《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.09―危険地帯に眠るモノ

 雪崩で舞い上がった雪の中、白き神は後ろ脚で大きく立ち上がり、彼方を睨む。

 忌むべき剣。使い手こそ存在しないが、その脅威は理解できる。故に、破壊せんとした。

 

「―――――ォオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!!!!!!!」

 

 周囲の雪が吹き飛ぶほどの咆哮に呼応するように、広範囲で雪崩が巻き起こる。

 忌むべき剣が、それを持つ者が二度と踏み入らぬよう。そんな意図すら、感じさせて。

 

 

 ナザリックに帰還した迷いメイドたちが、様々な石をテーブルに広げる。

 

「ふー………よしっ!」

「いやあの、よしじゃないんだけど」

「何日かかったと思ってるの!?」

「えーっと………えへ」

 

 彼女たち三人が遭難している間に、氷原で発見された巨大剣はナザリック第四階層に撤収。

 その他の遺物の解読、調査も進み、モモンガは疎かパンドラ、デミウルゴスに加え、平常時にはナザリックの諸業務を担当しているアルベドすら動員した資料の作成などの真っ最中。龍と同じ世界に由来する、と思しい上、様々な情報の詰まったそれらには、それだけの価値があるという判断だろう。実際、巨大剣を除く物であっても、この世界に有用な情報の宝庫だったのだから。

 

 メイドたちからも手伝いに出ている者がいるが、そうでない者も一定数いる。無論サボっているのではなく、今回発見したものと同種の遺物の捜索や、迷子になった同僚の捜索に加え、グランセル氷原南部域に異変が無いかを調べに出向いた者たちが休暇を取っているだけだ。勤労意欲もあるが、過酷な業務を終えた以上、働くわけにもいかず、大人しく休息していろ、というのが、智者たちの一致している見解だ。

 

「たっだいまー!………あ、戻ってたんだ」

「お帰………なにそれ」

 

 氷原の調査に向かっていた者たちが、びしょ濡れで、巨大な貝を抱えて帰還する。見れば、支給された袋の限界まで、つまり合計500キロオーバーまで色々と収集したらしく、他の者たちも色々抱えている。思わず呆気に取られている間に、海産物らしきソレと、限界まで収集物を詰め込んだ革袋をテーブルに置き、氷原組が床に倒れ伏す。

 

「さっっっむかったぁ!」

「寒中水泳、ダメ、絶対………死ぬかと思った」

「サメカエルに飲まれたときは、本気で死んだかと………」

「絶対そんな名前じゃないけどね?アレ………ごめん、ちょっと温まってくる」

「あ、うん」

 

 互いに互いを支え合い、すっかり血の気が失せ、震えている面々が部屋を後にする。

 

「………なんでああなったんでしょうね」

「さ、さあ………飲み込まれた、って言ってたし、それを助けようとして、とか?」

「ああ、有り得そう………とりあえず、先に軽く見てみましょう」

 

 袋を漁ると、見覚えのない鉱石類などが山盛り。比率は大分落ちるが、中には随分と朽ち果てた様子の骨から、比較的に見覚えのある植物類まで見られる等、手あたり次第感が強く表れている。が、手探りなのは基本的にどこも同じであるのだから、そう悪いスタンスではない。どころか、鉱石類が豊富である点からして、早々に追及するべきだったと言えよう。

 

「これ、キュウ………ひゃああ?!なになになに!?」

「え、生きてるの?生き物なの?っていうか、なんなのこれ………ナマコ?」

「ひゃっ?!え、イカ?ていうか、このスミ、なんかカラフルな………」

「痛ぁっ!?え、ちょ、なになにキモいキモいキモい!?」

 

 ………それにしたって、見境が無さ過ぎるようだが。

 

「げぇっ!?あいつら、なんでこうヤバそうな虫を何もせず放り込むの!?」

「ちょ、あの馬鹿ども呼んできて!あいつら、なんてもの持ち帰ってんの!?」

 

 クモにも、サソリにも似た、明らかに危険な虫数種を急ぎ適当な箱で抑え込み、怒号を上げる。寒さでネジがぶっ飛んだのか、元々そういうメンバーの集まりだったのかは定かではないが、これはいけない。一瞬、これがあるから『先に見ておいて』等言わなかったのか、と脳裏を過るが、それにしたって説明不足にも程がある。せめて何か言い残していけ、と言いたい。

 

 最低限の報告も忠告も無かった時点で、有罪である。

 

「あ、じゃああたし、鑑定できる子探してきますね」

「ついでに、出来る限り人手を集めて。馬鹿どもが戻るまで、一旦作業は中止よ」

 

 既に、袋の中身の確認作業は中断されている。

 

