にじさんじ▶︎パラライブ   作:大羽ひつじ

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オリキャラ、オリ設定注意。小説というよりシナリオです。


3-5, 生ける道

〈十九〉

 

森林内部。破壊音と共に舞う土煙(つちけむり)

その中から、巨怪(きょかい)悪辣顔(あくらつがお)が浮かび出てくる。

息を荒げて周囲を探る巨怪。吐く息には怪火(かいか)()が混ざっている。

巨怪の目線──動物的存在は視認できない。

巨怪はしきりに物色を繰り返し、その場を通り過ぎていく。その脇で、地面の起伏(きふく)によってできた物陰に背を預け、息を潜めているエクス、アルス、セポネ。エクスとアルスは巨怪の気配に意識をそばだて、セポネは目をギュギュッと閉じて身を縮こまらせている。多少鼻呼吸(はなこきゅう)が弾んでいる程度のエクスに対し、アルスとセポネは息切れが目立っており、二人は口元を両手で(おお)い呼吸音を隠せるだけ隠している。

エクスは物陰から顔を覗かせて、巨怪が別方向に向っていくのを確認する。

 

アルス「はぁ…はぁ…ねぇ、」

 

呼びかけに反応するエクス。

 

アルス「僕たち…はぁ…これどこに向ってるの…?」

 

エクスは真正面を指さす。その方向を見やるアルス。

 

エクス「あそこにある川です。あの光ってる場所見えます?」

 

エクスの指す先に、星明かりに照らされて(きら)めくものが見える。小川の水面(すいめん)だ。

 

アルス「うん、見える」

エクス「あそこまで行ければ、後は川を(さかのぼ)っていけば村の近くまで戻れます」

アルス「あぁそっか!」

エクス「だから、ぜっったいにあいつにバレないように行きましょう」

アルス「わかった…!」

 

口元を覆いながら(うなづ)くアルス。隣でセポネもお話を聞いている…が、そこに突然、木枝(きえだ)がへし折れる音と共に衝撃が降りかかる。

 

アルス「うわああ!!」

セポネ「いやあ!」

 

気づくエクス。咄嗟(とっさ)にアルスとセポネの頭を押さえて()せさせる。

三人の頭上を、木が丸々一本かすめて通り過ぎていく。

木が転がり飛んでいく(さま)戦慄(せんりつ)する三人。

金切り声──それがする方向に警戒を向けるエクス。

巨怪が、魔手(ましゅ)で鷲掴みにした木一本を引きちぎって放り投げてくる。

恐る恐ると立ち上がろうとしているアルスとセポネに、

 

エクス「伏せて!」

 

シュバッと伏せるアルスとセポネ。

二人に続きダイビンぐ伏せるエクス。三人の頭上を、地面の起伏で跳ねた木が転がり飛んでいく。

エクスは伏せたまま顔だけ跳ね起こし、(しゅん)で転がっていく木の方を確認して、アルスとセポネに呼びかける。

 

エクス「走って!!」

 

アルスは跳ね起きてセポネの手を掴み、一緒に駆け出す。

巨怪は吠えて威嚇しながら向っていく。

息せき切って、(おのの)きながら後方を確認するアルス。

エクスが、向ってくる巨怪を待ち構えている。

急停止するアルス。それに振り回されるセポネはもはや混乱一色。

 

アルス「えび先輩!!何してんの!!?」

 

待ち構えながらも、緊張と緊迫に(とら)われているエクス。巨怪に意識を向けつつアルス達の方に、

 

エクス「川行ってください!!こいつ引き留めるんで!!」

 

耳を疑うアルス。

 

アルス「何言ってん──」

エクス「早く!!」

 

とエクスは振り向き様に言葉をぶつけるが、その刹那(せつな)を狙って、うねる魔手がエクスに襲い伸びてくる。

向き直るエクス。自身の危機に気づく。

 

エクス「―やっば!!」

 

反射的に右斜め後ろにのけぞり間一髪で魔手を回避するエクス。魔手の一撃はそのまま地面を(えぐ)り飛ばす。

悲鳴まがいに叫ぶアルス。

 

アルス「先輩!」

 

エクスは一目散に魔手と巨怪から距離を取りながらアルスとセポネに怒鳴る。

 

エクス「早く行け!!」

 

