《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

7 / 78
IF.5―砂海に座す紅の楼閣

 砂が爆ぜる―――余波に飲まれ、人型の竜王の体が小石のように吹き飛ぶ。

 

「が、ごほっ!………あー、こりゃ、罰が当たったかねぇ」

 

 軽く抉れた脇腹に手をやり、血反吐を吐くドラウディロン=オーリウクルスが自嘲する。

 

「送り出された矢先、このザマとは………飛行船、さっさと実用化すりゃよかったなぁ」

 

 眩暈はひどく、あらぬ方向に折れ曲がった腕が、半ばから欠損した足が激痛を訴え続けるが、それだけだと割り切り、なんとか立ち上がる。自国の民を護る為、根付いていた地を捨て、同じ大地に住まう他の者たちの窮地の中逃げ出した女王は、ここを死に場所と定め、忌むべき大敵を睨む。

 

 その外殻の所々が融解し、炭化した巨大竜。『弩岩竜』オディバトラスを。

 

「私の命なぞ、幾らでもくれてやるわ。代わりに、お前の命も貰うがな―――――ッ!」

 

 始原の魔法―――フェイタリス(破滅の運命)の名を持つ黒き龍、最大の力が、その命を対価に顕現せんとした刹那。

 

「いい根性してるじゃねえの。が、そこまでするこたぁねぇぞ!」

 

 その声に驚き、魔法の発動を中断した直後、砂漠を一陣の突風が貫いた。

 

「ッ、グォアアアアアアアアアアアアアッ!??!?!?!」

「………はっ?」

 

 その一矢は、融解し脆くなっていたとはいえ、その外殻を粉砕し、骨にまで届いた。

 

「キーノ!あそこの回収して、治療してやれ!………お前ら!」

「わかってます!」

 

 口笛と思しき甲高い音が響けば、数体の翼竜が空を舞い、灼炎、水流、雷光、冷気、龍雷などをブレスとして放ち、注意を引く。それに目を奪われている女を衝撃が襲えば、四足で地を蹴る牙獣はその体を背負い、颯爽と戦場に背を向け、疾駆。それと入れ替わるように、幾つもの影が砂漠を駆け抜ける。

 

「今回はサトルも後衛に回ってくれ」

「わかった」

 

 そう口にしながら、サトルは幾つもの強化魔法を発動し、味方を強化していく。

 

「気をつけろよ。あいつの攻撃、直撃は死に繋がると思え」

「いやはや、改めて見ると、おっかないわい」

「食べられないでくださいね?」

「あれが、セクメーア砂漠を生み出した………改めて見れば、それも納得だな」

 

 異邦での恐ろしさを知る竜人族が零す中、戦端が開かれる。

 

「―――――グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」

 

 咆哮の音圧により砂が沸騰したかのように暴れ狂い、誰もが即座に距離を離す。

 

魔法三重化(トリプレット・マジック)、《現断(リアリティ・スラッシュ)》ッ!」

 

 三発の不可視の斬撃を、時間を置いて飛ばす。結果、砂の大爆発の直後、破壊力を喪失した砂塵の中へと刃が吸い込まれ、弩岩竜の外殻に傷を刻み込んだ。第十位階最強の魔法、職業補正が落ちている分を装備で補って余りある現在でも尚、その傷は浅い………浅いが、無視できない程度の威力は有している。

 

「グルァァ………!」

「《爆裂(エクスプロージョン!)》」

「こっちも終わった!とりあえず、一発かますぞ!」

 

 空高くまで飛翔したキーノは本を開き、オリジナル魔法の中でも一際凶悪なモノを発動。

 

「《酸毒の爆裂(レッサー・メガフレア・バースト)》―――喰らえッ!」

 

 それはまさしく、渾身の一撃。位階魔法の域に留まって尚、その破壊の力は弩岩竜の甲殻表層の炭化箇所を吹き飛ばし、そこから重酸で溶かし、その下の肉を毒で蝕む。大地すら炎熱と酸に蝕まれるが、その一方で当の超大型飛竜は健在なまま。位階魔法の範疇に収めてしまったことも、原因の一つであろう。

