない行動を取られ、天候という状況証拠が揃っては、誰でもそう考えるだろう。

 

 異質な盛り上がりの中、肝心な試験飛行の告知が出来ないまま、式典が終わることになった。

 

 

 式典から程なくして、幾つかのニュースが新たな話題をかっさらう。

 

「グランセルを避けて、評議国までの海上空路を模索………試運用への参加者募集、であるか」

「空!凄いですね、それは………私たちには、遠い世界ですが」

「噂じゃ、竜王国が総力を挙げて完成させたらしいぜ。それに、海に出られるって!」

「けど、ボクたちじゃ難しいんじゃ………」

「あ、けどここ、雑用って枠が」

 

 ある者たちは、未知に手を伸ばせないかと、和気藹々と酒場で語らい。

 

「それもだけど、カッツェ平野に飛行船の中継都市を建設って、これ大丈夫か?」

「けど、実現できるなら、この募集の山にも納得がいくよな」

「そういえば、カルネ村で研究してた薬師連中はどうするんだろうな、これ」

 

 またある者は、新たに造られるという都市に関するチラシを見て、他愛もない話で盛り上がる。

 

「ヒトも変わるものでござるなぁ………」

「ギュァァッ」

「ギュォゥ」

 

 その一方、チラシを傍らに、広がった農場の隅で、森の賢王は湖を見つめる。

 

「賑わってござるな」

 

 彼女が招いた多くのモンスターが、彼女の支配域と異なる領域に根付いた。

 龍の猛威への危惧と、狂竜の力の残留への懸念からの提案であったが、アウラを挟んでの交渉のお陰でか、彼女の領域への被害は極めて少ない。そもそも、彼女が率いる者たちと敵対するだけの旨味が無い、というのが一番なのだろう。

 

 事実、この森の中で彼女を相手にするのは、如何に強力な竜が揃おうとも自殺行為に近い。更には、先の戦いで多くの着想を得た彼女は、恐ろしいことに更なる魔法やトラップを編み出し続けている。一見呆けているように見える現状でさえ、その頭の中では数多の新魔法が組み上げられているのだ。

 

「しかし、空とは………ヒトとは、わからぬものにござるな」

 

 静かに配下へと語り掛け、その目で夜空を見上げる。

 先の戦いを生き抜いた猛者であるが、彼女は本来弱者側。生存の理由も、アウラと共に普通の竜たちの司令塔として動いていたことが大きく、個体としての弱さを知恵で補っているに過ぎない。その集大成こそが、南の森に住まう竜たちの統率であり、彼らの力を駆使したゲリラ戦術。

 

 言い換えれば、それらの通じない環境において、彼女たちは一転被食者側に逆戻りだ。

 

「キュァッ!キュァッ!」

「キュォォッ!」

「………この農場も、いつの間にか託児所になってござるし」

 

 そんな彼女の支配域内にある、農場………彼女の支配域にあり、更にはナザリックの者が定期的に現れることもあり、森の南部域でも特に安全であるこの一帯は、いつの間にかモンスターたちの第二の巣に近い場所となり、卵や幼い子を預ける場となっていた。これには、外部のモンスターたちが主に北西、並びに東部地域に居を構えたのに対し、そのエリアは生存競争も相応に熾烈であることも一因だろう。

 

「小屋の組み方は覚えたし、幾つか新設すべきでござろうか?」

「でしたら、私もお手伝いいたしますよ」

 

 そこに声をかけるのは、彼女に一目置くナザリックの知恵者。

 新たな領域への挑戦に当たり、磐石の備えを求める者は、この未知の世界有数の知恵者の元へと足を運ぶ。未だ一年にも満たない時間しか過ごしていない者たちからしてみれば、二百年という歳月を生き、人間との交流無しで多くを生み出した者との交流程、多くを得られる機会もないだろう。

 

「それと、幾つか相談なのですが―――――」






・フールーダ

若き日に故郷を焼かれ、国を割られたことで、魔道に傾倒した老翁。
魔道の深淵に『刻竜』をも打倒し得るものがあると信じ、そこを目指す求道者。同時に、割れた国の東部、バハルス帝国にて多くのマジックキャスターを育て上げ、同時に知識と知恵で支えてきた賢者でもある。未だ第六位階が限界ながら、原作より完全な形で魔法を行使できており、幾らか若い。

その根底にあるのは、かつて見た輝界竜の力への憧憬と、多くを失った悲劇への悔恨。後者の比重が極めて大きい為、深淵への渇望以上に後進の育成や、その経験と知恵をもとにしたモンスター対策に深く関与しており、それが原因となり、マジックキャスターとしての研鑽が思うように進んでいない。
が、彼自身が魔道の深淵を求める理由もあり、自身が到達し、それを広めたいという考えと同時に、育った弟子たちならば、自身に万一があろうと大願を成してくれるだろう、という期待も併せ持っており、魔法狂いであるが完全な狂人ではない。

行動原理のお陰か、ある程度分別は着くように。間違っても、原作のように靴は舐めないし、防衛戦の際のような場では私心より弟子たちの安全を考え、重要と判断した事案へは熱心に取り組む。
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