〈二十七〉森林の奥、そびえる崖の前
歯も使って、自身の腕に木製の防具から伸びる紐を縛りつけるエクス。
まなざしを真ん前に向ける。
エクス「よし、オーケー」
崖を背にして立っているアルス、それを受けて、
アルス「おっほん、」
と咳払いを一つ。
アルス「…えーそれではこれより、エクス・アルビオくんの、立派な戦士になれたかどうかを決める卒業試験を始めたいと思いまーす!」
エクス「いえーい!!ヒューヒュー!いいぞししょー!」
アルス「はいそこ静かにー!」
はしゃぐエクス、アルスに指さされる。
アルス「えーそれじゃあ試験のルール説明をしまぁす!」
改めて喋りだすアルス。
シュビっと、背後に設置された
アルス「この
ビシッと、一本指を立てる。
アルス「どーんと一発入れたら合格でーす!…………以上でーす!」
エクス、拍子の抜けた顔をするが、まもなく何かを察する。
エクス「なつかしーですね」
アルス「そうだね」
と、アルスも微笑む。
エクス「あれ?あの時って確か俺が勝ったよね?」
アルス「ちげぇよ!笑 宙ぶらりんにされた奴がなにほざいてんだよ!」
エクス「あれぇ?そうだっけ?」
アルス「そうだよ!笑」
笑顔を挟んで掛け合う二人。
エクス「ってことはただじゃ一発入れれないってことですよね?」
アルス、エクスの問いにさも当然と、
アルス「うん。僕が『本気』で邪魔する。動けなくなっちゃったり、ギブアップしたら不合格ね?」
エクス「了解しました」
微笑んだままだが、目に力が入るエクス。
アルス、エクスの変化を
アルス「じゃあ、始める?」
エクス「お願いします」
アルスから距離を置いたエクス、向き直る。
間隔をずいぶんと開け対峙する二人、静寂を保つ。
互いに不敵な笑みを見せ、睨みを利かせあう中、アルスの表情には緊張が見え隠れする。
アルス、右手をあげる。
エクス、笑みを消し、身をかがめて前傾姿勢に。
アルス「エクス・アルビオ卒業試験!」
アルス、ひといきに息を吸い込む。
アルス「はじめえ!」
振り下ろされる右手。
エクス、一気に突っ込んでいく。
アルス「ポアルカ!」
そう宣言するアルス、すると手持ちの【本】がひとりで開きパラパラとページをはためかせ、アルスの足元の地面が盛り上がり変形していく。
エクス、警戒してスプリントフォームからランニングフォームへと切り替える。
アルス足元の地面、様々な形状の剣や槍などの武具へと生まれ変わり空中に配備されると、アルスの合図によって次々と
エクスの目と鼻の先に迫る
エクス、ぶつかる寸前で瞬時にそれを避ける。
見定め、続けざまに襲いくる
途中自身の真横を過ぎ去ろうとする槍をじっくりと目で追うとそれを掴み
今度は槍を以て武具をはじき飛ばす。
苦い顔をするアルス、射出のペースをあげる。
槍を自在に振り回し、来る武具全てはじき飛ばしていくエクス。
タイミングを見計らうと、左足を踏み込み、槍を撃つ。
アルス「ッ!」
アルス、配備していた斧を咄嗟に取り、的めがけて飛んできた槍にあてる。
アルス「あっぶなぁ!」
走りだそうとするエクス、足がつっかかりよろめく。
エクス「――??」
地面に散らばった土武具が粘土状に変化し、エクスの足からまとわりついてきている。
エクス「ちょっと待て!」
増殖する粘土に両手まで捕まえられ、そのまま硬化していく粘土によって身動きを封じられる。
エクス「それはだるすぎ!!」
エクス、アルスを
してやったり顔のアルス、その横でどデカの
焦り浮かべるエクス、封じられた体各所に確認を向けると、
一気に全身に力を込める。
固められた手足がわなわな震える。
首から上が青筋を浮かべ紅潮する。
完成する土砲台、
エクスの右手を封じている硬化粘土に、微かにひびが入る。