その語気(ごき)に思わずたじろぐアルス。動揺して体が固まり、(まど)いが隠せない。しかし、アルスは振り切るように背を向け、セポネと共に走り出す。

セポネを連れてひたすら、ひたすらに走る。まっすぐ前にだけ向けられたその目から涙を落として。

体の岩を(きし)ませて巨怪が突進してくる。

すぐさま回避に入るエクス。巨怪はそのまま木々に突っ込んでいく。

回避で飛び込んだ先で受け身を取るやいなや、エクスは決して巨怪から目を離すことなく川とは別方向に逃走する。その表情に余裕は無い…が、焦りも無い。

巨怪は折れた木々を振り落としながら(ひるが)り、滅多矢鱈(めったやたら)にエクスを追う。

 

エクス「エグいエグいエグい!!」

 

(ひづめ)が踏み荒らし、獣爪(じゅうそう)(くう)を裂き、魔手が掴みかかり、巨怪の猛追(もうつい)が続いていく……続く、ということは、それらの攻撃が標的を一切捕らえていないということ。猿のような身のこなしで、エクスは巨怪の暴攻(ぼうこう)をかいくぐり続けている。あと一歩遅ければという場面でも、エクスはその一歩を踏み外さない。

生まれた隙をつき巨怪の足下(あしもと)に潜り込むエクス。十数本の多足(たそく)の間を()うように走り回る。

翻弄(ほんろう)される巨怪。やがて多足を絡ませバランスを崩し、土埃(つちぼこり)を立てて前のめりに倒れ込む。エクスはその間に巨怪の後足下(うしろあしもと)から抜け出す。

そして巨怪の後方へと離れて距離を確保し身構える。

目を見開いて注視し、意識的に口での呼吸を繰り返して弾んだ息を(なだ)める。ふと、表情に余裕がちらつく。

ようやく重い体を立ち上げエクスの方に翻る巨怪。荒れる(うな)り声。標的を(にら)みつける、その両眼部分(りょうがんぶぶん)から漏れ出ている怪火は(たぎ)りを増す。

咆哮(ほうこう)()()らし、怒り狂いながらエクスに突っ込んでいく。

待ち構えるエクス。頬を汗が伝う。

巨怪がエクスに迫り来る。

エクスは見極め、回避体勢に入ると、

巨怪のかっ開いた鰐口(わにくち)が降りかかるタイミングで、回避方向へと体を運ぶ。

──しかしその瞬間、巨怪の体に蒼電(そうでん)が走る。苦悶(くもん)する巨怪、動きが止まる。

咄嗟に回避を中断するエクス。すぐそこには、蒼電に弱る巨怪の顔面がある。

…エクスは(はや)る。

足に踏ん張りが入る。瞬間的に腰から上半身にひねりをかけて、その勢いのまま──

 

エクス「はああっ!!」

 

──全力の拳を巨怪の頬にたたき込む!

 

……岩と拳がぶつかる音……だけ……巨怪は、びくともしていない。

エクスは唖然とする。

拳と頬の間に、人間の血がにじむ。

蒼電は既に止んでいる。巨怪の目は、既にエクスを捕らえている。

 

エクス「ぁ…」

 

エクスの血の気が引きかけたその時、巨怪の魔手がその胴を鷲掴んでかっ(さら)う。

 

エクス「がっ──!」

 

魔手はその勢いでエクスを木にたたきつける。

 

エクス「―!」

 

衝撃で意識が飛びかけるエクス。木ごと魔手に押さえつけられ、(はりつけ)状態にされる。

エクスを凝視(ぎょうし)する巨怪。首を伸ばし、顔面をにじり寄らせる。頬まで裂けた口がいかにも不気味に微笑(ほほえ)む。

 

アルス「せんぱぁあい!!」

 

エクスの状況に気がついたアルスが、血相を変えて声を張り上げる。

意識を戻し、逃れようともがくエクス。

 

エクス「くっ!くそっ!こっの!!」

 

両足をばたつかせ、自由な方の片手で魔手を殴りつける。しかしそれらの抵抗は全くもって意味を為さない。そしてエクスは気がつく。それが徐々に近づいてきていることに。

その、目と呼べる二つ空洞とエクスの目が完全に合う。

蛇に睨まれた蛙。思考の停止。

巨怪の吐息(といき)が、エクスの頬を()でる。

エクスの瞳が恐怖に支配されていく。乱れる呼吸、止まない耳鳴り、噴き出す冷や汗。木にはりつけられているにも(かか)わらず、エクスはなんとかして後ろに身を引こうともがく。その間も、怪火が漏れ出る巨怪の空洞から目を離すことができない。

