にじさんじ▶︎パラライブ   作:大羽ひつじ

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第一章
1-1, 始まりの来訪者


〈一〉

 

 村に「(つるぎ)の祭壇」が出現してから数年の時が経った。その日の村は夜に行われる祭りの準備で昼間から賑わっていた。

「聖剣祭」。元々は村の息災や、成人した若者を祝福する年に一度のお祭りであったが、祭壇が出現してからはそのように名前が改められた。

神聖視された祭壇に常人が立ち入ることは普段禁じてられているが、この日だけは、全ての人に、その領域に立つ権利が与えられる。

村で起こった奇跡に何かしらの恩恵を期待する者や、我こそ剣を引き抜かんとする剣士などと、外からの来訪者も増え、その祭りは村の代名詞とも言える行事となっていた。

そしてここに、剣を欲する者がまた一人……。

 

昼下がりの村の広場。祭壇は一カ所に扉がついた柵に取り囲まれていて、人の侵入を阻んでいる。

壇上に収められた両手剣には刃こぼれやさびつきは見当たらず。出現時から変化がない。

剣を柵の外から腕組みをして神妙そうに見つめる金髪と白群色(びゃくぐんいろ)の瞳を持つ「少年」、『エクス・アルビオ』。エクスの身長は剣と同じか、少し越すくらいに成長していた。

 

男の声「エクス!」

 

振り向くエクス。

彼の父親が猟銃を担ぎ、片手に小さめの弓と矢筒を持って近づいてくる。

駆け寄るエクス。

父はエクスに弓と矢筒を渡しながら尋ねる。

 

エクス父「今年は抜けそうか?」

   

エクスは眉を(ひそ)めて俯くが、決心したように顔を上げて

 

エクス「……わかんないけど、絶対抜く」

エクス父「ハッハッハ!なんだそれ」

エクス「なんで笑うんだよ!」

エクス父「いやすまんすまん」

 

父はエクスの頭に手を置く。

 

エクス父「応援してる」

エクス「うん!」

 

村の入り口へ向うエクスと父。

村人達はそれぞれが忙しそうに動き回っている。

木材を支柱にして作られた屋台テントが村道の両脇にまばらで建ち並んでいて、まだ組み立て途中のものや、すでに開店しているものも見受けられる。開けた場所では催事用の舞台が絶賛建設中。

娘に演舞衣装を縫ってやっている老婆。テント用の布を被って走り回る子供達。作業の休憩がてら屋台で酒をひっかける老爺(ろうや)。屋根に飾りを付けたり、石畳に鮮やかな絵を描く女。それらの様子を眺めたり、何か手伝おうとしたりする来訪者。皆どこか楽しげだ。

村の入り口付近では二十頭ほどの馬と狩りの準備をしている男達、そして彼らの倅が何人か。

そこにエクスが駆けてきて、先に来ていた子供達とじゃれ合う。

まもなくエクス父が合流し、男達と挨拶をかわす。

全員が集まったようで、馬を歩かせ出発する子連れの狩人達。

その視線の先、村はずれにある丘陵には木造の小屋が一件取り残されており、そのすぐ後ろに森林が待ち構えているのが見える。

 

〈二〉

 

夕暮れ前、森林の中、草木に身を潜めて息を殺す小さな影が二つ。

対照に、小川を挟んでその縁で喉を潤す牡鹿が一頭。

影の一つが弓を引き絞り…………放つ。

矢は牡鹿の角をかすめて方向を変え、その先の蹄にはじかれる。

牡鹿は仰天し、川に背を向ける。

草陰から矢を放った方が飛び出す。

 

パウロ「くそ!」

 

その隣からもう片方も飛び出す。弓矢を構えて。

瞬時に矢が放たれ牡鹿の眼球を貫く。横たわり二、三度痙攣を繰り返す牡鹿。

 

エクス「しゃああ!」

 

エクスはガッツポーズ。

 

