《竜》の満ちる世界   作:UNKNOWNと戦いたい

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01―死の支配者

 それは、明らかな異常であった。

 

「いきなり降ってきたな」

「何の前触れも無く………全く、不敬な空です」

(いや、天気にそんな事言っても仕方ないだろ………ああ、けど)

 

 鎧の隙間から流れ込む水の感触………新鮮であるが、同時に吹く暴風が邪魔だった。

 

「しかし、風が強すぎるな。どれ、魔法で変えてみるとするか」

 

 そう口にして、第六位階魔法《天候操作(コントロール・ウェザー)》を発動した。

 そう、発動したのだ。アイテムを一つ消費して、習得していない魔法を使った、その筈だ。

 

「な………!?」

 

 たった今、巻物(スクロール)が消え失せた白骨の手中を見下ろし、アンデッドがそう零す。

 

「何故………!?」

 

 眼鏡の悪魔、デミウルゴスが愕然となる中、モモンガと呼ばれたアンデッドは外からの足音に気付く。突然の暴風雨に加え、魔法が通じない未知の事態を前に警戒心を高めていると、先が視認し難い程の雨の中を、小柄な影が突き破り、転がり込んでくる。

 

「わ!?も、モモンガ様!?」

「マーレ!無事だったか!?怪我は無いか!?不審な人影は!?なにかに見られたとかは?!」

 

 マーレと呼ばれたダークエルフが赤面する中、モモンガは過剰なまでに彼を慮る。

 

「も、モモンガ様?あ、ああの、僕はだだ、大丈夫です、から」

「なら、急いで戻るぞ!魔法で変わらない天候となれば、最悪もあり得る!」

 

 ワールドアイテム。彼の居たゲーム、ユグドラシルにおいて、最強の力を有した200種の品。それによる効果であれば、魔法が通じないことも納得できる。そして、そうだとするならば、現在ソレを持たないNPC………かつて栄華を誇ったギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点たる墳墓に、役割を持って創造された者たちは、最も危険なのだ。

 

 全く未知の世界であることの再認識、そして警戒が、自身が感じていた重責をも忘れさせ、その身の安全への配慮を第一とする思考へと切り替わる。第一から第三階層まである墳墓エリアの全NPCに退避命令を下し、防衛拠点を第六階層に定める指示を続けて下した彼は、急ぎ宝物殿へと向かい、多大な精神ダメージと共にワールドアイテムを守護者の人数分回収、配布した。

 

 ―――――それが、昨夜の出来事である。

 そして現在、ナザリック地下大墳墓、第六階層の闘技場。

 

「勝負ありましたね。ここまできて、このドラゴンが敗ける道理がありません」

「流石、矮小な人間では、全く以て役に立ちんせんねぇ」

 

 そんな声と共に、モモンガの白骨の肉体に体を押し付ける二人の美女。

 対し、モモンガの内心は穏やかではない。原因は、彼が操作する【遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)】へと映し出された存在。風を自在に操り、瞬く間に村一つを消し飛ばして見せた、錆びたドラゴンにある。そしてそれは、他の者たちも察していた。

 

「このドラゴンが、異常気象の原因と見て間違いないでしょう」

「ドラゴンノ咆哮ニ合ワセテ、暴風雨ガ激化シテオリマス。間違イナク、強敵カト」

 

 そう、強敵―――何より、未知の存在なのだ。

 

(ユグドラシルには居なかったモンスターだ………対応を見るに、毒は有効だったんだろうけど)

 

 と、思考と共に他の者の意見に耳を傾けようと、顔を上げる。そして、気付く。

 

「セバス、コキュートスよ。どうやら、思うところがあるようだな」

 

 支配者として振舞い、老執事と巨蟲の異形に語り掛ける。その表情には微かな苦悩が見え、同時に彼らの創造主………モモンガの旧友たちの姿が、幻影の如く背後に見えた、気がした。無論錯覚であるのだが、彼らが何かしら思っている事は、創造主である二人を思えば明らかだった。

 

「………『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』」

「っ!?」

「モモンガ、様………」

「たっち・みーさんの言葉だ。そして、武人建御雷さんが居れば、きっと首を縦に振っただろう」

 

 重い腰を上げ、武器である杖を手に取る。

 

「行くぞ。最悪、あの連中を回収して撤退する」

「しかし、栄えあるナザリックに、人間を連れ込むなど………」

「私たちに無いのは、情報だ。彼らはそれなりの知識を持つようだ、喪うには惜しい」

(最悪、蘇生魔法の実験を………って、いかんいかん!人間相手に何考えてるんだ、俺は!?)

