《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.02―北国にて

 粉雪が舞う中を、二種のモンスター混成による一団が進む。

 

「巨獣が混ざっている。不用意に近づくなよ」

 

 非常に大きな、反り返った牙を持つ大型の草食種モンスター、ポポの群れ。暗い体毛を持つ草食種の群れに、純白の毛並みを持つモンスターが混ざっているのを確認し、評議国のオーガが手で制す。やや遅れて、見上げるような巨躯を有する牙獣種モンスターが現れ、モモンガらの度肝を抜く。

 

「でっ、か………!」

「『巨獣』ガムートです。縄張り意識が強い奴でして………急いで離れましょう」

 

 象、或いはマンモスを思わせる巨大牙獣、ガムート。寒冷地に生息するモンスターの中でも指折りの巨躯を有するモンスターであり、その気性の荒さを知る評議国の者たちに促され、認識されないよう、急ぎその場を離れる。寒冷地に生息する、草食モンスターということもあり、その縄張り意識が強いガムートは、評議国内でもよく知られる危険なモンスターだ。

 

「一目デ、危険ト判リマスナ」

「事実、飢えた奴らはおっかないぞ。酷いときは、村一つ食い散らかされる」

「ぇ、あのモンスター、まさか」

「木造家屋だけだと、本当に何も残らん」

「あ、そっちか」

 

 北地の恐ろしさを実感するモモンガたちは、南へ南へと歩を進めている。

 

「しかし、飛竜の影があまりないんだな」

「元々、確認されている飛竜も、あまり飛行が得意という訳ではありませんからね」

 

 と、竜騎士が評議国内で流通する小冊子を手渡し、モモンガに読むよう促す。

 

「ふむ」

 

 マジックアイテムの翻訳を使うことなく、モンスター名に目を通す。何度も何度も目の当たりにしたおかげで、文章となると流石に難しいが、名前くらいならば翻訳抜きでも読めるようになっている。加えて、悪筆や欠損による誤読を避ける為、モンスターごとのアイコンが存在しているのも、こういう時には役に立つ。

 

「………ティガレックスに近い骨格の飛竜が多いんだな」

「ええ。そのタイプは得てして、飛行能力より地上での運動能力が高いんです」

 

 空を見上げれば、成程。確かに、飛行するモンスターの姿は殆ど見られない。

 そういった意味では、空路は大分安全にも思える。

 

「もうすぐ海氷域に着くぞ。あそこは下も安心できねぇから、気を付けな」

「いや、そろそろ撤収しよう。空路の下見という意味であれば、ここまでで十分だろう」

 

 そう口にして、すっかり凍り付いた海岸から先へと赤い瞳を向ける。

 

「それに、白海竜を倒したという、暴鋸竜とやらも怖いからな」

「『双界の覇者』では、『三界の帝王』相手は荷が重すぎますね………」

 

 空陸海を制するとすら評されるほどの、場所を選ばぬ運動能力に加え、竜殺しの力を有することから、ドラゴンの大敵でもあるモンスター。内陸深くまで現れることは皆無だが、その実力は広く知られており、ガムート諸共ポポの群れを喰らい尽くしたという古い記録まで残っている程だ。

 そして、最も恐ろしいのは、暴鋸竜自身が海岸部に陣取っているだけで、別に内陸域での活動に不自由がある訳ではないということ。流石に土や岩盤を潜航できるだけの能力は有していないが、空陸での活動能力の高さだけでも十分過ぎる程に凶悪。更には、その凶暴さも併せ、海岸域に近い地では猛烈に警戒されているモンスターでもある。

 

「承知しました、と言いたいところですが、空路の選定には情報が不足しているのでは?」

「いや、今回調べたルートでいいだろう。地理的条件も悪くはない筈だ」

 

 メイドたちの地図作成が終わり次第、転移魔法により一行は評議国内の都市へと戻る。

 粉雪が舞い、分厚い防寒着を纏う亜人たちが闊歩する首都『ドラゴンブレス』。個人の領有地ではなく、国家に帰属する土地であり、その規模はスヴェリアー=マイロンシルク領の最大都市『ドラゴンハート』と並ぶ。近頃はモンスター被害が一時落ち着いていたお陰で、随分と活気が戻っている。

