《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.05―未知の先へ

 ―――――夢を、見ていた。

 鮮血で染まった大地と、屍の山。見覚えのある骸が入り混じるそれを、茫然と見下ろしている。

 

「………何を、しているのですか?」

 

 夢であると、即座に理解できた。そうであれば、眼前の惨状に合点がいくからだ。

 

「なに、って………デミウルゴスの命令でありんしょう?」

「私の?………バカな、モモンガ様は何も仰らなかったと?!」

 

 聡明な頭脳は、なまじ多くを知るが故に、この光景に何の意味があるのか、理解できない。

 

 だが、続く言葉を耳にしてしまえば、否応なしに全てが繋がった。

 

「はぁ!?そのモモンガ様をお探しするために、まずはこいつらを使()()()って―――」

(………夢にしては異様ですが、成程。そうであるならば、辻褄が合う)

 

 己に与えられた役割を、かつて彼らに向けていた思考を思い出し、冷や汗を零す。

 

 これは、可能性の未来だ。モモンガがいなければ、彼らが外部の異常を知覚するまでにかなりのタイムラグが生じる。そうなれば、龍を知る機会がなくなり、同時に現地の人間と手を組む理由もなくなる。必然的に、多くを知る機会を喪失する為、脅威を正確に認識することも出来ず、このような対応を取るのも当然だろう。

 

 彼らの根本には、人間に。ナザリックに属さぬ者すべてに対する、強烈な侮蔑の感情が存在していたのだ。彼らの知恵、力、在り方………多くを知り、時に支え、時に助けられたことで構築された、確かな信頼関係の土台すらないのであれば、こうなるのは必然と言わざるを得ない。

 

(………念入りに嬲り殺している辺り、最初にプレアデスを投入したのでしょうね)

 

 人間相手と侮ったのだろうが、種族ステータスがユグドラシルにおけるレベル80以上であるなどと、普通は思いつかない。装備の質が粗末だからと侮り、結果として大打撃を受けたことは容易に想像でき、自分たちの気質から、その報復も兼ねていることも理解できた。

 

「………本当に、愚かだったのですね。かつての私たちは」

 

 そう、愚か。そう在れと望まれていたとしても、この世界においてその振る舞いは、悪手でしかないというのに。多くを知る機会を自ら潰す結果に至り得た自身の性を嘆き、多くの幸運に恵まれていた、という事実を痛感する。ただ力があるだけでは、ナザリック単独の力だけではどうにもならない、多くの災禍を経たからこそ、現地の人々との友好を有難く感じているのだ。

 

 そして、その思いは、より強いものとして彼の心に刻み込まれることとなる。

 

『で、デミウルゴスっ!助けっ』

 

 不吉な言葉を残し、アウラの声が途絶える。シャルティアが取り乱す中、デミウルゴスも大きく目を剥き、弾かれたように顔を上げる。今まで感じたことのない、強烈無比なる寒気を感じた彼が指示を下すより早く、シャルティアは独断で転移門(ゲート)を展開し、独断で撤退。他のシモベたちに簡潔に撤収指示を下し、デミウルゴスも続けば、信じがたい光景が広がっていた。

 

「………バカな」

 

 ()()()()

 ある筈の地表構造物の一切が存在せず、だだっ広い荒野が広がるのみの大地だった。

 

「アウラ!マーレ!おい、返事しろ!いるんだろ!?逃げられたんだろっ!?」

 

 与えられた口調もかなぐり捨て、シャルティアが悲鳴に近い叫びを響かせる。己を律し、地下のダンジョン部へと続く大穴の下を覗けば、瞬間的に肌の表面が軽く焦げる程の熱気と、目を疑うような光景。それこそ、彼の理性が最悪中の最悪の到来を確実視させる程に、異常な光景だ。

 

