《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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これにて、区切りとして完結とさせていただきたく思います。
一応、今後も更新は続ける予定ですが、一旦ここで終わりです、ということになります。


52―《竜》の満ちる世界を生きる

 人が行き交い、活気が満ちた、街を見下ろす。

 

「………いいもんだな、こういうのも」

 

 リアルの世界ではあり得なかった光景を、モモンガは穏やかな心持ちで眺めていた。

 空気が汚れた世界では、外での立ち話など在り得ず。誰もが搾取され、疲弊していた社会に、活気などは存在していなかった。それに加えて、この平和を自分が、自分たちが勝ち取った、という自覚があるからか、湧き上がる感動も相応に大きい。過酷極まる環境に揉まれたお陰で、彼の在り方がかなり人間寄りであることも、その一因だろう。

 

「モモンガ様」

「おっと、すまない。今行こう」

 

 都市運営の大部分は、NPCたちが行っている。これは、モモンガ自身の仕事が増え過ぎないように、という配慮以外にも、彼らなりに現地の人々に思い入れを抱いたこともあるのだろう。本来人間を玩具としてしか見ていなかった筈のデミウルゴスは、今や竜王国の造船技術を学びつつ、パンドラと共にタブラ、ガーネットといった面々が電子書籍として保管していた、リアルの工業知識を現地に還元するなどして、時に驚きながらも楽しんでいる。

 

(大工房といい造船所といい、初めて見る規模だったもんなぁ)

 

 都市中に響くのでは、と錯覚するほどの音と、莫大な量の蒸気を噴出する巨大設備。建造に従事した技術者たちが、我先にと故国で再現せん、と熱を入れる最新設備の数々は、リアルで廃れた蒸気機関を用いたもの。リアルでの課題の一部をマジックアイテムによって解決したそれは、これまでを大きく上回る作業効率を叩き出していた。

 

 男心を擽る巨大設備の稼働を、名残惜しく思いつつ視界から外し、執務机に着く。

 

「さて、私は私で、出来ることをするかな」

 

 それは、ナザリックとして請け負った諸々の業務の整理、分担。

 

(ドワーフ国の中継基地建設は、こっちで作成した設備の設計図の提供と、建造に関与した技師の招集は済ませている。一応、二人はスケジュールに余裕は持たせて動いているし、パンドラも新型炉をあっちに作る気だから、そこは問題ないな)

 

 直接都市運営に関与している者たちは、自分である程度スケジュールを管理している。

 状況次第ではモモンガから予め要望を入れるが、大抵問題はない。

 

(で、他はまず土地の確保からだから、報告待ちでいいな)

 

 簡潔に現状を纏めて、次へと移る。

 

「次は………龍脈炭の在庫問題、か」

 

 現状、現地の技術を駆使しても、安定して高い熱量を生む炉の作成は不可能であった。ドワーフたちの坑道で少量が、ローブル熔山帯で多量に得られるマカライト鉱石筆頭の優れた鉱物類を加工可能にするだけの熱量を生むには、龍脈炭が不可欠。一度生じた熱量を長時間維持することが可能でも、やはり一定量を消費せざるを得ず、不安は大きい。

 

 では、その龍脈炭はどこで得られるか、というと、ローブル熔山帯だ。

 最も埋蔵量が豊富なのは、かつて熔山龍であり、大地と一体化して火山と化した旧プラートで、そこは炎龍夫妻の住処であるため、まず無理。他にも、莫大無比なる生体エネルギーで変り果てた半島の大部分に点在しており、比較的に近い旧ホバンス近郊等の一部に関しては、パンドラたちの健闘により埋蔵が確認されている。

 

(現状、安定して大量に掘れる訳じゃないのがキツいな。調査一つも命懸けだし………)

 

 シャルティア指揮の下、一部メイドの実地訓練として、パンドラたちが転移ポイントとして決定した鉱脈の幾つかの採掘と、彼らが比較的安全と判断した場所の調査を行っているが、やはりというか負傷率が高い。幸い死者は出ていないが、安全な環境とは程遠い以上、その供給量を安定させることは不可能に近いだろう。一応、幾つかの仮拠点が設営され、その内二割ほどが現在も残っている、とのことだが………

 

「大体が大規模な鉱脈から遠い辺り、鉱物食モンスターの縄張りの外、ってことだろうからな」

 

 実地調査をもとに完成された地図を見下ろし、静かに零す。

 

「やはり、現在の成果では不足でしょうか?」

「まさか。お前たちが生還し続けている、というだけでこれ以上ない成果だとも」

 

 それらを、奇跡の一言で片付けはしない。奇跡的でこそあれ、確かに彼女たちの努力が結実した証である以上、陳腐な言葉で片付けはしない。何より、彼女たちの調査で新たに発見された鉱脈や、小規模な鉱脈と近しい拠点など、この街で完結する分には十分な量を得られていることに違いはない。ただ、この都市『アインズ・ウール・ゴウン』以外にも発展して貰う必要を考えると、致命的に足りないだけで、それは彼女たちの責任ではない。

