《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.07―灼熱の地に眠る未知

 ローブル熔山帯、北部域―――――

 

「いやあああああああっ!!!!」

「なんなのよ、もう!」

「いいから走って!」

 

 弓を構えたメイドが周囲をくまなく探り、手あたり次第障害物となり得るモノを崩していく。

 

「グルァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

 

 だが、黒き轟竜は止まらない。大きく、精強に育った飛竜は、大地を踏み砕き疾駆し続ける。

 

「ああもう、しつっこい!」

「ていうか怖い怖い怖い!すっごい怖いんだけど!」

 

 『絶対強者』の異名を持つ轟竜は、甲殻こそそう強固でない反面、身体能力は極めて高い。飛行能力は低いものの、地上での戦闘能力は非常に高く、その凶暴さは折り紙付きな上、灼熱の砂漠から極寒の氷雪地帯まで活動可能な適応力もある。彼女たちを追跡しているのは、火山地帯に適応した亜種個体であるが………その凶暴性は、原種を大きく上回る。

 

「っ、嘘でしょ!?」

 

 眼前は、行き止まりの壁。どの程度の厚さか、把握する余力もない。

 そもそも、相応の重量の武器を担いでの活動は疲れるのだ。燃費の悪いホムンクルスでは、干し肉を齧って紛らすにも限度があり、既に四人とも体力は底をつきかけている。がっつりと肉を食べることが出来ていれば、まだ違ったのだろうが―――そんな思考、そもそも存在していない以上、言っても仕方がない。

 

「ああもう、ギリギリまで引き付けて散開!あいつを突っ込ませるわよ!」

 

 その執念を振り切るべくそう指示し、四人はギリギリまで轟竜を引き付け―――

 

「ッ、グルァオッ!!!!!」

「ぁ―――」

 

 壁に激突する寸前、急減速、停止を試みた黒轟竜がスリップを起こし、暴れる尻尾に巻き込まれかける、仲間の姿。咄嗟に腕で身を庇おうとするが、それで無事で済むものか。腕が折れる程度で済めば幸運も幸運で、生身で強靭な厚鱗に包まれた尻尾と接触すれば、最悪千切られるか、胴体ごと持っていかれる。

 

「―――ぇ?」

「―――が、ふ………ッ!」

 

 仲間の腕を引き位置を入れ替え、ギリギリでバックラーを割り込ませる。不安定な姿勢、当たり方の悪さが重なり、割り込んだメイドは、黒轟竜が激突し、破壊された壁の先へと投げ出される。その飛距離が、轟竜のパワーを物語る。

 

「………っ」

 

 何とか体勢を整え、受け身は取ったものの、背中から落ちた衝撃で一瞬動きが止まる。急ぎ回復薬を取り、飲み干した彼女は、その場から移動を開始する。単独で黒轟竜との対峙など不可能もいいところであるし、視認できないとはいえ追跡されない保証もない。他の三人が心配であるが、それより今は我が身を優先するべきだ。

 

 干し肉の残りを口に放り込み、空腹を紛らせながら、付近で比較的高い場所へとよじ登る。

 

(陸が見える、ってことは………ここは南側)

 

 冷静に周囲を把握次第、すぐに物陰に身を隠すとともに、外套を羽織る。

 自身が吹き飛ばされた先へと視線をやり、《伝言(メッセージ)》の魔法を発動して―――目を剥く。

 

『っ、よかった!生きて』

「今すぐそこから逃げて!轟竜が向かってる!」

 

 聳え立つ岩壁に剛爪を突き立て、発達した脚力任せに駆け上がる竜の姿。垂直手前のそれを四肢だけで駆け上がれる程の身体能力には、遠目に眺めるだけでも血の気が引く。仲間たちも異音に気付き逃げたはいいが、既に地図も何も判らない領域である以上、合流は絶望的という他ないだろう。

 

「そっちは皆でキャンプを目指して。こっちも別口から目指すから」

『………ちゃんと生きて帰ってきなさいよ!』

『死んだら承知しないから』

『大食い対決、勝ち逃げは許さないから!』

 

 同僚たちの激励に苦笑を浮かべ、了解と短く応答。発見した現地アイテムを持っていない分身軽ではあるが、だからといって死んでいいわけではない。主に怒られるし、仲間たちにも叱られてしまう。故に、生きて帰ることを念頭に置いて動かなければならない。

 

 死を恐れはしないが、無駄死にを容認する気もないのだ。

 

「だけど、どこを目指せば………っ」

 

 その視界の端で、灼熱を束ねたレーザーの如き熱線が仄かに閃いた。

 

「あれは………!」

 

 遠見の魔法―――剣士として学びながら、一部補助魔法にも手を出していたことが、吉と出た。

 

(炎戈竜………!)

