《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.04―襲撃の銀刃

 流れる銀が荒れ狂い、刃となりて万物を引き裂く。

 

「ギュォオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

「させぬわッ!」

 

 局所的な極低温化が銀刃を銀屑へと変えるが、その無駄な精密制御が命取り。

 

「ヘイリリアルッ!」

「ぐ、ぉ………っ」

 

 刃の奔流となった流体金属が、瞬間的に展開された冷気の防壁を強引に突破。幾多もの刃が成す奔流は、強靭な鱗を裂き、肉を抉り、巨大なドラゴンへと重傷を叩き込む。複数の臓器に深い損傷を与える凶悪な攻撃は、魔法という理外の治療手段の存在と、相手の生命力を信頼してのもの。一対一の『戦闘』から、不遜にも己の縄張りへと踏み入った矮小な者たちの『蹂躙』へと移り変わった今、対等に戦う上であれば笑い飛ばせた絶対の冷気はただの邪魔でしかない。

 

「イリススリム、其奴を連れ下がれッ!我が足止めをするッ!」

 

 ザラジルカリア=ナーヘイウントの巨躯が迫り、司銀龍のいた大地を大きく破砕。

 

 その肉体は、金剛石の輝きに包まれている。

 

「我の支援があるからと、迂闊に突っ込むな!」

「言っても無駄であろう!」

 

 ケッセンブルト=ユークリーリリスが始原の魔法により生み出した、黒曜石質の巨大武器の数々へと、オムナードセンス=イクルブルスの始原の魔法による強化の輝きが飛来し、包み込む。これが彼らの戦い方であり、個体としてはツアーに及ばぬ力量をカバーしている。ザラジルカリアが切り込み役としての前衛を務め、ケッセンブルトが大質量による攻撃でそれを補助。オムナードセンスは、比較的レアな強化効果の始原の魔法により、両名へと攻防一体のサポートを行うのだ。

 

「ええい、其奴は我が大敵だというのに………!」

 

 しかし、司銀龍の能力は凶悪無比。薄い守りは容易く裂かれ、強固な守りは幾重もの刃で抉り、削られ、貫かれる。それでいて、本来はある種の制限である流体金属の量を、位階魔法で補うことで文字通り自由自在に攻撃に転用する上、高い知能により魔力切れまで粘ることを許さない。

 

「………ッ!」

「こっちだ、司銀龍!」

 

 常に沸き立ち、鋭利な刃となり周囲を切り裂く金属池により、接近は無謀。

 取るに足らない低位階魔法であろうと、弓矢であろうと、大操核のある頭への攻撃なら、相応の防護が必要となる。そう、彼にしてみれば、亜人たちは縄張りを侵した外敵であり、同時に視界の邪魔程度の攻撃しかできない癖に、群れるだけ群れ、心躍る闘争の邪魔立てをする。邪魔でしかない、矮小な羽虫同然なのだ。

 

「ギュルォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」

「ッ、回避!防御だけはするな!」

 

 収束した銀色をブレスとして放ち、周囲を薙ぎ払う。非魔法的な防御は容易く、魔法的な防御であろうと弱ければあっという間に貫く流体刃の奔流を目晦ましとして、司銀龍は空高くへと飛翔。金属球を生成、炸裂させることで、広範囲に容易く致命傷を与える銀刃をばら撒いたのだ。

 

「ッ、ええい!」

「させるものかッ!」

 

 ザラジルカリアの始原の魔法による大爆発が、小さな銀刃の雨を吹き飛ばす。同時に、空に在る司銀龍のバランスを崩し、地上の者たちは少々動きを封じられるが、上空の司銀龍に生じた隙を逃す程、真なる竜王は甘くない。

 

「―――――チィッ!」

 

 だが、同時に。司銀龍の知能も極めて高く、その隙を理解しているからこそ、自由落下を選択。

 地上への被害から、大規模な攻撃は出来ない。それを理解しているからこその選択だ。

 

「そう容易くもいかぬか!」

「だが、侮られたものだ」

 

 遥か上空に現れたのは、ツァインドルクス=ヴァイシオンの本体。

 

「精密制御は、何もそちらだけの特権だと思わないことだ」

 

 鎧ではまず使えない程のエネルギーを束ね、大地へと打ち込む。身を翻し回避する司銀龍だが、その進路へと鎧が転移し、その頭へと、始原の魔法を付与した巨槌による一撃を叩き込み、局所的な爆裂により強引に動きを止める。瞬間的に頭部の大操核を守る兜へと纏う金属を集中し、損壊は免れたものの、かなりの量を引き剥がされる。

 

「ギュォォォ………ッ!」

 

 が、即座に剥がれた分の制御を取り戻し、鎧を破壊。一方で、姿勢制御は間に合わず墜落。

 

「ハッ!」

 