 

エクス「ぁ…あっ…」

 

呼吸の乱れが増す。今にも悲鳴をあげそうになった瞬間、接近する巨怪と…いつかの自分を殺しかけた尖角(せんかく)の怪物が重なる──

 

エクス「ああ……!!」

 

魔手に力がこもり、怪火がにじみ()く。

 

エクス「──ッ!」

 

呼吸が止まり、体がこわばるエクス。一気に血の気が引き、垂れ落ちた冷や汗が(またた)()に乾く。

 

エクス「──―カハッ!──ハ!」

 

魔手が掴んだ胴の部分から、エクスの水分が消失していく。

 

エクス「──―ァ──ァア!―」

 

巨怪はもがき狂うエクスを観覧している。

 

エクス(だめだ……)

 

緩やかに、時間をかけて、乾きがエクスを浸食(しんしょく)していく。

 

エクス(や…やだ……嫌だ…)

 

とうとう首の根元が干涸(ひか)らび始める。皮膚が粉を吹いてかさつき、しわがれ、色と潤いを失っていく。

 

エクス(いやだ……やめて……)

 

首から下は飢えた老人のよう。エクスの目の焦点はもはや合っておらず、意識が飛んでいく。

 

エクス「──や―が──ご──ころざ、ないで──…」

 

 

 

『それだけはできないな』

 

 

 

晴天の昼下がり、アルマル宅横の草原(くさはら)。乱れの無い構えをとっているアイデンに対して、息も絶え絶えでへばり倒れているエクス。小鳥のさえずりが聞こえてくる。

アイデンは構えをとったまま()く。

 

アイデン「手加減はできない。それは君を死なせることになる」

 

起き上がるエクス。土と汗にまみれたその顔はどこか不満げだ。

一旦アイデンは構えを解く。

 

アイデン「エビオ。これは心の鍛練(たんれん)でもあるぞ。いつか…君が本当の戦いをする時、そこに手加減なんてものが存在すると思うか?ありえない」

 

首を振るアイデン。

 

アイデン「あるのは勝つか負けるか、生きるか死ぬかだ」

 

エクスの瞳を、アイデンはじっと見つめて問う。

 

アイデン「君も、本当はわかっているだろう?」

 

一度、エクスはアイデンから目線を外す。しかしまもなくしてエクスは思い立った表情を見せ、再びアイデンの瞳を見返し、小さく頷く。

息はまだ整っていないが立ち上がり、どこかぎこちない構えをとる。

エクスの応えに対し、満足げに微笑むアイデン。その後、パッと片手(かたて)(ひら)を開いて、五本指を見せる。

 

アイデン「ざっと五十だ」

 

?を浮かべるエクス。

ニヤッとして答えるアイデン。

 

アイデン「僕が今日君を殺せた回数」

エクス「゙うぇっ」

 

エクスの反応に思わず笑うアイデン。そして、その笑いを収めると構えに移っていく。

 

アイデン「今のうちだ。死ねるだけ死んでおけ」

 

流水の如く、自由に移り変わる挙動…

 

アイデン「そしてその度に、少しでも強くなって(よみがえ)るんだ」

 

…して辿り着くは、根を張る大木の如き不動の構え。

 

アイデン「僕から一撃を…君が生きる道を勝ち取れ…!」

エクス「はい!」

 

エクスは、臨戦態勢に入る。

 

アイデン「来い!!」

 

次の瞬間、(あお)電流(でんりゅう)が巨怪を痛めつける──ここは、暗き森の中。

蒼電は魔手まで伝い、その力を弱め、怪火を(おさ)え込み、そのままエクスに干渉(かんしょう)する。

 

エクス「────ぶはぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

エクスに、急激に呼吸が蘇り、干涸らびていた体にある程度の潤いと生気が戻る。

項垂(うなだ)れて必死に酸素を取り込みながらも、巨怪を上目でにらみつけるエクス。

蒼電が治まりかける巨怪。しかし今度はその右横っ面に土玉(つちだま)が二、三発飛んできて命中する。

右方向を向いて威嚇する巨怪。

そこには、本を展開し土砲台(つちほうだい)を三つ構えたアルスが、泣きながら巨怪に敵意を向けている。と、その後ろでアルスにしがみつきながら(おび)えているセポネ。

涙を振り払い叫ぶアルス。

 