パウロ「なんでだよおおお!」

エクス「ぃよっしゃああ!」

パウロ「まぐれだまぐれ!」

 

気分よさげに小川を飛び越えて渡るエクス。

続くパウロ。

牡鹿の死体に近づく二人。するとどこからか口笛が聞こえ、男の声が続く。

 

パウロ父「パウロー!エクスー!」

パウロ「とーちゃーん!川の方ー!」

エクス「ここでーす!」

 

呼びかけに応える二人。

 

パウロ父「おーう!」

 

エクス達が隠れていた方角から牡鹿の死体を担いでパウロ父がやってくる。自分がやってきた方へ振り向き、小刻みに口笛を鳴らす。

その最中、エクス達の後方では、地面からほんの微かに、赤黒い蒸気のような、煙のような何かが点々と湧き出す。

 

パウロ父「お、どっちがやった?」

 

パウロ父は死体を指して言う。

 

エクス「俺がやりました」

パウロ「まぐれだ!」

エクス「めっっちゃ狙いました」

パウロ父「ハハハハ!」

 

エクス父も、猪を担いでやってくる。

 

エクス「とっちゃん!動いてるのぶち抜いた!」

エクス父「うおお!やったな!」

 

赤黒い気は徐々に広がり、霧状となって、エクス達へと忍び這い寄っていく。

 

パウロ「なあもっかいやろうぜ!なあなあ!!」

パウロ父「今日はここまでだ。また競え」

パウロ「お祭りなんだから、もっと狩ってもいいだろ?」

パウロ父「その祭りがもうそろそろ始まる。帰るぞ」

エクス「そうそう。もう帰ろう」

パウロ「ぐぎぎ……よし、じゃあ射的で勝負だ!」

エクス「え?絶対勝つよ?俺射的の神だからね?」

パウロ「馬鹿言うな!」

 

這いよる霧が、横たわる牡鹿の死体へと忍び寄る。しかしエクスとパウロが死体の足を持ち、引きずって運び始める。影は早々に手を引き、姿をくらます。

 

〈三〉

 

暮れ方、森から続々と抜け出る狩人達。森林前の小屋では馬たちが繋がれ、主人の帰還を待っている。

帰りの支度が始まる。馬に繋がれた荷車に、仕留められた獲物達が乗せられていく。

牡鹿と猪を乗せ終えたエクス父は、自分の息子に視線をやる。

そよ風になでられながら、村とは反対側の(ふもと)を眺めるエクス。まぶたを閉じ、深呼吸をした後、もう一度目を開く。

夕日が空と大地を茜色に燃やしている。その様を見て、エクスは瞳を潤ます。

エクス父は息子の側に寄り、共にその景色を眺める。

 

エクス父「綺麗だなぁ」

エクス「うん。すげえ」

エクス父「とっちゃんもこの景色何度も見てるけどな、こいつとかっちゃんだけは見飽きたことはないな」

エクス「かっちゃんも?」

エクス父「おう。今の、かっちゃんにも言っとけよ」

エクス「え~なんでだよ。自分で言いなよ」

エクス父「あ、やっぱりそうか?ハッハッハ!」

 

エクスは今一度景色を見通す。

 

エクス「とっちゃん?」

エクス父「なんだ?」

エクス「もっと綺麗な景色ってあんのかな?」

エクス父「……ああ、あるぞ。とんでもねえのがな!」

エクス「マジで!?」

エクス父「おう!まあ見たことないけどな!」

エクス「えええ!?」

エクス父「ハッハッハ!」

 

父はエクスに目線を合わせ、肩に手を置く。

 

エクス父「この世界はな、広すぎてまだ誰もいったことない場所で溢れてんだ。だから言える。きっとまだだれも見たことないすげえ景色がたんまりある!絶対にある!!」

 

鳥肌が立ち、エクスは勢いよく鼻で吸えるだけの息を吸う。

 

エクス「すげええええ!!!」

エクス父「すげええええ!!!ハッハッハ!」

 