 かといって、現地を責めることも出来まい。アダマンタイトが産出する中で最も硬い鉱石という環境から、いきなりランクアップを要求されたのだから、仕方がない面もあろう。いきなり技術革新を迫られて、ナザリックの手助け込みとはいえ、仮定される必要量を大きく減らせたことの方が、ハッキリ言って異常だ。

 

(ローブルの件は、地道にやるしかない。あとは―――)

 

 現地の魔法システムに関しては、モモンガにはさっぱりである以上、変に手は出せない。

 他の諸業務を処理するも、量自体は大したことが無く、その多くが割り当ての整理と、最終調整で済む程度。それらを終えた後には、この街においての彼の仕事は無くなり、一個人に戻る。一応、都市長の身分ではあるが、外部とのやり取りの為の便宜上の物に近く、殆どの業務を部下に持っていかれているのだ。

 

「失礼します」

「ん?………ああ、入れ」

 

 急を要する報告か、と一瞬身構えていると

 

「お久し振りです、モモンガさん」

「ラキュース殿か。となると………おや?」

 

 三人かと思った来客は、まさかの五人。少し驚いていると、イビルアイが苦笑と共に口を開く。

 

「イジャニーヤから、実戦経験を積むためにと来た二人だ。紹介しておいた方がいいと思ってな」

「ティナ。よろしく」

「ティア。よろしく」

 

 マイペースな二人がそれぞれ自己紹介したところで、ガガーランが軽く肩を竦める。

 

「あとは、オレら宛の依頼が大分減った、ってのもあるな」

「………似た理由で、番外席次様も入り浸っていますね」

 

 母に名を与えられず、故に敢えて名無しとして活動するハーフエルフを思い出し、メイドたちに苦笑が浮かぶ。もっと言えば、交流こそ少ないが、帝国のアダマンタイト級『銀糸鳥』の姿も商店街等で見られるし、『朱の雫』も同様。現状、彼らまで借り出す必要がある程の大事が起きていない為、全体的に暇なのだ。

 

「成程。と、いうことは、目的はそちら二人の武器の見繕いか?」

「はい。こちらが、帝国より利用を許可されたモンスター素材のリストになります」

「よろしく」

「なるべく軽いのがいい」

「まあ、忍者なのだし、そうだろうな。では、まず大工房に行こうか」

 

 二人の軽口に気安く応じ、モモンガも腰を上げる。

 

「いえ、それなら私たちだけでも」

「いや、私が見たいんだよ。彼らの働きぶりを、な」

 

 笑い、彼女たちと共に工房へ。そこには、やや驚きの先客の姿も。

 

「ええっと、その、変………じゃ、ない?」

「全然!似合ってるって、ツアレ!」

「けど、本当に私でよかったの?」

「ツアレが一番攻撃を受ける立場であるからな。吾輩たちからの感謝の気持ちである」

「あまり謙遜し過ぎない方がいい。君がいたからこそ、彼らも生還出来たのだからな」

 

 紫色を基調とした竜皮を用いた、軍服を思わせる装備。それを纏うのは、銀級の少女で………

 

(………うっそだぁ)

 

 鋼鉄の銃槍を………華奢な腕で振るえるとは思えない、厳つい武器を背負っていたのだ。それはもう、見事に度肝を抜かれた。それは背後の『蒼の薔薇』の面々も同じようであり、双子忍者も目を瞬かせている。が、それは相手側も同じようで、来訪者たちに気付くと共に凍り付く。

 

「………蒼の、薔薇か」

「………お久し振りです、ペシュリアン殿。お変わりないようで」

「そちらこそ。メンバーも増えているようだな」

「はい。先の戦いの後、イジャニーヤから」

「ほぅ………」

 

 驚きを始めとする感情をその目に宿し、無愛想な剣士が双子を見つめる。

 

「ペシュリアン殿は、何故こちらに?」

「稼ぎと、例の試験飛行への参加申請で。彼らとは、依頼帰りに偶然、な」

 

 すっかり委縮している五人へと視線を移せば、より一層縮こまってしまう。

 

「えっと、あの、その………」

「ふむ。ところで、素朴な疑問なのだが」

 

 モモンガの興味が、軍服のようにも見える中型鳥竜種モンスターの装備に向く。

 

「その装備には、どのような効果があるのかね?」

「攻撃力と体力の増強と、炎属性の増強だそうです。そん、それで、店売りの装備よりもツアレに合ってるんじゃないか、って思って、俺たちで金を出し合って、加工して貰ったんです。見ての通り、これだけデカい武器担いでちゃあ、回避するより盾使う方が早いんで」

「成程。いいチームじゃないか」

 