 

 灼熱の光を纏う、溶岩の鎧。それに身を包むのは、マグマの海を泳ぐ海竜。

 アベリオンまで襲撃するようなことは無いが、ナザリックに属する者にとっては、強く警戒するべき竜の一体である、強力なモンスター。岩盤を難なく破壊する、特徴的な碇口とヒレを持つ竜は溶岩竜以上に神出鬼没であり、特に北部火山内部では地面、壁面、天井に溶岩溜まりと、警戒する必要のある場所を挙げればキリがない程。

 

 その戦闘能力は、当然侮れば死ぬ程に高いものだ。

 

「っ、モモンガ様!?」

 

 最悪だ、と唇を噛む。彼が手にする銃槍は、『炎戈竜』アグナコトルと相性が悪い武器だ。

 

(何人の仲間が焼かれた事か………!)

 

 片手で数えられる程度だが、死者を出した熱線。体内に溜め込んだマグマを用いたそれは、物理防御不可の性質を持ち、そんな危険な攻撃を軽々と放つこともまた、炎戈竜が強く警戒される理由の一つ。強力な個体のソレを受け、命を落とした同僚もいれば、瀕死の重傷を負い、そのまま強制送還となった者もいる。

 その尊い犠牲のお陰で、『鎧竜』グラビモスの熱線共々物理防御不可と判明しており、熔山帯における最大の警戒対象とされている。特に、神出鬼没で俊敏な分、炎戈竜の方が数段恐れられており、交戦件数も各段に少ない。それと、交戦が行われている、ということは―――

 

「絶対に、不味い………!」

 

 全力で地面を蹴り、駆ける。特に、モモンガはアンデッド………炎に弱いのだから、尚更だ。

 

(彼女が気付いていない?在り得ない。となると、逃げられない理由がある)

 

 地形か、或いは別の何かか。そこまで見る余裕はなかったのが痛いが、仕方ない。

 

(逃げてたら私も逃げる。逃げれてなければ、時間を稼ぐ)

 

 その心構えと共に、時に自傷も厭わぬ無茶なショートカットを行い、目的の場所へと疾駆。

 

 そして、眼前まで迫った時。時間が経っていながら、炎戈竜の甲高い声は変わらず響き続ける。

 

「………ッ!」

 

 逸る心を抑え込み、一度状況確認の為、物陰から聞き耳を立てる。

 

「こ、の………ッ!」

「すまない、だが!」

「判ってるから大丈夫です!私たちの意思ですから、謝罪しないでください!」

 

 周囲を確認し、理解する―――――船だ。船の、残骸らしきものが、あるのだ。

 

「そういうことですか」

 

 逃げない訳だ。逃げられない訳だ。

 痕跡の有無にかかわらず、こんな内陸部に在る以上、調べる価値は十分。ここで逃げれば、それは跡形もなく破壊されてしまうだろう。そうなれば、有用無用は別として、多くの情報が喪失する可能性が高い。それを見過ごすには、この世界は未知の要素が多く、取りこぼした場合が恐ろしくあった。

 

「―――――はあああああああッ!」

 

 力強く叫び、躍りかかる。当然、炎戈竜の注意は彼女に向き、強固な碇口が、その身へと迫る。

 

「ぜっ、りゃあああああああッ!」

「キュァアアアッ!?」

 

 ズガンッ!と、バックラーが頭を打ち抜き、続けて逆手に構えた剣を突き立てる。

 

「っづ………!」

 

 暴れる炎戈竜の頭から一度跳び、鎧から離れた薄い背ビレへと移る。溶岩の熱に焼かれる苦痛の中、彼女は躊躇いなく剣を突き立て続け、炎戈竜は確かな痛みに、不快感に耐え兼ね、必死に暴れる。暴れれば暴れる程、溶岩が冷却され固まり、物理防御力が高まっていく。

 

 その背の鎧だけは、執拗な刺突によりぐずぐずにされた状態で、だ。

 

「―――モモンガ様、竜杭砲を!」

「………わかった!」

 

 銃槍との相性は悪いが、一点だけ。砲撃という機構が、最悪の手前で押し留めている。

 ぐずぐずの状態で固まった一点を、炸薬を用い撃ち出された杭型砲弾が貫き、堅殻を穿つ。その衝撃で溶岩の鎧は砕け、炎戈竜が微かに怯み、動きが止まる。全身に付着した溶岩は冷え固まり、物理攻撃に対しては滅法強くなっている、が。

 

「ッ、キュアアアアアアアアッ?!?!!?」

 

 爆裂。固まっていた溶岩が吹き飛び、また爆破の熱に当てられたその欠片は、先程までと同じく高い熱量を秘めた液状となっている。この、炎戈竜の纏う溶岩を再び軟化させることが可能なだけの熱量を秘めているのが、銃槍の砲撃の特徴。その防御を突き崩せる一点が、相性最悪という評価に至ることを阻止していた。

 

「よしっ!」

「おお!」

「キュァァァ………キュァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」

 

 怒り、口端から炎を零す炎戈竜が吼える。盾を持つ者たちが一斉にそれを構えれば、襲い掛かる重圧は大きく軽減され、ただ煩いだけの咆哮に変わるが、そうでない者は反射的に耳を抑え、行動が制限されてしまう。しかし、ガードに成功した者たちは、次の行動に移っていた。