笑い合う親子。

そうして、丘の上から成果を運んで村に帰っていく狩人達。色彩豊かな灯籠によって着飾った村が、彼らの帰りを待っているのが見える。

 

〈四〉

 

夜の村。弦楽器や打楽器による軽快な音楽が聞こえてくる。祭りが始まっている。

村人達が準備した食事や遊戯の屋台が全て開かれ、村は昼間よりも賑っている。

飲み食いして雑談をしている大人達。石畳に描かれた絵を見る親子。遊戯の屋台を回る子供達。村人も外からの客も関係無くつながりを持ち、祭りの時間を過ごしているように見える。エクスとパウロも参加者を増やして射的勝負大会に興じている。

祭壇の裏側には寸胴鍋が四つ並べられていて、グツグツと音を立てて湯気をあげている。料理人が鍋を木のお玉でかき混ぜ、鼻の穴を膨らませてその湯気を吸いこむ。狩ってきた獣の肉を使ったシチューのような郷土料理がその場で調理され振舞われているのだ。

舞台下では、音楽の源泉である村の演奏隊が楽器を奏で、舞台上では村の子供達が民族舞踊を披露している。観覧者の中には手拍子をする者も散見できる。

それが一段落すると、音楽は打楽器のみとなり、力強く、重みのあるものへと変わる。村長が詩を音楽に乗せて歌いだす。

――森の中。響く歌に合わせて木々がざわめく。

骨と肉が飛び出た牝鹿が、衰弱した状態で一、二歩進み、息耐える。その死体に、例の赤黒い影が這いよる。

 

音楽は続く。村では、祭壇を使って成人の儀が執り行われている。複数の男女が(つるぎ)を囲み、片膝を立てて会釈する。周りでは多くの祭り参加者がその様子を見守っている。

 

――影が死体に触れ、纏わりついていく。

 

儀は終了し、新成人達に拍手が送られる。

 

――音楽はピークに。さっきまで牝鹿の死体だった“何か”が、口角を裂いて大口を開ける。

 

〈五〉

 

村長「皆よ」

 

祭壇の上。村長が口を開く。

 

村長「今日までの一年間、またこの村が息災であったことを、私は心から嬉しく思う。年に一度この場に立ち、こうして皆の健やかな顔を見渡せることが、私の密かな楽しみだ。世界は常に変化を繰り返し、人に死が訪れることは世の定めではあるが、今はただ全員が変わらぬ姿でここにいることに感謝する。外からいらっしゃった皆様も遠路はるばるよくぞお越しくださいました。我が村の祭り、楽しんでいただけておりますでしょうか?」

 

子供達「イエーイ!」(キャッキャキャッキャ)

 

仲良くなった村子供と外から来た子供達がレスポンスする。

周りに申し訳なさそうに子供を注意するそれぞれの親達。

微笑む村長。

 

村長「ホッホ、それはそれは何よりでございます」

 

と、子供達に礼をする。改まって、

 

村長「さて、ではこれより、お待ちかね祭壇を開放する。思い思いの感謝、願い、祈りを捧げるがよい。心のうちで語られるその意志が、次の一年を実りあるものにするだろう」

 

村長の言葉を敬聴する人々。

 

村長「また同時に、剣の選定を受けることも許可する」

 

ざわつく何人かの来訪者。その多くは武勇の身なりをしている。

 

村長「これが目的でお越しになった方もいましょう。数年前突如現れたこの一振り、おそらくはふさわしい者を探しているのでしょうが、未だにこの通りでございます」

 

村長は目つきを鋭くし、

 

村長「我こそが引き抜かんと勇む者は、是非とも挑戦してみるが良い!」

 

雄叫びを返す挑戦者達。

その中でエクスは鼻息を荒くし、目を輝かせている。

 

――森の中、群れを為した“何か”が、獣のうなり声を発して森から飛び出す。

 

