〈十九〉
日中、村道。
木材を担いで運ぶ村の男達や、布切れを縫い繋ぐ女達。
エクスも父と共に木材を運ぶ。
――日中、アルマル宅。
玄関の扉が開かれるとエクスがまっすぐ見上げて立っている。
エクス「お願いします!」
困り顔で首を横に振るアイデン。
――修繕された家に塗料を塗るエクスとエクス父。
男の声「避けろー!」
上から塗料の入った桶が降ってきて、エクスに被さる。
――玄関の扉が開かれるとそこに塗料まみれのエクスがまっすぐ見上げて立っている。
エクス「お願いします!」
エクスに水が被せられ、いくらか塗料が流れる。
逆さにした桶を持ちながら困り顔で首を横に振るアイデンと、家の奥からそれを覗いているアルス。
――天から雨が降りそそぐ。
修繕しかけの家屋に、つぎはぎだらけの幕を被せる村人たち。エクスやパウロもいる。
――玄関の扉が開かれると、雨に打たれびしょ濡れのエクスがまっすぐ見上げて立っている。
エクス「お願いします!」
エクスに布が被せられる。
困り顔で首を横に振りながらエクスを布で拭くアイデン。
それとアイデンの背に隠れてエクスを怪訝に見つめるアルス。
アルス「むー…」
アルスは難色を示す。
〈二十〉
エクス母「ダメ!」
日中、アルビオ宅前村道。
ご立腹のエクス母。
エクス「いいじゃんか!」
エクス母「何言ってんの!ったく、毎朝どこ遊びに行ってんのかと思えば!魔法使い様もね、暇でここに留まってる訳じゃないんだから。邪魔しに行っちゃダメ!」
エクス「別に邪魔してる訳じゃないし…」
エクス母「じゃあ何しに行ってんの?」
エクス「それは…」
言いよどむエクス。
エクス母「んん?」
詰め寄るエクス母。
そこに荷車を引いて老爺がやってくる。
会釈するエクス母。
エクス母「ちょっと待ってなさい」
エクスにそう言って、家の中に入るエクス母。
エクスは到着した老爺の荷車の中を覗く。
荷車の中には、果物作物、木材、布、お香、幾つかの書物などが並べられている。
エクス「これなんですか?」
老爺「魔法使い様に届けるんだよ。少しでも恩返ししようってな」
家から、ランタンを入れた鉄鍋を抱えて出てくるエクス母。
エクス母「はいこれ。よろしくお願いします」
老爺に手渡すエクス母。
エクス「これ、僕が運びます!」
老爺「ほう」
エクス母「はあ!?あんたはダメ!」
エクス「俺も恩返ししたいんだって!今まで迷惑かけちゃったかもしれないからさ!お詫びもこめて!」
エクス母「……ほんとにぃ?」
また詰め寄るエクス母。
エクス「ほんとだって!」
老爺「まあまあシフルさん、いい心がけじゃないか。エクス持ってけ」
エクス「ありがとうございます!」
エクス母「なっ」
気づけば鼻を吹かして荷車の持ち手を握るエクス。
エクス母は大きくため息をつく。
エクス母「運んで、お礼言って、村の皆からですよろしかったらって。そしてすぐ帰ってくる!わかった?」
エクス「わかった!」
〈二十一〉
エクス「とは、言ってもなぁ」
アルマル宅前の坂道。
足を踏みしめて荷車を引き、独り言をばらまいて坂を登るエクス。
エクス「魔法教えてもらいてぇなぁ~。そんなつもり無かったんだけどなぁ。だめだよなぁ~。いやでも教えてもらいたいよなぁ~」
悩まし気にうつむく。
エクス「よし!」
そして顔を上げる。
エクス「あと一回だけ!あと一回だけお願いしてみよう!」
〈二十二〉
アルス「ママはもういません!」
アルマル宅前。玄関。
本を抱えて立ちふさがるアルス。
エクス「え!?なんでですか!?」
アルス「忙しくなってどこかに行っちゃいました!だからお帰りください!」
エクス「ええ……」
