にじさんじ▶︎パラライブ   作:大羽ひつじ

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オリキャラ、オリ設定注意。小説というよりシナリオです。


3-2, お花集め

〈七〉

 

日中。アルマル宅横の草原。風がそよぐ中、寸胴状(ずんどうじょう)の丸太に座ったアイデンが右腕を振り上げる。アイデンを挟んで、距離を取って対峙しているエクスとアルス。エクスはハエタタキを肩に掛け、アルスは本を抱えている。

 

アイデン「はじめ!!」

 

アイデンが腕を振り下ろす。

スタートダッシュを決めるエクス。アルスに一直線に向っていく。その額には二重丸が描かれた(まと)をつけている。また、アルスの背後にも的が設置されている。

 

アルス「ポアルカ!」

 

その宣言により、アルスの持っている本が展開される。魔法発動に伴って、鮮やかな光の粒が一瞬舞い、アルスの前方の地面から土が浮遊する。そしてそれらは密集し合い、次々と土の玉が空中で形成されていく。

エクスは警戒してブレーキをかける。

 

アルス「くらええ!」

 

土玉(つちだま)が次々と放射されていく。

エクスは後退しつつ、それらを跳んでかわし続ける。

その横で密かに、地面から小振りの土砲台が作られていることも知らずに。

 

エクス「ヘイヘーイ!そんなんじゃ当たりませんよ師匠!」

アルス「コノヤロー!」

 

完成する土砲台。土玉が発射される。

土玉が的めがけて、エクスの横っ面に迫っていく。

 

エクス「!?」

 

直撃する――的を守ったエクスの腕に。

体勢が崩れるも受け身をとるエクス。

 

エクス「っぶねえ!!」

アルス「きぃーー!当たれよー!!」

 

引き続きエクスの正面から土玉を放射していくアルス。

 

エクス「うわっ!ちょちょちょっ!」

 

今度はかわしながらも、アルスとの距離を詰めていくエクス。しかし、突如地面から突出した土の壁が、エクスの行く手に立ちふさがる。

 

エクス「うおお!?」

 

倒れ込んでくる土壁(つちかべ)。エクスは冷静に横に避け、アルスの元へひた走る。その先々で、次々と土壁が生成されていく。

それらが倒れてくる中を…そしてやがては、それらが倒れてくる前に、土壁達の間を縫って進んでいくエクス。アルスまであと一歩のところ、今度は足元から直接突出した土壁に乗せられ、エクスはそのまま上へと追いやられる。

その衝撃でエクスは体幹を崩し、土壁の上で手をつく。

 

エクス「!」

 

土壁から湧いた蔓植物(つるしょくぶつ)が、エクスの両手に絡みつく。

ちぎり取るエクス。今度は足にも絡みついてくる。

エクスはそれも振り払って、別の壁の上に飛び移るが、蔓はそこからも湧き出す。

確実にエクスの身動きを封じてくる蔓に抵抗が間に合わない。焦りを浮かべるエクスは、ふと見下ろす。

すぐ下の方で、こちらを見上げているアルス。その後ろには設置された的が。

エクスはとっさに足に絡んだ蔓を引きちぎる。

踏み込む。ふくらはぎの筋肉が引き締まる。

 

アルス「あ!」

エクス「ぉおらああ!!」

 

蔓を破って、土壁の上から飛び上がるエクス。

アルスの方へ飛び込んでくる。

本で頭を庇い、目を固くつむるアルス。

エクスはアルスを飛び越え、その背後に着地する。

 

アルス「!」

エクス「よっっ」

 

そして、その目と鼻の先には的が。

 

エクス「っしゃあああ!!」

 

エクスは的に向って拳を放つ。

アルスはその動きを視界に捉えている。光の粒が(ほの)かに舞う。

水音。きょとんとするエクス。

エクスの拳は、浮遊する水の玉に受け止められ、的に届いていない。

 

エクス「…え?」

 

水の玉はそのまま拳を取り込む。

 

エクス「お!?」

 

新たな玉が発生し、エクスの両手両足を取り込んで拘束する。

 

エクス「おおお!?」

 

