《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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その後―――
ATF.01―課題探しと


 広大な空を、船が進む。

 

「ひぇぇ………ッ」

「マジか………マジでこれで行くのか………!」

 

 戦々恐々、といった様子の冒険者たちが、船から下の大地を見下ろす。

 

「し、試験飛行、って話だけど………マジかぁ」

「多少のリスクを冒さねば、何も試せませんので」

 

 彼らが向かう先は、王都リ・エスティーゼ王国北東―――険しい山々の存在するエリアである。

 近隣に農村一つないその場所は、法国、並びに若き日のランポッサ王らの共同による、死力を尽くしての調査の甲斐あり、生息モンスターがほぼ判明してこそいるが、立ち入ることを固く禁じられ続けてきた場でもあった。武具の水準が大幅に向上したとはいえ、長年の恐怖には打ち勝てず、尻込みする者も多い。

 

「それに、ここはまだ既知に近い領域です。アーグランド評議国への道程より、まだ安全では?」

 

 試験を行うのは、三隻の飛行船。同乗している者は、伝えてこそいないが、評議国行きの調査、試験飛行への参加が内定している者たちでもある。戦力としての参加から、あくまで経験を積ませるため補助として参加させる者まで幅広く載せているが、この調子では、と一部のメイドが内心嘆く。

 

 ここで求められるのは、未知を恐れる者ではなく、恐れて尚、奮起できる者なのだから。

 

「ワクワクするけど、やっぱちょっと怖いな」

「そんなもんでいいんだよ、坊主ども。怖い、ってのを忘れちまった時が、一番危ねぇんだ」

 

 比較的若い、低ランク冒険者たちの会話に割り込む、モンスターの入れ墨をした巨漢。恐ろしい風貌ではあるが、王国中部から北部域を主として活動するベテラン、名をゼロというワーカーは、グランセルという危険地帯と隣接し、また水棲モンスターも多い北部で活動していたこともあり、その恐ろしさはよく知っていた。

 

 そして、恐怖に慣れ、それを忘れた頃の。新人から中堅に上がる、といった頃合いの者たち程、その死亡率が高いことをよく知っていた。目の前で死んでいく、或いは一時肩を並べた後進たちがいつの間にか死んでいた、というのを、嫌という程に経験してきたからこその、言葉の重みだった。

 

「………う、うす」

「ま、深追いのしようがない空なら、その心配もねぇだろうがな」

 

 双角を有する竜を彫り込んだスキンヘッドをかき、男は空を見やり

 

「………チッ!」

 

 盛大に、舌打ち。続けて、緊急事態を告げる鐘がけたたましく鳴り響く。

 

「右舷、バリスタ準備!―――――火竜が来た!」

「左の二隻に散開指示!アレの相手は我々がします!」

 

 空の王者―――その異名を有する飛竜は、かつてから恐怖の象徴であった。

 先の防衛戦に参加した者たちであろうと、その認識は変わらない。中型鳥竜をやや上回る体躯を持つ草食種、アプトノスの成体すら軽々運べるほど高い、飛竜種の中でも突出した飛行能力を有し。高位の炎魔法を超える大火力を平然と放つ上、地上でその体躯を支える両脚の爪には、猛毒を宿す。果ては、アダマンタイトでさえ深い傷を穿つことが難しい程の、強靭な鱗まで持つのだから、手に負えない。

 

「引き付けて、引き付けて………閃光弾、撃ぇぇッ!」

 

 そんな王者を撃墜するのは、南方の森で確たる勢力を築いた賢者の叡智。

 光蟲、と呼ばれる虫を宿した特殊弾頭を放ち次第、一部を除く者たちが目を覆う。次の瞬間には閃光が炸裂し、対閃光用の特殊装備を身に着けていた者たちがその発動を報告。続けて、飛竜の悲鳴が木霊し、目を庇っていた者たちは、赤い飛竜が遥か低空まで落下していくのを視認する。

 

「レウスが………マジかよ」

「油断しないで!」

 

 恐るべき飛竜の墜落に驚嘆するも、油断が許されることはない。

 空の王者は程なくして立て直し、敵意を強め空を、縄張りに浮かぶ謎の物体を睨み上げる。空の如き蒼い瞳に凄烈な敵意と殺意を宿した飛竜は、雄々しい咆哮と共に力強く羽搏き、一気に高度を上げる。空の王者の異名に違わぬ飛行能力を前に、飛行船で逃げ切るのは至難の業だ。