「こっちはこの生き物の飼育用に水槽を………水どうしよ」

「それならここに、何故か海水が詰まった袋が」

『なんであるのに入れてないの!?』

 

 本格的に精神衛生が心配になり始める情報が転がり出てくる中、やけに重い革袋を開け

 

「………宝っ!?」

「本当になにがどうなってるの!?」

 

 そこに詰まる、ナザリックが有するそれらに匹敵する輝きを放つ、宝物の数々を目にした。

 

「………これ、多分」

「モモンガ様に報告ね………多分、あまり意味は無いと思うけど」

 

 海水共々砂利や海藻が入った袋から、海藻と宝物だけ取り出し、生物を放り込む。

 

「これらがあったのは多分海中で、しかもあの氷原の海中でしょ?」

「無理ね」

「無理ですね」

「あの子たち、なんで生きてるの?」

 

 改めて、仲間たちの生還の奇跡に驚く、より呆れが先に来てしまう。

 飲まれた、というメイドが生還できた理由もだが、収集物の問題が先行してしまうのだ。

 

「………詳細は、魔法で鑑定できる子が来るまでお預けね」

「色々な意味で、頭が痛い結果になりそうね」

 

 程なくして、非番のメイドたちが集まる。念のためにと、万全の装備を持ち出している者もいれば、過剰火力で部屋を破壊しないようにと、敢えてメイド服姿で来ている者、大雑把な説明に対し、万全の備えとして様々な備品を引っ張り出した者もいるなど、それぞれの性格やスタンスが見て取れる。そこまで警戒されているとはつゆ知らず、大分遅れて湯上がりの一行が現れる。

 

「弁明はあるかしら?」

「………え、まさか」

「あ、そういえば、何も言ってなかったっけ」

 

 次の瞬間、飛竜の咆哮を思わせる怒号が轟く。

 

 たっぷり十数分かかった説教が終わると、漸く本格的な調査が始まる。最大500キロまでを収納することが出来る、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)が複数満杯になる程に収集された、グランセル氷原にて発見された物品の数々の調査は、集まったメイドたちを大きく四つのグループに分けて、それぞれに発見者たちを割り振ったうえで行われる。厳重が過ぎる警戒態勢に、採取者たちは辟易とした顔になり―――

 

「あれ、その箱は?」

「奇妙な虫を突っ込んでるんだけど」

「あ、そうだった!虫かご、誰か!アレ、噛まれたら死ぬから」

「はぁ!?」

 

 空気が凍る中、適当な重石で抑え込まれている箱を持ち上げたメイドたちが猛毒を秘めた危険な虫を素手で掴み、大慌てで持ち込まれた籠に放り込む。噛まれないよう、細心の注意を払い蓋を閉じた彼女たちが一息吐き、続けて背負い袋の中から、糸を巻き付けた枯れ枝を取り出す。その意図が判らない他の仲間たちにそれを渡した者は、静かに説明を始める。

 

「これ、結構丈夫なの。だから、何かに使えるかも、と思ってね」

「それにしたって、先に説明なり注意なりしなさいよ!」

「ごめん、当事者抜きで先にやられてるとは思わなくて」

 

 そこからは、トントン拍子で調査が進む。

 

 胡瓜のような『ウリナマコ』、船にも似た貝殻に守られた『イカダガキ』に始まる、巨大な牡蠣たちと、食用になりそうな生物たち。特定能力を向上させる墨を吐き出す『シラヌイカ』への驚愕から始まり、モンスターの幼体であるフルフルベビーに悲鳴が上がり、宝石のように綺麗なだけの『冷寒ヒヤボックリ』『銀嶺氷瑞花』などの美しさに感嘆の息を零し、食用にもなるフキノトウに肩を落とすなど、本当に様々。

 

「『アイシスメタル』………これ、どこで手に入れたの?」

「海中の洞窟」

「よく凍死しなかったわね………」

「回復ポーションがぶ飲みで何とかなるもんですね」

「本当によく生きてるわね!?」

 

 のほほんと振る舞っているが、やっていることはとんでもない、どころではなかった。

 

「それに、モンスターに飲まれたって」

「お腹の中で、ひたすら徹甲榴弾やら拡散弾を乱射してましたから」

「うわぁ………」

 

 引いたのはその行動にか、それとも行動力にか。

 他にも要因はあったのだろうが、深く聞こうとは思わない。聞いたところで、役立てられる者がどれだけ居るのかなど、想像する間でもないからだ。仮にモンスターに丸飲みにされたとして、そこから冷静に体内を攻撃し、自傷覚悟で脱出するとなれば、余程肝が据わっていなければ出来ないし、出来たとしても、生還できるかは運の要素が強いだろうことは、想像に難くない。

