《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.03―北国の窮地

 緊急会議―――――ニグレドの招集に、ナザリック全体が応じ、集まっていた。

 

「まず、冰龍がグランセルを離れました」

 

 成程、緊急事態だ。皆が理解し、表情を険しく変える。

 

「となると、司銀龍による襲撃が発生するか」

「恐ラクハ。心ナシカ、寒気ガ和ライダト感ジタノハ、ソレガ原因ダッタヨウデスナ」

「搭載装備を見直しましょう。それと、輸送する品目も」

「………そちらも重要ですが、冰龍を追跡したところ、更に重大な発見がありました」

 

 ニグレドが使える限りの情報対策魔法を用い、先日発見した地を映し出す。

 

『………っ』

「なぁ!?」

「そんな馬鹿な!?」

 

 あまりに異様な光景―――だが、生命に鋭敏なアンデッドたちは、別の意味で愕然となる。

 

「あの結晶………いや、この土地全域に!」

「このエネルギー量は、一体………土地そのものが生きている、とは違うのだろうが、これは」

 

 大地を満たす、莫大なエネルギー。その恩恵を十全に受け取り生きる、聖域のモンスターたち。

 視認できる限りでも、恐ろしい程に精強な個体が揃う領域に、誰もが息を飲んだ。

 

「………地獄?」

「酷いレベルで釣り合いが取れている、のだろうな」

 

 モンスターたちの激突一つで見ても、かなり違う。単純な力押しではなく、時に感嘆の息が出る程に高度な身体技術を交えた戦闘であり、それだけ知能が発達していることを示唆する。そして、それだけならばまだしも、更に看過できぬ技術まで用いているのが、この地のモンスター。

 

「………今、傷が治ったわね」

「回復魔法………まさかとは思いますが」

 

 モンスターが、魔法を使う………ユグドラシルでは普通にあったことだ。

 

 だというのに、絶望感が凄まじい。

 

「はっはっはっはっは………あ、抑制された」

(いや、傷の程度から見て、恐らくそこまで高位階じゃないしな)

 

 冷静な思考で一旦落ち着き、ニグレドへと目を向ける。

 

「確かに、これは重大な発見だ。詳細な立地は判るか?」

「いえ、これ以上に重大な報告があるので、先にそちらを」

 

 と、彼女が映像を操作し―――誰もが立ち上がった。

 

「そんな馬鹿な!」

「あの地獄と同じ場所だろ!?なんでこんな、ちっこいのが生きてんだよ!」

 

 そう、小さな―――黄色いふわふわな毛並みを持つ、可愛らしい獣人たち。

 

「馬鹿な………これ程の知恵を持ちながら、何故こんな危険な場所に!?」

「それだけの益があるのか………はたまた、別の理由か」

 

 映し出されるのは、洞窟での一幕。顔を隠すように毛皮を纏う獣人、ヤマネコに近い特徴を持つ獣人と、物々交換を行う様子が見て取れることから、コミュニケーション能力は十分にあると判る。それが判るからこそ、デミウルゴスは危険を冒すことを理解できず、パンドラは何を以てそれを選択したのか、判断材料の不足に呻く。

 

「この黄色い獣人については、更に驚くべきことがありまして」

 

 ニグレドが続けて映し出したのは、昨日荒れ果てた花畑の一角。

 

「………なっ」

「成程。あれだけ屈強なモンスターと共生できているのなら、あちらの方が安全でしょうね」

 

 屈強にして巨大な牙獣が、静かに寝息を立てる。獣人、ウルキーたちが添えたと思しき花々との対比が、その尋常でない巨躯を物語り、身を隠さず堂々と休眠を取る姿が、その巨躯に見合う実力の持ち主であることを示す。獣人たちが恐れる様子を見せない辺り、相当長い付き合いなのかもしれない。

 

「あのモンスターですが、轟竜を容易く屠るだけの力があります」

「まあ、見るからにゴリッゴリのパワータイプでありんしょうねぇ」

「ちっちゃいの………可愛い、かも」

「先に断っておきますが、ローブルが可愛いレベルの危険地帯ですからね?」

 

 ニグレドが緊急事態として招集をかけた理由が、それだ。

 

「成程。旨味は多いだろうが、リスクも群を抜いて絶大、と」

「………はい」

 

 暫し思案するが、良案も何も浮かびはしない。

 

「これだけ異様であると、未知の龍が関与している可能性もある。調査については、保留だな」

 