祭壇には列ができていて、ちょうど一組の母娘が祈りを終えて祭壇を降りるところ。

その次に並んでいた武人五人組のうちの一人が、祭壇に上がり、聖剣の前に仁王立ちする。後ろで囃し立てる他四人。

エクスはそこから三組程後ろに並んでおり、浮き足立っている。

 

――“何か”の群れが、森林前の小屋を破壊し、草花を食い散らかしながら、村めがけて迫っていく。

 

祭壇の外で肩を落としている武人五人組。

番が回ってくるエクス。祭壇の階段を一個飛ばしで駆け上がり、聖剣の前に立って深呼吸を一回。

エクスの父と母は傍らでその様子を見守っている。パウロや他の村子供達は囃し立てている。

瞬きせずに聖剣を見つめるエクス。剣の柄に手を伸ばし始める。距離が近づくにつれて、心臓の鼓動が大きくなり、周りの音が聞こえなくなっていく。

 

――群れが、息を荒げて村のすぐそこまで近づく。

 

柄まであと一寸、エクスに聞こえるのはもはや自分の呼吸、鼓動のみ。

 

――群れの先頭が村へ進入し、真っ先に視界に入った村人に襲いかかる。

 

男の悲鳴が鳴り響く。

我に返るエクス。背後を振り返る。

村の入り口付近。絶叫し倒れ込む男。

彼の片腕は二の腕から先を消失しており、傷口から行き場をなくした血液があふれ出ている。男は顔を歪ませ、自分の腕を食いちぎった“何か”に戦慄する。

怪物が、男の片腕をなおも食い破ろうとがっついている。その形状は狼に近い。しかし体自体は暗赤色(あんせきしょく)の炎のようなものが蠢き形成している。そのせいか怪物の目や口、毛並みと言える部分は不定形だ。

原型を完全になくした腕が、黒く腐って崩れ、消失する。怪物はうなり声をあげ、もう一度男を標的に定めるが、突如飛来した矢に眼球を貫かれ、それを阻止される。

 

パウロ父「大丈夫か!?」

 

弓を持ったパウロの父が駆け寄り、男の背を支える。

うなり声が聞こえる。

パウロ父は一瞬固まる。仕留めたはずのそれに目を向ける。

怪物が再び立ち上がり、こちらに形相を向けている。目に刺さった矢は黒く腐り、男の片腕と同じく消失していく。

絶句するパウロの父。

怪物は自分を攻撃した男に咆哮を浴びせる。

 

〈六〉

 

気付けば次々と村に侵入していく怪物達。その一体一体が狼だけでなく、あらゆる畜生の形をしている。怪物達は家屋、家畜、人に見境無く襲いかかっていく。爪を突き立て、角で貫き、牙をもって突進し、破壊の限りを尽くす。

祭りは一転、混乱の渦に。

広場近辺。避難誘導する村長。

 

村長「全員下がれ!あれから離れろ!」

 

村長に従い、怪物とは反対方向に逃げ惑う人々。誰かが木製の台灯籠を倒してしまい、火が家屋に移る。

祭壇の上。状況にうろたえているエクス。

 

女の声「エクス!こっちおいで!!」

 

叫び声の方を向くエクス。母が呼んでいる。

エクスは祭壇から飛び降り、柵に手をかけて飛び越え、母の元へ。

エクス母も駆け寄り、息子を抱え込む。

すぐに、猟銃を持ったエクス父も駆けつける。

 

エクス父「逃げろ。すぐに追いつく」

エクス「とっちゃんは?」

エクス父「加勢してくる。かっちゃんから離れんなよ」

 

エクス父は息子の頭を撫でながら妻に目配せする。

頷くエクス母。

 

エクス母「気を付けてね」

エクス父「ああ」

 

怪物達の方へ向うエクス父。

 

エクス母「行くよ!」

 

エクスは母に手を引かれ父とは反対方向に走る。

離れていく父の背中を不安げに見つめる。

 

〈七〉

 