どデカ砲台、発射。
エクス「オオオオ…!!」
エクス、力尽くで硬化粘土をぶち壊す。
砲撃の着弾、舞い広がる土煙、その中から、エクスが無傷で飛び出してくる。
地面にひびを入れ地中から
戸惑い、足を止めかけるエクス、その瞬間、エクスの背後から囲むように石柱が乱立していく。
エクス「!」
石柱の檻に閉じ込められるエクス。
アルス、
石柱檻の真上空中で、
エクス、石柱檻内に差す影に気づき、真上を見上げる。
真上空中で、合体を続け巨大化していく土石の塊。
エクス、イメージを巡らす。
――石柱使って壁ジャンして空いてる
――もうあれ受け止めるか、いやもう一個落ちてきたら一巻の終わりワロタァ
エクス、イメージから現実に戻ると石柱を一、二回程度ノックし、
一歩大股で後ろに下がり、呼吸を整える。
流麗なしぐさで体勢を変化させ、
目の前の一本の石柱に、
狙いを定め、
それを皮切りにして、
石柱檻が、内側から来る衝撃の連続に、揺れ動いて悲鳴をあげる。
アルス、ゾッとする。
エクス、連撃連撃連撃連撃――
一本の石柱がエクスの攻撃によってボロボロと
アルス、合図を送り、
完成した巨大な
エクスの頭上から来る影が大きくなっていく。
エクスの二十五撃目、石柱檻の外側にひびが入る。
二十六撃目、石柱檻内が影に包まれる。
二十七撃目、壊れ飛び散る石柱、間一髪土石塊に潰される寸前に石柱檻内から脱出し、そのまま距離を詰めるエクス。
アルス「はああ!?」
エクス、驚愕するアルスの横を一瞬で通過し、
アルス「!」
的のもとへと到達する。
ありったけ振りかぶり、拳を放つ。
空を切ってまっすぐ伸びていく拳、その先に待ち構える
細やかに
エクス「!!」
エクス、びたりと攻撃を中止する。
ニタリと笑うアルス。
瞬時に的から遠のくエクス、それとほぼ同時に、的を中心とした周囲の空気中で〈水〉が発生する。
【
崖の岩肌が所々崩れ、崖から分離し、的へと引き寄せられていく。
岩々が、〈水〉に包まれながら、空中で結合していく。
エクス「お?おおおおお!?」
と、エクス、唖然としながら見上げる。
アルスの背後にそびえ立つ、頭デッカチな魔法
エクス「なんかエグいのできてるぅうう!!」
的が、
巨兵、
巨兵の握り拳がエクスの頭上から襲来してくる。
エクス「バカがよ!」
エクス、スプリントフォームで全力逃走をはかる。
エクスにかわされ、巨兵の拳がただ地面に叩きつけられるも、そこの地面が陥没する。
エクス、逃走しながら
冷静な態度を取り戻して巨兵を観察する。
エクス(師匠すっごいな。え?これどうやって倒すんだ?)
巨兵、のっそりとした挙動で大木を丸ごと一本掴みとり、そのまま根っこごと引き抜くと、こちらへとそれをぶん投げてくる。
エクス「え!?ちょ!エグいて!!」
エクス、落下してくる大木をダイブでかわす。
アルス「ぶっ潰れろおおお!!」
エクス「!?」
上空を見上げるエクス。
巨兵が空から飛びかかってくる。
巨兵のボディプレス、地表を吹っ飛ばす。
プレス後、重々しく立ち上がろうとする巨兵。
舞い上がった土煙の中から立ち現れるエクス、巨兵の顔面に拳を放つ。
拳はチャパっと音を立てて、巨兵の顔を創っている水に受け止められる。
エクス「…あ、スッーー…」
顔面の水一部が拳型に変形し、エクスを思いっきしぶん殴る。
吹っ飛ぶエクス、そのまま横たわった石柱に転がり込んで頭を打つ。
エクス「~~~~!!」
と、悶えながらひたすら頭をさすりまくる。
エクス、ふと動きを止めて自分が破壊した石柱に目を向ける。
巨兵、地響きと共に立ち上がる。
両手で石柱を抱え込むエクス、踏ん張りをいれて一気に石柱を持ち上げると、それを肩に担いで巨兵を待ち構える。