 一番は、未知の龍の関与。それ以外にも、位階魔法を使えるモンスターを相手取るのは、現状の彼らでは少々危ういという判断のもとだ。低く見積もっても危険地帯の上位陣に並ぶであろう戦闘力を有する個体ばかりであることも一因で、まだ危険地帯での安全な活動も難しい彼らを送り込むのは、死ねと言うようなものだろう。

 

「当面は監視に留めよ。それと、詳細な立地だが」

「大砂漠の南端より、更に少し先辺りです。周辺ですが、大分離れた場所に幾つか国があります」

「………竜王国に伝えるべきでしょうか?」

「現状は、首脳陣と共有するに留めるべきかと。それに、未確認の問題も幾つか」

 

 ニグレドが視点を上げ、先程口にした国家を一望できる高度まで上げる。

 

「まず、大砂漠の流れ。竜王国から直接となりますと、これに逆らう必要が出ます」

「そうなれば速度も落ち、危険も増える、か」

「付け加えますと、巨大龍たちとの接触事故のリスクが跳ね上がりますね」

 

 彼方の大砂漠が爆ぜ、巨大な、それはそれは巨大な龍が姿を現す。

 

 モモンガが知る霊山龍が可愛く思えるほどに、巨大な峯山龍だった。

 

「………うん、飛行船が運用できるようになってからにしよう。衝突事故じゃ済まされない」

 

 大砂漠の砂流に逆らえば、龍との衝突事故。逆らわねば遠回りと、陸路は無謀だろう。

 

「しかし………よく無事ですね」

「まだ長期的な監視は出来ていませんので、推測となりますが」

 

 無言で促され、ニグレドはごく短い間に実感した事実をもとに立てた推測を述べる。

 

「生存競争が熾烈を極めているので、そもそも生きて出られる個体の方が稀有なのかと」

 

 全員が沈黙する中、聖域の一角で激烈極まる爆発が巻き起こる。桁違いに広い範囲を揺るがす、その極大爆発が巻き起こした煙から飛び出す、全身に白棘を纏う見覚えのある古龍の負傷具合を目の当たりにして、最前線組の顔から表情が消え失せる。かなりの高位階魔法により、丸々消し飛んだ右前脚を再生した古龍は、腹立たしそうに喉を鳴らし、彼方へと飛び去る。

 

 あくまで同種、と頭の片隅で必死に反芻する彼らが、爆発が起きた先へと視線をやり

 

「………砕竜?それにしては、色が………」

 

 立ち去る影が、紺藍と呼ぶには少々異なることに気付き、パンドラが目を細める。

 

「ニグレド、監視は頼みましたよ」

「承知しております」

「それと、くれぐれも深入りはしないように」

「………ハッ」

 

 位階魔法をどの程度習得しているか、ということも警戒対象であるが、万一ニグレドと同レベルの情報系魔法を使えるモンスターが存在しようものなら、それこそ一大事だ。加えると、攻撃魔法にしても通常攻撃とは異なる物、ユグドラシルに無い物が存在する可能性から、警戒してもし足りない、ということはまずない。

 

 そうなると、各国への伝達についても、見直す必要が出るだろう。

 

「とりあえず、あの地については、極秘扱いで首脳陣に通達だな」

 

 極秘扱いなのは、変に不安を煽らないため。大きな節目を迎えつつある現状、尚更だ。

 

「しかし、周辺国家との接触はよろしいのですか?」

「多くのプロジェクトを動かしている今、遠方に手を伸ばす余裕に乏しい。加えて、転移魔法以外の往復手段がない現状、我々だけで接触するより、他国とも情報を共有してからの接触が最善だろう。特に、あちらの状況はさっぱり判らんのだからな」

 

 問題に発展する可能性がある以上、可能な限り出来ることをしておくに越したことはない。

 

「だが、先も言った通り、この件は極秘とする。いいな」

『ハッ!』

 

 特大の危険であるが、幸いにもまだ直接的な影響は無い。

 

 それ故に、彼らは目先の事態への対処を優先事項と定め、各々が浮かべる最善を提示し合う。

 

『――――――』

 

 誰もが魔鏡から目を離した一瞬。映し出される景色が深淵へと変わり、赤き龍の眼が映る。

 今となっては、この広大な大陸のほぼ全てを把握する、歴戦中の歴戦王が、自身の知覚の埒外にある大墳墓の、その内側の一端を視認し、すぐに興味を損なう。かつて、不倶戴天の仇敵と呼ぶに相応しい力を有していた存在への興味があったようだが、既に力を喪失していることに加えて、それ以外に目を見張るようなモノも無いからか、本当に視線を向けただけで、魔法的な接続の主導権を返還する。