 存在していた筈の、墳墓エリアの迷宮が丸ごと消え失せ、漆黒の空間が広がるのみ。辛うじて、転移門は機能を残しているようだが、強引にこじ開けられたのか見るも無残なものへと成り果てている上、三階層に別れていた筈のそこは一つの空間に変貌。床の大部分は、一度融解したものが再び固まったようで、元の面影は質感しかない。

 

「………っ、シャルティア、来なさい!」

 

 それだけ告げたデミウルゴスは、機能を残す転移門の残骸へと飛び込む。

 第四階層、第五階層、第六階層、第七階層………その全てが、見るも無残に崩壊しており、他の仲間たちが下の階層に逃げてくれていることだけを願い、必死に駆け抜けていく。その末に到達した第八階層―――主たちが、かつて最終防衛線と定め、『あれら』を総動員し、1500もの軍勢を撃滅した地。

 

 理性が否定しても、希望を抱いていたかった。

 1500を撃滅した存在を動員していれば、或いは―――そんな、幻想は

 

「ギュアォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 生物として異質な、軋む様な甲高い金切り音混じりの咆哮を轟かせる龍に、打ち砕かれた。

 

「ガ………ッ」

「ぁ、が………!?」

 

 漆黒の爆裂に巻き込まれ、接近していた者たちが軽々吹き飛ばされる。

 

「………っ、こ、んの………!」

「なんなんですか、あれは………ッ」

 

 赤黒い雷光に激しく纏わり着かれたアルベドは、既に満身創痍。『あれら』は全てが機能停止に至る程、徹底的に焼き尽くされ、バラバラに破壊し尽くされている。かつての戦いですらそこまで至らなかったというのに、あまりにも無造作に、呆気なく破壊し尽くされているその姿に、最早恐怖すら沸いてこない。

 

「黒き、龍………あれが、モモンガ様が仰られていた、黒龍………?」

 

 四肢で大地に立つ、巨大な翼をもつ龍。幾重にも折り重なる特徴的な角、そして淡い紫光を零す漆黒の体躯と、それを包み込む逆立つ鱗とが、あまりにも異質であり、存在としての次元の違いを理解させられる。歴戦王古龍すら可愛く思えるその力を、今の彼は過不足なく正確に認識できてしまう。

 

「っ、デミウルゴス!早く手を貸しなさい!あいつ、わたしたちを歯牙にもかけず―――」

「ギュルァアアアアアアアアアアアアアアア………ッ」

 

 黒き龍が吼えると共に、超位魔法すら生温い炎が溢れ出し、大地が燃え盛り、融解する。赤黒い雷光の減衰に伴い、抑圧されてきたエネルギーが溢れ出す………『煌黒龍』という器からすれば、大したことのない生理現象の一つに過ぎないが、その規模は絶大無比。それこそ、本来彼の龍が、生命の寄り付かぬ極圏に潜むことを選ぶ程に。

 

「―――――!―――――!」

 

 凄絶なエネルギーが荒れ狂い、声の伝播すらも妨げる。

 

(違う………これは、きっと黒龍では………っ!)

 

 予め、冷気攻撃等により炎エネルギーを抑制できていれば。或いは、龍殺しの力で攻撃し、その身に宿すエネルギーを抑圧するのみならず、減衰させる程の域にまで力を高めていれば。しかし、その事情を知らぬ者たちに、そのような対処などできる筈も無い。何より、事前知識なしでは、そもそも龍殺しの力による悪影響までもが牙を剥く以上、高望みもいいところ。

 

 同時に、理解する。自分たちが勝ち取ったと思っていた平穏は、薄氷の上のものであると。

 

「―――――ッ!!!!!」

 

 その力が解放される寸前で、目が覚める。

 

「………休憩のつもりが、酷い悪夢を見せられるとは………」

 

