《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

62 / 78
51―変化の証たる『街』

 更に二か月の時が流れた、辺境南方の大地。

 

「わあ………!」

「ここが………」

 

 カッツェ平野………アンデッド多発地帯であった場所には、巨大な都市が建てられていた。

 

「ようこそ、『アインズ・ウール・ゴウン』へ」

 

 城塞都市『アインズ・ウール・ゴウン』―――カッツェ平野という、アンデッド多発地帯の根源を排除したことで生じた、広い空き地に建設された都市。どの国家にも属さぬ中立で、全ての国を受け入れる都市であり、竜王国の発明である飛行船の運用を前提として設計された、飛行船運用の為の、そしてそれに乗り込み、未知を切り拓く冒険者たちの為の、巨大な中継基地。

 

 そして、モモンガたちナザリックが、一つの勢力としてこの地に根付いた証でもある。

 運営には多くの守護者が関与しており、同時に現地の知恵を多く取り入れている。ナザリックに蓄えられた知識を、現地の技術、知恵を照らし合わせ、よりハイレベルに昇華させるという工程を、街の中心部たる『港街区』から街を囲う城壁にまで適応したこの都市は、間違いなく辺境最大にして、最も堅牢な都市であると言えよう。

 

「………おっし、いいぞ!」

「橋を繋げ!運び込めるモンは運び込むぞ!」

 

 降り立った、様々な改造を施された飛行船『黒鱗』へと、橋を繋げる。

 造船所内では、ナザリックから持ち出した諸知識と、竜王国の有する技術とを擦り合わせた成果である、竜王国からしても画期的な設備が、多数稼働している。それらの多くは、ギルメンが最古図書館に残した書物にあるものを参考としているが、後日竜王国は疎か、各国に持ち帰れないかと打診を受ける程に、画期的なものばかり。

 

 竜王国から多数の技術者を呼び、王国、帝国、法国は疎か、アベリオンと都市国家連合から多数の工夫の助力を受け、早期完成を実現した都市の心臓部。そこから少し離れれば、これまた異なる活気が満ちている。数多くの者が移住したばかりの居住区から、古株の大手商人に始まり、比較的新参の者まで幅広く受け入れる商店街など、完成から一週間と経っていないとは思えぬ程、活気に溢れている。

 

「おう、悪いな兄ちゃんら。ちょいと横に避けて貰えるか?」

「あ、すみません!」

 

 一見ガラの悪い、スキンヘッドに全身刺青の筋骨隆々の男の声に、五人が退く。その恐ろしい姿に五人が竦む中、当の男は大して気にした様子を見せず、「気をつけろよ」と簡潔に注意して街の奥へと消える。その注意を胸に、銀級冒険者チーム『漆黒の剣』が歩を進めれば、その活気が消えた場所を発見する。

 

「………あれ、って」

 

 黒に近いダークブルーの甲殻と、鮮やかな青の高電膜で彩られた鎧と、それが際立たせる色白の肌を持つ美女。背負うダークグリーンを基調とした電竜杖と併せ、知らない者はまずいないであろう、有名人。突如現れ、三つの災禍を退けた謎の一団、ナザリックの一員にして、先の大事件の最前線で戦い、生還した英雄の一人だ。

 

(まだ販売されている武具を手にした様子は無し………ね)

 

 彼女の目的は、栄えあるギルドの名を冠した、繁栄を約束された都市の視察。

 突き詰めれば、更に後に控えた試験運用に参加する可能性が高い者たちの、装備の刷新状況だ。ナザリックが現地に供給した武具は、今までの主流であった武具より格段に高性能な代物で、それは現在、比較的安価で供給されている。彼女が何故そこまで見ているかというと、武具の刷新後、慣らしの期間が必要であることを実感したから。

 

 現在、一時期落ち着いていたモンスターたちの活動が再開されつつあり、トブの大森林とは別の区域に生息する小型、中型の鳥竜種モンスター等の討伐依頼が増えつつある。当然、この街から受注できるよう手続きはされており、それらで日銭を稼ぐようにしていれば、自然と慣熟できる。

 『早くナザリックの武具に買い替えろ』という思考の根底にあるのは、姉妹や一般のメイドたちも加わる試験運用への懸念。戦力として参加する者であろうとなかろうと、彼女たちの背中を預かるのだから、相応の準備を整えておけ、という苛立ちに近い思いだ。とはいえ、大分分別がつくようになった今、まだそう時間が経っていないことと併せ、様子を見る、という選択が出来ている。

 

「………いけませんね。もう少々、気を緩めねば」

「そうっすよ、ナーちゃん。モモンガ様も仰ってたじゃないっすか、切り替えが大事、って」

 

 そんな彼女に声をかけたのは、ルプスレギナ。オフとして意識を切り替える為か、これまで通りのメイド服姿の彼女は、既に買い物を楽しんだのか、色々なものを抱えている。先の戦いで、自身が生き残った、生き残ってしまった、と負い目を感じているナーベラルの表情が少しばかり曇れば、ルプスレギナはそれを機敏に察知。その手を引いて、雑踏へと消えていく。