 その体を、急降下した巨大ドラゴンの強靭な尾が打ち据え、彼方の大地へと叩きつける。続けて始原の魔法で生み出した巨大武器を雨霰の如く、更には先と同じ攻撃を叩き込み、味方に被害が及ばぬ場所で特大の爆発を巻き起こす。しかして、命の気配は大して衰えておらず、爆炎が晴れた先に見えるのは、無傷の代わりに金属鎧を喪失した司銀龍。対処法はシンプルで、莫大な量の流体金属を用いて、致命傷となる武器を破壊し、爆発の衝撃を逃し、被害を肩代わりさせたのだ。

 

「………大口をたたいてこの結果は、正直しょっぱいなぁ」

「いや、だが奴の鎧は剥がれ………剥が………」

 

 魔法で生成した金属を纏い、魔力消費を代償とした一時凌ぎの鎧を形成。当然、全身にだ。

 

「………魔力は使わせたな」

「流石に複数の同時制御は、まだ実戦で使えるレベルじゃないからねぇ………」

 

 一時とはいえ、角状に発達した大操核を破壊する隙を作った。

 

 その事実に、他ならぬ司銀龍が最も強く歓喜し、同時に残念に思っていた。

 

「ギュォォ………!」

 

 それほどの存在が、現状取るに足らない者と肩を並べている事実が、何よりも無念だった。

 

 かつて生きた世界で、若かりし日に味わった高揚。鍛え抜かれた、個性の塊である戦士たちとの命懸けの駆け引き………生きる力に満ち溢れた時代の、終わりを生きた龍は、その最後の輝きの断片を見出したからこそ、尚更彼らの戦い方を忌避した。技術の発展、普及に伴い画一化され、個性を失った有象無象の集まりとの戦いを想起したことが、その最大の原因だろう。

 

 統率が崩れれば、あっという間に鏖殺されるだけの烏合の衆。その程度の存在が、勝ち目のない戦いに果敢に応じ、文字通り命を懸けて自身と相対した者たちに取って代わった事実。それらの手で大地を開拓され、彼にとっての烏合の衆により、竜たちは疎か、若き龍すら滅ぼされていた現実を想起し、苛立ちを募らせていた。

 

「ギュォオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」

 

 手傷を負わされた事実にではなく、強者たちの戦い方に怒り狂い、鋭く吼え立てる。

 その怒りによる視野狭窄の中でも、龍は彼方より飛来する風切り音を察知した。

 

「ッ!」

 

 尻尾に形成した銀刃が裂いたのは、鋼鉄の矢だった。

 

「エントマ、助かった」

「ふふん、お礼はお姉ちゃん扱いでいいよぉ~」

 

 続けて、声。顔を上げれば、淡く光るようにも見える糸と共に、四つの影が跳び込んでくる。

 

「ヌゥンッ!」

「ッ!」

 

 瞬時に形成した銀刃と、白刃が激突―――銀刃が裂かれるや否や、即座に身を翻し、操核を斬られるのを防ぎ、そのまま斬り分かたれた刃を炸裂させ、強引に相手にたたらを踏ませる。即座に追撃に転じようとすれば、大操核へと飛来する虫により攻撃の中断を余儀なくされ、斬殺せんと刃を放つも、軽やかに躱される。

 

「援護します」

 

 続けて、その身を貫く弾丸の感触。懐かしいソレに目を剥き、辿異種古龍は大きく跳び退く。

 

「………我ら四名、これより助太刀させていただきます」

「危なくなったら、支援しながら逃げさせて貰うけどね~」

「ソノ時ハ、我ガ殿ヲ務メヨウ」

 

 三人のメイドと、一人の巨蟲。奇しくも、その数は―――――

 

「―――――撃ぇっ!」

 

 歓喜に水を差す、砲声と風切り音。銀刃と銀槍で全てを叩き落すが、当然苛立ちも募る。

 

「………急ぐとは言っていたけど、こうも早いとはね」

「確か、一週間前であったか………小都市はいつも通り放棄したとはいえ、見事としか」

 

 空に浮かぶのは、飛行船―――急ピッチで微調整を終え、かっ飛ばしてきたのだ。

 

「ギュォォ………ッ!?」

 

 驚嘆、同時に憤怒を隠さぬ司銀龍だが、その殺意を一時収めねばならない事態を察知。南方の、自身が住処とする領域より更に南へとその顔を向け、遠目にでもわかる程大規模に発生した雪崩を目の当たりにして、即座に戦闘を中断、飛翔する。

 

 それを目の当たりにしたのは、竜王たちも同様。

 

「………そう、か」

「ついに動いたか………!」

 

 しかし、彼らは既に、あそこに強大な『ナニカ』がいることは知っていた。

 

「………知ッテイルノカ?」

「詳細は後程。今は、一度退きましょう」

 

 被害は甚大であり、既に都市機能は無いも同然。それ故の決定だった。

 

「しかし、司銀龍が退くとなると………北上しているのかな?」

「縁起でもないことを………いや、それなら奴が屠ってくれる分、楽ではあるな」

 