アルス「やめろぉ──!!」

エクス「ぅおおおああああああ!!!」

 

それに呼応(こおう)するように、足を振り上げるエクス。

力一杯の蹴りを放つ──巨怪の顔はアルスの方を向いており、エクスに対し左半顔(ひだりはんがん)を向けている──その蹴りが、巨怪の左目の空洞へとぶち込まれる。

目と刺さった足の隙間から、怪火が暗赤(あんせき)(けむり)に変化し、血のように吹き出る。

金切り声を張り上げて、(もだ)え苦しみだす巨怪。エクスを(ほう)って手放し、アルス達とは明後日の方向に暴れ散らして行く。

放り投げられたエクスが、アルス達の方に飛んでくる。慌てるアルスの周囲で“天の血(デウス)”が一瞬舞う。

子供一人収まる程の水のクッションが発生し、エクスを受け止める。そのまま衝撃を吸収するとすぐに形を崩し水に戻るクッション。

横たわるびしょ濡れのエクスに、アルスとセポネが駆け寄ってくる。

 

アルス「えび先輩!!」

セポネ「大丈夫?!」

 

エクスは苦しげにアルスに手を伸ばす。

 

エクス「み…みずぅ…もっとみずぅ…」

アルス「!…ポアルカ!」

 

本を(かか)げ、空中に水の塊を作り出すアルス。それを水源とし、エクスの顔面に水がなだれ込む。

 

エクス「おばばばばばば!!」

 

しばらく水を浴びせる。

 

エクス「おばばばばばばあ」

 

まだ浴びせてる。

 

エクス「ばばばばばばばあばああb」

 

ハッとするセポネ。

 

セポネ「お、溺れちゃう!」

 

ハッとするアルス。

 

アルス「ごめん!」

 

慌てて魔法を解くアルス。崩れた水の塊がそのまま降りかかり三人共々びしょ濡れ。

 

セポネ「ふぇぇ…」

アルス「うへぇ…」

 

頭を振って水気を払うセポネ。本と、セポネの花冠から魔法で水気を抜くアルス。そして、

 

エクス「ぶっはぁ!!はぁ…はぁ…」

 

上半身を飛び起こすエクス。水気を取り戻し、噛みしめるようにしてまともな呼吸を繰り返す。ハッとし、左胸に手を当てると、表情が衝撃に染まっていく。

 

エクス「………生きてる……おぉおれ生きてるぅぅ!!」

アルス・セポネ「生きてるー!!」

 

横でバンザイするアルスとセポネ。

二人は号泣して、座り込んでいるエクスに寄り添う。口を開け呆然(ぼうぜん)としっぱなしのエクス。

 

エクス(生きた…生きれたんだ……)

 

──よぎる。アイデンの姿。

 

エクス(……いや、違うな……)

 

開いた口を閉じ、左胸に当てた手を優しく握り込む。

 

エクス(……蘇ったんだ)

 

金切り声が響き渡る。三人の視線が一斉に同じ方向に向けられる。

木々に体をぶつけ、顔面を地面に擦りつけ、悶え狂っている巨怪の姿。

その様子に対し、セポネは怯え、アルスは恐れ、エクスは観察をする。

 

アルス「あいつ、やっぱり効いてるみたい」

エクス「はい。目が弱点だったみたいです」

アルス「あ…そっちじゃなくてね、結界の方」

エクス「結界がですか?」

 

アルスに顔を向けるエクス。

 

アルス「そう。さっきからバチバチってなって苦しんでる」

 

エクスは再び視線を巨怪に戻す。

 

エクス「…弱ってはいるんだな、あれで」

 

巨怪を凝視し、観察をし続けるエクス。

 

セポネ「ねえ、早く逃げようよぉ」

 

アルスの袖を掴み、不安げに訴えかけるセポネ。

 

アルス「うん!」

 

アルスはエクスにも、

 

アルス「先輩逃げよう?」

 

立ち上がるアルスとセポネ。エクスも続いて立ち上がる…しかし、黙ったまま神妙に巨怪を見つめ続けている。

 

アルス「先輩??」

 

…ふと、エクスは口を開く。

 

エクス「師匠、」

 

続けて言う。

 

エクス「めっちゃアホみたいなこと言っていいですか?」

 

怪訝(けげん)な表情を向けるアルス。

 

アルス「…なに?」

エクス「あいつ、今倒しません?」

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