 

「ちょ、ルプー!?」

「………行ってしまったのである」

「残念でしたね、セリー。色々、訊きたいことがあったんでしょう?」

「いえ、大丈夫です。それより、先に宿を取らないと」

 

 セリーと呼ばれた、ボーイッシュな少女の言葉に従い、銀級の五人組は宿泊施設の集まる区画を目指し、小走りに。幸い、街中の各所に案内標識、案内板が設置されており、建物の配置も整然としているお陰で、初めての来訪でも迷わず目的の区画まで辿り着ける。

 

「宿取れたぞー!」

「都市直営だったみたいで、安く済みました」

 

 そして、五人の冒険者は元々、今日一日は冒険者業を休むことを決めていた。

 

「それじゃ、各自解散ってことで!」

「はい。ただ、明日はしっかり働きますからね」

 

 リーダー、ペテル・モークの声に皆が了承を伝え、一度解散。

 

「セリーはどこに行くの?」

巻物(スクロール)とか見てみようかな、と思ってる。まだ、使える魔法もあまり多くないからね」

 

 その中で、合流した姉妹は商店街へと向かい、目当ての店舗を探す。

 区画間で迷うことはなくとも、どこにどの店があるかは現状、案内板に自主的に掲載している者を除けば不明な状態。主な活動拠点であったエ・ランテルの街で、買い物に行くより新鮮さは強く、目的の店以外にも顔を出しては、あれがいい、これがいいと買う買わないは別に盛り上がる。

 初動が大事、とばかりにどこも奮発しており、見ているだけでも十分に楽しめる。あくまで銀級冒険者チームであり、且つセリーことセシーリア・ベイロンはマジックキャスターということで出費も多く、財布にそこまで余裕がないのが無念ではあるが、姉妹での時間ということもあってか、流れる時間は和やかだ。

 

「出来たばかり、とは思えない活気ね」

「色んな国から来てるみたいだから、楽しいよね」

 

 王国、帝国、法国、竜王国と………どこも、品揃えの傾向が微妙に異なる為、見ていて飽きない上、時折掘り出し物も発見出来たりと、エ・ランテルと異なる楽しみがある。しっくり来る武器が見つからず悩んでいたセリーの姉、ツアレニーニャ・ベイロンも随分リラックスできているようで、明るい表情を見せている。

 

 そんな姉の姿を喜びながら、セリーもツアレと共に、本来の目的を忘れ街を回る。

 

「………あ、ここにも」

 

 ツアレの目が、ある掲示物に留まる。街全域で、大々的に告知されているものであり、よくよく内容を読んでみれば、この街で唯一武具を扱っている店『大工房』の存在と、所在地を示すもの。街の中枢たる港街区に存在するというそこに興味を惹かれ、そこまでの簡単な地図を頭に叩き込む。

 

「お姉ちゃん?」

「この、大工房って場所も見てみようかな、って思って」

「それじゃあ、先に行こうよ。ほら、武具以外も取り扱っております、って書いてあるし、ボクが欲しい巻物(スクロール)とかも置いてるかもしれないし」

 

 セリーが笑顔でそう伝えると、ツアレも表情を和らげ、共に同じ場所を目指して歩き出す。

 

 中心部にある港街区の、ごく浅いところに存在する大工房に近づけば、区画の大部分を占める大造船所の設備の音が耳に届く。大規模な設備の稼働音の中、巨大な工房からも負けじと大きな音が響いている。それこそ、踏み入る前から、その熱気と音が伝わる程。

 

「おっし、そっち行くぞ!道開けろ!」

「一丁上がりだ!確認頼むぞ!」

「………工房、って、そういうことかぁ」

 

 所属国家、種族問わず、鍛冶師たちが行き交う工房と一体化した店だった。

 竜王国の技術に、ナザリックの知識が加わり誕生した大型設備を有する工房は、先の戦いの後方支援に参加していなかった鍛冶師たちの修行場としての機能も兼ねており、忙しなく動いている。その中で目立つのは、暗い赤の鎧を纏う少女と、執事服を纏う老人の場違いな二人。

 

「成程、ではそのように手配しておきましょう」

「助かるよ、セバスの旦那」

 

 セバスが割り当てられたのは、この大工房のオーナーという立場。

 多くの調整を求められる多忙な立場であるが、同時に強いやりがいを感じていた。この大工房で得られた成果の多くは、ナザリック以上に現地の人々へと還元され、彼らの安全に繋がるのだ。ナザリックの利益以上に、無辜の人々への利益を喜べる辺り、セバス・チャンとして設定された、或いはナザリックのシモベとしての要素を、創造主であるたっち・みー譲りの気性が凌駕しつつあるのだろう。

 