 

「速………っ、クソが!」

「弾を切り替えて、迎撃準備!」

「戦わねぇのはさっさと逃げな!」

 

 飛来する火竜のブレスは、竜王国の技術の粋を集めた飛行船を破壊することは出来ないが、着弾の衝撃は船体を激しく揺らし、不慣れな者たちにたたらを踏ませる。バリスタに着いていた者たちはそれにしがみつきやり過ごせたが、そうでない者にはすっかり怯えてしまった者もおり、船上は混沌とした様相を呈している。

 

「落ち、落ちる!?落ちちまうッ!」

「しっかり掴まってろ!第一、そんなことは最初っから言われてんだろ!」

 

 怯える者の大部分は、比較的低ランクの冒険者。白金級以上の者たちは、改めてこの船旅の危険を再確認し、噛み締め、その上で現状打破のために動く。停滞こそが、最も危険であると知る者たちは、攻撃が届かぬ者はバリスタを使う、或いはバリスタに着く者のカバーの為に動き、遠距離武器を持つ者はそれを広げ、飛来する火竜を睨み返す。

 

「わ、私たちに、出来ることはありませんか!?」

「『漆黒の剣』か。なら、お前と金髪の嬢ちゃんは盾構えろ!そっちの二人は攻撃に専念で、デカいのは何かあったらすぐ回復魔法だ!お前ら二人は死なねぇことを第一に!いいな!」

 

 『クラルグラ』の長が指示を飛ばし、弓へとビンを叩き込む。

 

「使える奴は麻痺毒を使え!空から叩き落すぞ!」

 

 鏃に塗布されるのは麻痺毒、体の自由を奪う毒であり、閃光と違い空で立て直すのも難しいだろうことから、確実に仕留めることを選んだのだ。力強く弦を引き絞り、解き放つ矢は横に拡散し、接近中のリオレウスへと数本が突き刺さる。続けて、その有用性、特殊ながら容易な大量生産法の発見から、広く流通するようになった《麻痺(パラライズ)》の巻物(スクロール)を用いた魔法が放たれ、火竜を襲う―――――

 

「キシャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

「ッ、ギュアアアアアアアッ!!!!」

「っ、マジかよ!」

「ライゼクス!?」

 

 『電の反逆者』―――『電竜』ライゼクス。火竜に匹敵する飛行能力と、それを上回る凶暴性を有する飛竜。地上ではその強靭な翼を用いた格闘戦を仕掛けてくる上、並の魔法を超える電気攻撃を放つ、飛竜の中でも上位に食い込む危険生物は、どうやら飛行船より火竜を優先すべき敵と見做してくれた様子。

 

「今のうちに離脱します!10秒後、一気に飛ばして!」

「全員、船内に退避!さもなくば、落ちて死にますよ!」

 

 伝声管を通じて、操舵室に指示が届く。複数の魔法を組み込んだマジックアイテムを追加で組み込むことで、出力を劇的に向上。大きく発展を遂げた推進器を、出力最大で稼働させる。拠点側の防衛に際し、機動力の不足から撃墜された反省を生かした代物であるが………

 

「うぉわあああああああ!?!?!」

「ぐ………ッ!」

 

 船内から響く悲鳴は、急加速に踏ん張り切れず転がった者たちのもので。

 噛み殺すような苦悶は、慣れているから、と外部の確認の為残ったメイドたちのもの。翔蟲の糸を採取、加工した丈夫なロープを用いて強引に踏み止まるが、その衝撃には思わず息が詰まる。出力を落とさせる、或いは搭載数を減らさせよう、と数名のメイドの意思が一つになる中、同時に油断なく後方を注視していた者たちは、二体の竜の注意が完全にこちらから逸れたことを確認。

 

「はぁー………大丈夫です。二体とも、空で取っ組み合っててこっちを気にしてません」

 

 グロッキー気味の報告が操舵室に届けば、緊急時の備えとして乗っていたナーベラルが指示。

 

「出力を落としてください。それと、今後安全の観点から、最大出力での運用は控えましょう」

「「「「「異議なし」」」」」

 

 船内の惨状を想像し、頭痛を覚えるナーベラルだが、やるべきことはまだ山積みだ。

 