村の入り口付近。数名の村人達が怪物に応戦している。

銃口から弾が発砲音を立てて射出される。

怪物は銃弾が直撃して飛ばされるが、矢と同様、変わりなく起き上がる。

 

村男1「こいつ銃も効かないのか!?」

 

猟銃を持った村男1や、他の村人達ににじり寄る怪物達。しかしそこに怪物の別個体が吹っ飛んでくる。飛んできた怪物は尻尾を巻いて撤退する。

呆気にとられる村男1のもとへ、武人五人組の内の一人、武闘家と思われる男がやってくる。

 

武闘家「拳が効いてる!殴りまくれ!」

 

呼びかける武闘家。

そこに別の怪物が襲いかかってくる。武闘家は構えるが、五人組の内の一人が割り込み、怪物を片手剣でたたっ切る。

怪物は地面に打ちつけられ、僅かに苦しんで、動かなくなる。

 

剣士「よし!」

 

剣士も呼びかける。

 

剣士「皆ぁ!(けん)も効くぞぉ!!」

 

それに雄叫びで応える他の武人や、来訪者達。

 

村男1「皆さん!ありがとうございます!」

武闘家「気にすんな!助け合いだ!」

 

応えながら怪物に立ち向かっていく武闘家。

 

〈八〉

 

避難組サイド。村の男達が先頭に立ち、逃げる人々を誘導している。

周りの家屋や屋台はいくつかが火事になっている。

その中でも深刻なものは炎に丸ごと飲み込まれている。屋台はほとんどが焼け崩れ、家屋も耐えてはいるが時間の問題だ。

エクスとエクス母含め、人々はできるだけ炎を避けて前進するが、

 

村男2「止まれ!止まれえ!」

 

先頭の男の一人が呼びかけ、苦虫を噛みつぶした表情で前方をにらみつける。

怪物が何匹か回り込んできている。逃げ場がない。

 

村男2「女や子供は下がれえ!戦える者は前に出ろ!」

 

猟銃や折れた角材で応戦しようとする先頭の男達。

エクス母は、怪物達から目を離さずに、息子の盾になる。

母の手の震えが伝わってくる。エクスは後ろを振り返る。

惨禍の中、聖剣が以前変わらず、不動の佇まいを見せている。

エクスは聖剣に狙いをつける。

そして自分にそえられた母の手をほどき、祭壇に向って走り出す

 

エクス母「エクス!」

 

不意を突かれたエクス母は、息子を追う。

 

エクス母「戻って!エクス!!」

 

自分を呼ぶ母の声がこだまするが、エクスは歯を食いしばって全力疾走し続ける。

その最中、火だるまの家屋が一件、限界に達し二人の方へ倒壊し始める。

 

エクス母「エクスー!!」

 

エクスとエクス母の間に、猛火がなだれ込み、二人を両断する。

エクス母は反射的に退くが、エクスは倒壊に寸前で巻き込まれてしまい、体を石畳に強打する。

息が詰まり、体が硬直するエクス。汗が吹き出し、目が霞み、眉を自然と顰めてしまう。それでも、無理やりにでもと呼吸を再開させる。

拳を握って地面に肘をつき、顔を上げて再び狙いを定める。膝を立て、よろめきながら足に力を入れて、もっと力を入れて、うめき声を上げて立ち上がる。

みぞおち辺りを押さえる。呼吸は片息状態。頭から流血している。一歩一歩は毎回おぼつかない。それでも止まることだけはしない。祭壇の端に、手がかかる。

エクスは祭壇に足をかけて上がり、聖剣の前に再び立つ。

呼吸をある程度整えて、今度こそ(つるぎ)の柄を両手で握る。深呼吸をし、瞼を閉じる。

目が見開かれ、エクスの腕の筋肉が引き締まる。

 

エクス「ぐおおおおおおおっ!」

 

歯を食いしばるエクス。腕が痙攣している。

聖剣は、びくともしない。

 