 

 他者に心得として教授するには、あまりに不安要素が多く、また色々な意味で別次元だった。

 

「ええええええええええええ!?!??!!?!」

「今度は何!?」

 

 絶叫に多くのメイドが軽く飛び上がり、その声の主へと注目が集まる。

 

 当の声の主には、その咎めるような視線に真っ当に応じる余裕もない。

 

「いや、ちょ、これ、この石………!」

「え、何?そんなに凄いの?」

「い、いいから!他の子も、鑑定すれば判るから!」

 

 半信半疑の面々が魔法で鑑定を行い、続けて同じように絶叫。

 

「ちょ、こ、これって!」

「大発見じゃない!これ、装備に―――――」

 

 凄まじい熱が集まる中、しかし冷静な者も確かに存在していて

 

「これ、どこで手に入れたの?」

「場所次第では、恐ろしく貴重な品ということになりますね」

 

 名称を総括するならば、『原珠』と『原石』。秘めた力は、素材の秘めた力の増幅。

 

「………あ、これ、北の火山の深部で掘り出したやつだ」

「駄目じゃん!?」

 

 危険度が段違い過ぎた。

 無論、冒険者たちの活動範囲が広がりつつあるのだが、それでも荷が重い、と言わざるを得ない灼熱環境の中でも、格別に危険な深部でしか得られない、となると、難易度が桁外れに跳ね上がる。この原因は、原珠の正体が異世界のモンスター等の化石であることであり、600年前を皮切りにこの世界に招かれた竜たちの骸は、当然化石となれるだけの歳月を経ていない。

 

 ローブル北部火山でこれらが得られたのは、偶然熔山龍の外殻形成過程で、原珠や原石を内部に有していた岩石類が取り込まれるなどしたからだろう。それを知らない彼女たちは、どのような過程でそれらが生じたのか、どのような環境で得られるのか、を必死に考察し、語り合っている。

 

「火山環境で生じる、ってことかしら?」

「けど、他の場所では発見されてませんよ?」

「とにかく、これはモモンガ様に報告で………」

 

 原珠、原石を分け、一度大きく息を吐く。予想外の連続で、思わぬ精神的疲労を負った形だ。

 

「問題は、燃石炭以上に安定供給が望めそうにないこと、ね」

 

 燃石炭は、深部域以外でも発見できている。が、これらは現状、深部のみ。

 供給の難しさは群を抜き、凡そ考え得る有用性から逆算しても、満足に行き渡ることはほぼほぼ在り得ない。外部に情報として開示したところで、数多く存在している冒険者たちに、満足に行き渡ることはまずありえまい。そう考えると、果たして外部に公開していいものか、と悩んでしまうのだ。

 

 無論、辺境を離れれば、と考えているところはあるが、そこから先で安定供給があると楽観視も出来ず、かといって報告を上げない訳にもいかない。貴重な情報として共有して欲しいところであるし、それを原因とした争いもそう起こらないと考えてはいるが、やはりいい気分ではない。

 

「それなら、各国で情報とサンプルを共有して、複製できないか調査する、とか?」

「その手があった!」

 

 可能性の多少は別として、試す価値としても、情報開示の理由としても十分だ。

 

「それじゃあ、他を調べてから―――」

「いや、この二つが最優先でしょ」

「他は食材だったりで、優先度は大分下がると思うよ」

 

 メイドたちの議論の末、原珠と原石の優先順位が最高だと判断され、発見したメンバーと数名が報告の為、部屋を出る。要点を脳内で整理しながら進む一行を見送り、室内のメイドたちは再び鑑定作業に移る。低位の鑑定魔法であっても、名称を含め相応の調査は可能であり、彼女たちもそれを理解しているからこそ、出来る最善を尽くそうと努力するのだ。

 

 もう、種族レベル1のみであった、か弱いメイドたちの姿は無い。

 そこに在るのは、逞しく成長した一角の戦士たちであり、この世界を生きる命だ。

 

「ところで、モンスターの襲撃とかは無かったの?」

「全部逃げましたけど?なまはげみたいなモンスターとか、人魚みたいなモンスターとか!」

「あそこ、陸地と海辺との差が意外と小さいのよねー………と、これなんだろ」

「ちょっと貸してねー。ふむふむ、『センショク草・黒』で………はぁ!?」

 

 そして。彼女たちは再び、一つの大発見をしたのだった。




★設定

・原珠

武具にスキルを付与するアイテムの材料の一つとなるもの。

正体は、異世界の化石の一種。その性質上、この世界ではまず得られない。


・原石

お守りの材料となるアイテム。
現在、熔山龍の亡骸の一部たる火山の深部以外では発見されていない。
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