《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
ドワーフ王国にて開かれた、技術者たちの会合―――
(基盤を整えはしましたが、予想以上ですね………いやはや、本当に)
この世界の者は素晴らしいと、デミウルゴスは口端が緩むのを抑えるのに苦労させられた。
「これらだが、完成した鎧を加工したモンになる」
まずは、ドワーフたちが提示した小さな装飾品。加工元の装備の特色が残るソレは、一度装備として完成させる必要がある代わり、素材となった装備の有するスキルを宿すことが出来るという。一部の『原珠』『原石』を加工した『珠』『護石』を各国にサンプルとして供与したことによるものだが、『原珠、原石を用いない』という理不尽極まる前提を平然と覆して見せたのだから、驚嘆する他ない。
「それと、現状武器にしか使えんが、ルーンを組み込んだ代物じゃ。ローブルやグランセルの鉱物を使えば、より高性能なモンが作れるようになるな。ただまあ、原形に加工するまでの手間とルーンを刻む手間とで、そう軽々作れるモンじゃないのが、のぉ」
続けてお出しされたのは、ルーンによる魔化技術を応用した装飾品。流石は、と誰もが感嘆する中で、それに臆せず自国の成果を報告したのは、王国からの使者。
「こちら、魔術師組合が完成させた代物です。森の賢王様の発案された錬成手法に、天廻龍の力に侵されたモンスターから得られた結晶を投入したことによる産物となります。この手法ですと、モンスターの素材の必要量が大きく減少するのが大きなメリットですね」
(あの結晶にそんな力が!?しかし、ナザリックの在庫は………!)
ナザリックが得た狂竜結晶の大部分は、先の大戦で消し飛んだユグドラシル金貨の補充に当てた為、在庫はカツカツ。森の賢王が最初に発見した、モンスターの鱗、皮、爪牙等を素材とした手法では、その消費量の多さが課題の一つでもあったため、その改善が齎す恩恵は計り知れない。
「問題は、結晶の補充が困難であること。それと、運用に細心の注意が必要なことですね」
王国の代表、ラナーは微笑み、そう話を締めくくる。続けて口を開くのは、帝国の代表だ。
「我が国でも、同様の成果を得られました。が、その欠点を克服するべく、フールーダ様の主導で研究を行っております。現在開発中のものの試作品となるこちらの錬金油、狂竜結晶を直接投入する場合には劣りますが、こちらも素材の必要量を大きく減らすことに成功しています」
飛行船の改良に尽力しているナザリック、竜王国と、各国の支援に尽力する法国を除く各国が、現状の成果を報告する中、毛色が違うのは、アベリオンの持ち出した成果。森の賢王が最初に編み出した錬金技法を参照とした他諸国と異なり、ローブルの地で得られる鉱物資源に独自でアプローチを行い、一つの成果を出していたのだ。
「錬金術による試行の中で生まれた『武具石』を加工した物だ。名の通り、武具の強化ができる」
といっても、基礎的な性能のみだが、と笑うが、大発見に違いはない。
「………我が国では、旧来の魔化と同様の効果を秘めた物の開発に成功しました。が、現状では、必要な素材こそ低ランクのもので済んでいますが、その分性能もあまり高くなく」
「この場で、性能の多少は重要ではありませんよ。今回重要なのは、どのような試みが成功して、どのような課題が発見されたか、です。私たちは皆、異なる勢力に身を置いておりますが、求める先は同じなのです。決して恥ずことも、臆する必要もないのですよ」
委縮気味の都市国家連合の代表を、至高なる叡智を持つ悪魔は優しく諭す。
「皆様の得られた結果を報告していただいたところで、次に移りましょう」
司会を務める彼がそう告げれば、続けて王国の使者、ラナーが進行を引き継ぐ。
「そうなりますと、やはり国ごとで動くのは、非効率的かと思われますね」
音頭を取るラナーがその頭脳をフル回転させる一方、デミウルゴスもまた、異なる形で超越者の叡智をフル活用。頭脳のレベルで言えば対等な二人だが、基幹となる常識の違いから、その思考にも相応の差異がある。それ故に、ナザリックの三人もラナーも、互いに知恵者であることを確信するには至れないでいる。