そのまま水の玉達に空中へと引っ張り上げられ、アルスの目の前に宙ぶらりんで晒されるエクス。

アルスは悪い顔をし、本を持った手を振りかぶる。

 

エクス「え!?ちょ!師匠!」

アルス「どぉりゃあー!!」

エクス「ぉうえええええ!!」

 

ゴンッ!っと痛快な音に、草原のどこかで野ウサギがびっくり飛び跳ねる。

 

アイデン「そこまで!」

アルス「ぃやったあー!」

 

ご満悦のアルス。

 

エクス「ち、ちく…しょう…」

 

顔に一本、本の背の痕が、的からもはみ出てついているエクス。

 

アルス「ぼっくのかちー!ぼっくのかちー!ふぅぅうう!!」

 

アルスは、宙ぶらりんのままのエクスの周りを飛び跳ねる。

 

エクス「降ろせー!降ろせえー!」

アルス「うぇ~~い!」

アイデン(はじまった…)

 

額を押さえるアイデン。

アルスは逆さのエクスを覗き込む。

 

アルス「ねーえぇ?勝ったと思ったあ??ねえねえねええ???」

エクス「ちくしょー!絶対許さねえ!!」

アルス「えび先輩、よっしゃーだって!よっしゃー!はずかしーねえ!ぷぷぷ!」

エクス「くそがあ!覚えとけよ師匠!」

アルス「負け犬の遠吠えがよく響いてんねえええ!?」

アイデン(どこでそんな煽り文句を…)

 

傍らであきれ果てるアイデン。

 

アイデン「こらぁ!口が悪い!みっともないからやめなさい!」

 

〈八〉

 

アイデンの前に並んで座るエクスとアルス。

 

アイデン「まずはアルス」

アルス「あい!」

アイデン「各属性、発現までの速度が上がったね。修行の成果がよく出ている。特に『水』は操作も含めて見事だった。アルスの得意分野かもしれないね」

 

得意げなアルス。

 

アイデン「戦術面も工夫があって悪くはなかった。ただ、今のエビオの身体能力には遅れをとっていた印象だ。ふむ、次からは複合魔法の習得を目指そうか」

エクス「おー」

アルス「え?知ってんの?」

エクス「いや全然」

 

ガクッとなるアルス。

 

アイデン「ハハッ、複合魔法というのは、二種類以上の属性を組み合わせて発現させる魔法のことを言う。単純に今よりも属性の理解と魔法の練度が必要になってくるけど、アルスならできる」

アルス「あい!」

 

まっすぐ手を挙げ、快活な返事。

 

アイデン「うん。ああそれと…」

 

アイデンはアルスにジト目を向ける。

 

アイデン「くれぐれも本は大切に扱うこと…」

アルス「あ、あい…」

 

小さくなるアルス。「フッ」と一笑するエクスをにらみつける。

 

アイデン「次にエビオ」

エクス「はい!」

アイデン「率直に言って、動きに無駄が多い」

エクス「うっ…」

 

一笑するアルス。

 

アイデン「今の試合、君は十分勝てたぞ。冷静さを欠き、力任せ勢い任せに戦ったのが敗因だ」

 

小さくなるエクス。

 

アイデン「確かに君は以前とは違う。しかし、どのような瞬間においても、己の研磨(けんま)を続けることを忘れてはいけない。いいね」

エクス「はい!先生!」

アイデン「うむ。よし、今日はこんなところかな」

 

アイデンは寸胴丸太に立てかけた杖を手に取る。

 

女の子「アルスちゃーん!」

 

村側の方の丘下から、六、七人、女の子達が手を振ってやってくる。

手を振り返すアルス。

 

〈九〉

 

アルマル宅一階。ベッド前。

杖をつくアイデンを支え、ベッド前へと案内するエクス、アルス、女の子達。

幼女がベッドに飛び乗り、掛け布団をめくって待機する。エクスに杖を渡し、ベッド上に、足をのばして座るアイデン。幼女が掛け布団をアイデンの足に掛ける。

ベッドから降りる幼女。アイデンはみんなに、

 

アイデン「どうもありがとう」

 

そしてアルスの方を向き、

 