 

「では、我々はこれで」

「今回は助かった。それと、これを」

 

 作成された地図の写しを渡し、現地の者たちと別れるモモンガ一行。

 その行先は、今後に関する調整を行うべき相手の集う場所―――――評議会だ。

 

(現状、確認中の諸事項は―――――)

 

 打ち合わせに向け、脳内で一通り情報を整理したモモンガは、意を決して評議会へ。

 亜人種それぞれから選出された評議員たちと、最高戦力たる永久評議員たち五名。かつて、極寒と化した大地で滅びに瀕した者たちが、手を取り合い生存圏を確立した国ということもあり、種族間の結びつきは強固そのもの。その筆頭たる彼らは、種族の代表であると同時に、一つの国として纏まった者たちすべての命を預かる身でもあるのだ。

 

「よく来てくれたね、モモンガ」

「………そちらこそ。まさかとは思うが、待っていてくれたのか?」

 

 勢揃いの亜人とドラゴンたちに、思わずそう零せば、ツアーが柔和に笑う。

 

「キミたちが起こし得る変化には、それだけの価値がある、ということさ」

「ああ。漸く外部と繋がりを持てるとなると、私も感慨深いよ」

 

 スヴェリアーの言葉は、この国の大黒柱であることもあり、特に重みを感じさせるもの。

 

「元より、我らは気軽に動けぬ身の上故な。加えて、他国との往来が転移以外で叶うのであれば、それは民の命を預かる身としても、一個人としても嬉しい限りだ。外の物は、我らにとってもよい刺激となる」

「そう、特に貴殿らが持ち込んだバリスタとやら。あれはいいな」

 

 古龍の監視対象以上に、大柄且つ国家の最大戦力である故、動けぬ竜王の言葉に続き、モモンガたちが格安で販売という形で供与したバリスタを絶賛するのは、ゴブリンの評議員。人間よりは強いといえ、小柄故に戦闘であまり役に立てぬ彼らからすれば、固定兵装ながら高い威力を有するバリスタは、非常にありがたい物なのだ。

 

「それはよかった。今、他にも様々な発明が続いているんだ、期待していて欲しい」

「それはまた、興味深いな」

 

 四肢も翼もないワーム・ドラゴンの竜王、ザラジルカリア=ナーヘイウントが目を輝かせれば、他の評議員たちから若干の苦笑が零れる。生来の肉体への反抗心から、ツアーたち同様に遠隔操作可能な鎧を生み出すまでに至った真なる竜王は、長く四肢を持たなかった反動かそういった物に目が無い様子で、初対面でもわかるであろう程に声を弾ませている。

 

「いずれは、そちらに行きたいものだが」

「私はいつでも歓迎するさ」

「まずは、領内がある程度安定してから、ですがね」

「そこが一番の問題よなぁ」

 

 金剛石の如き美しいドラゴンと、黒曜石に似た輝きを有するドラゴンとが目を伏せ、嘆息。

 永久評議員の地位にある真なる竜王たちは、等しく国内に領地を有する。これは、そのまま彼らが庇護すべき領域であり、故にこそ永久評議員の行動には、相応の重責が付きまとう。ツアーの処分が重くなった原因の一つであり、それだけ重大な立場である証左でもある。

 

「そこは、私たちの尽力次第だろう」

「同時に、我々次第でもある、と。重責だな」

「君たちならば大丈夫さ」

 

 静かに笑い合うツアーとモモンガだが、すぐに本題へと戻る。

 

「さて、それで空路開拓の件に関してだが」

「我が領『ドラゴンハート』の港だが、我らなりに、と前置きする必要はあるが、設備も相応の物を用意したつもりだ。余裕があるようであれば、軽くでも目を通して貰いたい。受け入れるからには、最善を尽くしたいのだ」

「承知した。では、この会議が終わってから、回らせて貰おう」

「感謝する」

 

 評議国の柱たる竜王、スヴェリアーが頷けば、そこからは各種族の評議員たちとの調整に入る。

 