巨兵、踏み出そうと片足をあげる。
足首を覆っていた〈水〉が飛散しバランスを崩す巨兵、その場にぶっ倒れ込む。
エクス、すかさず石柱を抱えて突っ込み、巨兵の心臓部に石柱を突き刺す。
巨兵の心臓部にあった的は
巨兵の体が崩壊して水と岩に戻る
エクス、石柱を手放し
地面に転がる的。
エクス、それに手を伸ばすも、その背後から巨兵だった大量の水が荒波に変化して押し寄せる。
エクス、的もろとも荒波に呑み込まれる。
荒波は渦を巻き、やがて巨大なドーム状の
息があがり、額に汗をにじませているアルス、固唾を飲んで水牢の様子を見守る。
ハッと、何かを予感する様子を見せる。
どよめく水牢、その次の瞬間、水牢は一斉にはじけ壊れる。
呆然とするアルス、はじけ飛んだ水牢によって
虹を
息を荒げて立ち上がったエクス、片腕を掲げる。
その手が持っているのは、真っ二つに割られた的。
そして飛沫雨が止む。
アルス、歩み寄っていく。
エクス、的を捨てて髪の毛の水をワシャワシャと払う。
エクスの前に立ち、向き合うアルス、魔法でエクスに付いた水っ気を取り払う。
エクス、まっすぐアルスを見つめる。
エクス「やりました師匠」
頷くアルス、口を開く。
アルス「これにて、アイデン・アルマルが遺した修行は全て完了しました。母に代わって、僕アルス・アルマルが、エクス・アルビオの卒業をここに認定します!」
エクス、アルスの言葉を噛みしめる。
アルス、咲くような笑顔を見せ、
アルス「おめでとう!えび先輩!」
エクス、込み上がってきて、
エクス「よっっしゃああああああ!!!」
と、雄叫びを上げる。
アルス「声でけえよ笑」
笑い合うエクスとアルス。
一通り笑いが続くと、胸一杯に息を吸い込むエクス。
エクス「師匠!!」
と、くそでか声でアルスを呼ぶ。
アルス、体がビグっと跳ねる。
アルス「な、なんだよ」
エクス、シュビッと直角にお辞儀をし、
エクス「今までほんっとうにありがとうございました!!」
アルス、一瞬目が点になるも、すぐに微笑みに変わり、
アルス「僕の方こそありがとうだよ」
と、つぶやく。
二人して照れくさそう。
アルス「あ、そうだ忘れてた」
エクス「?」
アルス、崖側へ振り向き、人差し指をチョイチョイっと曲げる。
布でくるんで包装された細長い「
飛んできた「
アルス「はいこれあげる」
エクス「なにこれ?」
アルス「卒業祝いみたいなやつ」
エクス「うぇええ!!」
仰天するエクス。
エクス「え、いいんですかこれもらっても」
アルス「あ、いらなかった?じゃあ――」
エクス「いやいるいるいるいる!!めっちゃいる!めっちゃいる!いるに決まってんだってそれは!」
アルス「笑」
エクス「なんぼあっても困らないんだから卒業祝いは!」
アルス「わかったって笑。ほら、」
「
エクス「え、開けていいですか?」
アルス「どうぞ」
エクス、恐る恐る「物」を手に取り、壊れ物を扱うように優しく包装をほどく。
表情に歓喜があらわれる。
一振りの
エクス「師匠、これ…」
アルス「覚えてる?」
エクス「もしかして、ハエタタキですか?」
アルス「そお!前の、あの時無くなっちゃったから」
エクス、刀身を見つめながら柄の握り心地を確かめると、ふと剣を宙へ放る。
落ち戻ってくる剣を片手で受け止めるやいなや、短い柄の部分を器用に持ち替え、まるでバトンのように両手剣を手中で踊らせる。
そしてビシッと決めの構えで終えると、満足げにアルスに目を合わせる。
エクス「最高です」
アルス、ほっとした顔を見せたあと、大いに頷く。
アルス「魔法で加護もつけといたからそこら辺の剣よりもずっと丈夫だしね」
エクス「へえ…!」
と、見るからにワクワクするエクス。