アイデン「じゃあ、いってらっしゃい」

アルス「うん!」

 

アイデンに抱きつき、顔をうずめるアルス。その頭に手を添えるアイデン。

 

アイデン「みんなも、娘をよろしく頼むよ」

女の子達「はーい!」

 

アルスはアイデンから離れ、本を抱えて女の子達と玄関の方へ。

 

アルス「夕方の前に帰ってくるから!ちゃんと寝ててね!」

アイデン「はいはい」

 

外へ出かけていくアルス達。

ひらひらと手を振って見送るアイデン。エクスもその横で見送る。

一息つくアイデン。

 

アイデン「それで?何か聞きたいことがあるのかい?」

エクス「え?あ……」

 

口をつぐむエクス。

 

エクス「……はい」

 

エクスは思案顔でしばし黙る。

……口を開くエクス。

 

エクス「…なんて言ったらいいんですかね。今より強くなる、コツ?みたいのを聞きたくて…違うな。なんて言うか、今よりもっと、早く強くなるにはっていうか…」

アイデン「強くなるのが上手くなりたい?」

エクス「それです!あー!めっちゃそれです!」

アイデン「ふむ…残念ながら、そういった感覚的なことは、誰かの口から教えられるものではない。日々の鍛練の中で、君自身が掴んでいくものだ」

エクス「…なるほど」

 

思案顔になるエクス。

 

アイデン「焦っているのかい?」

エクス「……そうかも、しれないです」

 

自分の両手の平を見つめるエクス。

 

エクス「先生のおかげで、前より確実に強くはなれましたけど、まだまだ、もっと強くならなきゃダメだなって。結局先生にも、一度もちゃんと勝てませんでしたし。それに……」

 

エクスは両手に握り拳を作る。

 

エクス「もう…何もできないのはいやなんで」

アイデン「だったらなおさら、今日のはいただけないな」

 

アイデンは人差し指を立てる。

 

アイデン「強さとは、立ちふさがる壁を乗り越えていく力だ。それは筋力や武技だけではない」

 

その指をエクスの方へ。

 

アイデン「知識に知恵、取り囲む環境、更には――」

 

一差し指が、エクスの胸に触れる。

 

アイデン「心の形まで」

 

アイデンは指を離し、エクスの目を見て微笑む。

 

アイデン「焦ってばかりいると、君は少年のままだよ」

 

エクスの頭に手を添える。

 

アイデン「君の中にある、君だけの強さ…それが理解できれば、何か掴めるかもしれないね」

エクス「はい……」

 

エクスの頭から手が離れる。

 

エクス「ありがとうございました。先生」

 

頷くアイデン。

エクスは玄関へと向っていく。

 

アイデン「エクス」

 

その背中を呼び止める声。反射的にエクスは振り向く。

 

エクス「今…名前…」

 

柔らかい笑みを浮かべているアイデン。

 

アイデン「大丈夫。君はいずれ誰よりも強くなる」

 

頬が、赤くなるエクス。

 

アイデン「僕が保証する」

 

アイデンはそう言ってエクスに笑いかける。

エクスの顔に、笑顔が湧き上がる。

 

エクス「はい…!」

 

〈十〉

 

風そよぐ、森林横の原っぱ。

朧雲(おぼろぐも)が張った空の下、輪になって座っているアルス達が見える。

ちっちゃな掌の上で、円を描いて漂う草花。縫い合わさって、小振りな花冠になる。

 

女の子達「おお~」

 

その様子を食い入るように見つめる女の子達。

 

アルス「できた…!はい」

 

アルスは完成した花冠を幼女に差し出す。

幼女は花冠を受け取り、自分の頭に乗せてみる。頬を染めてはしゃぐ。

 

女の子「すごーい!」

子供女「すごいよアルスちゃん!帝都でお店開けるよ!」

 

はにかむアルス。

 

天パ娘「ねぇねぇ!お花いっっぱい集めてさ、いっちばんおっっきいの作ろうよ!」

女の子「お~いいね~!作れそう?」

アルス「うん。できるできる」

短髪娘「よし、じゃあみんなで手分けしてありったけ花集めよう!」

一同「おー!」

 

一同、天に拳を掲げる。

 