 調整は滞りなく進み、陽が落ちる前には終了の運びとなる。

 終わり次第、モモンガたち一行は、スヴェリアー直轄の都市『ドラゴンハート』へと転移した。

 

 

 身震いと共に、ドラゴンが起き上がる。

 その身に纏う、深い青色のクリスタルを振り落とし、大きく翼を広げ、大地から飛び立つのだ。

 

「………!」

 

 冰龍の飛翔を、広くグランセル氷原を監視していたニグレドが視認する。

 

「アルベド、急ぎの報告よ―――冰龍が飛び去った」

『なんですって!?』

「追跡するから、詳しくは後で報せる」

 

 淡々と告げ次第、報告を切り上げ、使える全ての手段を使う。

 情報系特化の彼女ならば、かつての銀龍のような瞬間的な超加速でもされない限り、追跡自体は可能。事実、彼女は天翔ける冰龍をしっかりと追跡しており、高位階情報系魔法を惜しみなく行使しているお陰で、ただの転移魔法程度で振り切られることなく―――高位階の、情報系の魔法を使える者が少ないためか、そちらの警戒は薄いらしい―――その行先まで特定していた。

 

「―――――な、ん………!?」

 

 まず目に飛び込むのは、超巨大という他ない水晶のような結晶体の数々。淡い虹色に輝くそれらも衝撃的であるが、その下に広がる光景もまた衝撃的の一言。森林、砂漠に近い荒地、謎の黄色いガスに包まれた地底への道から、灼熱の溶岩が見える洞窟、粉雪が散る極寒地帯と、まずありえないような、異様な光景が狭い領域に広がっているのだ。ナザリック内のように、複数層に別れるでもなければ、何かしらのギルド拠点型ダンジョンであったような名残も見られない、異様という他ない土地だった。

 

「一体、何が………っ、しまった!」

 

 そして、驚愕している間に、何故か魔法的な追跡が効果を発揮しなくなり、冰龍を見失う。

 どうすることも出来ず、追跡を断念したニグレドは開き直り、未知の土地の調査を選択。

 

(まずは、あの巨大結晶体を)

 

 シャルティアがいれば、宿る絶大なエネルギーを感知していただろう。その超巨大結晶体の正体とは、即ち古龍の生体エネルギーの凝縮した姿。龍脈炭より更に高純度な『龍結晶』は、この『聖域』の地での熾烈極まる生存競争の果てに、或いはこの世界に招来された龍たちが命を終えたことで大地に還った力の一端。

 

 それが満ちるこの大地に生きる者たちは、実に恐ろしい。

 

「………うそ、でしょう………」

 

 個々が、リ・エスティーゼの肥沃な大地ですら滅多に見られぬ程に、精強に育っている。

 エイヴァーシャー、ローブル、グランセルの三大危険地帯でも上位に位置するレベルの存在が、悠然と闊歩する地獄。龍結晶という形で凝縮される過程で流出するエネルギーが、モンスターたちをより強靭に育て上げるこの大地こそ、イビルアイが恐れ慄き、スレインがその動向を強く睨む『歴戦王』たちの故郷。

 

 それこそが、世界の変化の元凶の一角、『古龍の王』が座す、聖域なのだ。

 

「すこ、少しでも、情報を………!」

 

 メモを用意し、手あたり次第に情報を書き殴る。豊かな水源、瑞々しい森林、荒涼たる大地に、灼熱の溶岩地帯、薄氷舞う極寒地帯、険しい峻嶮地帯。それらと共に乱立する龍結晶の中に、一際小高い、山のように連なり、先端が赫く染まっている結晶があることに気付いたニグレドは、俯瞰視点での調査の為の高度より数倍高いそこを探るべく、視点を上げる。

 

(この赤色、どこかで………いえ、そんなまさか)

「―――――ッ!?!?!」

 

 己の心配を杞憂だと、力なく笑い飛ばしたニグレドは、目の当たりにする。

 

「あの、時の………!」

「姉さん!」

 

 完全武装のアルベド、ルベドが転がり込むが、ニグレドは構わず手元の皮紙に筆を走らせる。

 

(銀色、特徴的な翼、フォルム………間違いない、あの時の!)