「予定の航行ルートに戻ります。場所は―――――」

「それなら、ここがいいかと」

「いえ、そこだと―――――」

 

 複数の意見を取り入れ、より確実に合流を果たすべく、待機地点を決める。

 飛行船がゆっくりと動き始める中、内部に避難した者たちは―――

 

「うぇっぷ………きっつ」

「吐くなら余所で頼むぞ?マジで」

「ふぅー………ちょいと風に当たってくるわ」

 

 先程ので船酔いした者たちは、それぞれ助け合いながら立ち上がり

 

「リオレウスのブレスに、耐えてたな」

「ああ。すげぇわ、こいつは」

「ライゼクスの乱入もあったとはいえ、逃げきれた訳だしな………各国が推す訳だ」

 

 冷静さを取り戻し、船の強度を評価する者。事実、砂上船という、ちょっとした移動要塞を小型化して浮かべているのだから、その強度は折り紙付き。更には、ナザリックが有していたリアルの世界の、この世界と異なり魔法が存在しない分、科学技術が発展した世界の知識が齎されたことで、劇的な変化を遂げているのだ。

 洗えば改善点も多く発見されるだろうが、優れていることに違いは無いのだ。

 

「逃げるにしても迎え撃つにしても、手間取るのが問題か」

「バリスタの扱いなんか、特に重点的に周知しておく必要がありそうだな」

「あとは、あのアホみたいな加速への対処か」

「あれはダメだ、これだけは直談判するぞ」

「「「「異議なし!」」」」

 

 またある者たちは、顔を突き合わせ、現状の問題と、自分たちに出来得る解決策を模索する。

 それぞれの振る舞いに、ナザリック側の採点役であるメイドたちが密かに評価を下し、本番での選出に向けて動き始める。傾向としては、やはり過酷な経験をより多く積んだ上位等級の冒険者やワーカーの方が好ましい者が多く、逆に王国外の、金級以上上位等級未満の者ほど、半端な慣れが祟ってか、好ましくない反応の者が多い。

 

 これは、やはり場数がモノを言うのだろう。上位等級冒険者ともなれば、大型飛竜相手の撃退戦や時間稼ぎの経験も出てくるため、常識外れや理解の埒外への耐性もつく。対し、その域には到達していないが、程々に経験を積んだ、程度の者は、常識外れや理解の埒外との遭遇も少なく、実感が薄いのだ。

 

 だから、知識と現実のギャップにやられる。ここで対応できなかった者たちが、死んでいく。

 

「やはり、大型のモンスターは恐ろしいですね………」

「だが、ここにはあの街以上の設備がある。なにも出来ねぇ、ってことが無いのはいいことだ」

 

 そして、王国の冒険者、ワーカー。砦蟹の討伐戦に参加した者も多く、常識も何も、既に無意味と化している者が多い。中でも、エ・ランテルを中心に活動していた者は、錆鋼龍の接近による異常気象から恐暴竜の襲撃まで、嫌という程異常な事態を味わっている分、肝の据わり方が段違いなのだ。

 

「本番は寒冷地、ってなると、もっとおっかねぇんだろうなぁ………」

「グランセルは実際おっかねぇぞ?浅いところでも、ポポの群れに白いのが混じってたり………」

 

 北部での活動経験があるワーカーの語りに、南部の若手たちが戦々恐々、熟練も冷や汗を零す。

 

「………思っていた以上に、タフですね」

「けど、タフなだけではダメね。そこも含めて、しっかり見極めないと」

 

 そんな彼らの中から、評議国行きの試験飛行本番………つまり、最も身近な未知へと飛び込む者の選定を行うメイドたちは、それらの細かな会話からそれぞれの意欲を探り、加点減点を続ける。司銀龍の存在から調査が難しい地であることもあり、単純な実力、意欲も大事であるが、不測の事態への対応力もまた強く求められるのだ。

 

「二人ともー!そろそろ外に出るわよー!」

「「はーい!」」

 

 そんな彼女たちは、同時に飛行船の運行に携わる者でもある。

 採点も程々に切り上げ、甲板からの周囲確認を始めとする諸業務に移るべく、武器を背負い駆け出していく。古龍の脅威が失せた今、飛竜たちも再び活動を始めており、油断もしていられない状況にある為、武装メイド―――戦闘メイド『プレアデス』に次ぐ立場として、便宜的に名付けられた―――たちは、油断なく甲板から外部を注視する。