もっと言えば、ラナーは剛種鋼龍の出現、砦蟹の襲撃に、帝国での一大決戦への援助、その後の変化への対応を始め、兄たちや諸貴族の見解を参考に最適解を探るのに忙しく。デミウルゴスたち知恵者もまた、未知なる環境への適応を始めやることが多く、互いに個人まで目を向ける余裕が無かったことも、原因の一つだろう。
「この際、合同研究所でも設立いたしましょうか?」
「そちらについては、陛下も既に考えておられました」
「あら、流石はジルクニフ様ですね」
笑っているラナーにとっては、想定内。寧ろ、相手が人間である分、やりやすくすらあった。
(ああ、気が楽でいい………予測も予想も出来ない存在を相手にするより、余程)
手掛かりがあるならば、ヒトの行いならば幾らでも予想できる。事実、森の賢王が編み出した、最初の錬金技法が周知された時点で、ラナーはジルクニフが打つだろう手を全て予想していた。その上で、フールーダという王国に無い強力な魔法使いの手腕を計算に入れ、ある種の信頼から、既に根回しを済ませていた。
対するジルクニフも、ラナーに対するある種の信頼から、既に手筈を整えている。
(流通、交通を考慮するのであれば、アインズ・ウール・ゴウンが最善ですが)
「合同の研究所を設立するのであれば、ドワーフ国がよろしいのではないかしら?」
「流通の活性化には、丁度よいかと」
「そりゃあ、願ったり叶ったりだ。こっちもこっちで、手が欲しいところだからな」
ドワーフ国は金属流通、武具加工等で大きくリードを取っているが、モンスターの被害が皆無である都合、冒険者等の往来が殆どない。アインズ・ウール・ゴウンに次ぐレベルまで加工技術が高まっていることもあり、これを機に更なる拡大を求めるドワーフ国からしてみれば、人の往来の増加に繋がるものには積極的に手を伸ばしたいところ。
周辺諸国としても、ドワーフ国の拡大に伴う鉱物資源産出量の増加は、全力で支援したい。
「それは、有り難いですね。カルサナスからアインズ・ウール・ゴウンは、少々遠いもので」
「誰もが納得できる提案とは、難しいものだ。が、我としても、異存はない」
最も離れているアベリオンの者が苦笑を浮かべるが、異論を唱えることは無い。この狭い辺境であろうとも、峻嶮な山岳が存在している以上、どこからでも等しく往復しやすい場所、というのはまずない。そういった意味で、平時苦心しているカルサナスの者たちを思いやり、また万一アインズ・ウール・ゴウンに甚大な被害が生じた際に機能停止しないよう、ラナーの提案を飲んだ。
「いい提案です。それでは、こちらからもそのように手配しましょう」
そして、モモンガの御膝元の街を選ばなかったその判断を、デミウルゴスは受け入れた。
(将来的に、我々だけではどうにもならない日が、必ず来る。他方の生存圏と接触を果たすことが出来れば、私たちの目の届かない場所で行動を起こす必要も出る以上、今の内から重要箇所の分散と、明確な伝達網の構築をしておくべきでしょう)
新たな交易の要所が出来たのはいいが、そこに多くが集中し過ぎるのは問題だ。
万一にも落とされ、その瞬間に多くに支障が出るような環境は、到底容認できないのだから。
*
飛び散る毒液に構うことなく、刀の一撃でゴム質の皮を裂く。
「ギュアアアアアアアアアッ!?!?!」
「お見事です、モモンガ様!」
「いや、建御雷さんなら、もっとうまくやるさ!」
相手は『毒怪鳥』ゲリョス。危険な毒と、ゴム質の外皮を併せ持つ、近頃では討伐例も増えつつある鳥竜種モンスターであり、ここボウン沼地における厄介者の一種。特に、好奇心旺盛な性格と、沼地以外でも生息可能な生態から、特に商人などへの被害が多いモンスターでもあり、モモンガたちが受けたのも、そういった被害者からの依頼だ。
「流通が滞ると、あたしたちも困るの、よッ!」
「ギュァオオオッ!?」
(私情………いや、健全な変化だと思おう)
ナザリック外の、市場の変化に一喜一憂できるようになったメイドの変化を噛み締めつつ、頭に叩き込まれる矢に怯んだ毒怪鳥へと、身の丈ほどの太刀による斬撃を続けて叩き込む。アンデッド基本特性である、毒への無効耐性を盾にした果敢な攻撃は、傍目にはやはり心臓に悪いが、毒と肉弾戦しか攻撃手段のないこのモンスター相手には、非常に有効だ。
(ただ、怪鳥と違って動きが独特過ぎて、な………!)
