《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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AFT.12―齎されたモノ

 東方に駆り出した船団は、順調すぎるが為に、ある問題に直面した。

 

「このままじゃ、食糧より先に行きの燃料が尽きるな」

「順調すぎるのも考え物、か。だがなぁ………」

 

 眼下に広がるのは、風神の狂飆が遺した爪痕のみ。狂竜の力が振り撒かれた影響もあるのだろう、他の生物の痕跡があまり見られず、聳え立つ山々も同様。あまりにあまりの惨状は、その猛威を改めて実感させるには十分であり、多くの者に寒気を覚えさせる。

 

(でも、それにしたって)

 

 あまりにも、生命の気配がない―――――そこで、メイドの一人が意を決し提案した。

 

「でしたら、一度船を下ろしましょう」

「正気か?いや、確かにモンスターの気配は皆無だがなぁ」

「………いや、悪くねぇ。徒歩で動ける範囲もたかが知れちゃいるが、空から眺めただけより確証を持てる。モンスターがいないならいないで、今のうちに手を出せる場所を探すなり、仮設拠点を立てるなりできるかもしれねぇ」

 

 この中ではベテラン格の年長冒険者が肯定すれば、それを合図に船が降下準備を始める。

 

 それと、ほぼ同時期。竜王国では

 

「パラダイン様から、新作魔法の巻物(スクロール)が届いたぞ!」

「早っ!?あの爺様、ちゃんと寝てんのか?」

「マジックアイテムを自作できるくらいだし、不要な体にしてんじゃねぇの?」

「………陛下に伝えて、皇帝様に言っといてもらうか」

 

 資源に乏しい土地柄から発達した加工産業。中でもずば抜けているマジックアイテム製造の分野は、外界への進出を目標としたことで更なる隆盛を見せていた。これまで考えもしなかった斬新な需要への応答、新たな魔法の伝来に加え、帝国魔法省のフールーダを筆頭にそれらの廉価版の開発等に勤しんでいるお陰で、あらゆる面で発展を遂げつつある。

 

「うっし、出来たァ!………いや、発想は天才的だったが、作る側の身にもなれよなぁ!」

「これを、こうして………いや、ここじゃ試しても意味ねぇな!表行ってくらぁ!」

 

 複数の魔法を組み合わせた、遠隔視用のマジックアイテムを抱え飛び出す職人と入れ替わりに、一人の女性が忍び込む。敢えて他と同様の格好をしているが、基本的に正体はバレバレである。バレバレ、なのだが、基本的に見逃されている。正確には、摘まみ出したところ、魔法で隠れて忍び込んだ前科がある為、最早諦め、或いは無視している。

 

「んんんー!やっぱり難しいんじゃねえかなあ、これ!」

「遠隔交信のマジックアイテムだったか。やっぱ難しいか?」

「既存の魔法でどうこうやってみたが、キツいわ」

 

 六大神の死去により途絶えていた、リアル由来の発想。魔法のお陰で、不可能ではない一方で、モモンガが思い描く便利アイテムを完成させようとすると、難易度が跳ね上がる。通信用のアイテムがまさにそれだ。距離の問題や混線など、解決すべき課題も多いのが、それに拍車をかけている。

 

「とはいえ、モモンガ殿も無理に急がなくていい、っつってたし」

「確かに、あっちの人員のお陰で連絡にゃ苦労してねぇが、おんぶ抱っこじゃダメだろ」

 

 その言葉に反論する者は無く、誰もが頷く。頷くが、それとこれとは別問題。

 

「なら、頑張れよ」

「そっちこそ。他のだって、やることは山積みだろ?」

 

 一般生活の利便性向上、生産職の補助、冒険者のサポートから、遠征における課題の解消。

 なまじ魔法という便利な物があり、その上で法国で失伝していた高位階魔法や、リアルの知識等による発想など、新たなものが目白押しであることで、これまでのように国の経済を支える、程度で済まない規模になっているのだ。そして、誰もが新たなモノに興奮し、それを活用できる新作を目標としている。

 

「うんうん、やる気満々で何より。ボーナス増額してやるかな」

「………一国の女王がこれって、いいのでしょうか?」

 

 飛行船に採用されているマジックアイテムの買い取りに来たパンドラが零すも、職人たちは内心で頷くのみ。とはいえ、いると判ったからには、手が空いている者が対応に向かう。

 

「パンドラさんかい。注文のなら、中央第三倉庫にありますよ」

「ありがとうございます。ですが、その前に代金を」

 

 あくまで事務的なやり取りであるが、これは序の口。

 

「―――ところで。先程、外に駆け出した者がおりましたが」

「ああ、新たなマジックアイテムの試作品が出来たってことで、試しに向かってんです」

「ほほぅ!」

 