 

 自身の思考に冷や汗を流しながら、モモンガは魔法を発動。

 

「《転移門(ゲート)》」

 

 その先から吹き込む風に、雨に激戦の予感を覚え、彼は意を決し身を投じる。

 

 ―――そして、鋼鉄のドラゴンへと最強クラスの魔法を叩き込み、少女を回収したのだ。

 

「酷い怪我………待て。まさか、アンデッドか?」

「そ、そうだ。けど、それより、今は―――ッ!?」

 

 続けて、鈍い打撃音と金属音。

 

「むぅ………ッ!」

「硬イ、ナ………!」

 

 セバスの拳打が、コキュートスの斬撃がその身を捉えるも、鋼殻を砕くには、翼を斬り落とすには至らない。そこに至り、イビルアイは先程までの事象から判明した情報を伝えるべく、既に声を出すのすら辛い程に損耗した肉体を酷使し、力の限り叫んだ。

 

「そいつは特異個体の剛種だ!難易度にして300を超える怪物!それと、そいつの錆は―――」

 

 言い切る前に、暴風と共に錆鋼が撒き散らされる。最初に異変に気付いたのは、コキュートス。

 

「ナ………!?我ガ武器ガ!?」

「そいつの錆は、刃を朽ちさせる!研ぎ直せば済む程度だが、油断はするな!」

「命令、するなぁッ!」

 

 そして、モモンガに抱き止められ―――俗にいう『お姫様抱っこ』状態のイビルアイへの嫉妬の激情を、アルベドが戦斧に込めて振り抜く。その正体はワールドアイテム【真なる無(ギンヌンガガプ)】であり、破壊不可能の性質が刃の摩耗をも防いでおり、剛腕と併せてクシャルダオラへと痛烈な一撃を叩き込むことを成功させる。

 

「ギュアアアアアッ!?!」

「『清浄投擲槍』、喰らえッ!」

「あたしだって!」

 

 神聖属性の光槍が、デバフスキルを乗せた矢がその身に突き刺さる。驚愕、続けて憤怒を露わにした錆鋼龍は、燃え上がる激情と共に咆哮。その声量に離れた守護者ですら思わず耳を押さえ、付近の者はその暴風で吹き飛ばされる。

 

 イビルアイが称した通り、このクシャルダオラは特異個体にして剛種。特異個体というだけで、難易度が上がるというのに、加えて剛種………難易度300、つまりレベル100を超える強敵だ。ユグドラシルで言うレベル100ボスにも近い存在であり、如何に武具が整っていようと、ここまで攻め切れない存在なのだ。

 

「奴の弱点は殆ど無いも同然だ!魔法より物理で攻める方がいい!」

 

 そして、イビルアイの豊富な知識の通り。剛種と称されるに至った龍たちの多くは、通常の個体より肉体的な耐性が強化されており、戦う側が泣きを見る程………とはいえ、それを彼女が知るのは、長く生きているからこそ。そもそも、目撃例から剛種と判別する事すら難しい。

 

「死ねぇッ!」

「『羅刹』ッ!」

「ふんッ!」

 

 その情報をもとに、戦士組が苛烈に攻めるも、中々に倒れてはくれない。

 

「ここまでとは………《心臓掌握(グラスプ・ハート)》!」

 

 焦り、即死魔法を放てば、クシャルダオラは一瞬動きを止める………が、それだけ。

 

「流石に効いてくれないか。止むを得ん、お前たち!」

「ハッ!」

1()2()()()!」

(奥の手、効いてくれよ………!)

 

 モモンガの叫びに、ナザリック最強戦力の全てが、力強く応答。

 

『ハッ!』

 

 そして、奥の手たる切札を発動する。

 

「『The goal of all life is death(あらゆる生ある者の目指すところは死である)』!」

 

 死の支配者の背後に、巨大な時計が浮かび上がる。

 

「《真なる死(トゥルー・デス)》!」

 

 被害を抑えるべく、単体最強クラスの即死魔法を発動。そして、それを理解したクシャルダオラの攻撃が、抵抗が激化する。風の鎧が無くとも、古龍としての強さが衰える事は無く、その強さは間違いなく脅威そのもの。モモンガが奥の手を使う、という選択をしたのは間違いなく正解である反面、堂々と使ったのは大きなミスであった。

 

「ギュルアアアアアアアアッ!!!」

「っ、しまっ!?」

「モモンガ様ッ!」

 

 激化する暴風により行動を制限しながら、自身は飛翔。空のモモンガが流される程に強力な暴風の中を、クシャルダオラは平然と翔ぶ。地上から飛ぼうにも、風が強すぎて真っ当な飛行も難しく、追い付ける程の速度など出せる筈もない。

 

「させるものかッ!」

 

 そこに飛び出したのは、デミウルゴスだ。

 

「デミウルゴス?!」

「『悪魔の諸相:豪魔の巨腕』『おぞましき肉体強化』『鋭利な断爪』―――ッ!」

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)、《魔法盾(マジックシールド)》」

 

 その身を盾にしてでも、主を護り抜くという気概。それにマーレも応じ、デミウルゴスへと魔法による防御強化を施す。それでも尚、ステータス的に脆いデミウルゴスでは不安が残り、モモンガがその肩を掴み、反射的に自身を盾にせんと手を伸ばし―――

 