パウロ「アルスちゃーん!」

 

女の子達が別々に花の探索に向かう中、声をかけられるアルス。

パウロと他の男の子達が二、三人、小走りで近づいてくる。

膝に手をつき、アルスに目線を合わせるパウロ。

 

パウロ「エクスの奴どこに行ったか知らない?」

アルス「ママと一緒かも。僕の家」

パウロ「んー、魔法使い様のところはさっき行ったんだけど…そっか。ありがとう!」

 

パウロはアルスに軽く手を振り、他の男の子達とその場を離れる。

 

パウロ「今日も四人で遊ぶかー」

 

パウロの隣にいる坊主頭が小石を拾う。

 

坊主頭「あいつ、最近一人で何やってんだろうな」

 

そう言って小石をどっかに投げる。

 

パウロ「…多分…修行じゃね?」

坊主頭「いやいや、修行の後の話」

パウロ「うん。修行の後も、一人で修行してんじゃねえかなぁ」

坊主頭「はあ?どういうこと?」

 

腕を組み、首をかしげるパウロ。

 

パウロ「うーん。俺もよくわかんねえけど…」

 

少し考える様子を見せると、パウロは腕を解き、(かす)かに笑顔を見せる。

 

パウロ「まあいいじゃんか。また誘おうぜ」

坊主頭「おう」

男の子「そうだな」

 

〈十一〉

 

森林の奥。準備体操を終えるエクス。

 

エクス「っし…行くか」

 

エクスの目の前にそびえる切り立った崖。

下部辺りの岩肌には、何本もの一文字傷が、不規則な間隔(かんかく)をおいて縦一列に刻まれている。

エクスは金属製のナイフの()を口にくわえて、崖から数歩距離を取る。

垂直に何度か軽く跳ぶ。四度目の着地の瞬間、エクスは助走を始める。

崖に加速して接近し、その手前で踏み込む。エクスは跳躍し、刻まれた一文字傷を一、二本越えて崖に飛びつく。

上を見上げ、崖をよじ登っていくエクス。

木々の葉が擦れ合う音が聞こえ、その後にやってくる強風。それに煽られ、エクスは一度顔を下げて、崖に張り付いたまま静止する。

風の収まりを待つことなく、エクスは再び顔を上げて、目先の岩壁に手をかける。ふと、斜め上に目線がいく。

エクスは何かを見つける。

そちらの方向へと、次の手を伸ばす。

 

〈十二〉

 

アルマル宅一階。

ベッドの上で身を起こしているアイデン。

 

アイデン「皆様、昨夜からの急な呼び出しにも(かか)わらず集まっていただき、誠にありがとうございます」

村長「して、話さなければならないこととは。アルマル殿」

 

部屋の中には、ベッドの横で椅子に腰掛ける村長、エクス両親、パウロ父をはじめとした村の要人が数人集まっており、一同はアイデンに注目している。

アイデンは視線を落とし、一度だけ、深く、ゆったりと呼吸を置く。

そして語り出す。

 

アイデン「皆様と出会ってから今日まで、騙し騙しやっては来ましたが……」

 

自らの掌を、(かす)んだ瞳で見つめるアイデン。

 

アイデン「この命も、とうとう限界のようです」

 

一同は決して小さくはない反応を示す。

顔を上げ、一同を見渡すアイデン。

 

アイデン「今日皆様にお集まりいただいたのは、私が死んだ後のことについて、話しておきたかったからです」

 

――――――――――――

 

森林横の原っぱ。夕方の前。

愛くるしい花が幼い手によって摘み取られる。

笑顔の幼女は、摘み取った花をもう片方の手に作られた花束に加える。ふと、何かに気づき、足元を見る。

 

アイデン『まず、ここ一帯を(おお)っている結界についてですが、私の死後も消えることはまずありません。その点はどうかご安心ください』

 

幼女の靴の上を、暗く赤い色をしたか細い煙がつたう。

幼女が煙に手を伸ばすと、煙は早々に散り、幼女の頭上に逃げる。

興味津々に煙を目で追う幼女。

宙で揺らめく煙は、柔らかく形を変えていき、やがて一輪の花を()す。

目を輝かせる幼女。

幼女は花に手を伸ばす。しかし、途端に花は元の煙に崩れ、幼女の手から逃れる。

するとまた、幼女から少し離れたところで、煙は花を咲かす。

 