 目が光る―――業務の一環、というお題目がある為、割とやりたい放題である。

 

「どのような用途の代物でしょうか?」

「遠隔視の魔法で得られた情報を、魔法で映し出して広く共有するために代物ですな」

「ほうほう!それはまた!」

 

 喜色を隠さぬパンドラが進んでいく一方、ドラウディロンは静かに工房を離れた。

 

「流石に、ガチ勢にゃついていけんわ」

 

 

 木々の生い茂る、トブの大農場。

 

「あ、いい感じかも」

 

 そこの管理責任者の一人であるマーレは、日頃から農場に赴いている。

 

 成長度合いのチェックや採取物の品質確認、産物の加工も仕事で、今日もまた、その仕事の一環として生簀の確認を行っていたところだ。近頃は釣りの腕前も上がっており、持ち前の腕力と併せて、よく育った大物をも単独で確保できるようになっていた。

 

「よし………せーっ、の!」

 

 大きく育った『オオヨロイシダイ』を確保し、満足げに笑う。竜のソレに匹敵する鱗を有する、ヨロイシダイの中でも大きく、精強に育った個体であり、武具として加工すればかなり上質なものが手に入る。それ相応に大きく、力も強いのだが、マーレは特別意に会することもなく、平然としている。

 確保したソレを適切に処理して、続けて様々な方面で需要の高い火薬の材料となるチャッカツオとハッカジキ、カクサンデメキンも、適度な大きさの個体を釣り上げていく。火薬類の材料は植物類にもあるのだが、それだけでは賄いきれない程、需要があるのだ。

 

「ふー………あ」

「キュルッ!?」

 

 いつものこと―――農場に入り浸る、モンスターの幼体に気付き声を上げれば、隠れるように、或いは悪戯がバレた子供のように駆けていく。もう一人の管理者であるアウラのテイマー職の影響か、随分と人間慣れしているモンスターたちに呆気に取られ、続けて呆れ混じりの溜息。

 

 特に何かやられたわけでないと判れば、興味を失くしたように視線を外す。

 

「お仕事、お仕事」

 

 彼の仕事は、主に裏方。精神的に幼い面もある為か、尚のこと己の役目を果たそう、という気概が強く、精力的に取り組んでいる。或いは、他の面々と比べ、あまり目立った成果を上げられていないように感じ、内心で焦っているのか。武具需要が落ち着いても、材木の需要や火薬の需要が落ちることは無く、安定した収入源となっているのだが、男の子らしく華々しい活躍が欲しいのだろう。

 

「マーレ様、ちょっと相談が」

「どうしたんですか?………あの、本当にどうしたんですか?それ」

 

 弓用の瓶を満たす液体は、これまで見てきたどの薬液とも異なるように見えた。

 

「えーっとですね?マヒダケとネムリ草を混ぜたら、こんなのが出来たみたいで………」

 

 メイドの指さす先には、昏倒している同僚数名。一発で危険とわかる。

 

「あ、あの人たちは、なんでああなってるんですか?」

「………どうも、少し吸っただけでああなったみたいで」

「とりあえず、あの人たちの介抱をお願いします。その薬の方は、後で報告しておきます」

 

 危険物として薬品―――捕獲用麻酔薬を回収し、しっかりと封をする。

 

「けど、簡単に作れちゃうのか………んー、どうしよう」

 

 麻痺、睡眠ともに、対大型モンスター戦闘において有用な状態異常の一つだ。それを起こす為の巻物、弾丸等の素材となるマヒダケ、ネムリ草は市場流通量も相応で、万一ということも起こり得るだろう。効果の強さからして、うっかりヒトが多量に摂取しようものなら………

 

 そこまで考えて、軽く息を吐く。

 

「大変だなぁ、本当に」

 

 それだけ強力でも、あくまでヒトに対して。彼が最初に目の当たりにした錆鋼龍を始めとする、古龍に対しどこまで通じるかは当然として、大型の飛竜相手でも、どれだけ通じてくれるのかわからない。彼とモモンガだけが知る、エリュエンティウ跡からこちらを覗いた謎の存在に対しては、恐らく論外だろう。

 

「マーレ殿、マーレ殿!」

「わ、賢王さん!?驚かさないでください!」

「これは失礼。いや、丁度探してござったところ故、つい」

 

 そんな彼の善き同僚、森の支配者たる魔獣は、そんな尾も苦しい思考を綺麗に吹き飛ばした。

 

「丁度、錬金が終わったところにござる故、鑑定に同席して貰おうかと」

「わかりました!」

 