エクス「んぐぐぐ!!」

 

びくともしない。

力を抜くエクス。肩で息をする。

 

エクス「うぉあああ!!」

 

もう一度挑戦するエクス。しかし最初よりも早く限界が訪れる。

 

エクス「はぁ…はぁ…くっ!抜けろっよおおお!!」

 

聖剣は、未だ動かず。

動転するエクス。

 

エクス「なんでだよ……なんで抜けねぇんだよ!」

 

息も絶え絶え、聖剣にもたれかかる。

 

エクス「頼むって!今なんだって!今じゃなきゃだめなんだよ!!」

 

聖剣は黙っている。

 

エクス「くっ!」

 

エクスは聖剣を睨んで、もう一度挑戦する。

 

エクス「抜けろおおおお!!!」

 

〈九〉

 

村の入口側、応戦組。

 

エクス父「らあああ!」

 

エクス父の(けん)の一撃が怪物を薙ぎ払う。力尽きた怪物は暗赤の煙になって地面に溶け込み消滅する。その様を見届けたエクス父は、額に汗を浮かべ、肩で息をしている。

 

エクス父「くっ!」

 

周りには生き残って戦っている者達がいるが、皆満身創痍だ。死体も何体か無惨な姿で転がっている。その中には武闘家も。

怪物の数は一向に減っておらず、むしろ増えている。

更に襲ってくる怪物を、手一杯で追い払うエクス父とパウロ父。

 

パウロ父「多すぎだろうが!きりが無いぞ!」

エクス父「こりゃ、俺たちも逃げたほうがいいかもな」

 

避難側の方を見るエクス父。

 

パウロ父「それか覚悟決めるかだな」

 

驚愕するエクス父。

 

エクス父「なっ!?」

パウロ父「どうした!?」

 

逃げたはずの息子が、聖剣を抜こうとしている。

 

エクス父「エクス!!何やってんだ!!おい!逃げろ!!」

 

エクス父は息子の元に向おうとするが、

 

パウロ父「ディーゴ!」

 

呼びかけられて阻止される。怪物がまた襲い掛かってきている。

 

エクス父「くっそ!」

 

それに対応するエクス父。

しかし、薙ぎ払った怪物が一体起き上がり、エクスに向かっていく。

 

パウロ父「まずい!」

エクス父「エクスー!!逃げろぉ!!エクスーーーー!!」

 

父の声に気づくエクス。こちらに怪物が疾走してくるのが見える。

エクスは焦燥し、聖剣を抜こうとするが、聖剣が応えることはない。

 

エクス「くそ!くそ!」

エクス父「何やってんだ!ばかやろおお!!」

 

前方を確認するエクス。すぐ目の前、怪物が自分に飛び掛かってきている。

エクスは戦慄する。

聖剣から手を離し、足を絡ませながら退くが、怪物の枝分かれした尖角(せんかく)はそれよりも速くエクスに接近する。

その先端が、エクスの胸元にとど――

 

???「ポアルカ!」

 

声に従い、蒼銀の光矢が夜空から無数に降りそそぐ。

怪物はエクスに届く前に光矢に貫かれ、祭壇に釘付けにされる。

それによって発生した風圧も相まって、エクスは足を踏み外して祭壇から落ちる。

はびこる怪物たちを一斉に、的確に、光矢が釘付けにしていく。

例のごとく消滅していく怪物たち。役目を終えた光矢が、煌めく塵となり、天に溶け込んでいく。

突然の天助に呆然とするエクス父をはじめとした応戦組。

倒れたまま、顔だけ動かすエクス。瞳が霞んでいく。

焼け崩れた村を背に母がこちらに駆けてくるのが見える。そのさらに奥に、避難した人々を連れる者。

黄金の装飾がなされた黒いローブをそよがせ、片手に書物を開き、もう片手で杖をついている。フードを被り、その中から束ねられた銀髪が胸元まで垂れている。

途絶えていくエクスの意識。

 

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