 

 その様子を知らぬ者の一人は、彼らが何れ至るべき極寒の地にて白い吐息を零す。

 

「―――――ソロソロ、テスト空域ニ到達シテイル頃デショウカ」

「心配か?」

 

 アーグランド評議国、南西部―――グランセルから離れた場所を、モモンガとコキュートス含む少人数が探索している。これは、飛行船の移動ルートを決定する為の予備調査であり、同時にグランセルを離れたエリアの生態系調査も兼ねている。寒冷環境に強いコキュートスに、メイドから数名と現地の実力者数名など、かなり本格的なメンバーとなっている。

 

「少々。無論、彼女タチガ弱イ、ナドト侮ル気ハゴザイマセヌガ」

「それくらいわかっているさ。それに、心配すること自体は、悪いことじゃないぞ」

 

 穏やかな天候の中、辺境三大危険地帯を離れた領域を、事細かに調査する一行の進みは、非常にゆったりとしている。現地の実力者と共にモモンガ、コキュートスが周囲を警戒し、その間にメイドたちが周辺地形を詳細にメモする。グランセルを迂回する都合、この一帯が飛行船の通行エリアとなることがほぼ確実であるため、その分念入りに調べ、情報を纏めているのだ。

 

「あれ?この果実はなんでしょう?」

「それは知らないな………だが、なんだ?食い荒されているな」

「このサイズでこの食い荒し方なら虫だろうが………ふむ?」

 

 メイドの一人がとある小さな果実に気付き、それを取る。それを見せられた、評議国のゴブリンが首を傾げ、他の者たちに意見を求める。その中で、比較的無事な果実を一つ採取したメイドは、モモンガへと駆け寄り、それを手渡す。手渡された果実を魔法で調べたモモンガは、そのあまりに簡素な名に苦笑を零す。

 

「龍殺しの実って、そのまんまだな………」

「………ヴァイシオン様が来られなくて正解でしたね」

 

 評議国有数の実力者、竜騎士が苦笑交じりに零し、他の評議国の者も同意を示す。

 

「そちらは持ち帰り、モモンガ殿らの側で調べていただきたい」

「承知した。ドラゴンからすれば、そもそも近寄りたくない代物だろうからな」

 

 と、他の無事な実をメイドたちが回収する中で、モモンガは竜皮紙とでも言うべき、鳥竜の皮を加工した皮紙を取り出し、龍殺しの実を置く。そのまま、皮紙で包み込むようにして身を潰し、少ししてからもう一度開く。そこにあるのは、特に汚れのない、見たことのない魔法を記した巻物(スクロール)

 

「一応、出来るのか………」

 

 森の賢王らが発見した、全く新しく、簡単な作成手法。その成功に、確かな喜びが胸を満たす。

 

「もう少し調査を続けてくれ。もしかしたら、他にも同じ実があるかもしれん」

「はい!」

 

 新たな魔法ということで、数を確保するに越したことはない。

 その判断の下、寒冷地体の調査は一時の小休止を見せた。







巻物(スクロール)

森の賢王が新たに発見した、簡単且つ手軽な作成手法により、一部がより安価で流通可能に。

鳥竜種の皮を加工した竜皮紙に、様々な素材を組み合わせる、ボウガンの弾に近い形で一部魔法を宿した巻物を作成。低位階、特に第三位階までならば手軽に作成できる為、一部に限るが、従来より安価で購入可能に。また、現状あまり有効ではないが、アイテム使用強化のスキル対象となっている。
駆け出しならば戦力強化、それ以外は不足の穴埋めとして使うのがベター。

反面、ユグドラシルの製法と比べバラエティに欠ける他、高位階の、特に属性攻撃魔法を込めた物を作ろうとすれば、必要となる素材も相応のランクものとなる。また、竜皮紙の作成には特殊な技術を用いる為、皮紙自体を購入以外で作成するのは困難。


例として、回復魔法の場合、低位階は薬草、回復薬ベースで済むが、高位階のものとなると秘薬、いにしえの秘薬等を要求される。また、回復笛や生命の粉、粉塵、大粉塵等を用いれば、範囲回復魔法を宿すことも可能。
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