エクスは落胆するが、
エクス「わかりました。じゃあ帰ってくるまで待ちます」
アルス「ダメです!もう帰ってこないんです!だからお帰りください!」
エクス「帰ってこない!?マジで言ってますか!?」
アルスに詰め寄るエクス。
アルス「マジです!」
アルスは負けない。
エクス「わかりました。帰ります」
エクスは引き下がって、荷車を指す。
エクス「でも今日は村の皆からの贈り物を届けに来たんです。魔法使い様が帰ってきたら渡しておいてくれませんか?」
アルス「わかりました!渡しておきます!」
エクス「え?」
アルス「え?」
エクス「帰ってくるんですか?」
アルス「え?あ、帰ってきません!」
エクス「帰ってくるんですね!?」
アルス「うう…帰ってこないです!だからもう来ないでください!」
エクス「いえ!帰ってくるまで待ってます!」
再び詰め寄るエクス。
アルス「く、うう~」
頬が膨らんでいくアルス。
アルス「もう帰れよー!!」
突如アルスの周りから突風が起こり、エクスを吹き飛ばす。
エクス「ぶへぇ!」
地面に転がるエクス。きょとんとアルスを見つめる。
鼻を吹かしてにらみつけるアルス。
エクス「い、今、魔法使いました?」
〈二十三〉
アルマル宅。
外から聞こえてくる甲高い声で、ベッドの上のアイデンが起きる。
アイデン「ん?なんだ?」
ベッドから下り、裸足のままで向かうアイデン。
玄関に着くと、タックルをくらった後の形で、エクスにしがみつかれ倒れているアルスがいる。顔は涙でぐしょぐしょ。
アルス「ママー!ママー!」
エクス「僕に魔法を教えてください!お願いします!」
アルス「ママー!ママァー!」
エクス「お願いします!お願いします!」
アイデン「何やってんだ君たち?」
〈二十四〉
玄関前の草原。
モッチモチに膨らんでエクスをジトっと見るアルスと、左頬に紅葉を作ったエクスが、間を空けて並んで座っている。
アイデン「ふむ。なるほどねぇ。……よしわかった。アルス、少年に魔法を教えてやりなさい」
アルス「えええ!?」
立ち上がるアルス。
エクス「しゃあああ!!」
飛び上がるエクス。
アルス「なんでさ!」
アイデンはアルスを制して、
アイデン「誰かに教えることも学びになる。修行の一環だと思いなさい」
アルスはアイデンを不服そうに見つめる。
アルス「でも……」
アイデン「アルス。最近いつ外に出た?最後に遊んだのは?」
アルス「……わかんない」
うつむくアルス。
アイデンは申し訳なさげにアルスの頭に手を添える。
アイデン「ありがとう。ママは一人でも大丈夫だから。この村にもまだお世話になると思う。せっかくなんだから外に出て、お友達でも作ってみなさい?」
アルス「おともだちぃ?」
上目遣いでアイデンを見るアルス。
エクス「しゃあああ!」
歓喜に飛び上がっているエクス。
それを指さすアルス。
アルス「あいつが?」
アイデン「あ、あいつって呼ばないの。一応君の人生の先輩なんだから」
アルス「うーん……」
エクスを訝しげに見るアルス。
〈二十五〉
森の中、小川の横。
ぶすっとアルスとルンルンエクス。
アルス「それじゃあ今から魔法を教えます」
エクス「よろしくお願いします!」
アルス「まずは…」
エクス「はい!はい!」
エクスは鋭く挙手する。
アルス「な、なんだよ」
エクス「魔法使い様が出してた光の槍みたいの出せるようになりたいです!」
アルス「あ、あれは僕にもできない…」
エクス「え~」
アルス「うるさいな!あれはすっごい難しい魔法だから最初はゼッタイ無理なの!」
エクス「はーい」