 アインズ・ウール・ゴウンに用意された、デミウルゴスの私邸。

 睡眠不要のマジックアイテムを外し、休憩等の為の睡眠を取っていた彼にしてみれば、酷い悪夢と言わざるを得ない。何が悪かったのか、と軽く頭を振り、傍らのテーブルに置いていた眼鏡を手に取れば、自然と視界に入るものが。酷く風化している、今の彼らを困らせる依頼品の姿が視界に収まり、まさか、と眉を顰める。

 

「………あの刀が?」

 

 復元する術が浮かばず、多くの者を悩ませた一振り。かくいうデミウルゴスでも、現状その復元手段が浮かんでおらず、仮眠により思考のリセットを図っていた訳だ。その結果が、ろくでもない、という他ない悪夢であったのだから、それはもう嘆く他ないのだが―――

 

「………龍の力を使え、と?………まさか」

 

 鼻で笑い、しかし完全に無視も出来ないと判断し、頭の片隅に。

 

(アングラウス殿の依頼………難易度は高そうですが、やってみせねば)

 

 未知の解明への一歩。そして、未知へと備えるために。

 評議国に向かわなかった者の一人として、悪魔は立ち上がり、仕事着を身に纏った。

 

 

 重大な案件があっても、全員が全員、関与するわけではない。

 評議国への救援に参加しなかった者たちは、皆己の職務を果たしていた。

 

「なんか見っあっづ!?あつ、あっづぅ!?」

「え、ちょ、何して………熱ぅ!?」

「待って待って!?え、ちょっと待ってて!」

 

 鉱脈から掘り出した途端に発火した石を、どうにか確保しようと悲鳴を上げるメイドたち。

 

「こっち、パス!」

 

 無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を広げ、燃え盛る石を確保。

 安心したのも束の間、彼女らの居る場所はとびっきりの危険地帯、その中でも格別の場所である以上、騒ぎ過ぎたからには一度身を隠す必要が出る。手を火傷している仲間たちと共に急いでその場を離れ、回復薬を彼女たちの手にかけつつ物陰へ。森の賢王が用いていたものを参考にした外套に揃って包まり、続けて匂い消しの使い捨てマジックアイテムを用い、音以外による知覚を困難にする。

 

「ギュァアアアアォッ!!!!」

 

 そんな中、遅れて飛び出したのは、赤熱する岩を身に纏う大型魚竜。

 

「うっわぁ~………危ないところだったぁ」

「しっ!アレの相手は危険なんだから、今は静かにして」

 

 溶岩が冷え固まった黒い甲殻を纏う溶岩竜の、亜種個体。常に赤熱する外殻のせいで、冷気系の攻撃が逆に無効化されてしまう性質に加え、ただでさえ高い身体能力を有する屈強なモンスターの出現に、一斉に警戒レベルを跳ね上げる。なにせ、溶岩が冷え固まった外殻に包まれた肉体を、その脚二本で支えられる程の筋力があるのだ。真っ向勝負など、恐ろしいにも程がある。

 

「ギュィ?………ギュォォ」

「………っ」

 

 周囲をキョロキョロと見回す姿は、可愛らしくも思える………その敵意が向かなければ、の話であるが。溶岩を泳げる強靭な肉体に、溶岩浴で形成された頑強な鎧、更には溶岩溢れる火山の只中と、相手に有利な環境で相手をするのは自殺行為に等しい。もっと言えば、その鎧のせいで水も冷気も通じないと、弱点が未解明である為、長期戦を覚悟する必要もある。

 

 そうなれば、それこそ死ぬ。

 

「………ギュァァッ、ゴォオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」

「ッ、ギュアアアアアアアアアアアォッ!!!!」

 

 死を覚悟した矢先、矛先が移ったのは、現れた鮮やかな青の獣竜。鋼鉄の塊たる顎は熱量で淡い赤色を帯び、生物離れした鮮やかな青色の体躯と併せ、異様な印象を受ける獣竜だが、どうやらその餌場であったのか、そう間を置かず双方がぶつかり合う。鋼鉄が岩盤を砕く中、メイドたちの判断は素早いもの。