「やらせる、ものかああああああああああッ!!!」

 

 それは、最早根性でどうこうなる領域ではなかった。だが、その男は()()()()()()

 

「ガッ………ぐ、武技『閃光烈斬』ッ!」

「ギュルアアッ!?」

 

 その腹を大顎で噛み潰されながら、クシャルダオラの頭に激烈な斬撃を叩き込む。

 個として最強の、その武技による一撃は確かな手応えと共にクシャルダオラを怯ませ、ガゼフは先んじて落下、地上に叩きつけられる。デミウルゴスが、アルベドが、多くのNPCが驚愕、そして屈辱を抱く中、モモンガの背後の時計が最期の時を刻む。

 

「時間だ」

 

 そして、錆鋼龍の目から光が消え、大地へと叩きつけられる。嘘のように暴風雨が止み、雲が急速に晴れていく中、モモンガは静かに地上へと降り立つ。悠然と、或いは超然とした振る舞いに多くの者が目を奪われる中、彼は急ぎ足で、血反吐を吐き笑う男のもとへと向かう。

 

「ハ、ハハ。助け、られましたな………」

「お互い様だ。それよりも、その怪我を」

 

 と、虚空に手を伸ばし、アイテムボックスから赤いポーションを取り出す。

 

「それ、は………」

「いいから………いや、飲める状態では無いか」

 

 と、瓶を開け、ガゼフへと振りかける。ユグドラシルでも上に位置するソレは、見事ガゼフへと刻まれた致命傷を塞ぎ、完治にまで至らしめた。鎧が砕ける程の傷を受けていたガゼフが目を剥き、自身の体を見下ろす中で、モモンガは続けて手中のイビルアイに意識を向ける。

 

「それと、お前もだ」

「え?」

「《大致死(グレーター・リーサル)》」

 

 莫大な負属性の力が、アンデッドであるイビルアイの傷を急速に回復させる力となる。

 

「あ、ありがとう………ございます」

「気にするな。こちらも、色々と訊きたいことが出来たからな」

「ぷれいやーだから、ですか?」

 

 その言葉により、NPCたちが最大限の緊張と警戒を見せ、ニグンたちが驚愕の視線を向ける。

 

「知っているのか?!」

「は、はい。私の知る者はもういませんが」

「そうか」

 

 ふと思案する中、傷が癒えたガゼフが、静かに跪く。

 

「モモンガ殿」

 

 その姿勢と呼称に、NPCたちが少しばかり気を良くする中、モモンガは視線を下げる。

 

「私はリ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフと申します」

「り・えすてぃーぜ王国?」

「この一帯を取り仕切る国です」

 

 イビルアイが補足する中、ガゼフは言葉を続ける。

 

「この度の恩義、言葉では到底足りません。どうか、王都にて返礼させて頂けないでしょうか?」

「どうか、来て欲しい。あちらの方が、多くの情報が揃っていて、私たちならそれを開示できる」

 

 その提案に乗り、モモンガは首を縦に振る。

 

「いいだろう………デミウルゴス、コキュートス、セバス」

「「「は、ハッ!」」」

「お前たちを供として、王都とやらに向かう。他の者たちはナザリックに戻り、警戒に当たれ」

 

 本来ならば、全員を連れて行きたい。だが、未知の脅威がある以上、ナザリックを空ける訳にもいかない。戦力的には、今回ナザリックに待機させた者も含めて、ナザリック側の方が多く配置しているが、それでもどこまで保つか。

 

「我儘に付き合っていただき、感謝する………そうだ、ニグン殿」

 

 ガゼフの視線を受け、ニグンは首を横に振る。

 

「いや、我々は一度、本国に戻る。この度の件、急ぎ報告せねばならないからな」

「だろうな。特異個体であればまだしも、古龍の剛種だ」

「それほど珍しいのか?」

 

 モモンガの疑問への回答は、想像を絶するものだった。

 

「ああ。何より、今回のせいでヤツ以上の………覇種や烈種への懸念まで出来たからな」

 

 今回倒した、錆鋼龍以上………その言葉に、モモンガの顎が外れんばかりに、カクンと落ちた。




★設定

・現在のモンスター

基本、即死への無効耐性を持つ。


・剛種

最低難易度300の怪物たち。肉体的にも非常に屈強でありながら、外見での判別は困難。
剛種であると判別された場合、国どころか周辺諸国が一丸となるべき相手。


・特異個体

通常と異なる形質、性質を有する強力なモンスター。
通常より難易度が上昇し、剛種特異個体となれば300を超える。


・古龍

非常に長寿、且つ強力なモンスターたち。始原の魔法等が通じるか否かでの判別が主。
存在しているだけで周囲に多大な影響を与える為、出現の予兆として生物の大移動が見られる。
情報の伝達が早ければ、戦闘になる前に住民総出での大移動が主な対処法。

ユグドラシルに例えるならば、通常ボス以上レイドボス以下の存在。
耐性や対処法を熟知していても尚、討伐には手間がかかる。
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