アルス「いいか?魔法っていうのは、キホンテキに風を起こしてものを操るってことなんだよ。だからまず最初にやるのは、風を起こしてものを動かすこと!わかった?」
アルスが自分を突風で飛ばしたことがよぎるエクス。
エクス「地味ですね」
アルス「お前やる気あんのか!」
そうツッコんだあと、アルスはため息をつく。しかしその後に目をつぶって、深呼吸をした後につぶやく。
アルス「ポアルカ…」
アルスの髪や服がそよぐ。
小川から、大小さまざまな水滴が魚群のように空気中に浮かび、融合しながらアルスの周りに近づいてくる。
そして完全に一つになった水滴たちは、一匹のお魚の形になって、エクスやアルスの周りを遊泳する。
エクス「うおお…」
エクスはお魚から目が離せず、触れようと人差し指を伸ばす。
アルス「ップハー!」
アルスが一気に力を抜く。
するとエクスが触れる前に、お魚は形を崩し、ただの水となって地面に弾ける。
アルス「ふう ものを動かすのが上手になったらこういうこともできる。地味なんかじゃない」
エクス「…し、師匠!」
アルス「はい?」
エクス「師匠と呼ばせてください!」
アルス「うおお!」
アルスの両肩をつかむエクス。
アルス「師匠……ま、まあ、いいけど!せいぜいウマヤいたまえよな!」
赤面してプイッと目をそらすアルス。
エクス「はい!一生ついていきます師匠!」
アルス「うむ!よろしい!よし、じゃあこれ」
アルスは本を差し出す。
アルス「この本使ったら動かすくらいはできるからさ、この石動かしてみなよ」
小川横の石を一つ指すアルス。
エクス「ま、マジですか?よ、よし」
石に向かって本を構えて、力むエクス。
エクス「動け!」
微かに動く石。
エクス「うおお!師匠!動きました!」
ガッツポーズでアルスを見るエクス。
アルスは腕を組んで黙っている。
エクス「…師匠?」
アルス「うん。じゃあ次は、もっとちゃんと、お願いする感じで!」
エクス「お願いする感じですか?」
アルス「そうそう。もっと石の周りのキラキラ達にもお願いするの」
石の周りを指すアルス。
エクス「なるほど!……あの師匠、キラキラってなんですか?」
アルス「これだよこれ。お願いしたら、このキラキラ達が風を作ってくれるんだよ。今のは石のほんと近くのだけが動いたでしょ?次はもっと石の周りにあるのもやってみて?」
エクス「キラキラ、ですか……」
石の周りには、他の石がある。
アルス「……もしかしてさ、見えてない?」
エクス「……見えてないですね。……どこらへんにあります?」
アルス「どこらへんって」
手を広げて全体を指すアルス。
アルス「ここらへん全部にあるよ」
エクス「……見えないですね」
首をかしげる二人。
エクス・アルス「んん~??」
〈二十六〉
アルマル宅。
片手に数枚の文書を持ち、椅子に座っているアイデン。
深呼吸をし、もう片方の手を差し伸べる。
部屋の中で風がそよぐ。
粒達はやがて光球となり、更に粒を取り込んで徐々に大きさを増していく。
光に照らされる額には汗が浮かんでいる。呼吸が浅くなるアイデン。
突如めまいが襲う。
光球が弾け、光が散らばって消える。
肩で息をし、苦しげに椅子にもたれるアイデン。
ふと外から騒がしく声が聞こえる。
アイデンは反応し、杖をつきながらも、おぼつかない足取りで玄関に向う。
扉を開くと、丘下に警備兵のついた馬車が駐まっているのが見える。
アイデンは目を凝らし、次に見開く。
よろめきながら丘下へ走り出すが、すぐに転んでしまう。
もう一度立とうとした瞬間、心臓の鼓動が響き、汗が噴き出る。息があらくなる。目を強くつぶってしまう。
〈二十七〉
森林前。
森を抜け、アルマル宅に帰るアルスとエクス。