 

「逃げるわよ!」

「もう最悪!」

()()来てるんだから、これくらい覚悟してないと!」

 

 彼女たちが調査しているのは、U字型の半島であるローブル熔山帯の、北部域。

 莫大なエネルギーにより火山活動が爆発的に活性化したことで変化した南部域と異なり、熔山龍が背負っていたモノが大地と一体化し、成立した灼熱地帯だ。その分、南部域と比べ上質な鉱物等が豊富に存在する反面、それを求めるモンスターも多く、と危険度はかなり高まる。更に、中央に接近し過ぎれば、炎龍夫妻にも目を付けられかねない為、活動の度神経をすり減らす場所でもある。

 

 無論、危険相応の見返りが、確かに存在している訳だが。

 

「最低でも、これは持ち帰らないと………ッ!」

「何かあったら、私たちが盾になるから」

「最低限、キャンプまでは生きて帰りなさいよね!」

 

 確保したアイテムを一人に渡し、残り三人が周囲の警戒に注力しながらも、徐々に速度を落としていき、小走り程度まで減速。死亡による紛失のリスクから、基本装備であるマジックアイテムの多くを外している為、元々が種族レベル1のみだった彼女たちは疲労無効等の恩恵を受けることが出来ていないのだ。その為、食事量以外は本当に普通の人間と大差ないのだ。

 

「あー、疲れた!お腹も減った~!」

「ハイハイ、ちゃんと生きて帰れば、幾らでも食べられるわよ」

 

 そんな会話に耳を貸さず、メイド四人のうち一人が未完成の地図を広げ、顔を顰める。

 

「不味いわね………後先考えずに走ったせいで、まだ調査してない場所に来てる」

「「「………ッ」」」

 

 三人の目が死に、来た道へと視線が向く。

 

「………最悪」

「せめて、シャルティア様にご同伴願えばよかったわ」

 

 干し肉を噛み千切り、空腹を紛らわせる。ローブル熔山帯北部の、熔山龍が背負っていたモノがそのまま大地と化した地帯は複雑に入り組んでおり、洞窟と化した内部等まで含めると、未知の部分が大半を占める。加えれば、ここには炎龍の縄張りが存在している為、内部をへたに探ることへの抵抗が強かったのも大きいだろう。

 

 少しばかり、欲をかいていたことを自覚し、悔恨が沸き上がる。それを干し肉と共に嚥下して、最新の武器―――剣斧を背負うメイドは、地図を睨む。当然、自分たちの居場所を記してくれる、なんて便利な機能は存在していないため、周辺地形等から推察する他ないのだが………

 

「来た道を戻るか、進んで『上』を目指すか。どっちがいいと思う?」

 

 上、というのは、外界に面した表層エリアのこと。飛竜との遭遇率が上がる反面、ある程は外の景色から周辺把握が行えるため、幾らか行動しやすい。来た道を戻る、という選択肢を提示こそしたものの、彼女たちがどの段階から道を間違えたのかが不明である為、どちらにせよ事態が悪化する可能性が高い。

 

「進みましょう!………なるべく、外周寄りを」

 

 炎龍と遭遇しないために、四人は細心の注意と共に動き出す。

 ………強い危機感の底に、隠し切れぬ好奇心、探求心を抱いて。






・『煌黒龍』

ナザリック『悪』ルートにて襲来する存在。
龍殺しによる属性阻害を認識していない場合、『審判』により破滅が確定。

最も多くのワールドアイテムを内包する地は、新たな『神域』へと変わる。


・『もしも』のナザリック

主無き墳墓は、最善を選べない。与えられた悪性が、それを許さない。


・凄く風化した太刀

ブレイン・アングラウスが持ち込み、復元を依頼。
手掛かりがあまりにも無かったが、偶然(?)の悪夢がいい刺激に
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