 

「けど、鎧は大分脆くなった………ハズだ」

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!!!!!」

 

 弩岩竜の咆哮が轟き、再び地面が沸き立つ。

 

「おっ………そろしいな、こりゃあ」

「全く、地上で戦うのは御免被りたいところだね」

 

 そう嘯く人獣、竜人族の顔には、言葉と裏腹な笑みが浮かんでいる。

 

「本当に、冷や汗が止まりませんわ………!」

「お嬢。そういうんはな、ご令嬢がやっちゃあかん顔して言うもんやないで」

 

 紅の双剣を握り、獰猛に笑うエルフの令嬢。深窓の令嬢とは思えぬ姿は、100年余りの歳月で磨き上げられたものであり、それを諫めるケマリ自身もまた、妖狐の本性を隠しきれぬ笑みを浮かべている。これ程途方もないと感じる壁にぶち当たるのは、随分と久方振りだからだ。

 

「燃えてきましたね………!」

「強い………けど、勝つのは―――私たち」

 

 確たる闘志と共に、気焔を上げる。標準装備のスキル『いたわり』により、味方の攻撃の余波を気にする必要が無い、味方への流れ弾を恐れる必要が無い者たちは、怒れる弩岩竜へと臆することなく、気勢のままに大地を蹴る。受けた依頼を完遂する為―――何よりも、生きて帰る為に。

 

「ああ、そうだ―――勝つのは、俺たちだ」

 

 金色に縁取られた、漆黒の鎧―――『秘術・玄武』を纏うサトルが力強く宣言する。

 

「ここからが本番だ―――魔法三重化(トリプレット・マジック)紅蓮滾る大空爆(エアストライク・オブ・クリムゾン)》ッ!」

 

 空より降り注ぐは、時間と共に紅蓮を通り越して、蒼白と化した魔力塊。その全てが、弩岩竜の背甲へと吸い込まれ、激烈な爆発が連鎖的に巻き起こる。流石の超大型飛竜といえど、悲鳴を上げる程のダメージが通る一方、明確な最優先排除目標を認識した弩岩竜の姿がほんのり黒みを帯びる。怒りと共に甲殻の隙間の排出口が開いたことで、更に大量の砂を取り込み、排出することによる砂嵐までもが巻き起こる中、キーノは自身へのターゲットが外れたのをいいことに、位階魔法を超える力を行使する。

 

「地形を変えるぞ!」

「なら、儂らで注意を引くだ、なァッ!」

「シィ―――ッ!」

 

 ゴルドの振う剛槌が前脚を打ち抜けば、大槍を構えるタツミが力強く疾駆し、速度と武器、盾、自身の全ての重みを乗せた突進を叩き込む。分厚い甲殻を貫くには足りない一方、漆黒の剛角を加工した槍の力を『覚醒』したことによる爆裂が、確かな傷を刻む。そこに、極寒の秘境を襲っていた、怒り喰らう恐暴竜の素材を用いた一撃が叩き込まれれば、徐々に外殻の亀裂が広がっていく。

 

「ゴッ、アアアアアアアアアッ!!!!!」

「ゴルド、僕の後ろに!」

「お可愛い攻撃、ですね!」

「この程度で、止まるかよッ!」

 

 地面をめくりあげ、足元の敵を一掃せんとする弩岩竜であるが、荒れ狂う砂津波の中を疾駆する者が二人。幾重にも襲い来る砂津波を全て躱し続け、蒼い稲光と沸き立つオーラを纏うエルフと、砂津波を切り払い、時に余波を受けながらも前に進み続ける、紫炎と禍々しいオーラを纏うダークエルフは、それぞれ闘志を剝き出しに、巨大竜へと躍りかかった。

 

「参りましょう、シルヴィ!」

「おうさッ!」

 