 心からの称賛だった。先程の会話から察するに、彼女がメインタンクとして活躍して、彼らへの被害を食い止めたのだろう。その働きに対し、仲間たちで考え、出来得る限りの形で報いるその姿勢は、人として素晴らしいものであるといえよう。

 

 だが、同時に少々の疑問もあった。

 

「ところで、イビルアイ。確か、小型鳥竜の素材は武具に用いられていた、と訊いているが」

「あの質感は、恐らく中型のドスジャギィだな。恐らくだが、お前たちが戦ったのは西部の、王国領内の個体だろう?ほぼ全員私服であるところを見るに、かなりの手練れだったはずだ」

「そ、そこまでわかるのであるか?」

「中型のドス鳥竜ともなると、群れを率いる関係から危険性が跳ね上がるからな。お前たち銀級の冒険者だけであろうと、小型鳥竜の、特筆すべき能力を持たないジャギィの群れ相手でそこまでの損耗はするまい。となると考えられるのは、それらより数段上の『狗竜』ドスジャギィとの接敵、ということになる」

 

 小型鳥竜の討伐例は豊富でも、中型になると一気に減る。

 これは、アダマンタイト級を始めとする上位冒険者たちの多くは、中型鳥竜が確認されない限りはこれらの依頼が回されないことが最大の原因である。駆け出し冒険者たちは、主に小型鳥竜の討伐依頼などで日銭を稼ぐのだが、時折そこに中型鳥竜が混ざり、死者を出す事態に発展してしまう。対し、確認の報告が上がる頃にはその多くが人里離れた場所まで退散しているなどして緊急性が失せ、上位冒険者たちに回すような依頼ではなくなることが多いのだ。このため、中型鳥竜の討伐に関しては、熟練のワーカーの方が達成しやすいのだ。

 

「中型鳥竜は群れを率いるせいで、私たちも手を焼かされる。それもあって、ドス鳥竜と呼ぶ群れの長たちの討伐例は大型モンスター並に少なくて、その素材もあまり武具に使われないんだ」

「成程。それでか」

「他にも、上質な鉱物を使えたお陰で、より性能を引き出すことが出来たのかもしれませんな」

 

 その言葉と共に現れたのは、大工房のオーナーを務めるセバス。

 

「しっかりと完成したようで、何よりです」

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ。話は変わるのですが、皆様の損傷した武具の方を、本店で取り扱っている武具と交換させていただいてもよろしいでしょうか?修理を依頼されていたようですが、あれでは直すよりその方が安く、且つ早いでしょう」

「ですが、私たちは今、彼女の装備の刷新でお金が………」

「存じ上げております。ですので、交換という形を取らせていただきたく思っております」

 

 躊躇い気味の五人と一人の傍らで、モモンガが助け船を出す。

 

「もし余っているのなら、の話だが、鳥竜の皮や牙を売ってはどうだ?」

「成程。鳥竜の皮は皮紙の、牙は弾薬の素材として、需要が高いものですな」

「っ!………どうしましょう?」

 

 その手があった!とペテルが頷き、仲間たちと顔を合わせる。

 

「一択である。幸い、どちらもまだそれなりに残っているのである」

「だな。流石に、これ以上便宜を図って貰うのはちょっと心が痛いぜ」

「ボクも結構あるんで、それを買い取って貰いましょう」

 

 と、真剣な会話が繰り広げられる一方、双子忍者がセバスへと、帝国から貰ったリストを片手に話しかける。性的な好みから外れることもあり、割とぞんざいな対応であるが、セバスは大人の対応でそれを受け流し、リストを受け取る。それを流し読みしてから、セバスは展示されているサンプル品を手で示した。

 

「それでは、先にどの武器種にするかを決めて頂ければと」

「わかった」

「どれがいいんだろ………」

 

 軽い調子の二人がそこを離れる中、ツアレとルクルット・ボルブを除いた『漆黒の剣』の面々は売却できる鳥竜素材を宿から持ち出すべく、一度大工房を離れる。その姿を見送り、王国では名の知れたワーカー、ペシュリアンは手持ち無沙汰に店内を回ることを選んだ様子。仮にも、王国北部では特に高い知名度を有するワーカーであるからか、財布には余裕があるようだ。

 

「………あれ、いいわね」

「ラキュース?」

 

 その一方、ラキュースの目が怪しい光を宿し、改めて銃槍をまじまじと見つめる。

 

 かつての時間を思い出し………懐かしむ程度に留め、不死者の王は顔を上げる。

 

(さて、あの忍者たちはどんな装備を選ぶのかな~、っと)

「セバスの旦那ぁ!色々弄ってたら、なんかまた面白………とんでもないのが出来ちまった!」

「む!?」

「おお!」

 

 驚愕、感嘆と、それぞれが異なる感情と共に、工房内の一点に視線を向けた。

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