アイデン『以前私が、結界の維持には聖剣が一役買っている、と言ったことを覚えておいででしょうか?』

 

追いかけ、手を伸ばす幼女。その度に散っては、また別の場所で花を咲かす煙。それを繰り返し、誘われるように幼女は森の方へ。

それとは別の場所で花を摘んでいたアルス。森がある方向を見たとき、ふと気づく。

幼女が、森の中へ入っていく。

アルスは向う。

 

アイデン『小難しい説明は省きますが、要するにこの結界は、発動時から現在まで、聖剣が自ら動力を補充、循環させ、皆様を守っている状態なのです。それは私がいなくなったとしても――』

 

――――――――――――

 

パウロ父「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

アルマル宅一階。パウロ父がアイデンの話しを(さえぎ)る。

 

パウロ父「そんなあっさり話し進めないでくださいよ!死んじまうって、まだなんとかなりますよ!」

アイデン「……」

 

口をつぐむアイデン。

その様子を(いたわ)しげに見つめる村長。

 

要人1「そ、そうですよ!娘さんだってまだあんな小さいんですから!弱気になる前に、また元気なる方法、一緒に探しましょうや」

エクス母「やっぱり、なんとかして帝都に行きましょう?きっといい薬も見つかるはず……」

アイデン「……」

 

微かに、首を横に振るアイデン。

 

アイデン「この死は、もはや逃れようのないものです。なぜかそれだけははっきりとわかります」

 

一同は言葉を失う。

 

アイデン「もともと…ここを訪れるよりも前から、そう長くはない体でした。それが自分でも驚くほど生きられた。もう、これ以上の贅沢は許されないでしょう」

 

言葉を続けるアイデン。

 

アイデン「皆様には、感謝してもしきれません。私たち母娘を本当によく支えて下さりました。それなのに、結果的には皆様を結界の中に閉じ込める形となってしまいました。申し訳ございません」

村長「何をおっしゃいますか!あなた様が謝るようなことなどは何一つございません!」

 

膝に掛かった布団を握る、か細い両手。

 

エクス父「その通りです。今日皆と暮らせているのも、あなたのおかげだ」

 

(うつむ)いているアイデン。

 

アイデン「……ありがとう…ございます。私には、勿体(もったい)のないお言葉です……」

 

沈黙が漂う。

一同の表情を失意が覆う。

 

アイデン「最後に……」

 

その言葉で、一同は改めてアイデンに注目する。

 

アイデン「一つだけ……どうか一つだけ…どうしても助けてほしいことがございます」

 

立ち上がる村長。他の者も、その後ろでアイデンに傾聴(けいちょう)している。

 

村長「なんなりと」

 

――――――――――――

 

アイデン『我が愛娘を…』

 

森林の入り口。そこに立ち、中を見渡すアルス。

 

アイデン『アルスのことを、お願いしたいのです』

 

森の中、幼女が背を向け立ちすくんでいる。ぶら下がった両手には力がこもっていない。

幼女に近づき、肩に触れるアルス。その時に、幼女の手から花束がすり抜けて落ちる。

拾おうとしゃがみ込むアルス。

森林の奥の暗がりから一気に飛び出す煙。

しゃがみ込んでいたアルスは驚く間もなく全身でそれを浴びる。

 

アイデン『あの子だけが、心残りです』

 

煙は絶えず立ちこめ、辺り一帯に漂っている。

その暗く赤い瘴気が覆う空間の中、糸で操られるように立ち上がるアルス。その瞳からはもはや光が消えている。

隣に立つ幼女もまた、虚ろな目をしている。

手を繋がされる二人。

瘴気が二人の背中を押す。

アルスと幼女は、足をずって歩を進める。地面に散らばった花々も踏みつけて。

 

アイデン『どうか皆様の手で、あの子のことを支えてあげてほしいのです』

 

アルスと幼女は、瘴気に導かれ、森の奥へ。奥へ。

 

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