 竜王たちが零す中、初めての空路開拓と、評議国への到達を成した飛行船群が高度を下げる。

 

「一旦、あちらと合流しましょう。何をするにも、現況の擦り合わせをしなければ」

「そうだね。住民たちの足も考えると、避難先についても話し合わねばならない」

 

 幾分か和らいでいるとはいえ、雪が残る寒冷地であることに違いは無い。

 寒気に弱い亜人もいる為、彼らの行動は迅速だった。

 

 

 溶岩が急速に冷え固まり、七色に輝くクリスタルが生じる。

 熱に弱いながら、溶岩を身に纏い、それらを急速に冷え固めた龍は、それらの内、余計な重みとなる物を砕き、或いは振り落とす。先の戦い、中でも彼らの領域へと再び踏み入らんと、プレイヤーらを襲撃せんとした黒き飛竜の炎と比べれば、あまりに温いものであるが、それでも完治していない体には辛い熱量であり、冰龍は急ぎ過冷却水を放出し、氷の鎧で熱を遮断する。

 

「………」

 

 足音に振り替えれば、歪ながらも濃く深い緑の外殻が一部露わになった、巨大な獣竜の姿がその瞳に映る。表層のあちこちが黒く焼け焦げ、広く粘菌を付着させる獰猛な竜と視線が交錯するも、百年以上の付き合いがある戦友ということもあり、交戦には発展せず、用事を済ませた冰龍は声もなく飛び去る。

 

 真なる竜王を監視する龍は、転移魔法で即座に消える。傷付いた体で苦手とする環境に長く身を置きたくない、という思惑を察してか、かつてこの地を巡る戦いで肩を並べた獣竜は、何をするでもなくその姿を見送る。爆熱で焼け焦げた漆黒の下に、桁外れに強力な粘菌により変質し、エメラルドに近い輝きを宿すようになった甲殻を有する存在は、どこか責めるような目でそれを見届けてから、闘争の果てに発達した腕を舐める。

 唾液に含まれる成分により、()()()()()()()()弱っていた粘菌があっという間に真っ赤に輝き、腕の粘菌に呼応するように、その身に広がる粘菌たちが活性化していく。桁外れのエネルギーを秘める分、普通の個体と共生するソレより格段に冷気に弱い粘菌を扱う彼にとって、冰龍はかつて覇種と歴戦王の炎龍夫妻を相手取った戦友であると共に、適度に警戒すべき大敵でもある。

 

「―――――ギュアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」

 

 複数の意図を兼ねた咆哮で強引に喝を入れれば、体温の高まりと共に唾液の成分が気化。全身の粘菌が更なる活性化と共に莫大な熱を生み、美しい甲殻の表層を焼き焦がす。自身への鼓舞である筈の咆哮も、恐暴竜にも迫るずば抜けた巨躯も、桁外れに強力な粘菌も、この地に住まう砕竜たちの憧れの的であり、そこに至る一歩を踏み出すべく、数多の同族が深部を目指す。

 

 命懸けの試練に挑む若い個体と入れ違いに移動する砕竜は、自身に向く視線が消えたことを察知し、周囲をキョロキョロと見まわす。歳月により磨かれたその本能は、魔法により最大限の隠蔽を施しても尚、僅かな違和感から自身を監視する存在を察知し、その正体に少なくない好奇心を向けていた。あまりに微弱な視線故に感情の機敏は読み取れないが、この地にそんな真似をする者がいる、という事実そのものが、何よりも興味深かったのだろう。

 

「………冰龍は確か、この溶岩で………」

 

 その視線の主たるニグレドは、砕竜の調査より、冰龍の行動の理由を求め、溶岩地帯の深部へと探りを入れている。なにせ、強大な古龍が生息地を離れ、わざわざ扱う属性と対極に位置する空間で、何かをしていたのだ。それ程のリスクを冒す価値があるとするならば、当然気になる。

 

 その理由が溶岩にある、と判っても、そこから先を調べることは困難を極める。

 なにせ、踏み入ることすら難しい危険地帯の、更に深奥部。肝心の溶岩を入手することが一番の課題であり、その前提として更に、あの謎の砕竜までを突破する必要がある。そう考え、溶岩以外の調査に移ろうとしたニグレドは、そこに現れた砕竜の一体が岩盤を砕き、その下の粘菌を纏ったことに気付く。

 

(粘菌?ですが、何故………っ)

 

 瞬く間に活性化した粘菌が、その身へと移っていく。その意図を完全には理解できないニグレドだったが、粘菌を得た砕竜が歓喜の咆哮を轟かせ、またまばらに現れた他の砕竜も、同様に新たな粘菌を獲得していることから、種にとって重大な意味があるということは察せられる。

 

「………ままなりませんね、本当に」

 

 見晴らしがよくなった天井から降りてくる砕竜までいる中、ニグレドは生気のない声を零す。その光景から逃避するように魔法を発動し、主人へと冰龍が帰路に着いたことを報せるのだった。

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