 漆黒の刀身に紅の刃を持つ、絶極冥雷刀が易々とその外殻を切り裂き、飛毒竜の致死毒を宿す刃がその傷から内側の肉まで突き刺さる。怒りに身を任せた前脚の薙ぎ払いを、ソフィアは軽々と躱し、令嬢が回避した爪を、シルヴィが放つカウンターの斬撃で切り飛ばし、怯んだ隙に揃って攻勢に転じる。

 

「ゴ、ォオオオ………ッ!」

「後ろ、がら空きですよ」

「その武器、潰す」

 

 そして、その視界外へと回り込んだハク、レナがそれぞれ重弩、軽弩を構え、その巨大な背甲を完全に機能停止させるべく弾丸を撃ち込んでいく。ハクが徹底的に貫通弾を叩き込み続ける隣で、レナは軽弩の速射機能により徹甲榴弾、拡散弾を連射して、既に生じている甲殻の傷を広げていく。

 一方で、その火力自体はそこまで脅威と見做す程でないのか、弩岩竜は依然、足元の二人の排除を優先とするように暴れている。無論、その余波だけでも重傷を負いかねない程の大事を引き起こしているのだが、ソフィアは徹底的に盛り込んだ回避補助スキルにより完全回避を続け、シルヴィは傷を負った分を装備スキルで強引に回復し続けている。

 

「―――いくぞ、《天地改変(ザ・クリエイション)》ッ!」

 

 砂漠の中心に生じるのは、砂塵が舞うことのない大湿原。

 ワールドアイテム『無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)』より引き出した力により、弩岩竜の肉体が適した砂漠地帯を改変したことで、まず相手は砂塵の吸入、利用が不可能となった。砂漠地帯の乾燥した砂塵に適応した器官では、水分を多く含む土砂を処理できないのだ。

 

「グォオッ!?!?!?」

「よしっ!ついでに喰らえ、《地割れ(クラック・イン・ザ・グラウンド)》!」

「ッ、ゴァアアアアアアアアアアアッ!??!?!!?」

 

 ついでとばかりに大地を引き裂き、弩岩竜の足を奪う。未知の環境への混乱も手伝い、巨大竜は正常な判断も叶わずもがく。砂漠では生じる筈の無い地形の変化に、それに囚われるという初めて尽くしの経験が、行動に如実に表れていた。

 

「ナイスだ、キーノ!魔法三重化(トリプレット・マジック)万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)》ッ!」

 

 スキル『魔法技・秘術』による威力・効果量の最大値固定の恩恵。最強化(マキシマイズ)不要で大火力を発揮可能な、魔法職特化でレベル100までビルドした実績のあるサトルだからこそ得られた秘伝の力の極致。高い実用性の中に、確かなロマンを交えた彼らしい構成の装備が高火力魔法を乱発していく中、前衛たちは喜々と吶喊していく。

 

「っしゃあ!暴れんぞ、てめぇらァッ!」

「おうさ!」

「全く、僕は攻勢より守勢の方が得意なんだが………ねッ!」

 

 絶刀が深々とその身を切り裂き、剛槌が頭蓋を揺らし、鋭槍が突き刺さる。刃を経由して鮮血を吸い上げ、暴れる前脚とその余波に構うことない捨て身同然の猛攻による傷を癒していくのは、シルヴィの装備スキルの一つである『吸血』。彼女の場合、加えてHP自然回復力を底上げする『超回復』、苛烈な攻勢により発動する『剛心』『連撃』等を交え、リスクの伴うスキルを複数搭載。

 

 一見テクニカルながら、使用者がタフすぎる為脳筋装備と化していた。

 

「はいはいはい!ボス、そろそろ強化切れまっせ!」

「あっぶね!ケマリ、助かった!」

「お代はお高い実験器具で、よろしゅうなッ!」

 