アルス「じゃあ明日は、キラキラが見えるようになる練習をしてみよう」
エクス「わかりました」
玄関横まで来ると、下の方でうずくまるアイデンを見つけるアルス。
アルス「ママ!!」
玄関横に本を建てかけ、アイデンのとこまで駆けていくアルス。エクスも追いかける。
アルスはアイデンに駆け寄り、顔を覗く。
アルス「ママ!大丈夫!?」
アイデン「大丈夫だよ」
呼吸を整えるアイデン。
アイデン「久しぶりに走って足をくじいてしまっただけさ」
エクス「大丈夫ですか!?」
続いてくるエクス。
アイデン「はは 二人とも心配性だな」
アイデンは踏ん張って立ち上がり、アルスはそれを支える。
アイデン「それより少年、あれは」
丘下。村から二、三人兵士を連れた赤髪の女性が足早に馬車へ向かい、乗り込む。
まもなく村とは反対方向に、これまた足早に出発する馬車。
馬車の側面には、
エクス「帝都の馬車です。…なんかあったのか」
アイデン「帝都……そうか……」
アイデンは唇を噛む。
〈二十八〉
アルビオ宅。
玄関ドアが開いてエクスが入ってくる。
エクス「ただいまぁ!」
エクス父「おう!おかえり!」
エクス父がコップの水を一気飲む。
エクス「とっちゃんもおかえり!帝都の馬車来てたよ!」
エクス父「ブハァ、聖剣の調査だってよ。なんかすぐ帰っちまったが。エクス、今から手伝えるか?ホーゼンさん家の柱を直しに行く」
エクス「わかった!」
二階階段に向うエクス。
エクス母「エクスゥゥ!」
エクス母が鬼の剣幕で迫ってくる。
エクス「うええええ!!」
エクスをとっ捕まえる。
エクス母「あんた直ぐ帰ってきなさいって言ったでしょうが!」
エクス「ごめんなさいごめんなさい!!」
エクス父「ぉ、おい」
あたふたして止めに入るエクス父。
エクス母「反省するまで!森で遊ぶの禁止!」
エクス「ええ!?」
エクス母「ていうか魔法使い様のところに行くのも禁止!」
エクスは抵抗するように目つきを変えて母をふりほどき、間をとる。
エクス「それはダメ!」
ぽかんとするエクス母、しかしすぐに鬼の形相に変わる。
エクス母「だぁめぇ!?」
エクス「ひいぃぃ!!」
エクスはたじろぐが、大声で刃向かう。
エクス「弟子入りしたの!明日も絶っっっ対に行く!」
二階に駆け上がるエクス。
ぽかーんとするエクス母。
エクス父「弟子入りってなんのだ?」
〈二十九〉
アルマル宅。
村人達からもらった贈り物をしまうアルスとアイデン。
アイデンは果物作物を戸棚にしまう。
アイデン「それで?どうだった?」
アルス「うーん。下手くそかも…」
アイデン「そうじゃないよ。仲良くなれそうかい?」
アルス「まあ、仲良くしてやってもいい」
アイデン「ハハハ!」
戸棚を閉じるアイデン。
アイデン「さて、そっちはどうだい?」
ランタンを二階階段の横に掛けるアルス。
アルス「終わった!」
アイデン「おいで」
アイデンは戸棚から
部屋の隅の台にペンダントが飾られており、それに対面する二人。
台の前で本を広げるアイデン。
二人は目をつぶり、ペンダントにひざまずく。
すると部屋のあちらこちらから、光の粒達が浮かび上がってくる。
やがて流れを作り漂うそれらは蒼銀、だけでなく、一つ一つが別々の煌めきを持っているように見える。
アルスは細目を開けて、その流れを見て微笑む。
漂う光の流れがペンダントを淡く照らす。
光の粒は、一つずつ消えていく。
本を閉じるアイデン。
二人はすっくと立ち上がる。
アルス「今日はキラキラさん達、あんまり来なかったね」
アイデン「うん。そうだね……」
アルスは二階に上がっていく。
自分の手の平を見つめ、苦悶の表情を浮かべるアイデン。