 

「他の箇所も剥がしたいが………」

「砲撃で軟化させてから、竜杭砲を撃ち込めれば」

「そうなる、よな………っ、散開!」

 

 吼え叫んだ炎戈竜が地面を掘り返し、潜航する。岩盤を容易く砕く碇口も、岩盤を引き裂く強靭な特上ヒレも、危険極まる武器である以上、一網打尽を避ける意味でも散開は必至。その強襲に備え、全員が散り散りに広がり、武器を収め回避準備と共に警戒する。潜航中、且つ怒り狂っていなければ、対処法もあったのだが………それを知らぬ以上、やり様はない。

 

「キュアアアアアアアッ!!!!」

「ぬおおおおおおっ!!!!」

 

 飛び出し、泳ぎ、潜り。その巨躯はそれだけで高い破壊力を有する上、碇口と特上ヒレの二種の凶器がその殺傷力を更に高め、凶悪な攻撃へと変えている。幸い、火山地帯から離れているお陰で溶岩が飛び散ることは無いが、巻き込まれれば命が無いことに違いはない。その上、メイドたちは常に熱線に警戒している為、より余裕がない。

 

「―――――キュァアアアアアアアッ!!!!!」

 

 大きく大地を砕き、空高くまで飛び出す海竜。その巨体が大地に降り立てば、軽く大地が揺れるが、幸いその影響が及ぶ周囲にメイドたちはいない。いない、ことこそが、彼女たちに最悪の予感を与え、続くカチカチ、或いはカタカタと嘴を噛み合わせる音が、それを確信に変えるのだが。

 

「全員、全力で逃げて!」

「何が来るんだ?!」

「熱線!物理防御不可!死者複数!」

「な………!?」

 

 メイドが死亡したとの報告は、モモンガも受けている。

 

(―――――いや、物理防御がダメってだけなら!)

「急いで集まれ!俺が何とかする!」

 

 軽弩を構える者が頭を狙い、操虫棍を使う者が頭目掛け猟虫を飛ばす。その間にも、首を柔軟に動かす炎戈竜の、冷え固まっていた頭と胸部の溶岩が熱を帯び溶け、重胸殻に溜め込んだマグマがレーザー状に放たれる。威力、熱量共に尋常でないソレは、未だ手探りであった頃のメイドたちに死者を出す程の物であり、全員が必死に走り、薙ぎ払われるソレから逃げている。

 

 巻き込まれれば、余程炎耐性を上げていない限り、まず死ぬ。一命を取り留めたとしても、耐性が無ければその熱の余波に身を焼かれ、どちらにせよ落命するのみ。それを知るメイドたちの形相は必死そのものであり、幾多もの補助魔法を重ねるモモンガの心を打つ。

 

(そうだよな。あんなの、受けたくないよな)

 

 幸いにも、守ろうとしていた残骸は地形のお陰で、熱線の直撃は受けない。

 だから、守るべき者たちに集中できる。

 

魔法三重(トリプレット)効果範囲拡大化(ワイデン・マジック)―――――《骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)》ッ!」

 

 三重に形成される、白骨の壁。そこに、更に防護魔法による強化を施し、それでも難しいだろうと判断し、際限なく白骨の壁を重ねていく。大型の獣竜種すら大きく突き飛ばす程の破壊力を前に、如何に強化を重ねた骨壁であろうと長くは持たない。が、魔法防御である為、防ぐことは出来る。

 

 そして、発射の反動を用いて薙ぎ払っている炎戈竜は、今更それを一点集中させるなど不可能。

 

「………よし!」

 

 ギリギリではあったが、完全に凌ぎ切る事が出来た。

 焼け、抉れた莫大な壁を崩せば、遠くから苛立ち混じりにこちらを睨む炎戈竜の姿。

 

「さて、どう来る………」

 

 身構えるモモンガだが、経験豊富なメイドのうち数名が、小さく『あっ』と零した。

 

「ん?なにが―――――あっ」

 

 少しばかり注意深く観察していたモモンガは、炎戈竜目掛け疾駆する巨竜に気付く。

 並外れた巨大角を持つ、豊かな体毛に覆われた獣竜。炎戈竜は怒りに囚われ気付いていないが、『猛牛竜』バフバロは怒り心頭とばかりに鼻角、背部の甲殻を展開しており、全速力で突撃している。そして、炎戈竜が気付いた頃には手遅れであり、地面に頭を突き立て、半ばまで潜航した辺りで、その巨大な角が横っ腹に突き刺さり、強引に引き摺り出されるついでに地面を引き摺られていく。

 

「キュアアアアアアアッ?!??!!?」

「………よし!今のうちに船を調べるぞ!」

 

 モモンガは即断し、明らかに異質な、内陸部に鎮座する船と思しき残骸へと向かうよう指示。

 

 随分と朽ち果てたその中を調べて直ぐ、目を見張るべき発見があった。

 

「これ、は―――っ?!」

 

 書物。随分と朽ち果て、欠損も多い、この辺境の物でない文字が刻まれた、本の残骸だった。

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