問題があるとすれば、毒怪鳥の特性の数々。トリッキーで、独特な動きは、慣れるまでは厄介そのものであるし、ゴムの伸縮性を有する尻尾、ゴム質の皮による打撃と電撃への高い耐性といい、中々の曲者。装備が整う以前、特に手札に乏しい駆け出し冒険者が不意に遭遇した場合などに、死者が出ないことがほぼ無いとすら言われるほど、中堅以下には恐れられていた。
今でも厄介者として、或いは若かりし日のトラウマとして、恐れられているが。
「ギュァアアアアアォッ!」
「っぐ!?」
そして、モモンガ的に苦手なのは、その伸縮性を活かした尻尾攻撃。読み難いという点も厄介であるが、種族的に殴打攻撃に弱い彼にしてみれば、先端が膨らんだソレはある種の殴打として判定されるのか、突進に巻き込まれるよりも体感的に辛いものがある。加えるなら、威力もそこそこにある為、不意に直撃すると吹っ飛ばされてしまう、というのも痛い。
「やら、せる、かああああああッ!!!!」
その隙をカバーするように躍りかかるのは、大剣を手にするメイド。剛刃がその首に叩きこまれれば、毒怪鳥もたまらず悲鳴を上げ怯み、続け弓使いがその頭へと矢を立て続けに叩き込んでいく。弱点である炎属性を宿す攻撃の数々を受け、流石の毒怪鳥も不味いと判断し、これまで数多の新米冒険者を死に、或いは引退に追いやった秘策を披露―――
「そいつ、まだ生きてるぞ」
―――したものの、生命力を感知できるアンデッド相手に、死に真似は無意味も無意味。
自分から生み出した特大の隙を突かれ、無事一斉攻撃を受け、本当に物言わぬ骸と化した。
「行動させなければ、呆気ないものでしたね」
「私たちの武具が上質だった、ということも大きいのだろうな」
一仕事を終えれば、あとは討伐の証、兼素材の山である、モンスターの亡骸を運ぶ作業。
それに取り掛かるべく動く彼らは、気付かない。
「………キュァァッ」
仄かに漂う薄霧はいつものことであるし、モモンガではそこに含まれる毒に気付けない。
他のメイドたちにしても、微弱な毒素故に、霧による視界不良以上には考えない。沼地に潜む、不可視の龍は静かに翼を広げ、その場から飛び立つ。地上を薄く満たす水が音を立てるものの、それくらいは割とあることの為、既に視界に収まらぬ程高空域に至った龍を捉えることもない。
知られざる龍は、空を舞い本来の住処へと飛翔する。終わりなき迷路が如く深い森の上を越え、金色と白銀の舞う朽ちた王城上空を避け、地上の様子の見通せぬ深い瘴気に包まれた森を抜ける。瘴気が届かぬ程に広大な河を越えれば、その先に広がるのは碧水に満たされた領域。空に浮かぶ船団が、今まさに遠視の魔法等で調査を進めている地。
豊かな森林、豊富過ぎるミネラルにより緑に乏しい峡谷、大部分が水没した平地と、様々な顔を持つこの地に降り立った龍は、姿を見せぬまま森林へと潜伏。姿を隠すのに適しているその地に潜んだ龍は、そのまま横になり、寝息を立てる。
刃と化した尻尾を持つ二種の獣竜が鎬を削り、漁夫の利を狙う悍ましい蛇の如き海竜は、水域の捕食者の一種である魚竜の如き独特な海竜に尻尾を噛まれ飛び上がり。豊富なミネラルに戦闘能力を支えられた飛竜は空を警戒し、類似したシルエットを持つ漆黒の飛竜は空に構うことなく、上位捕食者の一角として猛威を振るう。
「………水量だけなら、国一つ二つ分賄えるだろうに、なぁ」
空の船から、調査員の一人が愚痴る。
複数の地形が組み合わさった水量豊富な地は、それだけ豊かな生態系を構築しており、水中から陸上、空中まで様々なモンスターが見られる。水資源の量を始めとする諸環境は、人間が住まうにも最高とすら言える環境であるが、それはモンスターにとっても同様であり、構築された生態系がそれを物語っていた。