 ソフィア共々、極めて強力な『劇物取扱皆伝』スキルを保有するケマリが加わることで、弩岩竜を蝕む毒の量が、その身に害を成せる域まで到達。瞬間、ソフィアが有する『攻勢』スキルが効果を発揮し、『フルチャージ』『纏雷』『獅子奮迅』でブーストされた能力を更に増強すると共に、『状態異常追撃』が効果を発揮。もがき暴れる腕を躱すことで『巧撃』『刃鱗磨き』の効果を維持し、勇猛果敢に攻め立てる。

 対し、支援寄りのケマリは大人しく引き、アイテムによる味方への強化を施す。

 

「チッ、冷静になるの早いっちゅーねん………ホンマ、タフ過ぎるわ」

 

 そして、一歩引いているからこそ、その動きの変化に気付く。

 その能力を十全に発揮できない地形に引き摺り込んだとはいえ、いつまでも混乱し続けてくれるほど、頭の弱いモンスターばかりではない。砂漠という地形に由来していた攻撃の多くは使えなくなるだろうが、最後に残されるフィジカルこそが最も恐ろしいこの竜を相手に、油断なんて真似が出来る筈も無い。

 

 ここで油断するようなら、皆とっくにこの世を去っている。

 

「出てくるで!下がりぃや!」

「クソッ!魔法最強化(マキシマイズ・マジック)大樹の束縛(バインド・ウッドプラント)》!」

「まあ、長続きはしないよなぁ」

 

 混乱が晴れたことで、弩岩竜はそのフィジカルを駆使し、強引に地割れの行動阻害から脱出。

 相手の武器を多く奪った一方、最大の武器が残されている以上、これまで以上に油断出来ない。

 

「………厄介」

「ですよね。とはいえ、流石にここに下手な子は連れて来れませんし」

 

 ハクの『友達』には非常に強力な者もいるが、ここは『聖域』からほど近いエリア。

 強者を呼ぶリターンは絶大だが、それを押し通すリスクもまた、絶大なのだ。

 

「一旦下がってくれ!」

「はっ?―――っ、わかった!皆、一旦退け!」

「皆を回収、急いで!」

 

 サトルの指示を受け、ハクが空を舞う翼竜たちに叫ぶ。ホルクたちは素早く降下し、それぞれの足で五人を掴み、弩岩竜から離れていく。そこから程なくして、禍々しい黒焔が奔り、超位魔法により形成された大湿原諸共、弩岩竜を焼き払う。傷が増えている分、その灼熱はより深くまで届き、流石の覇種といえど悲鳴を上げる程のダメージを与えた。

 

「………すっげぇ」

「あれも、魔法なのか………奥が深いんだな」

「いや、位階魔法やと、あないなバ火力は無理ちゃうか?まあ、後で訊けばええやろ」

 

 黒焔に飲まれて尚、暴砂の巨城は未だ健在。

 だが、大陸で最も冒険を繰り広げた九人は、それがどうしたと絶望を笑い飛ばした。






・『魔法技・秘術』

この世界で芽生えた、魔法職全般に作用する秘伝スキル。ただし、魔法戦士は対象外。
条件として、レベル100まで到達した際、職業レベルが特定の武器等に特化していた経験が必要。サトルは死霊術系、つまり魔法職に特化していた為、獲得できた。効果を発揮する際には、秘伝スキルに該当する武器を装備しているだけでいい。

マジックキャスターモードのサトルが好んで運用するスキルであり『魔法効果を常に最大で固定』を始めとする、有益な効果を多数内包。当スキルを運用する際、つまり魔法職としての装備の外装には『秘術・玄武』を用いており、奇しくも『漆黒の英雄』となっている。


・『いたわり』

ナインズ・オウン・ゴール必須スキルの一つ。
自身から味方への攻撃を無効化する効果を持ち、これにより乱戦への備えも盤石に。


・絶極冥雷刀

シルヴィの故国を滅ぼした竜の素材を用いた、メンバー中最強の武器の一つ。
彼女のもう一つの愛用武器は、そんな竜を滅ぼした極翼の龍のものを用いている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。