 

 大柄なアプトノスの肉を貪り喰らう、銀翼の古龍。彼女たちしか知らない、謎の存在。

 

(肉食?それに、あの大型モンスターがいるということは………ここまで持ち運んだの!?)

「姉さん、そいつは」

「後にして」

 

 可能な限り、視覚的に判る情報を集めている内に、食事を終えた銀龍が飛翔する。文字通り一瞬のうちにトップスピードになった歴戦王古龍は、ニグレドの全能力を賭した追跡すら間に合わぬ程の速度で飛翔し、姿を消した。流石のルベドも、その瞬間的な加速能力には言葉を失い、ニグレドが操作していた魔鏡を呆然と見つめている。

 

「………逃がした。けど、少しは情報が増えたわね」

 

 そう口にして、ニグレドは飛翔した影より剥離、落下した物を追う。地上に到達と共に、盛大に土砂を撒き上げたソレに、背後の二人が身構える。少ししてから、憤怒の咆哮と共に落下物が殴り飛ばされ、どことなく見覚えがあるような顔のモンスターが怒り狂い、空へと吼え叫ぶ。

 

「「「………ゴーレム?」」」

 

 この辺境に到来していない牙獣種モンスターは、見るも無残に変わり果てた花畑の只中、悲壮を感じさせる憤怒と怨嗟の咆哮を轟かせる。だが、彼女たちが目を見張ったのは、『剛纏獣』ガランゴルムの足元で忙しなく動き回る、小さな影。アウラとマーレどころか、エクレア並に小さな存在だが、真に驚くべきはそこではなく

 

「獣人!?」

「ナザリックにはいない種族ね………接触してみたいところ、だけど」

 

 荒々しい咆哮と共に現れるのは、剛纏獣の咆哮で気分を害したらしき轟竜。彼の牙獣の住処を、彼にとって気分の安らぐ花畑を作り上げた可愛らしい獣人を害さんとする外敵に対し、聖域南方に広がる領域の一つ、花畑の主は、欠片も容赦をしない。

 

「グッ、ルアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 力強く、それでいて足元の獣人を蹴散らさぬよう飛び出した牙獣の剛腕は、たった一撃で轟竜の頭蓋を破砕し、命を刈り取る。そこから続く執拗な攻撃は、その重殻を呆気なく破壊し、肉を潰し、骨を砕き、その身を原形を留めぬ程に損壊。その光景を目の当たりにした三人は、心を一つにして

 

「………もうしばらく、様子を見た方がいいでしょうね」

「賛成ね。あのモンスターもよくわからないし」

「けど、存外心優しい………の、かも」

 

 川へと轟竜だった肉塊を投げ捨てる獣人と、彼らと共に荒れ果てた花畑をどうにかしようと奮闘する大型モンスターとを見比べ、ルベドがそう零す。外部の、一定の知性が期待できる存在を発見したものの、場所が場所だけに、前途は多難である。







・永久評議員の領地

彼らに富を約束する地であると同時に、彼らがその戦力を以て庇護すべき土地。
そのうち、マイロンシルク領は首都共々国中央部に位置、最優先防衛対象となっている。


・『ドラゴンハート』

スヴェリアー=マイロンシルクの領地最大の都市であり、首都『ドラゴンブレス』に並ぶ都市。
国内唯一にして最大規模の農業地帯の中心地であり、評議国の商業の中心でもある。

現在、飛行船の受け入れに向け、港を建造中。





・『聖域』

グランセルを発った冰龍を追い、発見した大地。或いは、もう一つの地獄。
特大龍結晶の乱立したエリアを中心に、多種多様な環境を内包したエリアが広がることで、それぞれの環境に応じた生態系を構築。更に、中心地へと収束する地脈エネルギーの余波により、生息するモンスター全員が、辺境三大危険地帯の上位陣クラスという地獄。転移魔法を使える域に無ければ、踏み入ったが最後二度と出られぬ死の土地。


北には大砂漠と繋がる荒地が、南方との境には寒冷地、花畑等が広がる。
また、この地の深淵には、世界の変化に大きく関与した『王』が座している。
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