 

 本当に一瞬の出来事に、ニグレドは主導権を奪われたことにすら気付けない。

 

「―――では、組合を通じ冰龍の不在と、対古龍の防衛戦の可能性を告知します」

 

 評議国に対し、『冰龍』イヴェルカーナの不在による影響は、大きく二つ。

 寒気の緩和と、競争相手の消失による辿異種『司銀龍』ハルドメルグによる襲撃の発生だ。

 

「大工房では、各種迎撃設備の搭載と、弾薬の準備に人員を回したく思います」

「それと、先の試験で確認された問題点の修正だね。人員の割り振りは任せるよ」

「改修の指揮はデミウルゴス様に一任します。不足があれば、可能な限り早急な連絡を」

「承知しているさ」

 

 辿異種古龍による襲撃発生リスクの激増により、物資支援も含め、幾らか予定を前倒しすることが検討されている。無論、安全第一で、無茶はしないよう念入りに釘は刺したが、過去幾度と繰り返してきたこととはいえ、その戦いが過酷なものであることは疑いようも無い。その負担を軽減できれば、将来的にはより活発な交流も望めるだろうと、彼らも力を入れるのだ。

 

 その交流の先の発展は、ナザリックにとっても莫大な利益となる………というのも一因だが

 

(最初、見捨てようとしてたのが嘘みたいだな………本当に、皆生き生きとして)

 

 モモンガが笑みの気配を零し、少しして首を横に振り、思考を切り替える。

 

(さて、評議国はこれまでどう凌いできたのか………ある意味、一番の注目だな)

 

 辿異種古龍のポテンシャルは、嫌という程見せつけられた。

 であるならば、それを凌ぎ続けてきた評議国への期待も高まる、というものだ。

 

「何にせよ、まずは―――――」

 

 

 アーグランド評議国、南方領のとある都市―――――

 

「ッ!」

 

 真なる竜王が目を開き、魔法により戦場となるその地へと転移する。

 時を同じくして、地面を覆う石畳が音をたて揺れ動き、まるで水面のように波打つ。

 

「逃げろ―――ッ!」

 

 流体金属が浸透し、液状化した大地を突き破り、強大なる龍が姿を現す。

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」

 

 大地へと浸透した流体金属が、槍となり空高くまで飛翔。それらは再び液状に戻りながら収束、巨大な球体となってから爆散し、街へと降り注ぐ。殺傷より破壊に重点を置いた攻撃は、彼らの個々を敵と見做していないことの証左であり、狙い自体は大雑把であるため、よく見ていれば逃げることは容易い。

 

「させぬぞッ!」

 

 それに真っ向から対抗するは、永凍の竜王(エタニティ・ドラゴンロード)が放つ極低温の暴風。

 液体から固体へと変化させる程の極低温と、粗雑に凝固させたことで脆くなったソレを破砕する程の暴風とが、街を狙った攻撃の大部分を無力化。無数の傷跡を残す、真なる竜王の参戦を受け、司銀龍の目に明確な闘志が宿る。敵と見做すに足る、この世界のドラゴンたちの、頂点の一角―――――それを知覚した彼の口端が、歓喜を浮かべるように吊り上がる。

 

「ギュォオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

 固化し、屑鉄同然となった金属を流体化させ、更には魔法により生み出したソレを収束させる。口元で球状になったソレは、一筋の奔流として解き放たれ、傷だらけの白きドラゴンへと向かう。始原の魔法が引き起こす極低温を収束させたブレスと激突すれば、瞬間的に凝固した金属が砕け、多量の銀片が舞い散る。

 

「ぬぅ、あああああああああああああッ!!!!!!」

 

 体格においては倍以上の差がありながら、出力においては司銀龍が大きく上を行く。

 流体金属の凝固より、その奔流が冷気を突き抜ける速度が上をいき、オラサーダルクは即迎撃を断念。一際強烈な冷気塊を砲弾の如く撃ち出し、その場を離脱すると共に無数の氷塊を生成、射出。大抵のモンスターに大きなダメージを叩き込めるだけの強度と質量を併せ持つそれらは、しかし流体の刃により切断され、司銀龍を捉えることなく終わる。

 

「やはり、及ばぬか………ッ!」

 