「これ、頼まれてた巻物(スクロール)と弾薬ね」

「おお、助かった!弾薬は兎に角、魔法にゃ疎いのばっかでなぁ」

 

 シズ・デルタが弾薬の詰まった木箱、巻物が詰まった木箱を置き、仕事は終わった、とばかりに踵を返す。そして、そのエメラルドにも似た瞳が、丁度来訪していた銀級冒険者姉妹を捉えた。セリーが驚き固まる一方、ツアレは彼女より、店内にある武器に目を奪われている様子。

 

「何か、探してる?」

「え!?………えっと………はい」

 

 そう訊かれ、一瞬誤魔化そうかとも考えたツアレは、しかし誤魔化しても意味が無いと判断し、不安そうに肯定。妹に倣い少ないながら魔法を学び、冒険者として今の仲間たちと活動を始めてからは、前衛後衛問わず試すこともしたが、どうも『これ』としっくりくるものが見つからないのだ。

 現状、まだ銀級止まりではあるが、今後ランクが上がった後、それが原因で仲間の足を引っ張るのではないか、という不安は拭えない。そして、この店には見覚えのない武器が複数置かれており、そこに希望を見出した彼女は、店内の武具を観察していたのだ。

 

「その、しっくりくる武器が見つからなくて………」

「成程。それは大変」

 

 彼女が冒険者であることは、身に着けている金属プレートで一目瞭然。

 その悩みが死活問題であることはシズも理解できるし、彼女も彼女で、一般メイドたちの中に、眼前の少女と同じ悩みを抱えていた者と向き合ってきたことから、精神的な重責であることも理解できた。その上で、どうするべきか、とセバスに目を向ける。

 

 彼女たちとて、純粋な慈善事業ではない。武器を選んでも、無償で譲渡、とはいかないのだ。

 

「失礼ですが、お手持ちのほどは?」

「………そ、それなりに」

「お姉ちゃん一人で足りないようでしたら、ボクも払います!」

 

 セリーが力強く叫べば、セバスは優しく微笑み

 

「少々脅してしまいましたか。こちら、どの武具も値段は提示してありますので、ご安心を」

「え?………あっ」

 

 展示されている武器から、少し視線を下に向ければ、値段を書いたプレートが目に入る。

 羞恥と、そこまで不安を抱えていたことに顔を赤くする中、セバスはあえて触れずに続ける。

 

「足りるようでしたら、幾つか試してみてはいかがでしょうか?」

「い、いいんですか?売り物、ですよね?」

「試して頂かねば、何もわからないではありませんか。それと、」

 

 セバスの手が、ツアレが注視していた場所の反対を示す。

 

「あちらの防具も、提供しております。衣服鎧ですが、金属鎧より頑丈な物でございます」

 

 トブの大森林奥地で発見した樹木を加工した装備、ユクモノシリーズを指し示す。

 魔法の鎧としての性質を有するお陰で、採寸の必要がない。更には、量産も比較的容易と、販売に向いた代物でありながら、性能はクリティカル率と回避補正の強化と幅広く恩恵を受けられ、それでいてある程度実力をつけると物足りなくなる絶妙な塩梅。その強度と回避補正とで、装備者の生存にも寄与してくれるだろうことも、嬉しい点だ。

 

「ええっと、お値段は………」

「あちらですが、安価で提供させていただいております。皆様に未知の開拓を期待する立場でありますので、これくらいの便宜は当然のことでございます。それに、将来的には、彼らのような優れた職人が、より優れた武具を提供してくれることでしょうからね」

「旦那ぁー!プレッシャー!」

「圧力かけんのも程々で頼みますよー!」

 

 凍りかけた空気を、鍜治場からの声が適度に和らげる。

 

「おっと、これは失礼。では、こちらでお試しください」

「は、はいっ!」

 

 試験場へと向かう二人を眺めたシズは、その目をセリーへと向け

 

「………何か、買っていく?」

 

 この大工房と関係のない立場ながら、一応売上に貢献しようと、口を開いた。




★設定

・城塞都市『アインズ・ウール・ゴウン』

ナザリックの、現地活動における本拠点ともなる街。
ギルド名を冠する、現地最大規模の都市であり、旧カッツェ平野全域に広がる程に広大。更に、ナザリックの有する知識と技術と、現地の有する知恵、技術の複合により、名実ともに規模は最大。特に、都市建設の最大の目的にして、中心たる『港街区』の設備は、その規模相応の巨大且つ最新鋭のものを有している。

内部は複数の区分けがされており、都市中枢に位置する港街区は、最新の設備を有する造船所と大工房を有する。全国から集まった技術者たちが修行と開発を行う場でもあり、日夜多くをモノにするべく、老若問わず活動している。現在、その設備の数々もあり、驚くべき早さで最初の一隻の建造が進んでいるとか。


・『漆黒の剣』

銀級冒険者チーム。主に採取依頼、小型鳥竜の討伐依頼で稼いでいる。

比較的平穏に生きていた姉妹が所属しており、本名で活動している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。