 彼の管轄である大農場で、頻度こそ少ないものの行われる『マカ錬金』。モモンガをして『最低保証のないクソガチャ』呼ばわりされる代物であるが、その分上振れは大きい。シャルティアが最初に発見し、装備しているものに並ぶ品は現状確認されていないが、あれを上限と見做し、素材が集まり次第、試行錯誤を続けているのだ。

 

「皆さん、お手伝いをお願いします!」

 

 当番のシモベたちに声をかけ、誰もが待ちかねた結果調査の準備を進める。

 というのも、研究所で錬金を行う他国と異なり、ナザリックは人員豊富ながら、ナザリックの中で完結する。得られた護石は調査後、スキル等を基準に分類して一旦保管され、ナザリックのシモベたちがそれぞれ目を通すのだ。戦闘に従事するシモベが優先的に目を通し、戦闘を苦手とするシモベが続けて吟味し、最終的に残されたモノが錬金素材として投入される。

 

 護石に付与されるスキルは完全ランダム。その一方、拡張性もランダムである為、有用なら拡張性を考えない者、装飾品の普及後を考え、両立を目指す者など、個々の性格によって回収されるモノも異なる。かくいうマーレが装備している物は、彼だからこそ有用に使えるスキルを有している一方、拡張性が無いという欠点も有する代物だ。

 

「また、いい物が見つかるとよいでござるが」

「ここのお仕事で、これ以上に有用なお守りは、たぶんないんじゃないでしょうか?」

 

 彼の装備する護石の効果は『植生学』と『回復速度』が最高レベル。一方、装飾品を組み込めるスロットは無く、その二つのスキルしか発動しない。が、『回復速度』スキルはHPMP双方の自然回復力の強化、『植生学』はドルイド系による植物類の成長促進等に高い補正を発揮するなど、ここの仕事内容とよく噛み合っている。

 更に戦闘時は、『広範囲殲滅最強』である彼のMP消費を幾らか軽減してくれる他、植物操作魔法やスキル等も強化されるなど、あらゆる面で相性がいい。拡張性ゼロという欠点にしても、装飾品の普及がまだイマイチである為、無視できるものだと判断している。

 

「ホワイトブリム様が仰っていた快感、わかってきた気がするわ………!」

「程々にね?ね?ね?」

「けど、昂るのも仕方ないわよ」

 

 誰もが高揚と期待を隠さず集まる中、トブの大農場の管理責任者であるマーレ、賢王主導の下、立ち並ぶマカ錬金壺が開かれ、錬成された護石の数々が取り出されていく。賢王が取り出したソレをマーレが受け取り、鑑定し、スキル内訳とスロット状況をメモした紙と共に並べていく。それに皆しっかりと目を通し、己の防具の長所短所との噛み合い、主力武器との相性などを鑑みて思考し、相談する。

 

 誰からも人気の『攻撃』、装備次第で優先される『見切り』『超会心』等に、生存能力の向上に優位に働く『防御』『ガード性能』『回避性能』に、その発見に多くの者が驚愕した『ガード強化』などがあれば、そちらに注目が集まり。戦闘以外、主に探索等で役立つ『体術』や『地質学』に目を向ける者もいるなど、十人十色。

 希少価値の高い有用なスキルは当然として、手数の多い武器の使い手であれば各属性、状態異常攻撃強化スキルにも目を向けられるし、ガードの難しい武器であればガードスキルには見向きもせず、対しガード可能な武器ならば、特に物理防御不可攻撃の多くを防げるようになる『ガード強化』に強く注目する。

 

「っ、これは?!」

 

 マーレが驚きの声を上げれば、否応なしに注目が集まる。

 

「………新発見です。それも、かなり強力な」

 

 スキルの名は『根性』。一定以上の体力を維持できていれば、どんな一撃にも耐える力。

 それこそ、未知を拓く者たちには是が非でも欲しいスキルだろう。が、それなりの試行を重ね、尚今回初めて確認できたという辺りから、相当希少な強スキルだろうとわかり、誰もが渋い顔になる。

 

「これは、報告用として除外しますね」

 

 一つの護石を取り除き、錬成結果の開示を再開。農場に、シモベたちの一喜一憂の声が響いた。







・『植生学』

植物系アイテムを採取しやすくなる、探索向けスキル。
しかし、植物に関する魔法、スキルを強化する効果も加わり、ドルイド御用達に。マーレはこのスキルを宿す護石を装備しており、農場運営をより効率よく進めている。


・『地質学』

採掘等で有用なスキル。本作では更に、地属性系魔法の強化効果も追加。
イビルアイにこのスキルを発動させると、ほぼ全魔法の火力が大きく向上する。


・『回復速度』

自然回復力を強化するスキル。本作では、MPの自然回復にも作用。
結果、多少の差異とはいえ、マジックキャスター系に特に有用なスキルとなった。
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