 体格差という利点を生かそうにも、単純なパワーだけならばとにかく、それ以外にも強大な能力を有する古龍が相手では難しい。特に司銀龍の場合、流体金属を自在に操る性質上、その殺傷能力はピカイチであり、組み伏せたところで即座に息の根を止めねば逆に殺されるのがオチだ。

 

 それを理解しているオラサーダルクの戦い方は、実に巧みだ。

 

「ギュオオッ、ギュアアアアアアアアアッ!!!!!!」

「ええい、そう来るか………!」

 

 纏う流体金属の量と流速を増し、絶え間なく攪拌することで、冷却速度を減衰させる司銀龍は、同時に大量の流体金属を惜しげもなく攻撃に用いるように。それに対し、オラサーダルクは、凡そ対策無しでは生命活動に支障を来す程の極低温領域を生み出し、流体金属による攻撃を抑制し続けている。急速な無力化が困難な大質量には、強烈な衝撃波を叩き込み炸裂させ、地上は広く分厚い氷で覆い尽くし、不意の強襲に対してもある程度の予兆が判別できるように手を回す。

 

「………全く、ままならぬものだ」

 

 接近する、共に戦う者たちの気配を感じ、自嘲の笑みを浮かべる。

 彼単独であれば、ある程度持ち堪えることは出来るが、勝つことは不可能。何より、些細なミス一つで即座に死が確定する程ギリギリの彼に対し、相手は数発貰った程度では到底倒せぬ程のタフネスの持ち主と、とことん不利であることに違いは無い。

 仲間が加われば、彼個人の力に制限が加わる反面、ターゲットの分散により死亡率、負傷率は大きく下がる………これまで、集団戦に移行次第真っ先に退場させられてきたせいで、理解は出来ても納得は出来ていない。が、客観的に自身という戦力の重要さを理解している以上、無謀な真似を続ける訳にもいかないと、全力で理性を働かせる。

 

「手間をかけました、ヘイリリアル」

「構わん。だが、やはり格別よな………氷牙竜を下せた我が冷気でも、このザマよ」

 

 竜騎士が隣に並ぶ中、冷気が徐々に和らいでいく。司銀龍はどこか白けた様子で分厚くした鎧を解き、苛立ちを隠さず咆哮を轟かせる。大地に浸透した流体金属が激しく沸き立ち、凄烈な爆発を引き起こす。周囲の家屋を消し飛ばしたその一撃を合図に、評議国の戦士たちが大地を蹴った。







・『聖域』の王

大地を作り替えた、古龍の王とも称される、最強の一角。
地脈を通じ、大陸全土の状況をほぼリアルタイムで監視している存在。

物理的な繋がりのないナザリック内部については完全に未知であったが、彼の能力による支配域を魔法で監視したことで、その細い糸を手繰り内部を視られた。もしモモンガがレベル5分ダウンしていなければ、この糸を通じ『雫』をぶち込まれていた。

が、既にモモンガが天敵中の天敵と言える力を喪失していた為、即興味を喪失した。


・超巨大峯山龍

大砂漠を回遊する、巨大龍の中でも一際巨大な老個体の一角。
おおよそ、モモンガたちが知る山龍の三倍弱程度の巨躯を有する。


・歴戦王『冰龍』イヴェルカーナ

溶岩地帯で『あるもの』を生成しようとしたが、殴り込んだ龍のせいで足止め中。


・暗い色の砕竜

溶岩地帯に生息する、最上位格の一体。
過酷な環境で鍛え抜かれている為、生半な古龍では相手にならない程強い。


・オラサーダルク=ヘイリリアル

原作における霜の竜の王(フロスト・ドラゴン・ロード)、本作においては永凍の竜王(エタニティ・ドラゴンロード)の名を冠する。
原作における強くなることへの意欲が大きく高まっており、性格も丸くなっている。多くの亜人たちが手を取り合う評議国で生まれ育ったことにより、単純な力の強弱以外の強さを許容するだけの思慮深さを獲得しており、その意欲と併せ高い能力を有している。

真なる竜王の座に至ることを選んだ、数少ない若手ドラゴンの一体。霜の竜の得意とする冷気属性に極特化したオリジナルの始原の魔法を数多く有し、得意を更に伸ばしたことで極めて高い出力を有する。その冷気たるや、司銀龍の操る流体金属を、一時とはいえ凝固させ使用不能にすることが出来る程。
ただし、冷気が強烈過ぎる為、実のところ集団戦になると司銀龍相手の対応力が大きく低下。それが祟り、過去の襲撃の際には上手く乱戦で能力を封じられ、真っ先に瀕死の重傷で意識を飛ばされている。
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