アルス「切れ味も見た目以上にあるから」
エクス「へええ!」
アルス「名付けまして、ハエタタキ改でございます」
エクス「ハエタタキ…改…!」
エクス、刀身に見とれる。
エクス「うわぁ…師匠!ありがとうございます!!」
と、きっちりお辞儀する。
アルス、ちょっと照れくさそう。
アルス「うん。ちょっとでもさー、冒険の足しになったらいいかなって」
エクス「いやいやいや足しどころじゃないって!冒険必需品!」
アルス「冒険必需品笑」
和やかな雰囲気の中、アルス、どこか名残惜しそうに、
アルス「気をつけてね。えび先輩」
エクス「何が?」
エクス、はてと首を傾げる。
アルス「何って冒険だよ冒険。もう明日には行くんでしょ?」
エクス「いや、行く…けど…」
アルス「ようやくだね…。これで僕にもさ、やっと平穏な日々が訪れるわー」
と、いたずらっぽく笑うアルス。
すぐに表情に寂しさが差し込むと、エクスから目をそらす。
アルス「でもたまにはちゃんと帰ってきなよ?おばさんおじさんも喜ぶだろうし……。僕も何か面白い魔法とか、使えるようになっとくからさ?」
アルス、ちらりとエクスに目を戻す。
すっごい疑問符だらけのエクスの顔。
アルス「え、どーいう顔それ?」
エクス「え…?」
アルス「え?」
エクス「え?師匠は行かないんですか?」
アルス、目を見開く。
アルス「え?」
エクス「え」
アルス「ぼ、僕も…?」
エクス「俺師匠も一緒に行くもんだと思ってました……」
アルスの瞳が揺らぐ。
アルス、瞬きを繰り返し、
アルス「僕は…えと……村のみんなもいるし…冒険も、」
と、言うアルスの声は後半につれボソボソと尻すぼみになっていく。
アルス「足引っ張っちゃう…かもだしさ……」
エクス「そんなことないと思うけど…。そうかぁ…師匠来ないのかぁ…」
エクス、目に見えてテンション下がる。
アルス「…ん……」
俯いたままのアルス、【本】の溝を親指でなぞる。
気まずげな沈黙が二人の間で漂う。
エクス「わかりました。それじゃあこれ大切にさせていただきます!」
無理に笑顔を作りながら、【ハエタタキ改】を指して答えるエクス。
エクス「じゃあ帰りますか」
と、アルスに背を向け歩みだす。
アルス、ハッとうかない顔を上げる。
遠くなるエクスの背中。
思わずと、アルスの口が開く。
アルス「ダメ…!」
エクス、ピタッと止まり、そして振り向く。
エクス「ダメ??」
アルス「あ、そうじゃなくて…ダメじゃなくて、あの……」
慌てるアルス、戸惑いながら俯く。
しかしまもなくして表情から戸惑いは薄れていく。
アルス「僕も…行きたい……」
と、ポソっとつぶやく。
エクス、ほんの微かに笑みを浮かべ、続くアルスの言葉を待つ。
アルス、既に頬が熱く染まった顔をガバッと上げて、しっかり前を見て叫ぶ。
アルス「僕も行く!!冒険!!」
エクス、ニカッと歯を見せて笑う。
エクス「やった」
アルス、フッと肩の力が抜ける。
ぐううぅっと、お腹が二人同時になる。
どちらからともなく吹き出すと、笑いが止まらなくなる。
涙が出るほどひたすら笑い合う二人。
〈二十八〉アルビオ宅内・お昼過ぎ
居間のテーブル席に腰掛けているエクス父とその奥で台所に立つエクス母、二人とも反応を示し、玄関を見やる。
満足げな笑顔を浮かべて玄関に立っているエクスとアルス。
エクス母、何かを察する様子を見せると、瞳を潤ませ、はかなげに微笑む。
家に上がるエクスとアルス、二人を迎え入れるエクス両親。テーブルに料理を運ぶエクス母に、それを真っ先に手伝うアルス、エクスと談笑しながらエクス父は席を立ち手伝いに参加し、エクスはアルスから料理の盛られた大皿を受け取る。そんな日常的風景が流れていく。